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第7話 婚約破棄した後の出来事※ヴィクター視点
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なんて美しくなったのだろう。
久しぶりに見た元婚約相手であるエリアナの顔を見つめながら、俺は心の中でそう呟いていた。あの頃から、それなりに美人だったが、今の彼女は別格だろう。気品、知性、それから古代魔法という力——伯爵夫人として申し分ない、いや、それ以上の存在感を放っている。
昔の彼女には、魔力が少ないという大きな欠点があった。本当に、それだけが残念であった。まさか、古代魔法を使えるようになるなんて想像できなかった。
彼女の今の活躍ぶりなんて、誰一人として見抜けなかったし、予想できなかっただろう。彼女に、そんな才能があるなんて。
あの時、婚約破棄などしなければ……。
いや、考え方を変えようか。あれから数年、彼女は実力を磨いた。今の彼女こそ、アイゼンヴォルク家の人間に相応しい。数年間を無駄にしてしまったかもしれない。だが、これから取り返していけば良い。彼女と一緒に。
そう考えながら俺は、久しぶりにエリアナと会話を交わす。
まだ色々と戸惑っている様子だが、それも理解できる。急に昔の婚約者から連絡が来れば、誰だって困惑するだろう。ならば、彼女にも説明しよう。知ってもらおう。これまで色々あったことを。この数年間の俺の苦労を。話せば理解してもらえるはずだから。
「実は、最近色々と大変なことが続いていて……君の力が、いや、君が必要なんだ」
意を決して、これまでの経緯を話し始めた。元婚約者であるエリアナには知る権利がある。俺がどれほど後悔し、苦労してきたのかを。
そして話を聞いてもらった後に選択してもらいたい。最善の選択肢を、今度こそ。
「あの後、新しい婚約者を探すことになったんだが、これが予想以上に困難だった。エリアナ、君との婚約を破棄した後で気付いたんだが、主要な魔力持ちの令嬢たちはほぼ全員が既に婚約済みだったから」
今思い返しても、あの時の焦りは忘れられない。アイゼンヴォルク家の次期当主として、適切な結婚相手を見つけなければならないプレッシャー。周囲からの視線。すべてが俺の肩にのしかかっていた。
彼女は静かに紅茶を飲みながら、俺の話に耳を傾けてくれている。その上品な仕草を見ていると、改めて彼女の価値を実感する。
「残っていたのは『平均より少し上』程度の魔力を持つ女性のみ。だが、その頃は妥協するしかなかった。アイゼンヴォルク家を継ぐため、子どもを産んでもらう相手が必要不可欠だった。それで選んだのが、とある子爵家の三女——ロザリンドだった」
ロザリンドのことを思い出すと、今でも嫌な気持ちが蘇ってくる。その名前を口に出したくないほど。あの選択が、どれほど大きな間違いだったか。振り返るのも嫌なぐらいだ。だが、今はエリアナに話しておきたい。何があったのか、彼女には知ってもらいたい。そんな気持ちで、話を続ける。
「ロザリンドは、君とは正反対だった。傲慢で、特権意識が強く、贅沢三昧。使用人にも横柄で、領民のことなど全く考えない女だった。だけど跡継ぎ問題があるから、我慢して子作りに励んだよ。家のためだ。どんなに気が進まなくても、責任を果たさなければならない」
あの時期の俺は、本当に辛かった。ロザリンドと過ごす時間は苦痛でしかなかった。彼女の傲慢な態度、使用人への侮蔑的な扱い、そして俺に対する要求の数々。高価な宝石、豪華な衣装、贅沢な食事——出費を平気で求めてくる女だった。
「その間、何度も君のことを思い出したよ。君の優しさ、慎ましやかさ、努力家なところ……比べるべきじゃないとは分かっていたけど、どうしても君の方が良かったと思ってしまうんだ」
俺は正直な気持ちを吐露した。魔力の保有量が少なかったとしても、婚約を破棄するべきじゃなかった。エリアナの人間性の素晴らしさが、俺には見えていなかった。それを、後になってから思い知った。
「アイゼンヴォルク家の当主の座は、なんとか継承した。手続きを無事に終わらせて、ようやく一息つける。そんなタイミングで、ロザリンドの浮気が発覚した」
説明しているうちに、当時の怒りが蘇ってくる。本当に許せない。
「発覚したのは、使用人からの報告だった。『奥様が見知らぬ男性と密会している』という内容だった。最初は信じられなかった。いくらロザリンドが問題のある女とはいえ、まさか不倫をするなんて」
だが、調査を進めれば進めるほど、事実は明らかになっていった。彼女の浮気相手は、男爵家の次男。遊び人として悪名高い男だった。
「ロザリンドも俺に対して常日頃から不満を持っていたらしい。お互いの雰囲気が悪化していく中で、ロザリンドが浮気した。それも、子どもが生まれた直後の出来事で、父親が誰か分からない状況だった」
ロザリンドの裏切りは許せない。跡継ぎだと信じていた子どもの父親が分からない——アイゼンヴォルク家の存続に関わる大問題だった。
「血筋の証明ができない子どもを跡継ぎにするわけにはいかない。家門の名誉に関わることだ。だが、ロザリンドは開き直って言い放った。『あなたが冷たいから、他の男性に癒しを求めただけよ』と」
元妻の傲慢な態度は、最後まで変わらなかった。自分の不貞を棚に上げて、俺を責めるような言い方だった。
「更に問い詰めようとした途端、浮気相手と国外逃亡してしまった。生まれた子どもも一緒に連れて行った。つまり、あの子どもは俺の子じゃなかった、ということだろうな」
跡継ぎだと信じて大切に育てようとしていた子どもが、実は他の男の子どもだったという現実。アイゼンヴォルク家の血筋が途絶える可能性を目の当たりにして、俺は完全に打ちのめされた。
それに加えて最悪だったのは、ロザリンドの実家である子爵家からの批判だ。
「妻の実家からは『手綱を握れなかった夫が悪い』と責められる始末だ。あんな女を寄越したくせに。君なら、こんなことは絶対にしなかっただろう」
俺はエリアナを見つめながら、心からの気持ちを込めて言った。
「最初から、君を選んでおくべきだったと思ったよ」
そして俺の不運は、まだこれから続いていく。
久しぶりに見た元婚約相手であるエリアナの顔を見つめながら、俺は心の中でそう呟いていた。あの頃から、それなりに美人だったが、今の彼女は別格だろう。気品、知性、それから古代魔法という力——伯爵夫人として申し分ない、いや、それ以上の存在感を放っている。
昔の彼女には、魔力が少ないという大きな欠点があった。本当に、それだけが残念であった。まさか、古代魔法を使えるようになるなんて想像できなかった。
彼女の今の活躍ぶりなんて、誰一人として見抜けなかったし、予想できなかっただろう。彼女に、そんな才能があるなんて。
あの時、婚約破棄などしなければ……。
いや、考え方を変えようか。あれから数年、彼女は実力を磨いた。今の彼女こそ、アイゼンヴォルク家の人間に相応しい。数年間を無駄にしてしまったかもしれない。だが、これから取り返していけば良い。彼女と一緒に。
そう考えながら俺は、久しぶりにエリアナと会話を交わす。
まだ色々と戸惑っている様子だが、それも理解できる。急に昔の婚約者から連絡が来れば、誰だって困惑するだろう。ならば、彼女にも説明しよう。知ってもらおう。これまで色々あったことを。この数年間の俺の苦労を。話せば理解してもらえるはずだから。
「実は、最近色々と大変なことが続いていて……君の力が、いや、君が必要なんだ」
意を決して、これまでの経緯を話し始めた。元婚約者であるエリアナには知る権利がある。俺がどれほど後悔し、苦労してきたのかを。
そして話を聞いてもらった後に選択してもらいたい。最善の選択肢を、今度こそ。
「あの後、新しい婚約者を探すことになったんだが、これが予想以上に困難だった。エリアナ、君との婚約を破棄した後で気付いたんだが、主要な魔力持ちの令嬢たちはほぼ全員が既に婚約済みだったから」
今思い返しても、あの時の焦りは忘れられない。アイゼンヴォルク家の次期当主として、適切な結婚相手を見つけなければならないプレッシャー。周囲からの視線。すべてが俺の肩にのしかかっていた。
彼女は静かに紅茶を飲みながら、俺の話に耳を傾けてくれている。その上品な仕草を見ていると、改めて彼女の価値を実感する。
「残っていたのは『平均より少し上』程度の魔力を持つ女性のみ。だが、その頃は妥協するしかなかった。アイゼンヴォルク家を継ぐため、子どもを産んでもらう相手が必要不可欠だった。それで選んだのが、とある子爵家の三女——ロザリンドだった」
ロザリンドのことを思い出すと、今でも嫌な気持ちが蘇ってくる。その名前を口に出したくないほど。あの選択が、どれほど大きな間違いだったか。振り返るのも嫌なぐらいだ。だが、今はエリアナに話しておきたい。何があったのか、彼女には知ってもらいたい。そんな気持ちで、話を続ける。
「ロザリンドは、君とは正反対だった。傲慢で、特権意識が強く、贅沢三昧。使用人にも横柄で、領民のことなど全く考えない女だった。だけど跡継ぎ問題があるから、我慢して子作りに励んだよ。家のためだ。どんなに気が進まなくても、責任を果たさなければならない」
あの時期の俺は、本当に辛かった。ロザリンドと過ごす時間は苦痛でしかなかった。彼女の傲慢な態度、使用人への侮蔑的な扱い、そして俺に対する要求の数々。高価な宝石、豪華な衣装、贅沢な食事——出費を平気で求めてくる女だった。
「その間、何度も君のことを思い出したよ。君の優しさ、慎ましやかさ、努力家なところ……比べるべきじゃないとは分かっていたけど、どうしても君の方が良かったと思ってしまうんだ」
俺は正直な気持ちを吐露した。魔力の保有量が少なかったとしても、婚約を破棄するべきじゃなかった。エリアナの人間性の素晴らしさが、俺には見えていなかった。それを、後になってから思い知った。
「アイゼンヴォルク家の当主の座は、なんとか継承した。手続きを無事に終わらせて、ようやく一息つける。そんなタイミングで、ロザリンドの浮気が発覚した」
説明しているうちに、当時の怒りが蘇ってくる。本当に許せない。
「発覚したのは、使用人からの報告だった。『奥様が見知らぬ男性と密会している』という内容だった。最初は信じられなかった。いくらロザリンドが問題のある女とはいえ、まさか不倫をするなんて」
だが、調査を進めれば進めるほど、事実は明らかになっていった。彼女の浮気相手は、男爵家の次男。遊び人として悪名高い男だった。
「ロザリンドも俺に対して常日頃から不満を持っていたらしい。お互いの雰囲気が悪化していく中で、ロザリンドが浮気した。それも、子どもが生まれた直後の出来事で、父親が誰か分からない状況だった」
ロザリンドの裏切りは許せない。跡継ぎだと信じていた子どもの父親が分からない——アイゼンヴォルク家の存続に関わる大問題だった。
「血筋の証明ができない子どもを跡継ぎにするわけにはいかない。家門の名誉に関わることだ。だが、ロザリンドは開き直って言い放った。『あなたが冷たいから、他の男性に癒しを求めただけよ』と」
元妻の傲慢な態度は、最後まで変わらなかった。自分の不貞を棚に上げて、俺を責めるような言い方だった。
「更に問い詰めようとした途端、浮気相手と国外逃亡してしまった。生まれた子どもも一緒に連れて行った。つまり、あの子どもは俺の子じゃなかった、ということだろうな」
跡継ぎだと信じて大切に育てようとしていた子どもが、実は他の男の子どもだったという現実。アイゼンヴォルク家の血筋が途絶える可能性を目の当たりにして、俺は完全に打ちのめされた。
それに加えて最悪だったのは、ロザリンドの実家である子爵家からの批判だ。
「妻の実家からは『手綱を握れなかった夫が悪い』と責められる始末だ。あんな女を寄越したくせに。君なら、こんなことは絶対にしなかっただろう」
俺はエリアナを見つめながら、心からの気持ちを込めて言った。
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