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第5章 戦争
合流4
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「──!」
トナミカの南方、平野部からの進軍に備えて指揮を執っていたリズは、天幕を透過して降り注いだ力を受け取った瞬間、それがユズキのスキルからであると理解した。
身体に力が湧き上がる。
元々ユズキから受け取っていた99のレベルでは補えなかった、絶対的に不足していた能力値。
それらが満たされていく感覚を身体に宿しながら、リズは笑った。
「全く⋯⋯、こんな力を寄越すってことは、あのレベル100以上の敵をどうにかしろってことでしょ?人使いが荒いわ」
光はリズにだけ降り注いでいる訳ではなかった。
周りを見れば、同じように光を受け取り驚いた表情の仲間たちの姿が見えた。
「これって、まさかユズキか?」
隣に立つベスが驚きの表情を浮かべる。
ローガンとマルティも自身にかけられた強化に戸惑いを浮かべていた。
「えぇ、こんなことができるのはユズキだけよ。そして、皆感じているとは思うけど、これは明らかに私達個人が苦手としている所を補うように能力を挙げられているわ。その上で、得意な所はより強力になるように伸ばされている。つまり、私達はこの能力を使ってグリドールの進軍を確実に止めなければならないのよ」
この中でユズキのことを良く分かっているのは、私とローガン。だから、この能力はグリドールを打ち負かす為にユズキがくれたのじゃない。むしろ、進軍を諦めさせるために使えということね。
リズは身体に満ちる能力値の配分に自問自答する。
明らかに『レベル譲渡』とは異なる緻密な能力値の配分、そして、ここにいる仲間たちの特性。リズは、指揮を執り始めながら、仲間たちの能力についても分析を深めていた。そして、そこに今回の強化の能力値を上乗せされたことから、最善の策を導き出す。
リズは、その答えが一つであると理解すると、自分を落ち着かせるために、一つ深呼吸をしてから口を開いた。
「──ふぅ、みんな聞いてくれる?私達はこれより、グリドール本陣に向けて夜襲をかけるわ」
天幕の外は夜の帳が降り、暗闇と静寂に包まれている。
夜襲にはうってつけではあるが、グリドールの軍勢はそのほとんどが平野部に陣取っており、夜襲をかける為に接近するとなると、どうしてもこちら側の姿を晒してしまわなければならない。
「夜襲だって!ただでさえ俺達は人数は少ないし、魔族みたいに夜目が効く訳じゃない。斥候職は戦闘力の面で心許なすぎて、遮蔽物もない中、グリドールの大群に切り込むのは自殺行為だ!」
ベスの言葉にローガンも同意するように頭を縦に振った。
「そうですぞ。昨日のユズキ様の力で、敵は進軍に慎重にはなっておりますが、グリドールにとって敗北するということは、国に帰れぬことと同義です。奴らは必ずこちらに攻めて来るとなれば、無闇な損耗は避けるべきです」
ローガンの言うことは最もよね。
リズは、グリドールという国の性質を調べてきた過去もあり、実際に前線に出ている指揮官に後退や敗北といったものは許されないのだと分かっていた。
だが──
「だけど、どう考えても自分の生命は惜しいわよね」
リズはそう言うと、『万象の眼』が示すグリドール軍の配置を見つつ、特に光が集まっている部分を指差した。
「これは、グリドールの本陣?」
ローガンの隣に控えるマルティの言葉に、リズはいたずらっぽく笑った。
「えぇ、そしてマルティ。貴女の情報によれば、この陸軍を指揮しているのは、西部方面指揮官、マストール将軍よね?」
マルティは頷く。
マストール将軍、グリドール帝国の中でも貴族に対して政治的発言力も高く、部下に対しても面倒見が良い。
その人望から、多くの貴族も領地から兵を差し出すと聞く。
だけど、それはマストール将軍そのものは強いという訳ではない。リズは自分の集めていた情報から、そう推論していた。そしてそれは、『万象の眼』が示す、指揮官用天幕が示す光の力を見ても明らかだった。
マストール将軍そのものは、強いわけでも豪胆でもない。それが、リズの集めた情報を組み立てて導き出した結論だった。
そして、極度の臆病者である。
それは、明らかに指揮官を守るよう厚く配置された陣形からも見て取れた。
「ローガン、マストール将軍の戦歴は?」
「彼が、西部方面指揮官に任命されてからは、周辺諸国の紛争は負けなし。最近では、エラリア方面までグリドールの領土を広げることに成功しています」
そう、確かに彼の戦歴は汚点がない。しかし、その実態は調べると、聞こえは良いだけの確実な勝利が約束された戦いしかしてこなかったことに気付くことができた。
「えぇ、常勝将軍。不敗の勇などと謳われているわね、だけど、それらは全て勝てる戦ばかり。彼は西南諸国を平定するという大戦果を挙げてるけど。アレ、功を焦った政敵にまずは様子見をさせて、裏では失敗するように画策していた。そして彼の失敗を理由に挙げて、自分は充分以上の兵を充ててもらって成功を収めたのよ。狡い男よね」
「──そんな、レーベンにいながらそんな情報までリズ様は持っているのですか?」
マルティが感嘆して、口をポカンと開けてしまった。
「ふふっ、情報は力よ。さて、そんな彼だから自分の生命は本当に大切にしたいはず。自分の生命とグリドールの命令、天秤にかければ、地位の低下はあったとしても、今まで育ててきた人脈を使って生き残ることを選ぶはずよ」
そう言うと、リズは一際強く光る10本の光の柱の一つを指差した。そう、レベル100を確実に超えるだろうグリドールの切り札。
レベル99までしかない、この世界では絶対的な恐怖の象徴となり得る存在だ。だが、リズはこの光がレベル99の譲渡を受けた自分と潜在能力的には大差がないことを感じ取っていた。
リズが指し示したのは、最もマストールのいる本陣に近い光だ。ここを制することができれば、マストールに対する充分な恐怖を与える事に成功するだろう。
「私達は、サクッとこの敵を倒して、マストール本陣を急襲。切り札を呆気なく倒して、彼の戦意を喪失させるわよ」
ニヤリとリズは笑うと、突入メンバーを選定し始めた。
トナミカの南方、平野部からの進軍に備えて指揮を執っていたリズは、天幕を透過して降り注いだ力を受け取った瞬間、それがユズキのスキルからであると理解した。
身体に力が湧き上がる。
元々ユズキから受け取っていた99のレベルでは補えなかった、絶対的に不足していた能力値。
それらが満たされていく感覚を身体に宿しながら、リズは笑った。
「全く⋯⋯、こんな力を寄越すってことは、あのレベル100以上の敵をどうにかしろってことでしょ?人使いが荒いわ」
光はリズにだけ降り注いでいる訳ではなかった。
周りを見れば、同じように光を受け取り驚いた表情の仲間たちの姿が見えた。
「これって、まさかユズキか?」
隣に立つベスが驚きの表情を浮かべる。
ローガンとマルティも自身にかけられた強化に戸惑いを浮かべていた。
「えぇ、こんなことができるのはユズキだけよ。そして、皆感じているとは思うけど、これは明らかに私達個人が苦手としている所を補うように能力を挙げられているわ。その上で、得意な所はより強力になるように伸ばされている。つまり、私達はこの能力を使ってグリドールの進軍を確実に止めなければならないのよ」
この中でユズキのことを良く分かっているのは、私とローガン。だから、この能力はグリドールを打ち負かす為にユズキがくれたのじゃない。むしろ、進軍を諦めさせるために使えということね。
リズは身体に満ちる能力値の配分に自問自答する。
明らかに『レベル譲渡』とは異なる緻密な能力値の配分、そして、ここにいる仲間たちの特性。リズは、指揮を執り始めながら、仲間たちの能力についても分析を深めていた。そして、そこに今回の強化の能力値を上乗せされたことから、最善の策を導き出す。
リズは、その答えが一つであると理解すると、自分を落ち着かせるために、一つ深呼吸をしてから口を開いた。
「──ふぅ、みんな聞いてくれる?私達はこれより、グリドール本陣に向けて夜襲をかけるわ」
天幕の外は夜の帳が降り、暗闇と静寂に包まれている。
夜襲にはうってつけではあるが、グリドールの軍勢はそのほとんどが平野部に陣取っており、夜襲をかける為に接近するとなると、どうしてもこちら側の姿を晒してしまわなければならない。
「夜襲だって!ただでさえ俺達は人数は少ないし、魔族みたいに夜目が効く訳じゃない。斥候職は戦闘力の面で心許なすぎて、遮蔽物もない中、グリドールの大群に切り込むのは自殺行為だ!」
ベスの言葉にローガンも同意するように頭を縦に振った。
「そうですぞ。昨日のユズキ様の力で、敵は進軍に慎重にはなっておりますが、グリドールにとって敗北するということは、国に帰れぬことと同義です。奴らは必ずこちらに攻めて来るとなれば、無闇な損耗は避けるべきです」
ローガンの言うことは最もよね。
リズは、グリドールという国の性質を調べてきた過去もあり、実際に前線に出ている指揮官に後退や敗北といったものは許されないのだと分かっていた。
だが──
「だけど、どう考えても自分の生命は惜しいわよね」
リズはそう言うと、『万象の眼』が示すグリドール軍の配置を見つつ、特に光が集まっている部分を指差した。
「これは、グリドールの本陣?」
ローガンの隣に控えるマルティの言葉に、リズはいたずらっぽく笑った。
「えぇ、そしてマルティ。貴女の情報によれば、この陸軍を指揮しているのは、西部方面指揮官、マストール将軍よね?」
マルティは頷く。
マストール将軍、グリドール帝国の中でも貴族に対して政治的発言力も高く、部下に対しても面倒見が良い。
その人望から、多くの貴族も領地から兵を差し出すと聞く。
だけど、それはマストール将軍そのものは強いという訳ではない。リズは自分の集めていた情報から、そう推論していた。そしてそれは、『万象の眼』が示す、指揮官用天幕が示す光の力を見ても明らかだった。
マストール将軍そのものは、強いわけでも豪胆でもない。それが、リズの集めた情報を組み立てて導き出した結論だった。
そして、極度の臆病者である。
それは、明らかに指揮官を守るよう厚く配置された陣形からも見て取れた。
「ローガン、マストール将軍の戦歴は?」
「彼が、西部方面指揮官に任命されてからは、周辺諸国の紛争は負けなし。最近では、エラリア方面までグリドールの領土を広げることに成功しています」
そう、確かに彼の戦歴は汚点がない。しかし、その実態は調べると、聞こえは良いだけの確実な勝利が約束された戦いしかしてこなかったことに気付くことができた。
「えぇ、常勝将軍。不敗の勇などと謳われているわね、だけど、それらは全て勝てる戦ばかり。彼は西南諸国を平定するという大戦果を挙げてるけど。アレ、功を焦った政敵にまずは様子見をさせて、裏では失敗するように画策していた。そして彼の失敗を理由に挙げて、自分は充分以上の兵を充ててもらって成功を収めたのよ。狡い男よね」
「──そんな、レーベンにいながらそんな情報までリズ様は持っているのですか?」
マルティが感嘆して、口をポカンと開けてしまった。
「ふふっ、情報は力よ。さて、そんな彼だから自分の生命は本当に大切にしたいはず。自分の生命とグリドールの命令、天秤にかければ、地位の低下はあったとしても、今まで育ててきた人脈を使って生き残ることを選ぶはずよ」
そう言うと、リズは一際強く光る10本の光の柱の一つを指差した。そう、レベル100を確実に超えるだろうグリドールの切り札。
レベル99までしかない、この世界では絶対的な恐怖の象徴となり得る存在だ。だが、リズはこの光がレベル99の譲渡を受けた自分と潜在能力的には大差がないことを感じ取っていた。
リズが指し示したのは、最もマストールのいる本陣に近い光だ。ここを制することができれば、マストールに対する充分な恐怖を与える事に成功するだろう。
「私達は、サクッとこの敵を倒して、マストール本陣を急襲。切り札を呆気なく倒して、彼の戦意を喪失させるわよ」
ニヤリとリズは笑うと、突入メンバーを選定し始めた。
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