7 / 16
第7話 ※アルフレッド視点
しおりを挟む
※※アルフレッド視点※※
「なに? パーティーの参加者が次々に帰っている、だと?」
「は、はい……」
「まだ、開始したばかりだというのに……」
オドオドしながら報告をしてきたのは、本日行っているパーティーの受付について任せていた執事の男性だった。会場の片隅に移動して彼の報告を聞いた俺は、自分の耳を疑った。
まだ、始めてから30分も経過していない。他に外せない用事があるのであれば、途中で帰ることもあり得る。だけど、このスピードで帰宅者が居るのは異常だった。
「なぜだ?」
「参加してくれた貴族の方々が本日の催し物に不満があったようで、帰宅の足止めも出来ませんでした」
「不満だと? 2週間も前から準備を進めてきたというのに、参加者に不満を持って帰らせてしまっただなんて……」
「申し上げにくいのですが、ドゥニーズ様の準備不足かと……」
執事は言いにくそうに、俺の婚約者の名前を上げた。目の前の男は、彼女に責任を負わせるつもりなのかと怒りがこみ上げそうになったけれど、思い出した。
婚約者となったドゥニーズの名を聞いて、本日のメインである行事について。
「そうだ。他の者たちが帰る前に、ドゥニーズとの婚約の発表はしておかないとな。彼女は今、どこだ?」
「ドゥニーズ様は、御召し替えに行っております」
「もう、着替えてるだと?」
「はい。しかも、この短時間で3回も持ち場を離れて衣装を着替えていました」
「ぬぅ……。接待を務めるべき彼女が持ち場を離れて、この短時間に3度も着替えているというのか……」
執事の声は、彼女を批難するような色があった。3度も衣装替えをしているのは、確かに多いと思う。しかも、パーティーは始まったばかりだ。まずは、参加者たちを出迎える仕事があるはず。
エヴリーヌは全体を通して、多くても2回だけ。普段は、1度も衣装替えをせずに最初から最後まで接待の仕事を無難に務めていた。それが普通じゃないのか。
いや、元婚約者とドゥニーズを比べるのは止めておこう。
今はとにかく、なんとかして社交界から帰ろうとしている参加者の足止めをする。それから、ドゥニーズとの婚約発表をしないと。それが、今日の目的だったから。
執事と話し合っている最中、出口に向かっている大物貴族の姿を発見した。俺は、急いで彼のそばに走り寄った。
「お待ち下さい、ボートフ侯爵!!」
「これはこれは、アルフレッド様。何用でしょうか?」
慌てて俺が呼び止めたのは、ボートフ侯爵のデッドリックという中年男性の貴族。彼は、会場の出口がある方向へと向かって歩いていた。おそらく彼も、帰ろうとしている。なんとしてでも、彼は引き止めておかないといけない。
社交界において、ボートフ侯爵の影響力は途轍もなく大きかった。爵位は向こうのほうが下だけど、長い歴史のあるボートフ侯爵家。
年齢も、彼のほうが上である。だから礼儀を欠いた態度にはならないように、注意しないといけない。
「もう、お帰りになられるのですか?」
「あぁ、今日は帰ることにする。今回の催し物は、どれも失敗だったみたいだからね。あまり見る価値も無いようだから、私は早々に立ち去ろうかなと」
「失敗、ですか?」
「そうだ。私の趣味趣向に合わなかったし、他の多くの参加者たちもそう思っているだろう。何人かは興味を持つかもしれんが、私には合わん」
「それほどですか……。それは大変申し訳ありませんでした。ですがまだ、この後も多数の催し物を用意しております。今しばらく、楽しんでいかれませんか?」
「……まぁ、貴殿がそこまで言うのなら見てみよう」
なんとか頼み込んで、引き止めることに成功した。
会場内に戻ってくれたボートフ侯爵のデッドリックの背中を見送る。とりあえずは安心した。しかし、まだ帰ろうとしている参加者が多数居るようだった。
こうしてパーティーは、不穏な空気で開始した。
パーティーが始まってから、しばらく時間が経った。
少なくなってしまった参加者たちと俺は、いつもとは違った食欲を煽らない料理を載せたテーブルの横に立って、雑談していた。
「社交界で注目されていたエヴリーヌとの関係を断ったのは、大失敗だったね」
「い、いえ、そんなことは……。私のもとには、エヴリーヌの妹であるドゥニーズが居るので問題は無いかと」
「そうか。まぁ君はまだまだ若いし、色々と経験するのが良いのかも知れないな」
「……ご忠告、感謝します」
「ところで、そのドゥニーズは居ないのかい? 彼女は、我々の接待をしてくれないのかな?」
「申し訳ありません。彼女は今、衣装を替えに行っていまして……」
「ふむ、そうか」
同じような感想を、パーティー参加者たちに何度も繰り返し言われた。エヴリーヌに婚約破棄を告げてしまったことは、間違いだったのだろうか。
接待をするべきドゥニーズは仕事を放棄して、衣装を着替えに行っている。これで何度目だろうか。主催者なのに、参加してくれた貴族を接待しない。いろいろな人に指摘されて、俺は謝り続けていた。
少なくとも、エヴリーヌは今回のような失敗はしない。パーティーも、準備万端で挑めたはず。スタートしてから終わるまで、ずっと働いてくれる。
そんな仮定の話については、あまり考えないほうが良さそうだな。とにかく今は、パーティーを無事に終わらせることだけを考えよう。
「なに? パーティーの参加者が次々に帰っている、だと?」
「は、はい……」
「まだ、開始したばかりだというのに……」
オドオドしながら報告をしてきたのは、本日行っているパーティーの受付について任せていた執事の男性だった。会場の片隅に移動して彼の報告を聞いた俺は、自分の耳を疑った。
まだ、始めてから30分も経過していない。他に外せない用事があるのであれば、途中で帰ることもあり得る。だけど、このスピードで帰宅者が居るのは異常だった。
「なぜだ?」
「参加してくれた貴族の方々が本日の催し物に不満があったようで、帰宅の足止めも出来ませんでした」
「不満だと? 2週間も前から準備を進めてきたというのに、参加者に不満を持って帰らせてしまっただなんて……」
「申し上げにくいのですが、ドゥニーズ様の準備不足かと……」
執事は言いにくそうに、俺の婚約者の名前を上げた。目の前の男は、彼女に責任を負わせるつもりなのかと怒りがこみ上げそうになったけれど、思い出した。
婚約者となったドゥニーズの名を聞いて、本日のメインである行事について。
「そうだ。他の者たちが帰る前に、ドゥニーズとの婚約の発表はしておかないとな。彼女は今、どこだ?」
「ドゥニーズ様は、御召し替えに行っております」
「もう、着替えてるだと?」
「はい。しかも、この短時間で3回も持ち場を離れて衣装を着替えていました」
「ぬぅ……。接待を務めるべき彼女が持ち場を離れて、この短時間に3度も着替えているというのか……」
執事の声は、彼女を批難するような色があった。3度も衣装替えをしているのは、確かに多いと思う。しかも、パーティーは始まったばかりだ。まずは、参加者たちを出迎える仕事があるはず。
エヴリーヌは全体を通して、多くても2回だけ。普段は、1度も衣装替えをせずに最初から最後まで接待の仕事を無難に務めていた。それが普通じゃないのか。
いや、元婚約者とドゥニーズを比べるのは止めておこう。
今はとにかく、なんとかして社交界から帰ろうとしている参加者の足止めをする。それから、ドゥニーズとの婚約発表をしないと。それが、今日の目的だったから。
執事と話し合っている最中、出口に向かっている大物貴族の姿を発見した。俺は、急いで彼のそばに走り寄った。
「お待ち下さい、ボートフ侯爵!!」
「これはこれは、アルフレッド様。何用でしょうか?」
慌てて俺が呼び止めたのは、ボートフ侯爵のデッドリックという中年男性の貴族。彼は、会場の出口がある方向へと向かって歩いていた。おそらく彼も、帰ろうとしている。なんとしてでも、彼は引き止めておかないといけない。
社交界において、ボートフ侯爵の影響力は途轍もなく大きかった。爵位は向こうのほうが下だけど、長い歴史のあるボートフ侯爵家。
年齢も、彼のほうが上である。だから礼儀を欠いた態度にはならないように、注意しないといけない。
「もう、お帰りになられるのですか?」
「あぁ、今日は帰ることにする。今回の催し物は、どれも失敗だったみたいだからね。あまり見る価値も無いようだから、私は早々に立ち去ろうかなと」
「失敗、ですか?」
「そうだ。私の趣味趣向に合わなかったし、他の多くの参加者たちもそう思っているだろう。何人かは興味を持つかもしれんが、私には合わん」
「それほどですか……。それは大変申し訳ありませんでした。ですがまだ、この後も多数の催し物を用意しております。今しばらく、楽しんでいかれませんか?」
「……まぁ、貴殿がそこまで言うのなら見てみよう」
なんとか頼み込んで、引き止めることに成功した。
会場内に戻ってくれたボートフ侯爵のデッドリックの背中を見送る。とりあえずは安心した。しかし、まだ帰ろうとしている参加者が多数居るようだった。
こうしてパーティーは、不穏な空気で開始した。
パーティーが始まってから、しばらく時間が経った。
少なくなってしまった参加者たちと俺は、いつもとは違った食欲を煽らない料理を載せたテーブルの横に立って、雑談していた。
「社交界で注目されていたエヴリーヌとの関係を断ったのは、大失敗だったね」
「い、いえ、そんなことは……。私のもとには、エヴリーヌの妹であるドゥニーズが居るので問題は無いかと」
「そうか。まぁ君はまだまだ若いし、色々と経験するのが良いのかも知れないな」
「……ご忠告、感謝します」
「ところで、そのドゥニーズは居ないのかい? 彼女は、我々の接待をしてくれないのかな?」
「申し訳ありません。彼女は今、衣装を替えに行っていまして……」
「ふむ、そうか」
同じような感想を、パーティー参加者たちに何度も繰り返し言われた。エヴリーヌに婚約破棄を告げてしまったことは、間違いだったのだろうか。
接待をするべきドゥニーズは仕事を放棄して、衣装を着替えに行っている。これで何度目だろうか。主催者なのに、参加してくれた貴族を接待しない。いろいろな人に指摘されて、俺は謝り続けていた。
少なくとも、エヴリーヌは今回のような失敗はしない。パーティーも、準備万端で挑めたはず。スタートしてから終わるまで、ずっと働いてくれる。
そんな仮定の話については、あまり考えないほうが良さそうだな。とにかく今は、パーティーを無事に終わらせることだけを考えよう。
810
あなたにおすすめの小説
見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです
珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。
だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。
それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。
従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。
(完結)婚約解消は当然でした
青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。
シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。
お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。
エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・
従姉は、私の持っているものを奪っても許されてきましたが、婚約者だけは奪われたくないので抵抗を試みます
珠宮さくら
恋愛
侯爵家の一人娘として生まれ育ったアナスタシア・ヴァヴィロフ。そんな彼女には、苦手な人物がいた。
でも、その人物に会うことはもうないと思っていたのに夢を見ただけで、気落ちして大変だった。
それが現実に留学しに来ているとわかったアナスタシアは、気が変になりかけていたのだが……。
【完結】どうぞお気遣いなく。婚約破棄はこちらから致しますので。婚約者の従姉妹がポンコツすぎて泣けてきます
との
恋愛
「一体何があったのかしら」
あったかって? ええ、ありましたとも。
婚約者のギルバートは従姉妹のサンドラと大の仲良し。
サンドラは乙女ゲームのヒロインとして、悪役令嬢の私にせっせと罪を着せようと日夜努力を重ねてる。
(えーっ、あれが噂の階段落ち?)
(マジか・・超期待してたのに)
想像以上のポンコツぶりに、なんだか気分が盛り下がってきそうですわ。
最後のお楽しみは、卒業パーティーの断罪&婚約破棄。
思いっきりやらせて頂きます。
ーーーーーー
【短編】可愛い妹の子が欲しいと婚約破棄されました。失敗品の私はどうなっても構わないのですか?
五月ふう
恋愛
「お姉様。やっぱりシトラ様は、お姉様ではなく私の子供が産みたいって!」
エレリアの5歳下の妹ビアナ・シューベルはエレリアの婚約者であるシトラ・ガイゼルの腕を組んでそう言った。
父親にとって失敗作の娘であるエレリアと、宝物であるビアナ。妹はいつもエレリアから大切なものを奪うのだ。
ねぇ、そんなの許せないよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる