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第12話 婚約した姉※イザベラ視点
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私の評判は日に日に高まっていった。
ヴァンデルディング公爵家の威光もあって、社交界での私の地位は確固たるものになっていく。公爵家の婚約者という肩書きは、想像以上に強力だった。誰も私に逆らえない。誰も私を無視できない。
取り巻きの数も、どんどん増えていった。
以前は見向きもしなかった貴婦人たちが、今では私に媚びを売ってくる。伯爵夫人も、子爵令嬢も、男爵夫人も。みんな、私の機嫌を取ろうと必死。プレゼントを持ってきたり、褒め言葉を並べ立てたり、私の一挙手一投足に注目したり。
その様子を眺めているのが、本当に楽しい。
かつて、お姉様を囲んでいた貴婦人たちが、今では私の周りに集まっている。かつて、お姉様に向けられていた賞賛の言葉が、今では私に向けられている。
これが、本来あるべき姿。
私こそが、中心にいるべき存在なのだから。
「イザベラ様が開催されるパーティー、とても楽しみにしていますわ」
ある日、サロンで貴婦人が言った。侯爵夫人だったかしら。名前は覚えていないけれど、どうでもいいわ。大切なのは、その人が私を褒めているということ。
「ぜひ、私も招待していただけませんか? もう、楽しみで楽しみで、夜も眠れないほどですの」
「私も! イザベラ様のセンスで作られるパーティー、絶対に素晴らしいものになるはずですわ」
「私もぜひ! お願いします、イザベラ様。どうか、招待状をいただけませんか?」
次々と、参加希望の声が上がる。みんな、私の開くパーティーに参加したがっている。私の選ぶ装飾を見たがっている。私の選ぶ料理を味わいたがっている。私の企画する催し物を楽しみたがっている。
私が表に出て、ようやく脚光を浴びる機会を得られた。今までは姉が独占していた評価が、ようやく正当な持ち主に。つまり、私のものになったのだから。
「皆様のご期待に、必ずお応えしますわ」
味方してくれる人が増えて、姉の味方が減っている。その様子を見るのが、とても楽しかった。
「セラフィナお姉様が積み上げてきた――いえ、私から盗んで築いてきた偽りの評判を、私が本物の才能で塗り替えて見せますわ」
その言葉に、周囲から拍手が起こった。
「素晴らしいですわ、イザベラ様!」
「私たち、全力で応援していますわ!」
賞賛の言葉が、次々と飛んでくる。その全てが、心地よく耳に響く。
お姉様、今どんな気持ちでいるのかしら。
きっと、悔しくて仕方がないでしょうね。私が全てを手に入れて、輝いているのを見て、どれほど妬んでいることか。夜も眠れないほど、悔しがっているに違いない。
想像するだけで、笑いが止まらない。
ある日の午後。
いつものようにサロンで優雅にお茶を楽しんでいると、取り巻きの一人が息を切らして駆け込んできた。
「イザベラ様、イザベラ様! 聞きました?」
ヴィオレット・ハミルトン。彼女は私の一番の取り巻きで、いつも真っ先に情報を持ってきてくれる便利な存在。今日も、何か面白い話を持ってきたのかしら。
「何かしら、そんなに騒々しく」
私は優雅に紅茶を口に運びながら尋ねた。
「あの、セラフィナ様が、再婚約なさったそうですわ!」
「……あら、そうなの?」
私は少し驚いた。カップを受け皿に戻す音が、少し大きくなってしまった。
もう少し、婚約を破棄された後に一人で惨めに過ごしている姉の姿を眺めていたかったのに。評判も地に落ちて、誰も助けてくれない。実家にも戻れず、友人たちからも見放されて、孤独に苦しむ姉。そんな姿を、もっともっと楽しみたかったのに。
残念ね。でも、まあいいわ。どうせ、碌な相手じゃないでしょう。婚約を破棄されて評判が落ちた女を引き取るなんて、よっぽど困っている家か、格下の家に決まっている。
「お相手は、なんとリーベンフェルト侯爵家ですって!」
ヴィオレットが、さらに興奮した様子で言った。
「リーベンフェルト?」
その名前を聞いて、私は首を傾げた。どこかで聞いたことがあるような……ああ、確か軍人の家ね。
「ああ、軍人の家ね。社交界には出てこない、野蛮な人たち」
思い出した瞬間、私は思わず笑ってしまった。クスクスと、上品に手で口元を隠しながら。でも、心の中では大声で笑っていた。
「まあ、お姉様らしい選択ですわね」
完璧。本当に完璧だわ。姉は、社交界で格下と見なされている軍人家系に嫁ぐことになったのね。これ以上の転落はないわ。
「詳しく教えて、ヴィオレット。リーベンフェルト家のこと」
私が促すと、ヴィオレットと他の取り巻きたちが、競うように情報を教えてくれた。
「リーベンフェルト侯爵家は、軍人としては確かに有名ですわ」
「戦場での功績も多くて、王族からの信頼も厚いそうですの」
「勲章も数多く授与されているとか」
ふうん、軍人としては優秀なのね。でも――
「だけど、社交界には疎いんですのよ」
ヴィオレットが、声を潜めて続けた。
「パーティーにもほとんど参加しないし、参加しても隅の方でじっとしているだけ。会話も下手で、マナーも洗練されていないって評判ですわ」
「文官貴族と比べて、文化的な教養に欠けるとも言われていますわ」
別の貴婦人が付け加えた。
「音楽や芸術の知識もないし、洗練された会話もできない。ただ剣を振り回すことしか知らない、粗野な人たちですの」
要するに、野蛮な家柄。剣しか知らない、粗野な軍人たち。社交界では、格下だと見なされているグループ。
「社交界では、文官貴族と比べてやっぱり評判が良くないんですのよ」
ヴィオレットが、さらに声を潜めて言った。周りを見回して、誰も聞いていないことを確認してから。
「『軍人の野蛮人』なんて、陰で言われているくらいですもの。『剣しか知らない獣』とか、『文化を解さない蛮族』とか――」
「まぁ、酷い」
私は大げさに驚いてみせた。手で口を覆い、目を大きく見開いて。
姉が、そんな家に嫁ぐなんて。社交界の花形だった姉が、社交界で蔑まれている家に嫁ぐなんて。これ以上の転落はないわ。
「そんな家柄ですか。ふふ、お姉様にお似合いですわね」
私は優雅に笑った。声を出さず、ただ微笑むだけ。でも、その笑顔には勝利の色が滲んでいたでしょう。
「本当ですわ、イザベラ様」
ヴィオレットも、クスクスと笑う。
「実力のない者同士――いえ、社交界に対する実力のない者同士、ちょうど良いんじゃないかしら?」
私の言葉に、周りの取り巻きたちも笑い声を上げる。上品に、扇子で口元を隠しながら。でも、明らかに嘲笑の響きを含んで。
「事実が明らかになって、社交界での地位を失ったセラフィナ様。社交界に疎い軍人家系――確かに、お似合いですわね」
「どんなパーティーを開くのかしら。きっと、見るに堪えないものになるでしょうね」
「料理の選び方も知らないでしょうし、音楽の手配もできないでしょうし」
「装飾のセンスも皆無でしょうね。軍人の家ですもの」
「参加したくありませんわ。恥ずかしい思いをしそうですもの」
「そもそも、招待されないでしょうけれどね」
貴婦人たちが、次々と辛辣な言葉を投げかける。その一つ一つが、私の耳に心地よく響く。
その全てに、私は優雅に微笑むだけ。言葉を発する必要はない。ただ、微笑んでいるだけで、私の勝利は明らかだから。
実家を出ていった姉。婚約を破棄されて、評判も地に落ちた姉。そして今は、社交界で蔑まれている軍人の妻になろうとしている姉。
一方、私はどうかしら?
ヴァンデルディング公爵家の婚約者。社交界の注目を一身に集める存在。取り巻きに囲まれ、賞賛の言葉を浴び、誰もが私の機嫌を取ろうと必死。そして将来は、公爵夫人という最高位の地位に就く。
格が違うのよ。
お姉様と私では、もう住む世界が違う。天と地ほどの差がある。
私は天上の存在で、姉は地を這う存在。もう、比べることすら失礼なくらい。
「イザベラ様の開くパーティーこそ、本当に素晴らしいものになるでしょうね」
ヴィオレットが、恭しく言った。深々とお辞儀をしながら。
「ええ、もちろんよ」
私は自信たっぷりに答えた。胸を張って、堂々と。
「来月には開く予定だから、楽しみにしておいて。きっと、今までにない素晴らしいパーティーになるわ」
そろそろ準備を進めていかないといけないわね。
少し面倒だけど、私の実力を示すために必要なこと。お姉様ができたことなんて、私にだってできるに決まっている。いいえ、私ならもっと素晴らしいものにできる。
ヴァンデルディング公爵家の威光もあって、社交界での私の地位は確固たるものになっていく。公爵家の婚約者という肩書きは、想像以上に強力だった。誰も私に逆らえない。誰も私を無視できない。
取り巻きの数も、どんどん増えていった。
以前は見向きもしなかった貴婦人たちが、今では私に媚びを売ってくる。伯爵夫人も、子爵令嬢も、男爵夫人も。みんな、私の機嫌を取ろうと必死。プレゼントを持ってきたり、褒め言葉を並べ立てたり、私の一挙手一投足に注目したり。
その様子を眺めているのが、本当に楽しい。
かつて、お姉様を囲んでいた貴婦人たちが、今では私の周りに集まっている。かつて、お姉様に向けられていた賞賛の言葉が、今では私に向けられている。
これが、本来あるべき姿。
私こそが、中心にいるべき存在なのだから。
「イザベラ様が開催されるパーティー、とても楽しみにしていますわ」
ある日、サロンで貴婦人が言った。侯爵夫人だったかしら。名前は覚えていないけれど、どうでもいいわ。大切なのは、その人が私を褒めているということ。
「ぜひ、私も招待していただけませんか? もう、楽しみで楽しみで、夜も眠れないほどですの」
「私も! イザベラ様のセンスで作られるパーティー、絶対に素晴らしいものになるはずですわ」
「私もぜひ! お願いします、イザベラ様。どうか、招待状をいただけませんか?」
次々と、参加希望の声が上がる。みんな、私の開くパーティーに参加したがっている。私の選ぶ装飾を見たがっている。私の選ぶ料理を味わいたがっている。私の企画する催し物を楽しみたがっている。
私が表に出て、ようやく脚光を浴びる機会を得られた。今までは姉が独占していた評価が、ようやく正当な持ち主に。つまり、私のものになったのだから。
「皆様のご期待に、必ずお応えしますわ」
味方してくれる人が増えて、姉の味方が減っている。その様子を見るのが、とても楽しかった。
「セラフィナお姉様が積み上げてきた――いえ、私から盗んで築いてきた偽りの評判を、私が本物の才能で塗り替えて見せますわ」
その言葉に、周囲から拍手が起こった。
「素晴らしいですわ、イザベラ様!」
「私たち、全力で応援していますわ!」
賞賛の言葉が、次々と飛んでくる。その全てが、心地よく耳に響く。
お姉様、今どんな気持ちでいるのかしら。
きっと、悔しくて仕方がないでしょうね。私が全てを手に入れて、輝いているのを見て、どれほど妬んでいることか。夜も眠れないほど、悔しがっているに違いない。
想像するだけで、笑いが止まらない。
ある日の午後。
いつものようにサロンで優雅にお茶を楽しんでいると、取り巻きの一人が息を切らして駆け込んできた。
「イザベラ様、イザベラ様! 聞きました?」
ヴィオレット・ハミルトン。彼女は私の一番の取り巻きで、いつも真っ先に情報を持ってきてくれる便利な存在。今日も、何か面白い話を持ってきたのかしら。
「何かしら、そんなに騒々しく」
私は優雅に紅茶を口に運びながら尋ねた。
「あの、セラフィナ様が、再婚約なさったそうですわ!」
「……あら、そうなの?」
私は少し驚いた。カップを受け皿に戻す音が、少し大きくなってしまった。
もう少し、婚約を破棄された後に一人で惨めに過ごしている姉の姿を眺めていたかったのに。評判も地に落ちて、誰も助けてくれない。実家にも戻れず、友人たちからも見放されて、孤独に苦しむ姉。そんな姿を、もっともっと楽しみたかったのに。
残念ね。でも、まあいいわ。どうせ、碌な相手じゃないでしょう。婚約を破棄されて評判が落ちた女を引き取るなんて、よっぽど困っている家か、格下の家に決まっている。
「お相手は、なんとリーベンフェルト侯爵家ですって!」
ヴィオレットが、さらに興奮した様子で言った。
「リーベンフェルト?」
その名前を聞いて、私は首を傾げた。どこかで聞いたことがあるような……ああ、確か軍人の家ね。
「ああ、軍人の家ね。社交界には出てこない、野蛮な人たち」
思い出した瞬間、私は思わず笑ってしまった。クスクスと、上品に手で口元を隠しながら。でも、心の中では大声で笑っていた。
「まあ、お姉様らしい選択ですわね」
完璧。本当に完璧だわ。姉は、社交界で格下と見なされている軍人家系に嫁ぐことになったのね。これ以上の転落はないわ。
「詳しく教えて、ヴィオレット。リーベンフェルト家のこと」
私が促すと、ヴィオレットと他の取り巻きたちが、競うように情報を教えてくれた。
「リーベンフェルト侯爵家は、軍人としては確かに有名ですわ」
「戦場での功績も多くて、王族からの信頼も厚いそうですの」
「勲章も数多く授与されているとか」
ふうん、軍人としては優秀なのね。でも――
「だけど、社交界には疎いんですのよ」
ヴィオレットが、声を潜めて続けた。
「パーティーにもほとんど参加しないし、参加しても隅の方でじっとしているだけ。会話も下手で、マナーも洗練されていないって評判ですわ」
「文官貴族と比べて、文化的な教養に欠けるとも言われていますわ」
別の貴婦人が付け加えた。
「音楽や芸術の知識もないし、洗練された会話もできない。ただ剣を振り回すことしか知らない、粗野な人たちですの」
要するに、野蛮な家柄。剣しか知らない、粗野な軍人たち。社交界では、格下だと見なされているグループ。
「社交界では、文官貴族と比べてやっぱり評判が良くないんですのよ」
ヴィオレットが、さらに声を潜めて言った。周りを見回して、誰も聞いていないことを確認してから。
「『軍人の野蛮人』なんて、陰で言われているくらいですもの。『剣しか知らない獣』とか、『文化を解さない蛮族』とか――」
「まぁ、酷い」
私は大げさに驚いてみせた。手で口を覆い、目を大きく見開いて。
姉が、そんな家に嫁ぐなんて。社交界の花形だった姉が、社交界で蔑まれている家に嫁ぐなんて。これ以上の転落はないわ。
「そんな家柄ですか。ふふ、お姉様にお似合いですわね」
私は優雅に笑った。声を出さず、ただ微笑むだけ。でも、その笑顔には勝利の色が滲んでいたでしょう。
「本当ですわ、イザベラ様」
ヴィオレットも、クスクスと笑う。
「実力のない者同士――いえ、社交界に対する実力のない者同士、ちょうど良いんじゃないかしら?」
私の言葉に、周りの取り巻きたちも笑い声を上げる。上品に、扇子で口元を隠しながら。でも、明らかに嘲笑の響きを含んで。
「事実が明らかになって、社交界での地位を失ったセラフィナ様。社交界に疎い軍人家系――確かに、お似合いですわね」
「どんなパーティーを開くのかしら。きっと、見るに堪えないものになるでしょうね」
「料理の選び方も知らないでしょうし、音楽の手配もできないでしょうし」
「装飾のセンスも皆無でしょうね。軍人の家ですもの」
「参加したくありませんわ。恥ずかしい思いをしそうですもの」
「そもそも、招待されないでしょうけれどね」
貴婦人たちが、次々と辛辣な言葉を投げかける。その一つ一つが、私の耳に心地よく響く。
その全てに、私は優雅に微笑むだけ。言葉を発する必要はない。ただ、微笑んでいるだけで、私の勝利は明らかだから。
実家を出ていった姉。婚約を破棄されて、評判も地に落ちた姉。そして今は、社交界で蔑まれている軍人の妻になろうとしている姉。
一方、私はどうかしら?
ヴァンデルディング公爵家の婚約者。社交界の注目を一身に集める存在。取り巻きに囲まれ、賞賛の言葉を浴び、誰もが私の機嫌を取ろうと必死。そして将来は、公爵夫人という最高位の地位に就く。
格が違うのよ。
お姉様と私では、もう住む世界が違う。天と地ほどの差がある。
私は天上の存在で、姉は地を這う存在。もう、比べることすら失礼なくらい。
「イザベラ様の開くパーティーこそ、本当に素晴らしいものになるでしょうね」
ヴィオレットが、恭しく言った。深々とお辞儀をしながら。
「ええ、もちろんよ」
私は自信たっぷりに答えた。胸を張って、堂々と。
「来月には開く予定だから、楽しみにしておいて。きっと、今までにない素晴らしいパーティーになるわ」
そろそろ準備を進めていかないといけないわね。
少し面倒だけど、私の実力を示すために必要なこと。お姉様ができたことなんて、私にだってできるに決まっている。いいえ、私ならもっと素晴らしいものにできる。
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