伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました

森島菫

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第六章 婚約

第三十話 新たな関係へ

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「私も殿下のことが好きです。私の方こそ、これからも一緒にいさせてください」

 静まり返った部屋の中。彼の目を見つめながら、はっきりと伝える。
 想いをのせたその言葉はシャーロットに、達成感と少しの恥ずかしさ、そして彼に対する愛しさの再確認をもたらした。

 こうして想いを伝え合った二人。
 ギルバートはというと、心の中では悶え転がっていた。

「シャーロット嬢、ありがとう。ほんとに嬉しい」

 嬉し過ぎて表情が緩みまくっている気がする。彼女に引かれていないだろうかと焦るものの、彼女も自分と同じ気持ちだと分かった今は、とにかく嬉しさが勝った。

「隣、行って良い?」
「は、はい」

 断られても説得して行く気満々だった質問をした後、彼は心底幸せそうに彼女の隣へ腰かけた。

 そっと手を握る。四か月ほど前、握手をしようとした時に彼女の肩が跳ねたことが思い出された。

 今の彼女には、もうそのような様子はない。
 彼女の症状の克服を実感するとともに、自分が彼女の目標達成の手助けになれたことに、感慨深さを覚えた。

 だが、心配事が残っている。彼女が変な輩に絡まれないかということだ。

 昨日のパーティーでは、彼女が事業に貢献したことが多くの人々に伝わった。

 きっかけを作ってくれたオルドリッジ公爵令嬢や、参加者の人選に一役買ってくれた親友ルーサーには感謝している。

 しかし今後、彼女は多くの人々と交流することになるだろう。現に、昨日の段階でもそうだった。

 交流の幅が増えるということは、色々な人と接点を持つということだ。
 邪な考えを持つ輩を出さぬよう、彼女は自分のパートナーだということを示しておく必要がある。

「早速だけど、婚約手続きをしちゃおうか」

 微笑みながら、彼はシャーロットを連れて部屋の外へ出る。

 それからは早かった。

 国王夫妻のもとを訪れると、そこにはなぜかシャーロットの両親が待っていた。

 彼女は混乱を頭の隅に追いやりつつ、国王夫妻に挨拶をした。

 その後、国王夫妻・シャーロットの両親・ギルバートが順々に婚約証書に署名を書き連ねていく。
 そしてあっという間にシャーロットの番になり、自身の名前を書き込む。

 その後、司祭立ち会いのもと婚約が受理され、二人は正式に婚約を結ぶこととなった。

 ──いや、速過ぎない?

 ふと我に返ったシャーロット。

 あまりに円滑に進むため頭が追いついていなかったが、よく考えると気になることがたくさん出てくる。

 なぜ両親が王宮にいるのか。
 なぜ普段は王都の教会にいるはずの司祭がすぐに現れたのか。
 なぜ国王夫妻は突然やって来た自分達の婚約をすぐに許可してくれたのか。

 疑問が脳内を渦巻く。

 ギルバートに目を遣ると、彼は何も言わずに意味ありげな笑みを浮かべた。
 その表情を見て、色々と察してしまう。

 そんな彼女のもとに、両親がやって来た。

「婚約おめでとう、シャーロット」
「おめでとう。これまで頑張ったわね」

 父親は感慨深げにそう言った。母親はそんな彼を見て穏やかに笑いつつ、シャーロットに祝いの言葉をかける。

 社交界にほとんど参加しなかった愛娘。
 これまで出来る限り背中を押すようにしてきたが、無理強いはしなかった。結局のところ本人の気持ち次第であることを、分かっていたからだ。

 最初、娘は乗り気ではなかった。しかし、彼女自身に「変わりたい」という意識はあった。それは、この四か月の行動を見ていれば明らかである。

 そのような娘に寄り添い、症状の克服の手助けをしてくれたのが、王太子だった。

 進捗状況を報告しつつ、時折娘の好きな異国の菓子類を届けてくれる。
 娘自身の意識はもちろん、きっと彼の気遣いも、娘が前を向ける要因になったのだろう。

 そんな彼らの婚約を、心から嬉しく思った。

 そして何より、一八年間二人で育ててきた娘が婚約を結んだという事実は、彼らにしみじみとした思いを感じさせた。

「お父様、お母様。ありがとう」

 両親から婚約を祝ってもらえることに嬉しさを感じる一方、少しばかりの照れもある。
 シャーロットは、はにかみながらそう答えた。

 国王夫妻からも祝福を受け、軽く言葉を交わす。終始和やかな雰囲気だ。

 四か月前は、このような未来が待っているとは思いもしなかった。いや、待っていたのではない。引き寄せたのだ。

 もし自分が症状の克服から目を背けていたら、あの日彼と話すことにはならなかったかもしれない。
 もし自分が読書と実践によって知識と経験を積み重ねていなかったら、新規公共事業の依頼をされることにはならなかったかもしれない。
 もし自分が殿下から離れたら、婚約を結ぶことにはならなかったかもしれない。

 きっと、都度分岐点はあったのだ。その時の自分の選択によって、その後の未来は変わる。これまでもそうであり、これからもそうだ。

 新たな関係を築くことになる殿下や国王夫妻、そして今まで深い関係を築いてきた家族。
 彼らと今後どのような関わりを持つかは、シャーロットの行動にかかっている。

 大切にしよう。

 今あるこの雰囲気は、とても穏やかで柔らかい。
 壊したくないものが彼女の中で一つ増えた、そんな時間になった。
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