聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ

文字の大きさ
37 / 41

第37話 王の策謀 ※エリック王視点

しおりを挟む
 協会の態度は、非常に強固だった。

 何度交渉を繰り返しても、向こうは頷こうとしない。こちらはそれなりの条件を提示しているのに、頑なに協力を拒否するなんて。そもそも、王からの要請を断るとは一体何を考えているのか。

 確かに、協会を支配下に置くのに強引な手段もある。けれど、それは最終手段だ。できることなら、穏便に済ませたい。というのも、あの連中は国民からの評価が高いから。そこを無理やり押し切って失敗でもしたら、俺の王としての評判に傷がつく。それだけは避けたかった。面倒な連中だ。

 どうやって協会を支配下に置くかという問題。俺は王座に座りながら、連日その事ばかり考え続けていた。

 そんな時に、このアイデアが思いついた。

「これなら……」

 口元に笑みが浮かぶ。この計画を成功させれば、スムーズに協会を支配下に置くことができそうだ。

 俺は早速、神殿の連中を呼び出すことにした。

「神殿の老賢者どもを、今すぐ王宮に呼べ」

 最近の神殿は本当に酷い評判だった。近いうちに神殿が消え去るのも間違いない。これが最後の呼び出しになるだろうな。

 やってきた老賢者たちは、見るからに疲れ果てた様子だった。以前の威厳はどこへやら、まるで哀れな物乞いのような姿。それでも彼らは期待に満ちた目を俺に向けてくる。

 こいつらは俺が助けてくれると思っている。いいだろう。俺は内心で冷笑しながら、表面上は優しげな表情を作った。

「お前たちを助けてやろう。ただし、こちらの最後のお願いを聞いてくれたらの話だがな」
「我々は、何をすればいいのでしょうか?」

 俺は部屋にいた侍従たちを下がらせ、限られた者たちだけで今回の計画を伝えることにした。前回の依頼は失敗していた。だから、今回は間違いなく実行可能なことを指示する。

「王都内で暴れて、問題を起こせ」

 老賢者たちの顔が青ざめた。俺は構わず続ける。

「市民を巻き込んでも構わない。とにかく、派手に事件を起こすんだ」
「そ、それは一体、どうして……」

 俺は手を上げて、せっかちな彼らを制した。

「まだ途中だ。黙って聞け。続きを話すぞ」
「……」
「お前たちが暴れているところへ、俺が王国の兵士を送り込む。そして、事件を鎮圧する。自作自演の事件だな」

 老賢者たちの困惑した表情を見ながら、俺は計画の全容を説明した。

「事件は無事に収めることはできたが、まだ神殿の残党が何をしでかすかわからない。だから対処しなければならない。そのために兵士を動かす。だが、国防を疎かにするわけにもいかな。動かせる兵士の数も限りがある。そこで、実力のある協会に救援要請を出すんだ」

 なるほど、という表情を見せる者もいれば、まだ理解できずにいる者もいる。疑いの目を向けてくる。だから、まだ話は終わりじゃないぞ。

「今回の件で、協会が要請を断ることはできないだろうな。もし断ったら、それを大々的に公表してやる。『市民が困っているのに協力を拒否した』とな。市民から批判を買うことになる。それは向こうも避けたいだろう」

 完璧な計画だ。協会の連中も、これには逆らえまい。一度協力を結べば、そのまま関係を続けていくことも可能なはずだ。それでいい。実力者たちを、これでようやく支配下に置くことができるだろう。

「で、ですが、そんなことをしたら我々は……神殿の評判はッ!?」

 老賢者の一人が震え声で抗議した。

「神殿の評価も地に落ちる、だろうな」

 俺は肩をすくめた。

「そ、そんな……!?」
「俺の話をよく聞け」

 俺は椅子に深く腰かけ、彼らを見下ろした。

「神殿がダメになっても、お前たちは別にいいだろう。あの組織はもう限界だった。そんなものにしがみついて、損するだけだぞ」

 老賢者たちは絶望的な表情を浮かべている。だが、俺は容赦しない。

「報酬は用意してやる。だから、それで隠居生活でも楽しめ。悪い話ではないはずだ」
「......」

 そう言うと、彼らは悩み始めた。

 何を悩むことがあるんだ。神殿なんて、もう長くはない。どうせ沈む船なんだから、執着しても無駄だろう。さっさと捨てる決断をしろよ。

 俺は苛立ちを抑えながら、彼らの判断を待った。王である俺を、こんな落ちぶれた連中が待たせるなんて。本来なら許されることではない。

 それでも、この計画のためには彼らの協力が必要だ。少しばかりの我慢は仕方がない。

 計画成功のためにも必要だ。今回の計画が無事に成功すれば、協会を支配下に置けて、神殿という面倒な問題も一緒に片付くだろう。

 そして、ようやく彼らも決心がついたようだった。

「......わかりました。やらせていただきます」

 老賢者の代表格が、力なく頷いた。

「よし、それでいい」

 俺は満足げに頷いた。計画について詳細な了承を得ることができた。

 これで神殿の歴史も完全に終わるな。そして、協会は俺の手の内に入る。一石二鳥とは、まさにこのことだ。

 俺は上機嫌になりながら、計画実行の日を心待ちにした。すべてが俺の思い通りに進むのが、今から楽しみで仕方がない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。 ※全6話完結です。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~

ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。 しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。 周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。 だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。 実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。 追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。 作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。 そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。 「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に! 一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。 エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。 公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀…… さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ! **婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛** 胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!

公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に

ゆっこ
恋愛
 王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。  私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。 「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」  唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。  婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。 「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」  ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

処理中です...