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序章・帝国崩壊編
2、真面目領主
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村を囲む柵から出て、草原を少しばかり進むともう森だ。
森は幾重にも重なった枝葉が自然の天井を作り太陽光を遮るので暗い。
蛮族は光を嫌い闇を好むので、このような場所は蛮族にとって住みやすい場所だ。
ラドウィンは森の途中で馬を止めるとその背からひょいと飛び降りる。
そして、地面を一撫でする。
苔むした地面が擦れて抉れていた。
足跡だ。それも小さな足跡で子供のものだと分かった。
「まだ新しい。それにこの数……居なくなった子供達と一致するな」
地面から顔を上げて、スンスンと鼻を鳴らす。
「臭い。蛮族どものにおい……近いな」
蛮族は体を洗う文化が無い。
ゆえに獣に似た体臭を放つので近くに居るとすぐに分かった。
子供達が危ない。
ラドウィンの顔には飄々とした笑みは無かった。
馬に飛び乗り、足跡の向かう先へと走らせる。
葉が緑の線を彩る程に走った。
あまりにも馬を飛ばしたから擦れ違う枝が鋭利なナイフの如くラドウィンの頬を切る。
そうすると、森の奥から子供達が駆けてくるのが見えた。
十人程の男児達。
彼らに怪我は見えなかった。
しかしながら、村から居なくなった子の中には女児も数名居たはずなのに姿は見えない。
彼らはラドウィンに気付くと涙と鼻水を流しながら「領主様ぁ!」と駆け寄って来た。
ラドウィンが馬から飛び降りて彼らをなだめる。
そして、女の子達はどうしたのかと聞くのである。
子供達は要領の得ない言葉で必死に何が起こったかを説明した。
要領の得ないばかりか何人もの子が同時に喋るし、しゃくり上げるし、鼻をすするしで全然聞き取れない。
ラドウィンは優しく微笑み、頭を撫で、時に抱き締めながら辛抱強く彼らの話を聞いた。
すると子供達は急かされないお陰か段々と落ち着いてきて、子供達の中でも特に悪ガキだったアーヴルという子が皆を代表して話し始めたのである。
彼らはラドウィンに反発して森に入った。
その時、女の子達にいい格好を見せたかったから、何人かの女の子を誘って皆で森の中に入ったのだ。
別に何をする訳じゃ無かった。大人達が入るなと命令した森の中に入ってしまう自分達は格好良くて反抗的なのだというワクワク感とちょっとした冒険を楽しむつもりだった。
だけどその冒険心のツケはすぐに回ってきたのである。
彼らが森の中を歩いていると何かが木陰から顔を覗かせた。
歯を剥き出しにして涎を垂らしている。
眼は真っ赤に充血し、髪の毛がまばらに生えている頭から角が二本、生えていた。
体はガッシリと筋肉質で、身長は大の大人をゆうに超える。
蛮族だ。
それが木の影と茂みの中から四体。
野蛮といわれる通り、彼らに殆ど知性は無い。
あるのは暴力と殺戮と……そして人を喰う事だけ。
特に女の子の柔らかい肉を好むと言われていた。
子供達は悲鳴を上げて無我夢中で逃げたが、オーガに追い付かれてしまったのである。
そのオーガは女の子達を捕まえると少年達を無視して森の奥に去ってしまった。
女の子達が居たお陰でこの子達は助かったと言えるだろう。
女の子が居なければ代わりに食肉とされていたのはこの子供達だった。
女の子は彼らの身代わりになったのだ。
だが、少年達は女の子達を助けに行く事ができなかった。
当たり前だ。こんな小さな子供がなぜ、あんな筋骨隆々で恐ろしい風体の蛮族に挑む事が出来るだろう?
彼らに出来るのは村へ戻って頼れる大人を呼ぶ事だけだった。
その話を聞いたラドウィンは彼らの頭をクシャと撫で、「分かった。僕は女の子達を助けに行く」と言う。
「戻ってくるまで待ってるんだ。良いな?」
ラドウィンが少年達に言うと、彼らはこんな森の中に放置されたくなくて怯えた。
ラドウィンは片膝をついてそんな彼ら一人一人と目線を合わせると、「君達が手に持っているものは何のためにある?」と聞く。
子供達が親から盗み出した剣、それは何のために存在するのか?
「敵を倒す為……」
子供が答えると「間違えてはないが正確じゃない」とラドウィンは言う。
「敵を倒す為のものであるが、それは仲間を守るためのものだ。良いか、君達は男で、剣を持っている。君達自身が仲間の身を守るんだ。僕に啖呵をきったのだから、男として意地を見せろ。分かったか?」
力強い眼で子供達一人一人を見ると、彼らは頷いた。
涙を流し、手足を震わせ、鼻水が出ていたが、ラドウィンは彼らの瞳の奥に決意を見た。
ラドウィンは「帰ったら宴を開こう」と馬の背に乗る。
「村の新しい戦士達の誕生を皆で祝わなくてはならないからな」
ラドウィンは彼らをいっぱしの戦士と認めて森の中に置くと、森のさらに奥へと馬を走らせた。
一方その頃、森の奥深く。
女の子達は大人と同じくらいか大人よりも大きな背丈の蛮族に囲まれて歩きながら自分達の運命に絶望していた。
彼女達は村で片思いの男の子達が森に入ると言うからついてきたのだ。
そうしたら、まさかこんな事になるだなんて思わなかった。
やっぱりお母さんとお父さんの言う通り、森に入るんじゃなかった……。
そう考える女の子達の前後左右にはオーガがいた。
逆立った牙から生臭い息を吐く姿は今にも頭からかじりに来そうだ。
蛮族は幾らか種類があるけど、オーガはとても強い力ととても頑丈な筋肉を持っているから、四体もの蛮族から自分達を助けてくれる人なんて居ないと女の子達は嘆いた。
とめどなく涙が溢れ、頭の中に両親の笑顔が浮かんだ。
ごめんなさいお父さん、お母さん。言いつけを守らなかった私が悪いんです。
誰かが嗚咽を漏らしながらそう呟くと、悲哀が広がり、口々に「ごめんなさい!」「誰か助けて!」と懺悔と許しを求める声が上がった。
だが、誰もその声に手を差し伸べない事くらい知っていた。
ここで死ぬのだと子供ながらに分かっていたのだ。
その時、すぐ近くの地面を押し上げて盛り上がる大きな木の根を、男を乗せた馬が越えて来た。
馬が近くのオーガと擦れ違う瞬間、男は腰から剣を抜く。
直後、オーガの首が飛んだ。
何が起こったのか分からずに呆然とする女の子達。
何が起こったのかは分からないが、彼女達はその馬の背に乗っている男を知っている。
村の男の子達が「地位だけで偉そうにしている」とか「本当は弱っちい奴」と言っていた男。
村の領主。いつもヘラヘラとしていて真面目な顔を見せない男。
ラドウィンその人だ。
だが、彼はいつも浮かべているヘラヘラとした笑みも見せずに鋭い眼光でオーガを睨むと、鐙を蹴って馬の背から跳躍した。
そのままオーガの額に刃を突き立てて剣を脳髄にまで射し込むのである。
勢いのまま地面に倒れると二転しながら素早く跳ね起きて、次に襲い来るオーガへ剣を向ける。
オーガは棍棒を振り上げ、涎で糸を引く口を大きく開けながら雄叫びを上げた。
そうして棍棒を振り下ろしてきたのである。
しかしラドウィンが冷静に素早く剣を二回振ると、そのオーガの両腕がボトリと落ちるのだ。
そのまま剣を横に一薙ぎするとそのオーガの頭が宙に飛んだ。
そこに四体目のオーガが襲い来るのでその胸へラドウィンは剣を突き刺す。
しかし、蛮族には三つの心臓があると言われており、一刺しでは決定打にならぬ。ゆえにラドウィンは足元に転がっていたオーガの棍棒を蹴り上げると左手で掴み、その頭を叩き潰したのであった。
全ては一瞬の出来事である。
最初に首を飛ばされたオーガとほぼ同時に頭を潰されたオーガの体は倒れたのだ。
「皆、大丈夫か?」
優しげな笑みを浮かべたラドウィンが女の子達を見る。
だけど、誰一人として返事をしなかった。
これは夢か幻か?
あのヘラヘラ笑って怠けているような領主が精悍な顔付きで、あの恐ろしいオーガを四匹も瞬殺したのだ。
彼女達は何が何だか分からなくて、この光景が現実だと思えなかった。
森は幾重にも重なった枝葉が自然の天井を作り太陽光を遮るので暗い。
蛮族は光を嫌い闇を好むので、このような場所は蛮族にとって住みやすい場所だ。
ラドウィンは森の途中で馬を止めるとその背からひょいと飛び降りる。
そして、地面を一撫でする。
苔むした地面が擦れて抉れていた。
足跡だ。それも小さな足跡で子供のものだと分かった。
「まだ新しい。それにこの数……居なくなった子供達と一致するな」
地面から顔を上げて、スンスンと鼻を鳴らす。
「臭い。蛮族どものにおい……近いな」
蛮族は体を洗う文化が無い。
ゆえに獣に似た体臭を放つので近くに居るとすぐに分かった。
子供達が危ない。
ラドウィンの顔には飄々とした笑みは無かった。
馬に飛び乗り、足跡の向かう先へと走らせる。
葉が緑の線を彩る程に走った。
あまりにも馬を飛ばしたから擦れ違う枝が鋭利なナイフの如くラドウィンの頬を切る。
そうすると、森の奥から子供達が駆けてくるのが見えた。
十人程の男児達。
彼らに怪我は見えなかった。
しかしながら、村から居なくなった子の中には女児も数名居たはずなのに姿は見えない。
彼らはラドウィンに気付くと涙と鼻水を流しながら「領主様ぁ!」と駆け寄って来た。
ラドウィンが馬から飛び降りて彼らをなだめる。
そして、女の子達はどうしたのかと聞くのである。
子供達は要領の得ない言葉で必死に何が起こったかを説明した。
要領の得ないばかりか何人もの子が同時に喋るし、しゃくり上げるし、鼻をすするしで全然聞き取れない。
ラドウィンは優しく微笑み、頭を撫で、時に抱き締めながら辛抱強く彼らの話を聞いた。
すると子供達は急かされないお陰か段々と落ち着いてきて、子供達の中でも特に悪ガキだったアーヴルという子が皆を代表して話し始めたのである。
彼らはラドウィンに反発して森に入った。
その時、女の子達にいい格好を見せたかったから、何人かの女の子を誘って皆で森の中に入ったのだ。
別に何をする訳じゃ無かった。大人達が入るなと命令した森の中に入ってしまう自分達は格好良くて反抗的なのだというワクワク感とちょっとした冒険を楽しむつもりだった。
だけどその冒険心のツケはすぐに回ってきたのである。
彼らが森の中を歩いていると何かが木陰から顔を覗かせた。
歯を剥き出しにして涎を垂らしている。
眼は真っ赤に充血し、髪の毛がまばらに生えている頭から角が二本、生えていた。
体はガッシリと筋肉質で、身長は大の大人をゆうに超える。
蛮族だ。
それが木の影と茂みの中から四体。
野蛮といわれる通り、彼らに殆ど知性は無い。
あるのは暴力と殺戮と……そして人を喰う事だけ。
特に女の子の柔らかい肉を好むと言われていた。
子供達は悲鳴を上げて無我夢中で逃げたが、オーガに追い付かれてしまったのである。
そのオーガは女の子達を捕まえると少年達を無視して森の奥に去ってしまった。
女の子達が居たお陰でこの子達は助かったと言えるだろう。
女の子が居なければ代わりに食肉とされていたのはこの子供達だった。
女の子は彼らの身代わりになったのだ。
だが、少年達は女の子達を助けに行く事ができなかった。
当たり前だ。こんな小さな子供がなぜ、あんな筋骨隆々で恐ろしい風体の蛮族に挑む事が出来るだろう?
彼らに出来るのは村へ戻って頼れる大人を呼ぶ事だけだった。
その話を聞いたラドウィンは彼らの頭をクシャと撫で、「分かった。僕は女の子達を助けに行く」と言う。
「戻ってくるまで待ってるんだ。良いな?」
ラドウィンが少年達に言うと、彼らはこんな森の中に放置されたくなくて怯えた。
ラドウィンは片膝をついてそんな彼ら一人一人と目線を合わせると、「君達が手に持っているものは何のためにある?」と聞く。
子供達が親から盗み出した剣、それは何のために存在するのか?
「敵を倒す為……」
子供が答えると「間違えてはないが正確じゃない」とラドウィンは言う。
「敵を倒す為のものであるが、それは仲間を守るためのものだ。良いか、君達は男で、剣を持っている。君達自身が仲間の身を守るんだ。僕に啖呵をきったのだから、男として意地を見せろ。分かったか?」
力強い眼で子供達一人一人を見ると、彼らは頷いた。
涙を流し、手足を震わせ、鼻水が出ていたが、ラドウィンは彼らの瞳の奥に決意を見た。
ラドウィンは「帰ったら宴を開こう」と馬の背に乗る。
「村の新しい戦士達の誕生を皆で祝わなくてはならないからな」
ラドウィンは彼らをいっぱしの戦士と認めて森の中に置くと、森のさらに奥へと馬を走らせた。
一方その頃、森の奥深く。
女の子達は大人と同じくらいか大人よりも大きな背丈の蛮族に囲まれて歩きながら自分達の運命に絶望していた。
彼女達は村で片思いの男の子達が森に入ると言うからついてきたのだ。
そうしたら、まさかこんな事になるだなんて思わなかった。
やっぱりお母さんとお父さんの言う通り、森に入るんじゃなかった……。
そう考える女の子達の前後左右にはオーガがいた。
逆立った牙から生臭い息を吐く姿は今にも頭からかじりに来そうだ。
蛮族は幾らか種類があるけど、オーガはとても強い力ととても頑丈な筋肉を持っているから、四体もの蛮族から自分達を助けてくれる人なんて居ないと女の子達は嘆いた。
とめどなく涙が溢れ、頭の中に両親の笑顔が浮かんだ。
ごめんなさいお父さん、お母さん。言いつけを守らなかった私が悪いんです。
誰かが嗚咽を漏らしながらそう呟くと、悲哀が広がり、口々に「ごめんなさい!」「誰か助けて!」と懺悔と許しを求める声が上がった。
だが、誰もその声に手を差し伸べない事くらい知っていた。
ここで死ぬのだと子供ながらに分かっていたのだ。
その時、すぐ近くの地面を押し上げて盛り上がる大きな木の根を、男を乗せた馬が越えて来た。
馬が近くのオーガと擦れ違う瞬間、男は腰から剣を抜く。
直後、オーガの首が飛んだ。
何が起こったのか分からずに呆然とする女の子達。
何が起こったのかは分からないが、彼女達はその馬の背に乗っている男を知っている。
村の男の子達が「地位だけで偉そうにしている」とか「本当は弱っちい奴」と言っていた男。
村の領主。いつもヘラヘラとしていて真面目な顔を見せない男。
ラドウィンその人だ。
だが、彼はいつも浮かべているヘラヘラとした笑みも見せずに鋭い眼光でオーガを睨むと、鐙を蹴って馬の背から跳躍した。
そのままオーガの額に刃を突き立てて剣を脳髄にまで射し込むのである。
勢いのまま地面に倒れると二転しながら素早く跳ね起きて、次に襲い来るオーガへ剣を向ける。
オーガは棍棒を振り上げ、涎で糸を引く口を大きく開けながら雄叫びを上げた。
そうして棍棒を振り下ろしてきたのである。
しかしラドウィンが冷静に素早く剣を二回振ると、そのオーガの両腕がボトリと落ちるのだ。
そのまま剣を横に一薙ぎするとそのオーガの頭が宙に飛んだ。
そこに四体目のオーガが襲い来るのでその胸へラドウィンは剣を突き刺す。
しかし、蛮族には三つの心臓があると言われており、一刺しでは決定打にならぬ。ゆえにラドウィンは足元に転がっていたオーガの棍棒を蹴り上げると左手で掴み、その頭を叩き潰したのであった。
全ては一瞬の出来事である。
最初に首を飛ばされたオーガとほぼ同時に頭を潰されたオーガの体は倒れたのだ。
「皆、大丈夫か?」
優しげな笑みを浮かべたラドウィンが女の子達を見る。
だけど、誰一人として返事をしなかった。
これは夢か幻か?
あのヘラヘラ笑って怠けているような領主が精悍な顔付きで、あの恐ろしいオーガを四匹も瞬殺したのだ。
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