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第8話 冷めた瞳で見つめる真実
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ヴィクターの話を聞きながら、私は静かに紅茶のカップを唇に運んだ。
茶葉の香りが鼻腔を満たすが、その心地よさとは裏腹に、彼の言葉は私の心に何の波紋も起こさない。完全に冷めた気持ちで聞いていた。
「あの後、新しい婚約者を探すことになったんだが、これが予想以上に困難だった」
ヴィクターが自分の苦労話を始めると、私は表面的には関心を示すように軽く頷いた。社交辞令の範囲内で、適度な反応を示す。それ以上でも、それ以下でもない。
困難? 当然でしょうね。
彼の自己中心的な物言いを聞いていると、あの頃の屈辱的な記憶が蘇ってくる。でも、不思議と胸が痛むことはなかった。むしろ、彼の愚かさを客観視できる自分の成長を実感していた。
「残っていたのは『平均より少し上』程度の魔力の女性のみ。当主としては妥協するしかなかった」
妥協、ね。
その言葉を聞いた瞬間、私は内心で苦笑いを浮かべた。本当に、この男は何も変わっていない。女性を魔力の量という一つの基準だけで評価して、自分の都合が悪くなると『妥協』という言葉で片付ける。そんな傲慢な態度だから、良い結果が得られないのでしょう。
「それで選んだのが、とある子爵家の三女——ロザリンドだった」
ロザリンドという名前を聞いた瞬間、私は彼女に対して深い同情を覚えた。
どんな女性なのかは知らないけれど、ヴィクターに『選ばれた』ことは間違いなく不幸だったでしょう。子爵家の三女ということは、家格の差を利用した完全な政略結婚。彼女自身の意志など、最初から考慮されていなかったのでしょうね。
そして案の定、ヴィクターは新しい婚約相手のことを酷い言葉で罵り始めた。
「その女は、君とは正反対だった。傲慢で、特権意識が強く、贅沢三昧。使用人にも横柄で、領民のことなど全く考えない女だった」
この男の評価や言葉が、どれだけ信用できるというの?
私は心の中で首を振った。ヴィクターという人物には、自分の都合の良いように物事を解釈するクセがあるようだ。あの頃の私のことも、『魔力不足で不適格』と散々に罵っていたのに、今になって手のひら返し。
きっと、ロザリンドという女性の本当の姿も、彼の語る内容とは大きく異なっているのでしょう。
私とは正反対、という表現も気に食わない。まるで私が彼にとって都合の良い『理想の女性』だったかのような言い方。でも実際は、魔力不足という理由だけで容赦なく切り捨てたくせに。
「でも跡継ぎ問題があるから、我慢して子作りに励んだよ」
そんな下品で無神経な発言に、私は内心で眉をひそめた。
我慢ですって? 本当にデリカシーのない男。ロザリンドという女性がこの言葉を聞いたら、どれほど傷つくでしょう。『我慢して』なんて表現を使われて、女性として、人間としての尊厳を踏みにじられた気持ちになるはず。
おそらく、お相手の女性も同じような気持ちだったのでしょうね。お互いに愛情のない、義務だけの関係。そんな不幸な結婚生活だったのでしょう。
そして彼は、ロザリンドという女性と私を比較して、私のことを褒め始めた。チラチラと私の反応を気にしながら、露骨なまでに。
本当に不愉快。
今更そんなことを言われても、少しも嬉しくない。あの頃、私が必要としていた時には見向きもしなかったくせに。私の努力も、人格も、すべてを『魔力不足』という一言で否定したくせに。
結局、この人は何も理解していない。女性を『比較する対象』としか見ていないのね。ロザリンドさんも私も、彼にとっては『伯爵夫人候補』という商品でしかなかった。そして今、私の『商品価値』が上がったから、再び手に入れたいと思っているだけ。
その浅ましい本性が、手に取るように分かる。
「彼女も俺に対して不満を持っていたらしい」
当然でしょうね。
そんな感想が、思わず口に出そうになったが、ぐっと堪える。社交的な微笑みを保ちながら、内心では冷徹に分析を続けた。
ヴィクターのような自己中心的で無神経な男と一緒にいて、幸せを感じられる女性がいるとは思えない。きっとロザリンドさんも、日々の生活の中で彼の冷酷さや思いやりのなさを実感して、苦しんでいたのでしょう。
「お互いの雰囲気が悪化していく中で、妻の浮気が発覚した。それも、子どもが生まれた直後の出来事で、父親が誰か分からない状況だった」
その話を聞いて、私はロザリンドという女性に対して、さらに深い同情を覚えた。
子どもを生んだのに、夫からは愛されず、理解もされない。そんな絶望的な状況に置かれたら、心の支えを他に求めたくなるのも無理はない。実際はどうなのか、わからない。だから、彼女の行動を正当化するつもりはない。けれども、そうしてしまう経緯は痛いほど理解できた。
なぜなら、私も似たような絶望を味わったから。一方的に見捨てられる苦しみ、自分の価値を完全に否定される屈辱。あの時の私がもし結婚していたら、同じような道を歩んでいたかもしれない。
「問い詰めようとした途端、浮気相手と国外逃亡してしまった」
賢明な判断ね。
私は心の中で彼女の決断を支持していた。この男と一緒にいても、幸せになれるはずがない。子どもと一緒に逃げ出したのは、母親として、女性として、正しい選択だったでしょう。
新しい土地で、愛してくれる人と一緒に新しい人生を歩む。それは、彼女にとって唯一の希望だったに違いない。
「妻の実家からは『手綱を握れなかった夫が悪い』と責められる始末だ」
彼女は、私と同じように実家からの理解も得られなかったのかもしれない。夫からも実家からも見捨てられ、完全に孤立した状況。そんな中で、一緒に逃げてくれる人と出会えたのは、せめてもの救いだったでしょう。
ヴィクターが責められるのも当然のことよ。夫として妻を幸せにできなかったのは紛れもない事実なのだから。それを認めずに逆恨みするなんて、本当に情けない男。
「あんな女を寄越した相手の実家もどうかと思うよ」
そして今度は、相手の実家のせい。
本当に、責任転嫁がお上手なことね。自分の非は一切認めずに、すべてを他人のせいにする。この男の本質は、あの頃から全く変わっていない。
むしろ、年月を経て、その醜さがより鮮明になっているような気がする。
「最初から、君を選んでおくべきだったと思ったよ」
そんな都合の良い推測を聞いて、私は内心で呆れ果てていた。
自分の失敗を他人のせいにして、都合の良いように考える。今度は、私の力が欲しくなったから戻ってきてほしいと願う。
あの頃の私なら、『やっと私の価値を分かってくれた』と涙を流して喜んでいたかもしれない。彼の言葉に感動して、過去のことはすべて水に流して、再び彼の元に戻っていたでしょう。
でも今は違う。この男の薄っぺらい本性が、手に取るように分かる。
改めて、自分は幸運だったことを実感する。
あの時点で、ヴィクターという男から離れられたのは、人生最大の幸運だった。師匠と一緒に旅に出て、本当の自分の価値を知ることができた。多くの人々を助け、感謝され、愛された。真の充実感を味わうことができた。幸せな人生を送れている。
もしも、婚約を破棄せずに彼と結婚していたら——想像するだけで恐ろしい。
きっと私は、ロザリンドさんと同じような絶望的な日々を送っていたでしょうか。愛されることなく、理解されることもなく、ただ『跡継ぎを産む道具』として扱われ続けていた。
あの頃の私は、こんな男に対しても執着していた。彼との関係を壊してしまったら、私の人生は終わりだと思っていたから。全く、そんなことはなかったのね。
むしろ、彼から解放されたことで、私の本当の人生が始まったのだ。
まだまだヴィクターの話は続くようだ。表面的には穏やかな微笑みを保ちながら、私は彼の一方的な語りを聞き続けていた。
茶葉の香りが鼻腔を満たすが、その心地よさとは裏腹に、彼の言葉は私の心に何の波紋も起こさない。完全に冷めた気持ちで聞いていた。
「あの後、新しい婚約者を探すことになったんだが、これが予想以上に困難だった」
ヴィクターが自分の苦労話を始めると、私は表面的には関心を示すように軽く頷いた。社交辞令の範囲内で、適度な反応を示す。それ以上でも、それ以下でもない。
困難? 当然でしょうね。
彼の自己中心的な物言いを聞いていると、あの頃の屈辱的な記憶が蘇ってくる。でも、不思議と胸が痛むことはなかった。むしろ、彼の愚かさを客観視できる自分の成長を実感していた。
「残っていたのは『平均より少し上』程度の魔力の女性のみ。当主としては妥協するしかなかった」
妥協、ね。
その言葉を聞いた瞬間、私は内心で苦笑いを浮かべた。本当に、この男は何も変わっていない。女性を魔力の量という一つの基準だけで評価して、自分の都合が悪くなると『妥協』という言葉で片付ける。そんな傲慢な態度だから、良い結果が得られないのでしょう。
「それで選んだのが、とある子爵家の三女——ロザリンドだった」
ロザリンドという名前を聞いた瞬間、私は彼女に対して深い同情を覚えた。
どんな女性なのかは知らないけれど、ヴィクターに『選ばれた』ことは間違いなく不幸だったでしょう。子爵家の三女ということは、家格の差を利用した完全な政略結婚。彼女自身の意志など、最初から考慮されていなかったのでしょうね。
そして案の定、ヴィクターは新しい婚約相手のことを酷い言葉で罵り始めた。
「その女は、君とは正反対だった。傲慢で、特権意識が強く、贅沢三昧。使用人にも横柄で、領民のことなど全く考えない女だった」
この男の評価や言葉が、どれだけ信用できるというの?
私は心の中で首を振った。ヴィクターという人物には、自分の都合の良いように物事を解釈するクセがあるようだ。あの頃の私のことも、『魔力不足で不適格』と散々に罵っていたのに、今になって手のひら返し。
きっと、ロザリンドという女性の本当の姿も、彼の語る内容とは大きく異なっているのでしょう。
私とは正反対、という表現も気に食わない。まるで私が彼にとって都合の良い『理想の女性』だったかのような言い方。でも実際は、魔力不足という理由だけで容赦なく切り捨てたくせに。
「でも跡継ぎ問題があるから、我慢して子作りに励んだよ」
そんな下品で無神経な発言に、私は内心で眉をひそめた。
我慢ですって? 本当にデリカシーのない男。ロザリンドという女性がこの言葉を聞いたら、どれほど傷つくでしょう。『我慢して』なんて表現を使われて、女性として、人間としての尊厳を踏みにじられた気持ちになるはず。
おそらく、お相手の女性も同じような気持ちだったのでしょうね。お互いに愛情のない、義務だけの関係。そんな不幸な結婚生活だったのでしょう。
そして彼は、ロザリンドという女性と私を比較して、私のことを褒め始めた。チラチラと私の反応を気にしながら、露骨なまでに。
本当に不愉快。
今更そんなことを言われても、少しも嬉しくない。あの頃、私が必要としていた時には見向きもしなかったくせに。私の努力も、人格も、すべてを『魔力不足』という一言で否定したくせに。
結局、この人は何も理解していない。女性を『比較する対象』としか見ていないのね。ロザリンドさんも私も、彼にとっては『伯爵夫人候補』という商品でしかなかった。そして今、私の『商品価値』が上がったから、再び手に入れたいと思っているだけ。
その浅ましい本性が、手に取るように分かる。
「彼女も俺に対して不満を持っていたらしい」
当然でしょうね。
そんな感想が、思わず口に出そうになったが、ぐっと堪える。社交的な微笑みを保ちながら、内心では冷徹に分析を続けた。
ヴィクターのような自己中心的で無神経な男と一緒にいて、幸せを感じられる女性がいるとは思えない。きっとロザリンドさんも、日々の生活の中で彼の冷酷さや思いやりのなさを実感して、苦しんでいたのでしょう。
「お互いの雰囲気が悪化していく中で、妻の浮気が発覚した。それも、子どもが生まれた直後の出来事で、父親が誰か分からない状況だった」
その話を聞いて、私はロザリンドという女性に対して、さらに深い同情を覚えた。
子どもを生んだのに、夫からは愛されず、理解もされない。そんな絶望的な状況に置かれたら、心の支えを他に求めたくなるのも無理はない。実際はどうなのか、わからない。だから、彼女の行動を正当化するつもりはない。けれども、そうしてしまう経緯は痛いほど理解できた。
なぜなら、私も似たような絶望を味わったから。一方的に見捨てられる苦しみ、自分の価値を完全に否定される屈辱。あの時の私がもし結婚していたら、同じような道を歩んでいたかもしれない。
「問い詰めようとした途端、浮気相手と国外逃亡してしまった」
賢明な判断ね。
私は心の中で彼女の決断を支持していた。この男と一緒にいても、幸せになれるはずがない。子どもと一緒に逃げ出したのは、母親として、女性として、正しい選択だったでしょう。
新しい土地で、愛してくれる人と一緒に新しい人生を歩む。それは、彼女にとって唯一の希望だったに違いない。
「妻の実家からは『手綱を握れなかった夫が悪い』と責められる始末だ」
彼女は、私と同じように実家からの理解も得られなかったのかもしれない。夫からも実家からも見捨てられ、完全に孤立した状況。そんな中で、一緒に逃げてくれる人と出会えたのは、せめてもの救いだったでしょう。
ヴィクターが責められるのも当然のことよ。夫として妻を幸せにできなかったのは紛れもない事実なのだから。それを認めずに逆恨みするなんて、本当に情けない男。
「あんな女を寄越した相手の実家もどうかと思うよ」
そして今度は、相手の実家のせい。
本当に、責任転嫁がお上手なことね。自分の非は一切認めずに、すべてを他人のせいにする。この男の本質は、あの頃から全く変わっていない。
むしろ、年月を経て、その醜さがより鮮明になっているような気がする。
「最初から、君を選んでおくべきだったと思ったよ」
そんな都合の良い推測を聞いて、私は内心で呆れ果てていた。
自分の失敗を他人のせいにして、都合の良いように考える。今度は、私の力が欲しくなったから戻ってきてほしいと願う。
あの頃の私なら、『やっと私の価値を分かってくれた』と涙を流して喜んでいたかもしれない。彼の言葉に感動して、過去のことはすべて水に流して、再び彼の元に戻っていたでしょう。
でも今は違う。この男の薄っぺらい本性が、手に取るように分かる。
改めて、自分は幸運だったことを実感する。
あの時点で、ヴィクターという男から離れられたのは、人生最大の幸運だった。師匠と一緒に旅に出て、本当の自分の価値を知ることができた。多くの人々を助け、感謝され、愛された。真の充実感を味わうことができた。幸せな人生を送れている。
もしも、婚約を破棄せずに彼と結婚していたら——想像するだけで恐ろしい。
きっと私は、ロザリンドさんと同じような絶望的な日々を送っていたでしょうか。愛されることなく、理解されることもなく、ただ『跡継ぎを産む道具』として扱われ続けていた。
あの頃の私は、こんな男に対しても執着していた。彼との関係を壊してしまったら、私の人生は終わりだと思っていたから。全く、そんなことはなかったのね。
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