ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

9、疾風、雷鳴、帝都炎上

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 ティタラが投獄され、皇帝の問題は終わった。

 ミルランスは数日もすると頭が冷えてティタラを牢屋から出すように言ったのだが、宰相カルシオス達はせっかく大将軍オルモード達の旗頭であるティタラを捕らえたのだから許すわけが無く。
 とにかく口八丁手八丁でティタラを釈放しないようにした。

 こうしてミルランス派の宰相カルシオスを筆頭とした文官が勝利したのだ。
 大将軍オルモードを始めとした武官はもはやその権力が失墜する事は間違いない事である。

 だが、オルモードはいたって冷静で、足掻くこともしなかった。
 権力争いに負けたというのに今までと変わらない様子だったので、大将軍ともあれば肝が座っているのか、それとも立場の分からない馬鹿者なのだろうかとカルシオス達文官は思う。

 しかしティタラ派の右将軍ダライアが城に居なくなっていた事に誰も気付かなかった。

 彼は何をしていたのかは各地の領主の記録を紐解くと見えてくる。
 バーンラッシュ領主カルオッツェには腰ほども積もる雪の中をダライア将軍がお供も付けずに徒歩で来たと記してあった。
 コッペルア領主のハルマンドの記録によれば、町民が外で倒れていた凍傷一歩手前の男を助けた所、その男が右将軍ダライアだったから驚いたと記されている。

 パルパタ領主オリンの日誌にもダライアが訪れたと書かれていた。

 そして、いずれの領主の記述にも彼はとある手紙を渡していたと記述がある。
 しかし、オリンの元を訪れたのを最後にダライアは行方不明となった。

 豪雪の時期に己の足だけで旅するのは無理があったのだ。
 ダライアはどこかの雪の中で静かな眠りにつき、誰に亡骸を葬られる事もなく野犬の餌となったのかも知れない。

 だが、ダライアの努力は決して無駄では無かった。

 彼が行おうとした事が実を結んだのは雪解けの時期である。

 一月。
 陽気がさんさんと照りつけて雪が溶けていく時。

 帝都を大量の兵が囲んだ。

 これにミルランスは驚き、宰相カルシオス達も一体全体何事かと混乱した。

 特にミルランスは慟哭して「なんなの! これは!」と城のバルコニーから外を見て叫んだ程である。

 もういい加減、何もかも放って欲しかった。
 なぜ自分が帝位についてからこんなに問題ばかり起こるのだとミルランスは怒る。

 すると、帝都を囲む軍隊の中から幾らかの兵達が城へとやって来るのが見えた。
 なので宰相カルシオスはミルランスに玉座へ座るように伝えて、腹心の文官二名に城の入り口へ出迎えに行き、そして事情を問いただして来るように命ずる。

 その二人が城の門まで行くと、ちょうど五十人は兵を連れたカルオッツェ、ハルマンド、オリンの三人の領主が居て、しかも誰もが剣やら槍やらを装備していた。

 二人の文官は「城に武器を持ち込むでない! 誰の許可を得てこのような事をするか!」と怒る。

 すると「私が許可しましてね」と背後から肩をトンと叩かれた。

 二人が振り向くとそこには大将軍オルモードが居る。

「あなたが許可した?」

 二人が訝しむ。
 もしもそれが本当だとしたら大問題だ。
 いいや、これを「反乱」の口実にオルモードを処刑にだってできる。

 オルモードはニコニコと笑ったまま「反乱だと思いますかな?」と聞いた。

「どう見ても反乱であろうが!」
「そうだ! 武装した軍で帝都を囲むなど言語道断!」

 そのように二人が異を唱えると、オルモードはニコニコとしたまま「いえいえ、これは反乱では無く『討伐』でございますよ」と答えるのだ。

 その言葉の意味が分からず、二人が怪訝な顔をした瞬間、目にも止まらぬ速さでオルモードが剣を抜き、直後、二人の頭が胴体から離れて宙を飛ぶ。

「皇帝陛下を私物化し、傀儡にしている逆賊どもの『討伐』だ!」

 オルモードがそう声を張り上げると、カルオッツェ、ハルマンド、オリンは兵を率いて城の中を進行したのだ。

 そう、冬の間にダライアが渡した手紙は外に居る武官出身の貴族を味方に引き込む為のものだった。

 確かに城の中だけでは文官の方が多くてオルモードは劣勢だったが、しかし、雪が溶けて外に居る武官を集めたらオルモードの方が強い。

 しかも、積雪の時期に連絡をとっていたので、完全にカルシオス達文官の意表を突く奇襲であった。

 オルモードは切り飛ばした二人の文官の頭を掴むと玉座の間へと一直線に向かう。

 バンと勢い良く扉を開けて、玉座の間にズカズカと踏み入ると、彼の手に二人の頭があったので玉座の隣に立っていたカルシオスは目を見開いて驚いた。

 ミルランスは耳をつんざくような悲鳴を上げる。

 オルモードは「これは皇帝直下、見苦しいものをお見せしました」と二人の頭を部屋の隅に投げ捨てた。

 ハルアーダと二名の騎士が腰の剣に手をかける。

 玉座の間の外からは剣戟の音と悲鳴が響いて「この悲鳴はなんだ」とハルアーダは聞いた。 

 するとオルモードは「おお! ハルアーダよ。何もそう身構えるな。我々は皇帝陛下に危害を加えるつもりはないのだよ」と両手を大きく広げる。

「ただ、皇帝陛下の為、城内にはびこる害虫どもを駆除してやろうと言うのだ」

 オルモードは切っ先をカルシオスに向けて「皇帝陛下を傀儡にする逆賊を討伐しに来たのだ!」と言うと一足長で飛び掛かるのでハルアーダは剣を抜いてオルモードの剣を受けた。

「邪魔だてするな!」
「気持ちも分からんではないが、これは明らかに謀反だぞ!」

 ハルアーダとて皇帝を傀儡にしようというカルシオスには、はらわたが煮えくり返る気持ちだ。
 だが、このような方法は許せる訳が無い。
 このような方法を許せば、法は乱れ、規律は形骸化する。

 皇帝を守る為にもオルモードの暴走は許せなかった。

 そうしてハルアーダがオルモードと切り結んでいると、カルシオスがミルランスを抱きかかえて玉座の後ろにある扉から逃げ出してしまう。

 カルシオスにとってミルランスは大事なあやつり人形だ。
 手放す訳にはいかなかった。

 これにハルアーダは、二人の騎士にオルモードの相手をするように命じてカルシオスを追う。

 ハルアーダはオルモードの行動を止めようとしたが、カルシオスがミルランスを傀儡にする事を許した訳では無い。

 だから、カルシオスがミルランスを連れて行くのは看過出来なかったのだ。

 文官のカルシオスと騎士のハルアーダでは足が違うのですぐにカルシオスの後ろへと追いつく。

「待てカルシオス! 皇帝陛下をみだりに連れ出すのは許さぬぞ!」

 そのように言うのだが、カルシオスは立ち止まらなかった。
 ばかりか、天井へ向かって「ワシを助けろ!」と言うなり、黒装束を身に纏った私兵が二人、天井から降りてくるのだ。

 それはあの日、ミルランスを暗殺しようとした暗殺者と同じ格好である。

 やはりティタラ投獄は仕組まれた事だった。

 ミルランスはカルシオスの私兵の服装からその事を悟り、ティタラになんと酷いことをしてしまったのだと嘆くと、「カルシオス! 離して!」と暴れた。

 あまりにも激しく暴れるので、カルシオスはミルランスを廊下の壁に押し付けると「大人しくしろ!」とミルランスの首を締めだしたのである。

 ミルランスはいきなり首を締められて苦しいし、怖かったので、途端に体が硬直してしまう。

 ハルアーダはその様子を見ると憤怒した。
 私利私欲の為に皇帝陛下に手を出すのはもとより、ミルランスに手を出したということ自体がハルアーダにとって怒るべき事だったのだ。

 たちまち二人の私兵を殺し、ハルアーダは雄叫びを挙げながらカルシオスへと向かった。

 カルシオスはその気迫に驚きたまげて、力無く必死に息を吸おうとしているミルランスをハルアーダへと投げ付けて逃げ出したのである。

 ハルアーダはカルシオスを追おうか悩んだ。
 しかし、ミルランスが咳き込みながらハルアーダを抱き締めて嗚咽を漏らすので、今はとにかくミルランスの安全が第一だと考えて追うのは諦めた。

 城の中は、オルモードの招集に応じた領主達の連れて来た兵士と、カルシオスや大臣達の私兵が入り乱れて乱戦なっている。
 特にカルシオスの私兵は暗殺者達によって編成されていたので城の中という狭くて隠れられる場所では無類の強さを誇った。

 争いは拮抗し、激しい混乱となっていたのだ。

 そんな中、ハルアーダはミルランスを連れて、秘密の抜け穴から帝都を脱出していた。

 こうなってはもう城も帝都も安全では無い。
 どこか安全な場所へ向かう必要があったのだ。

 だが、ミルランスは戻るように命じた。

「まだティタラが中に居る! このままじゃ殺されちゃうよ!」

 この混乱に乗じてティタラは殺されてしまうだろう。
 ミルランスにだってそのくらいの事は分かっていた。

「引き返しません」

 ハルアーダは無情にもそう言って、帝都の近くの林の中へと向かうのだ。

 ミルランスは大きな声を挙げて、「離しなさい!」「引き返しなさい!」と命じた。

 すると、ハルアーダはミルランスの頬を叩いたのだ。

 信頼していたハルアーダに頬を叩かれてミルランスは驚き呆然とする。

 そんなミルランスにハルアーダは屈んで目線を合わせると「静かに。誰がどこに誰が話を聞いているかも分かりません。事情を説明するほどの時間もありません。今はとにかく歩くのです」と言った。

 ミルランスは叩かれたということに衝撃を受けていたから、静かに頷くと黙ってハルアーダの後をついて行くのだ。
 なんだかんだ、人に叩かれた事は無かった。特に、ワガママに対して叩かれた事は無い。
 だから、叱責として頬を叩かれてショックだった。
 また、カルシオスに首を締められた記憶も新しく、暴力に対して恐れを抱いていたからハルアーダに大人しくついて行ったのである。

 林の中は、先程の騒ぎが嘘のように静かだった。
 その中をミルランスはハルアーダに連れられて歩く。

 木々の隙間から木漏れ日が刺していて、なんだか穏やかな雰囲気だ。
 だがらミルランスの心は暗い。

 妹ティタラがこの騒ぎに乗じて殺されでもしたら、それはきっと投獄を命じた自分の責任だと思う。
 投獄を命じていなければ、今頃二人で一緒に逃げられただろうに。
 そう思うと心臓がバクバクと早鐘を打ち、気が気では無かった。

 どうか無事でいて。ティタラ。

 必死にそう願っていると、あまりに必死だったから前を歩くハルアーダが立ち止まるのでその大きな背中にぶつかってしまった。

「すみません陛下。ですが、つきましたよ」

 ふらつくミルランスをハルアーダが支えながら言う場所には、一人の騎士と一人のボロを着た子供、それと一頭の馬がいる。

 その騎士をミルランスは知っていた。
 いつも剃った後が青髭になっている中年の騎士で、ハルアーダと同期で仲のいい近衛騎士だ。

「エルグスティア。異常無しか?」
「ああ、問題無い。それからこれも」

 近付くハルアーダとミルランスにエルグスティアと呼ばれたこの騎士は二切れのボロ布を渡した。

 ハルアーダはそのボロ布をミルランスに被せて紐で首元を結ぶ。
 変装用のボロ布だ。

 それをハルアーダも着込みながら「しばらく俺達は身を隠す。お前達も頃合を見計らって撤退しろ」とエルグスティアと話していた。

 ミルランスはその会話を聞きながら、目の前にいる同じようなボロを着ている子を見ていた。
 その子が自分とハルアーダが着ているボロ布と同じ物を被っているので、ミルランスはまさかまさかと思うのだ。

 その子はミルランスが顔を覗き込もうとしているのに気が付いて、少しだけ顔を動かした。

 角度がズレてミルランスはその子の顔が見える。

 その顔は……ああ、そうだ。見間違えるはずの無い顔。

 ミルランスは泣きそうになり、感極まって、その子の名を呼びそうになった。
 が、「静かに姉様」とその子は口に指を立てて静かにするように微笑んだ。

 ミルランスは目に涙を溜めながら、黙ったまま嬉しそうにその子の手を取ると静かに頷いた。

 再会出来た。
 再会出来たのだ。
 愛する妹ティタラと再会出来た。

 実をいうとハルアーダは帝都がこうなる事を見越していたのだ。
 だからエルグスティアと共に城内が混乱に陥った時はミルランスとティタラを城から連れ出す計画を立てていた。

 別に反乱による混乱でなくとも良かったが、とにかく、彼はこのままミルランスとティタラが城にいると悲惨な事態になると踏んで、彼女達を城から連れ出す計画を以前から立てていたのだ。
 
 こうして皇帝ミルランスと妹帝ティタラはハルアーダと共に馬に乗り、帝都を脱出したのである。
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