うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

合流 5

 グリドールの将軍、マストールは焦っていた。
 それは、偵察兵から挙がってきた情報によるものが大きかった。
 トナミカ側は、完全に街道を封鎖したようだ。
 灯りから放たれる光源によって、ゆらゆらと天幕に浮かび上がる自らの影をじっと見つめながら、マストールはため息をついた。

 そんな自分の様子をおどおどとした表情で、時折顔色を盗み見てくる副官の態度はマストールにとって苛立たしいものだった。
 だが、自分の焦りを部下にぶつけても仕方がないことは頭では分かっていた。怒ったところで、事態は好転するわけではないのだ。
 マストールにとって一番の焦りは、このままではグリドール海軍との合流に遅れることであった。
 グリドールは、敗戦を一番に嫌う。そして、その次に嫌うものが作戦の失敗だ。
 自分は、その二番目に足を突っ込もうとしている。

「おい、トナミカが完全に街道を封鎖した場合、我が軍が進軍を開始する為には何日かかる」

 副官は、マストールの不機嫌な声に背筋を伸ばすと、慌てた様に手元の書面をめくった。

「は、はいっ!恐れながら、あの街道は開通するまでに100年単位で整備されてきたものとされております。全てが埋まっていなくとも、開通には恐らく数ヶ月を要するものと推測されます」

 副官は声を上ずりながらも報告を終えた。

 ──間に合わない。
 そう、間に合わないのだ。

 マストールに与えられた作戦の猶予は1週間であった。
 これが、いけ好かないグリドール海軍大将と皇帝陛下の前で交わした折衷案だったからだ。
 だが、街道の復旧に数ヶ月も要するとなると、作戦は完全なる失敗だ。何しろ20万にも昇る大軍を率いているのだ。数ヶ月の兵站は天文学的な数となり、これではレーベンに侵攻する計画そのものが破綻してしまう。

「我が軍の魔法大隊で、街道の障害を取り除くことはできないか?」

 マストールは、落ち着きなく人差し指で机を叩いた。

「可能ではありますが、敵が更なる罠を仕掛けていた場合、最悪谷の真ん中で、我が軍の魔法部隊が生き埋めに合う可能性があります」

 副官の回答は、マストール自身も簡単に予測でるリスクであった。その平凡な答えに、マストールの苛立ちは更に募った。

「そんなことは分かっている!それに、夕刻前の謎の爆発音と空を裂かんとばかりの暴風。あれが人為的な魔法の所作であるならば、我が軍にはいない最高位の風魔法の使い手が向こうにはいるということになるではないか!」

 そう、夕方に突如吹き荒れた暴風。それを起こした理由は分からなかったが、山に潜む敵を焼き討ちにするために我が軍が近付くことが、用意にはできなくなったことは明白であった。
 そもそも、何故商人風情しかいない様な町に、あのような魔法を行使できる戦力があるのか。

 そこまで考え、マストールは苛立ちを通り越したのか、フッと笑った。

「これでは敵の思う壺だな」
「は?」

 マストールの呟きに、副官が思わず聞き返したが、その言葉にマストールは返答しなかった。

 マストールは自分自身が臆病であることを認めていた。
 この20万という大兵力も、レーベンという魔大陸に攻め入る為には必要であると、力説してかき集めたものだった。
 情報に乏しい魔大陸ではあるが、『希望の剣』であるマルティと情報部からの報告には、首都であるレーヴァテインは飾りの様なものであり、周辺都市に人口が散在している程度であり、上手く統治が成されていない状況だと書かれていた。
 ならばこそ、各都市を大兵力を以て速やかに侵攻。完全な支配下に置くことで、ドミナント侵攻の為の土台とすることが可能であると踏んでいたのだ。

 だが、今の状況は明らかに自分の慎重さに悪影響を与えている。
 作戦失敗は怖い。何しろ20万の兵を集めたのだ、失敗は極刑だろう。だが、そんな自分にはもっと怖いものがあった。
 それは、自分の生命だ。
 この本陣を取り囲む数万という兵こそ、手塩にかけた直属の兵士たち。言わば、最も信頼のできる兵だ。自分は、部下を無下にはしない。それは、いざという時に私を守る盾となってくれないようでは、心休まることがないからだ。
兵達にとって、マストール将軍は自分の命に替えてでも守るべき上官、そう思い込ませてきたことが大事なのだ。
 しかし、その兵達をこれでもかと周囲に配置しても、戦場という状況では完全に心が休まることはなかった。

「おい、お前は『アレ』を本当に信じて良いと思うか?」

 マストールは副官に話しかける。
『アレ』と言うのは、あの預言者と名乗る女が寄越して来た兵器のことだ。
 どうもあの預言者という女が現れてから、グリドールという国そのものが少し変わってきたようにマストールは感じていた。

「ハッ!預言者殿の言葉通りであれば、あの『兵器』全てが閣下の手足が如く動くと言うことになります。閣下は、本国で出立前に慣らしを行ったと聞きますが⋯⋯」

 そうだ。あの兵器達は確かに、自分の命令の通りに動いた。
 命じれば、山一つを破壊する程の力。グリドールで、マストールは、命じた通りに動く兵器の使い方について預言者から説明を受けていた。
 だが、マストールにとっては巨大な力を有する兵器よりも、ドラゴンをも凌駕するであろうそれらの兵器を、消耗する様子もなく召喚してみせた預言者の女に対して身震いを感じていた。

「私も、あの名乗らない預言者の女は不気味に感じることはありました。深く被ったフードは取らずに素顔を見せない、そして情報部でさえ住処を特定することができないのですから。ですが、彼女が来てからグリドールは更なる発展を遂げました。それは事実です。実力を重んじる皇帝陛下が彼女を近くに置いておくのはそのためでしょう」

 篭絡されたか?
 マストール自身、当初そう勘繰ることはあったが、皇帝陛下は預言者に対して、男女の情愛といった入れ込みを見せていないことは直ぐに気付くことができた。
 そうその関係は、むしろ利害を共有する同士といった関係性を思わせた。

「ふむ、その上あの様な兵器を一将軍である自分に、10体も気前よく提供できるというものなのだからな。確かに、あの兵器達は私の命令通りに動く。──そうであれば、やはりあの力を以て街道を更地に変えてでも進軍するしかあるまいな」

 マストールは、地形をも変える兵器の力を思い出し、軽く身震いをした。
 あの力は、人の身で扱うものではない。臆病者であるがゆえに、自分の身の丈に合わない力を渡されることは、マストール自身、決して有り難い物ではなかった。
 だが、その力を使わなければこの作戦は失敗するであろう。
 そう思うと気は重い。

 マストールは立ち上がった。
 兵器の2体は、この本陣を直接守る様に指示を出している。
 朝には、10体の兵器の力をもって、街道をこじ開けなければならない。そのためには、少しでも休息をする必要があった。

「おい、私は少し休む。朝まで起こすなよ」

 マストールが副官に命じた時だ。

 ──ガンガンガン!!

 いきなり夜襲を告げる早鐘が、宿営地に響き渡った。

「敵襲!敵襲!!」

 天幕の外から、兵達の悲鳴が湧き上がる。

「こんな深くまで敵が来ただと!?そんな馬鹿な!!」

 マストールは転がり出る様に天幕から顔を出すと同時に、視界に写る光景に我が目を疑った。

「な、なんだアレは!!」

 マストールが見たもの。それは、まるで夜空を白色に染め上げるが如く、荒れ狂う雷の嵐だった。
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