30 / 87
第六章 婚約
第三十話 新たな関係へ
しおりを挟む
「私も殿下のことが好きです。私の方こそ、これからも一緒にいさせてください」
静まり返った部屋の中。彼の目を見つめながら、はっきりと伝える。
想いをのせたその言葉はシャーロットに、達成感と少しの恥ずかしさ、そして彼に対する愛しさの再確認をもたらした。
こうして想いを伝え合った二人。
ギルバートはというと、心の中では悶え転がっていた。
「シャーロット嬢、ありがとう。ほんとに嬉しい」
嬉し過ぎて表情が緩みまくっている気がする。彼女に引かれていないだろうかと焦るものの、彼女も自分と同じ気持ちだと分かった今は、とにかく嬉しさが勝った。
「隣、行って良い?」
「は、はい」
断られても説得して行く気満々だった質問をした後、彼は心底幸せそうに彼女の隣へ腰かけた。
そっと手を握る。四か月ほど前、握手をしようとした時に彼女の肩が跳ねたことが思い出された。
今の彼女には、もうそのような様子はない。
彼女の症状の克服を実感するとともに、自分が彼女の目標達成の手助けになれたことに、感慨深さを覚えた。
だが、心配事が残っている。彼女が変な輩に絡まれないかということだ。
昨日のパーティーでは、彼女が事業に貢献したことが多くの人々に伝わった。
きっかけを作ってくれたオルドリッジ公爵令嬢や、参加者の人選に一役買ってくれた親友ルーサーには感謝している。
しかし今後、彼女は多くの人々と交流することになるだろう。現に、昨日の段階でもそうだった。
交流の幅が増えるということは、色々な人と接点を持つということだ。
邪な考えを持つ輩を出さぬよう、彼女は自分のパートナーだということを示しておく必要がある。
「早速だけど、婚約手続きをしちゃおうか」
微笑みながら、彼はシャーロットを連れて部屋の外へ出る。
それからは早かった。
国王夫妻のもとを訪れると、そこにはなぜかシャーロットの両親が待っていた。
彼女は混乱を頭の隅に追いやりつつ、国王夫妻に挨拶をした。
その後、国王夫妻・シャーロットの両親・ギルバートが順々に婚約証書に署名を書き連ねていく。
そしてあっという間にシャーロットの番になり、自身の名前を書き込む。
その後、司祭立ち会いのもと婚約が受理され、二人は正式に婚約を結ぶこととなった。
──いや、速過ぎない?
ふと我に返ったシャーロット。
あまりに円滑に進むため頭が追いついていなかったが、よく考えると気になることがたくさん出てくる。
なぜ両親が王宮にいるのか。
なぜ普段は王都の教会にいるはずの司祭がすぐに現れたのか。
なぜ国王夫妻は突然やって来た自分達の婚約をすぐに許可してくれたのか。
疑問が脳内を渦巻く。
ギルバートに目を遣ると、彼は何も言わずに意味ありげな笑みを浮かべた。
その表情を見て、色々と察してしまう。
そんな彼女のもとに、両親がやって来た。
「婚約おめでとう、シャーロット」
「おめでとう。これまで頑張ったわね」
父親は感慨深げにそう言った。母親はそんな彼を見て穏やかに笑いつつ、シャーロットに祝いの言葉をかける。
社交界にほとんど参加しなかった愛娘。
これまで出来る限り背中を押すようにしてきたが、無理強いはしなかった。結局のところ本人の気持ち次第であることを、分かっていたからだ。
最初、娘は乗り気ではなかった。しかし、彼女自身に「変わりたい」という意識はあった。それは、この四か月の行動を見ていれば明らかである。
そのような娘に寄り添い、症状の克服の手助けをしてくれたのが、王太子だった。
進捗状況を報告しつつ、時折娘の好きな異国の菓子類を届けてくれる。
娘自身の意識はもちろん、きっと彼の気遣いも、娘が前を向ける要因になったのだろう。
そんな彼らの婚約を、心から嬉しく思った。
そして何より、一八年間二人で育ててきた娘が婚約を結んだという事実は、彼らにしみじみとした思いを感じさせた。
「お父様、お母様。ありがとう」
両親から婚約を祝ってもらえることに嬉しさを感じる一方、少しばかりの照れもある。
シャーロットは、はにかみながらそう答えた。
国王夫妻からも祝福を受け、軽く言葉を交わす。終始和やかな雰囲気だ。
四か月前は、このような未来が待っているとは思いもしなかった。いや、待っていたのではない。引き寄せたのだ。
もし自分が症状の克服から目を背けていたら、あの日彼と話すことにはならなかったかもしれない。
もし自分が読書と実践によって知識と経験を積み重ねていなかったら、新規公共事業の依頼をされることにはならなかったかもしれない。
もし自分が殿下から離れたら、婚約を結ぶことにはならなかったかもしれない。
きっと、都度分岐点はあったのだ。その時の自分の選択によって、その後の未来は変わる。これまでもそうであり、これからもそうだ。
新たな関係を築くことになる殿下や国王夫妻、そして今まで深い関係を築いてきた家族。
彼らと今後どのような関わりを持つかは、シャーロットの行動にかかっている。
大切にしよう。
今あるこの雰囲気は、とても穏やかで柔らかい。
壊したくないものが彼女の中で一つ増えた、そんな時間になった。
静まり返った部屋の中。彼の目を見つめながら、はっきりと伝える。
想いをのせたその言葉はシャーロットに、達成感と少しの恥ずかしさ、そして彼に対する愛しさの再確認をもたらした。
こうして想いを伝え合った二人。
ギルバートはというと、心の中では悶え転がっていた。
「シャーロット嬢、ありがとう。ほんとに嬉しい」
嬉し過ぎて表情が緩みまくっている気がする。彼女に引かれていないだろうかと焦るものの、彼女も自分と同じ気持ちだと分かった今は、とにかく嬉しさが勝った。
「隣、行って良い?」
「は、はい」
断られても説得して行く気満々だった質問をした後、彼は心底幸せそうに彼女の隣へ腰かけた。
そっと手を握る。四か月ほど前、握手をしようとした時に彼女の肩が跳ねたことが思い出された。
今の彼女には、もうそのような様子はない。
彼女の症状の克服を実感するとともに、自分が彼女の目標達成の手助けになれたことに、感慨深さを覚えた。
だが、心配事が残っている。彼女が変な輩に絡まれないかということだ。
昨日のパーティーでは、彼女が事業に貢献したことが多くの人々に伝わった。
きっかけを作ってくれたオルドリッジ公爵令嬢や、参加者の人選に一役買ってくれた親友ルーサーには感謝している。
しかし今後、彼女は多くの人々と交流することになるだろう。現に、昨日の段階でもそうだった。
交流の幅が増えるということは、色々な人と接点を持つということだ。
邪な考えを持つ輩を出さぬよう、彼女は自分のパートナーだということを示しておく必要がある。
「早速だけど、婚約手続きをしちゃおうか」
微笑みながら、彼はシャーロットを連れて部屋の外へ出る。
それからは早かった。
国王夫妻のもとを訪れると、そこにはなぜかシャーロットの両親が待っていた。
彼女は混乱を頭の隅に追いやりつつ、国王夫妻に挨拶をした。
その後、国王夫妻・シャーロットの両親・ギルバートが順々に婚約証書に署名を書き連ねていく。
そしてあっという間にシャーロットの番になり、自身の名前を書き込む。
その後、司祭立ち会いのもと婚約が受理され、二人は正式に婚約を結ぶこととなった。
──いや、速過ぎない?
ふと我に返ったシャーロット。
あまりに円滑に進むため頭が追いついていなかったが、よく考えると気になることがたくさん出てくる。
なぜ両親が王宮にいるのか。
なぜ普段は王都の教会にいるはずの司祭がすぐに現れたのか。
なぜ国王夫妻は突然やって来た自分達の婚約をすぐに許可してくれたのか。
疑問が脳内を渦巻く。
ギルバートに目を遣ると、彼は何も言わずに意味ありげな笑みを浮かべた。
その表情を見て、色々と察してしまう。
そんな彼女のもとに、両親がやって来た。
「婚約おめでとう、シャーロット」
「おめでとう。これまで頑張ったわね」
父親は感慨深げにそう言った。母親はそんな彼を見て穏やかに笑いつつ、シャーロットに祝いの言葉をかける。
社交界にほとんど参加しなかった愛娘。
これまで出来る限り背中を押すようにしてきたが、無理強いはしなかった。結局のところ本人の気持ち次第であることを、分かっていたからだ。
最初、娘は乗り気ではなかった。しかし、彼女自身に「変わりたい」という意識はあった。それは、この四か月の行動を見ていれば明らかである。
そのような娘に寄り添い、症状の克服の手助けをしてくれたのが、王太子だった。
進捗状況を報告しつつ、時折娘の好きな異国の菓子類を届けてくれる。
娘自身の意識はもちろん、きっと彼の気遣いも、娘が前を向ける要因になったのだろう。
そんな彼らの婚約を、心から嬉しく思った。
そして何より、一八年間二人で育ててきた娘が婚約を結んだという事実は、彼らにしみじみとした思いを感じさせた。
「お父様、お母様。ありがとう」
両親から婚約を祝ってもらえることに嬉しさを感じる一方、少しばかりの照れもある。
シャーロットは、はにかみながらそう答えた。
国王夫妻からも祝福を受け、軽く言葉を交わす。終始和やかな雰囲気だ。
四か月前は、このような未来が待っているとは思いもしなかった。いや、待っていたのではない。引き寄せたのだ。
もし自分が症状の克服から目を背けていたら、あの日彼と話すことにはならなかったかもしれない。
もし自分が読書と実践によって知識と経験を積み重ねていなかったら、新規公共事業の依頼をされることにはならなかったかもしれない。
もし自分が殿下から離れたら、婚約を結ぶことにはならなかったかもしれない。
きっと、都度分岐点はあったのだ。その時の自分の選択によって、その後の未来は変わる。これまでもそうであり、これからもそうだ。
新たな関係を築くことになる殿下や国王夫妻、そして今まで深い関係を築いてきた家族。
彼らと今後どのような関わりを持つかは、シャーロットの行動にかかっている。
大切にしよう。
今あるこの雰囲気は、とても穏やかで柔らかい。
壊したくないものが彼女の中で一つ増えた、そんな時間になった。
12
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
異世界で守護竜になりました
みん
恋愛
【召喚先は、誰も居ない森でした】の続編になります。
守護竜となった茉白のその後のお話です。
竜王国民を護りたいと、守護竜として頑張る茉白。そんな茉白を甘やかしたい近衛のカイルス。茉白はカイルスのそんな気持ちには気付かない上、茉白には密やかな野望もある。
茉白の野望は叶うのか?カイルスの想いは茉白に届くのか?
聖女由茉も健在です。
❋最初は恋愛要素薄目です
❋独自設定あり
❋他視点のお話もあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる