奪った後で、後悔するのはあなたです~私から婚約相手を奪って喜ぶ妹は無能だった件について~

キョウキョウ

文字の大きさ
14 / 50

第14話 いちいち面倒な準備段階※イザベラ視点

しおりを挟む
 最初の打ち合わせから、数日後。

「イザベラ様、大変申し訳ございません。至急、ご報告しなければならないことがございまして……」

 申し訳なさそうに私の部屋を訪ねてきた担当者たち。ノックの音さえ、遠慮がちで弱々しい。その表情は明らかに困惑しており、額には冷や汗が浮かんでいる。

「何?」

 私は鏡の前で髪を整えながら、仕方なく答えた。

 今度のパーティーに向けて新しいヘアスタイルを試しているところなのに、邪魔しないでほしいわ。この巻き方が完璧かどうか、まだ確認している最中なのに。メイドに手伝わせて、ようやく理想の形になってきたところだったのに。

「予算が……予算が足りないのですが……」

 声を震わせながら報告してくる。私を怒らせることを、明らかに恐れている。

「は? 足りない? そんなわけ、ないじゃない」

 私は振り返って、そんな馬鹿げた報告を持ってきた担当者を睨みつけた。

 ロデリック様から、たっぷりと予算は出してもらっている。公爵家の威光にかけて、惜しみなく資金を提供してもらったはず。金に糸目をつけるなと言われたくらいよ。それなのに、足りないなんて、どういうこと? 計算が間違っているんじゃないの?

「噴水の設置費用が、予想以上にかかりまして……」

 手に持った書類が、わずかに震えている。

「大広間の床は、もともと噴水を設置する想定で作られておりません。防水処理を施し、配管を引き、排水システムを構築し、さらに専門の業者を呼ばなければならず……その費用が、当初の見積もりの三倍近くに膨れ上がってしまいました」
「三倍?」

 私は眉をひそめた。

 そんなにかかるの? でも、だからといって私の計画を中止にするという考えなんて微塵もない。噴水こそが、今回の目玉になるはずなのだから。

 ならどうするべきか。簡単なことよ。

「じゃあ、他を削ればいいでしょ。削れるところを探しなさい。料理とか」

 私は軽く手を振った。

 お金が足りないなら、別のところから持ってくればいいだけの話。単純明快。何をそんなに悩んでいるのかしら。

「他を削るとなりますと、全体の質が低下して……」
「大丈夫よ。質が低下しても見た目が華やかなら、皆喜ぶわ」

 私は、自信を持って答えた。どうすればいいか、考えて答えを出す。

「料理なんて、味より見た目が大事なのよ。華やかな盛り付けにすればいいの。食べられさえすれば、多少味が落ちても問題ないでしょ」

 とりあえず、上手くやって。それだけお願いして、私は話を終わらせようとした。だけど、まだ何か言いたいらしい。

「それから……装飾費も、かなりの額になっておりまして……」

 また別のスタッフが、手に持った資料に視線を落としながらおずおずと口を開いた。

「噴水以外にも、異国風の装飾品、特注の花々、照明の追加工事……全て合わせますと、予算を大幅に超過してしまいます。このままですと、パーティー全体の質が大幅に低下する可能性が……」
「じゃあ、音楽隊を安いところにすれば?」

 私は、イライラする感情を抑えながら言った。

 お金が必要なのはわかったから。もうちょっと、そっちで工夫してよ。私は大きな方針を決めるのが仕事なんだから、細かい調整はスタッフの仕事でしょう。

「多少クオリティーが下がっても、音楽なんて優先度は低いでしょ。会場で演奏してくれるのなら、誰でもいいから。名の知れた楽団じゃなくても、音さえ出せれば問題ないわ」
「ですが、イザベラ様……」

 私を怒らせないようにしているのか、必死に説得しようとする担当者。怒らせるような問題を持ってきたのは、そっちなのに。

「これは格式のあるパーティーでございます。ヴァンデルディング公爵家の威信をかけた催しでございます。格落ちの音楽隊では、参加者の方々に失礼にあたりますし、公爵家の名誉にも関わります。音楽の質は決して軽視できません。それを避けるためには、やはり――」
「流行の曲を演奏できればいいのよ。最初から、そういう方針を決めたでしょ」

 私は担当者の言葉を遮った。

「そうしておけば結局、盛り上がるでしょ。格式とか、そういう古臭いのは別にいいから。参加者たちが楽しめれば、それで成功よ。若い貴族たちが喜んで踊り出すような、そういうパーティーにするの」

 本当に、この人は細かいことばかり気にする。お姉様の補助をしていた執事も、かなり細かい性格をしているようだった。会場を準備するスタッフって、みんなこういうものなのかしら。ちょっと――いえ、かなり面倒。

「とにかく、私の指示通りに進めなさい」
「……かしこまりました」

 担当者は、複雑な表情で頭を下げた。



 それから、似たような報告が続いた。

 異国料理の食材が手に入らない。調理法を知っている料理人が見つからない。装飾品の一部が納期に間に合わない。照明工事が予定より遅れている――

 次から次へと、問題が報告される。

「お嬢様、東方の香辛料が王都の市場では手に入らず……」
「南方の食材は、この季節では新鮮なものが……」
「装飾用の花々が、気候の関係で枯れてしまい……」

 毎日のように、スタッフたちが問題を報告しにくる。その度に、私は対処する方法を考えて、答えた。

「じゃあ、似たようなもので代用すればいいでしょ」
「見た目が似ていれば、誰も気付かないわ」
「なんとかして、間に合わせなさい」

 時間のかかる議論は、パーティーの開催予定日の直前まで続いた。


「お嬢様、最後に一度だけ……本当にこの計画で進めてよろしいのでしょうか」

 最後の確認とばかりに私の部屋を訪ねてきた担当者たち。その表情は、とても真剣だった。目の下には隈ができており、疲労の色が濃い。

 それなりに頑張っているみたいだけど、無駄に気を張りすぎているようにも思う。もっとリラックスすればいいのに。

「何? まだ文句があるの?」

 もう時間もないのに、今更計画を変更なんて不可能でしょう。準備はほとんど終わっているんだから。前に進むしかないの。何を今更言っているのかしら。

「いえ、文句ではございません。ただ……」

 担当者は慎重に言葉を選びながら続けた。

「噴水の設置、異国料理の統一、流行曲の選曲、イザベラ様の三度の衣装替え――全てが前例のないことばかりでございます。一つ一つは素晴らしいアイデアかもしれませんが、全て前例のないことなので。それを同時に行うというのは……」
「誰もやってない。だから良いんでしょ」

 私は、これから起こるであろう出来事を予想しながら語った。

「前例がないからって、諦めるつもりはないわよ。必ず成功させるんだから。『ヴァンデルディング公爵家のイザベラが社交界に革命を起こした』って、後世に語り継がれるような素敵なパーティーにするの」

 自信を持って答える。パーティーが終わった後、その大成功を見て彼らも理解するはず。私の判断が正しかったことを。私の才能を。

 それでも理解しないのであれば、今後のためにスタッフたちの見直しも必要ね。もっと柔軟で、私の才能を理解できる人材に入れ替えないと。

「ですが、お嬢様……」

 まだ何か言おうとする。

「もう、いいわ」

 私は手を振って、彼の言葉を遮った。

「とにかく、予定日までに準備を完了させなさい。私が求めるのは、それだけ。完璧な状態で、パーティーを開催すること。それ以外は聞きたくないわ」

 もう、準備が完了したという報告以外、聞くつもりはない。余計な問題は、持ってこないで。そういう態度を示す。

「……かしこまりました」

 本当に、うるさいわね。今回のパーティーを指揮するのは私なんだから。私の指示が正解なんだから。お姉様みたいに、いちいち時間を無駄に浪費して悩む必要はない。細かいことを気にして、スタッフ全員と相談して、何度もしつこく確認して――そんな面倒なこと、する必要ないの。

 やってみて、それでどうなるか見れば良い。ただ、それだけ。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆小説家になろうにも投稿しています

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。 オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。 「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」 「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」 「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」 妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

処理中です...