才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ

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第9話 責任転嫁の泥沼※ヴィクター視点

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 エリアナが静かに頷きながら俺の話を聞いてくれているのを見て、俺は安堵した。

 やはり彼女は理解のある女性だ。この冷静で知的な反応を見ていると、改めて彼女の価値を実感する。ロザリンドのように感情的に喚き散らすこともなく、上品な態度を保ちながら話を聞いてくれる。きっと俺の苦労を分かってくれているのだろう。

 彼女の美しい瞳には同情の色が宿っているような気がする。心優しい女性だ。俺の境遇を理解して、助けの手を差し伸べてくれるに違いない。世間でも、助けられた人が多いと聞いている。それなら、俺のことも――。

「そして不運は、それだけでは終わらなかった」

 俺は続きを話すことにした。エリアナになら、すべてを打ち明けられる。彼女こそが、俺を理解してくれる唯一の人になってくれるかもしれないから。彼女を信じる。それが、今の俺にとって必要なこと。

「妻に逃げられたことが噂になって、貴族社会で完全に孤立してしまったんだ。長年付き合いのあった貴族家も、急に距離を置くようになった。薄情な連中だよ。困った時こそ支えるのが真の友人だろうに」

 そう言いながら、俺は拳を握りしめた。孤立させられた屈辱を思い出すと、今でも腹が立つ。そんな状況が今でも続いていることも、俺を苛立たせる。早く、どうにかしたい。

「それに、仲良くしていた女性たちも皆離れていってしまった。俺が苦境に陥ると、手のひらを返したように冷たくなる。結局、地位や財産目当てだったということだ。本当に浅ましい連中だ」

 これまで俺に色目を使っていた令嬢たちも、一斉に態度を変えた。『ヴィクター様』と甘い声で呼んでくれていた彼女たちが、今では俺の姿を見ると慌てて逃げ出すような有様だった。

 エリアナは相変わらず冷静な表情で俺の話に耳を傾けてくれている。この落ち着いた態度が、成長した彼女らしい。きっと内心では俺への同情を抱いているのだろう。でも、感情を表に出さない上品さを保っているのだ。さすがは『聖女』と呼ばれるだけのことはある。話を聞いてもらっている俺も、救われている。

「更に問題だったのは、弟のリシャールが裏切ったことだ」

 俺は声を荒らげた。この話をするのは辛いが、アイゼンヴォルク家のことを語る上で避けられない、大きな問題であり汚点だった。

「ヤツは、アイゼンヴォルク家の資産を持ち逃げして行方をくらませたんだ! 家臣たちも一緒に連れて、どこかへ消えてしまった。信じられるか? 実の弟が、そんな極悪人だったなんて」

 リシャールの裏切りは、俺にとって最大の衝撃だった。血を分けた弟が、家の財産を持ち逃げするなんて想像もしていなかった。

 感情が抑えきれず、勢い余って机を叩いてしまった。バン! 乾いた音が応接室に響く。エリアナが少し驚いたような表情を見せたが、すぐに元の冷静な顔に戻った。動じない強い女性だ。やはり彼女は格が違う。

「急いで私兵を派遣して追跡させたが、逃げ切られてしまった。今も捜索を続けているが見つからない。捜索費用だけでも莫大な金額になっている。絶対に見つけ出して、責任を取らせてやるつもりだ! 絶対に!」

 俺は強気に拳を振りかざした。これまでかかった費用を考えると頭が痛い。使う必要のなかったはずの無駄金が、どんどん消費されていく。それだけでも精神的なプレッシャーなのに、リシャールの居場所は一向に分からないまま。

「まさか弟が、そんな極悪人だったなんて思わなかった。見抜けなかった俺も愚かだと反省したよ。身内とはいえ、信じるべきではなかった。もっと厳しく監視しておくべきだった。後悔している」

 まだまだ続くぞ。どれだけ俺は運が悪いと言うんだ。

「悪いことは重なるもので、領地に大震災が発生してしまった」

 俺は深いため息をついた。

「収入が激減して、ただでさえ資産を失っているのに更に減った。領地から税を取ることもできない状況だ。領民たちも次々と逃げ出している。まったく薄情な連中だ。奴らは我が領地に住んでいたのに、都合が悪くなったら逃げる。自分のことしか考えていない」

 復興事業に取り組もうにも、資金が足りない。国からの支援も微々たるもので、とても復旧には足りない。このままでは領地が完全に荒廃してしまう。

「完全な悪循環に陥っている。王家からは『どうにか解決しろ』と責められているが、自然災害なんてどうしようもないじゃないか。『伯爵位剥奪も検討する』なんて脅されているが、ろくに支援もしないで責任だけ押し付けるなんて理不尽だ」

 王家に対する不満が募る。もちろん、こんなことを表立って言ったら大変なことになるから、信じられるエリアナにだけ吐き出している。彼女になら、本音を話しても大丈夫だろう。少しだけスッキリした気分になる。

 ただ、彼女に対しても少し思うことがある。複雑な気持ちを抱いている部分も正直にお話ししよう。

「そんな中で、君の活躍が広く知れ渡るようになった」

 俺は、エリアナの美しい顔を見つめた。そして語りかける。

「正直、君が各地で活躍しているという話を聞いた時は嬉しかった。元婚約者として誇らしい気持ちもあったよ。だが、同時に複雑でもあったんだ」

 エリアナは興味深そうに俺を見つめている。彼女の視線を感じながら、俺は正直な気持ちを語る。

「君の活躍が話題になると、過去の婚約破棄の件も掘り返された。『あのエリアナ様を手放すなんて愚かだった』『魔力不足を理由に婚約破棄するなんて見る目がない』——そんな陰口を叩かれるようになったよ」

 俺は苦笑いを浮かべた。

「君の成功のせいで、貴族社会での孤立が更に深まってしまった。皮肉なものだよ。元婚約者の成功が、俺の足を引っ張るなんて。でも、君を責めているわけじゃない。君は何も悪くないからね」

 彼女を不快にさせようと思って語ったわけじゃない。事実を伝えただけだ。これで気分を悪くしてもらいたくないが、彼女は特に気にした様子もないし大丈夫かな。

「そして今、君の実家であるヴァーレンティア家とも揉めているんだ」

 俺は声を低くした。この件についても、エリアナには知ってもらいたい。

「『そちらが婚約破棄さえしなければ、娘を手放す必要はなかった』と言われている。馬鹿げている! 除籍処分を決めたのは向こうだろう? 俺はただ、魔力不足という理由で婚約を破棄しただけだ。婚約を破棄した件を理由に娘を追い出したのは、ヴァーレンティア家の判断じゃないか。責任を俺に押し付けるなんて卑怯だろう」

 これを話したら、実家に対する印象を悪くしてしまうだろうな。でも、悪いのは間違いなくヴァーレンティア家の方だ。賠償金を払えと迫ってきて、たちの悪い連中。今も、ヴァーレンティア家との関係は悪いまま。

「このように、アイゼンヴォルク家は多数の問題を抱えている。正直に言って、一人では解決するのは不可能に近い」

 俺はエリアナの目をまっすぐ見つめながら、核心に入ることにした。

「だが、君がいてくれればすべてが解決するんだ! 君の古代魔法があれば、震災の復旧なんて一瞬だろう? 君の名声があれば、貴族社会での地位も回復できる。君の影響力があれば、王家の信頼も取り戻せるはずだ」

 俺は身を乗り出した。この提案がいかに素晴らしいものかを、彼女に理解してもらいたい。

「だから、君に戻ってきてほしい。過去のことはお互い水に流そう。寛大な心で、君を再び受け入れようと思う。君も伯爵夫人という地位が手に入るし、お互いに利益がある」

 エリアナの表情に微妙な変化があったような気がした。きっと俺の提案に心を動かされているのだろう。

「どうだ。悪くない提案だろう? 君も旅を続けてきて、もう充分に力を見せつけただろう。もう落ち着いて、アイゼンヴォルク家に戻ってきたらいい。ここなら、君を受け入れられる。もともと、そういう話だった。婚約相手だったのだから」

 俺は自信に満ちた笑顔を浮かべた。エリアナの答えを早く聞きたい。きっと、俺の期待通りの返事をしてくれるに違いない。

 彼女は数年間の旅で実力を磨いて、名声も獲得した。もう十分だろう。今度は俺と一緒に、真の幸せを掴む番だ。

「今度こそ、完璧な夫婦になれるよ。君の力と俺の地位、最強の組み合わせじゃないか」

 やはり彼女こそ、アイゼンヴォルク家に相応しい女性だ。きっと俺の提案を真剣に検討してくれているに違いない。
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