ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

22、最強の兵

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 ラドウィンがシンサンから帝都へと向かう少し前に時間は戻る。

 帝都西方、ゼードル地方カセイ国ラクペウス。
 アーランドラ帝国に支配されているカセイ国は帝国西方域の大部分を占める。

 そのカセイ国のラクペウスはアーランドラ帝国建国時期に遡る歴史を持つ地域だ。

 かつて帝国となる前のアーランドラと敵対していたカセイ国に対処する為の砦や関所が乱立しており、歴史を感じる名勝として知られていた。

 その観光地は今、在りし日の役割を取り戻した。

 山頂、街道、狭隘……ラクペウスのあらゆる場所に設けられた古い砦や関所にカルシオスとオルモード連合軍が陣を敷いている。 
 連合軍の戦力はカルシオスとオルモード及びそれ以下、彼らに追従していた諸将の私兵、それから彼らが逃げ込んだ先のオーぜリードで集めた傭兵、合わせて一万。

 一万で防衛網を構築している連合軍に対してアーランドラ帝国諸侯軍、総戦力十万が進撃した。

 かつてアーランドラ帝国から独立しようとしていた五人の諸侯、約二万五千兵を先鋒に約八万の本隊が控える。

 攻城三倍という。
 砦や城壁などに籠る軍勢を攻めるには三倍の兵力が必要なので、アーランドラ帝国は十分な兵力を用意していた。

 なので、街道の砦とその両脇に位置する山の砦をアーランドラ帝国諸侯軍は落としたのである。

 三つの砦を落とし、その砦から次の敵陣へと攻めかけた。

 次の敵陣は大河であるクヮンラブル河へ流れる大きな支流に掛かる大橋、その大橋の終わりにある関所である。

 帝国諸侯軍は大橋を落とされる事を警戒し、船を用意して渡河した。

「弓に注意せよ!」

 先鋒隊の一つを率いるバルムッドは盾を兵達に構えさせる。
 すると案の定、関所の城壁に無数の兵士が姿を現し、雨あられの矢が降って来たのだ。

「オルモードだ!」

 先鋒隊の一つを率いるデルキッシュが関所で敵兵に指揮している男を見てそけ叫び、指さす。
 指さす先には確かにオルモードがいた。

 元大将軍オルモード。
 そして敵軍のリーダー二人のうち一人である。

 これはチャンスだと先鋒隊は「射殺せ! 射殺せ!」と兵達に指揮する。

 しかし、関所は高く、矢が届かない。

 先鋒隊の一つを率いているムーザッドは「特攻するぞ! 梯子を用意せい!」と命じ、船を関所へと全力で近付けた。

 オルモードはさすがに大将軍であっただけあり、見事な指揮で船を寄せ付けず、いざ梯子をかけられてもその梯子を外させたのである。

 アーランドラ帝国先鋒部隊が多大な被害を出す中、パルパタ領主で先鋒隊の一つであるオリンの部隊が梯子を掛けて、関所の上へとその梯子を駆け上がった。

「オルモードよ。久しいな!」とオリンは彼と対峙する。

「ほう! オリンか!」

 オリンはかつてオルモードが宰相一味を排除する為に帝都で決起した時、オルモードへ従った程、彼と懇意の貴族だった。
 しかし、その決起は虚しく、オルモードは宰相カルシオスと仲間になったのだ。

「裏切りの代償は払って貰うぞ!」

 オリンが剣を構えて、四名のオリンの騎士と共に敵兵を蹴散らしながらオルモードへ攻め寄せる。

 オリンの四騎士(フォー・ホースメン)といえば知らぬ者いない精強なる騎士だ。

 そんな彼らを前にオルモードは余裕泰然と立っていて剣すら抜いていない。

「覚悟!」

 四人の騎士とオリン。
 五名がオルモードへ襲いかかる。

 勝った。

 誰もが思った。
 船の上に居る者。梯子を駆け上がる者。河に溺れて必死に船へ掴まる者……。
 誰もが思っていたのだ。

 しかし、敵兵の中から一人、オルモードを守るように立つ者が居た。

 大柄な男だ。
 背が高く、筋肉でがっしりとした肉体。
 キュッと結んだ唇。
 鋭い眼。眉間に皺を寄せて、威圧的に五人を見る。

 両手に太くて大きな刃の斧を二振り持っていた。

「邪魔だ! 退(の)け!」

 そう怒声を挙げながら五人が槍と剣を振るった瞬間、背の高い男が二つの斧を振るうのだ。
 するとたちまち、四人の騎士が肉塊となって鮮血と肉片を撒き散らした。

 そして、生き残ったオリンの首を男は掴むと、片腕で軽々と持ち上げて河へと投げ捨てたのである。

 重量のある斧を片手で軽々と振るい、おまけに鎧を着た成人男性を片腕で投げ飛ばす怪力怪腕。
 これにアーランドラ帝国先鋒隊は堪らず撤退したのであった。

 先鋒隊は街道に位置する砦まで後退して軍勢を整えつつ、敵軍に恐ろしく強い武将が居ると本隊へ報告するのである。

「本隊と協力して戦わねば勝てぬぞ」

 先鋒隊の一つを率いるマローはそう考えた。

 そんな彼ら五人の待機する砦へ使者が来たのは翌朝の事である。

 本隊からの使者が来たかと思って、その使者を砦へ迎え入れた所、その使者はなんとオルモードからの使者だと言った。

「なんと! あの卑劣で馬鹿な男の使者か! 斬ってやる!」と、配下の騎士を殺されて怒り収まらぬオリンが剣を抜こうとしたので周りの者が必死に止める。

「使者の用件だけでも聞こうじゃないか」

 そのように他の四人がオリンをなだめてオルモードの使者に用件を聞くと、使者は手紙を四人へ渡した。

 使者は、この手紙を読んでどちらにつくかを考えろと言うのである。

 それに五人はせせら笑い、皇帝陛下への忠誠をなめるなよと手紙を読んだ。

 しかし、すぐに五人は黙り込み、その手紙を熟読した。
 その後、本隊の方から先鋒隊へと「我らが後詰めとして動くので今一度タールン関所を攻めよ」と命令が下されたのであるが、五人は「散々に打ち負かされたので兵の再編に手間取っている」として出陣を拒否したのである。

 その後も数日に渡って、本隊からの攻撃要請に対して理由をつけては出陣しなかった。

 なぜ先鋒隊は攻撃しないのかと本隊では訝しんでいたが、彼らは待っていたのである。
 バルムッド、デルキッシュ、ムーザッド、オリン、マロー……この五人は密偵を帝都に放ち、手紙に書かれていたとある情報を探していた。

 その情報とは『皇帝に皇族の血が流れていない』という事である。

 彼らは皇帝が居ない時には独立しようとし、皇帝が帰ってきたから帝国へ舞い戻って来た男達だ。
 そのような五人なので、もしも皇帝ティタラにアロハンドの血が流れていなかったら由々しき事態なのである。

 皇帝陛下の為と思えばこそ、独立しようとした罰を雪(そそ)ぐためにこうして前線へ出たのだ。
 皇帝陛下の為であるからこそ、兵士達に命を捨てさせたのである。

 もしも……もしも皇帝陛下が皇族でないとすれば酷い裏切り!
 我らを騙して命を捨てさせるなど言語道断!

 そのように思っていた五人の元へ、密偵が帰ってきたのは一週間後の事。
 密偵達は馬を使い潰して、何度も乗り換えては大急ぎで主の待つ砦へ帰ってきたのである。

 玉のような汗を垂らし、肩で息をしながら、「カッツォルネ領主タクネルの配下、トロネです!」と言うのだ。

「何がだ!」

 バルムッドが聞くと、「ティタラ陛下の産みの親リアト様から、ティタラ陛下がアロハンド先帝の血を引いていないと聞いたのがです!」と密偵は答えた。

 裏が取れた!

 この情報に五人は憤り、憤慨し、憤怒した。

「皇帝陛下を名乗るティタラこそ劣悪な詐欺師では無いか!」

 五人はオルモードへ使者を出し、帝国からオルモードへと寝返ったのである。

 そして三日後、先鋒隊はカルシオス、オルモード連合軍と共に本隊へ攻め寄せたのだ。

 本隊を指揮していたオットーリオ公爵は先鋒隊の裏切りを聞いても動揺はしなかった。

「一度裏切った者が何度も裏切ろうと驚きに値せぬわ!」

 彼は本隊八万の部隊で彼らを撃滅すべしと前進させたのである。

 幾度かの衝突と幾度かの撤退がくり返された。

 オルモード連合軍と裏切り者どももアーランドラ帝国では名の知れた武将でもあったから、八万の軍勢相手によく戦った。
 それでも段々、帝国諸侯八万の軍勢を前に連合軍は圧されて、ついに河にかかる大橋にまで追い詰められてしまう。

「背水の陣とでも言うかね? だが貴様らの負けだ!」

 オットーリオ公は全軍に突撃の令を出した。

 川を後ろに陣を構えるは下の下策。
 オルモードやあの裏切り者五人という戦上手が集まっているのにそのような陣を敷くとは愚かなり。
 このまま一息で勝利をもぎとろうと思う。

 オットーリオは突撃する味方を後方から眺めていた。
 しかし、彼は街道沿いの平原に居たので戦況がよく見えない。

 どこか軍容を見える場所は無いかとキョロキョロ見渡し、丁度いい山があったのでそこへ登ろうかと思う。
 彼が配下を率いて山へ登ろうとしたところ、突如帝国諸侯軍から悲鳴が上がった。

 何事かとオットーリオ公が見ると、帝国諸侯軍の兵を吹き飛ばして一騎の武将が現れる。

 二つの大振りな斧を構えて、勇壮な西方馬を駆けさせる長身の勇士。
 オリンとその四騎士を簡単に倒したオルモード麾下のあの男だ。

 彼は一筋の光閃の如くオットーリオへと駆けてくる。

 その道中に並み居る帝国諸侯軍の兵達は鎧袖一触、吹き飛ばされてしまった。

 無人の野を行く彼を前に諸侯軍は恐れおののき近付く事すら出来ない。

 そんな中、大男の前に一人の騎士が立ちはだかった。

 漆黒の甲冑を身に纏い、二振りの剣を手に持っている。
 オットーリオ麾下の騎士にしてハルアーダにも比肩しうる無敵の騎士と言われた黒騎士、タハミアーネといった。

 タハミアーネは大男の前に馬を駆け寄らせると剣を振るう。

 その剣閃は流麗にして華麗。
 鮮烈にして苛烈であった。

 その美しくも素早い動きに男は翻弄され「ちょこざいな!」と轟くような声をあげるなり斧で反撃に転じる。

 斧を軽々と振り回す様は恐るべき迫力だ。

 タハミアーネはそのような男の相手をして怖くないのだろうか?
 漆黒の仮面がタハミアーネの眼の周りを隠しているのでその感情は読めない。

 しかし、恐らくは冷静を保っていただろう事はタハミアーネの戦いぶりから分かる。

 二振りの剣で二つの斧をいなし、積極果敢に切り付けようとした。

 男も負けじと二つの剣を二振りの斧で弾き、鎧ごと叩き潰そうと振り回す。

 一見すれば互角の戦いであった。
 しかし、膂力の差は如実に表れ、百合程でタハミアーネは冷や汗を流しながら馬首を返して撤退したのである。

 実を言うと、タハミアーネの主、オットーリオはこの一騎討ちの間に撤退していた。
 この男を倒せないのは口惜しいが、タハミアーネは自分の役割を果たしたと考えて逃げ出したのである。

 一方、男はその背を追おうとしたが、彼の操る馬の疲労激しく、追撃を諦めた。

 男は舌打ちをして、逃げるタハミアーネの背を苦々しげに睨みつける。

「俺はゼードル地方西方の勇、ガ・ルス! いつか貴様の首、貰い受けるぞ!」

 逃げ去るタハミアーネへとそのように、二振りの斧を操る猛将ガ・ルスは名乗るのである。

 ガ・ルス。
 彼の名はその場に居る帝国諸侯軍の人々に大きな衝撃を与えた。
 諸侯軍本隊を指揮するオットーリオを撤退させ、皇帝騎士ハルアーダと比肩するタハミアーネを逃亡させたのだ。

 関所を攻めていた帝国諸侯軍の部隊はガ・ルスに恐れ、たちまち逃げ出したのである。

 関所からオルモードは帝国諸侯軍が撤退するのを見て、ただちに追撃へ動いた。

 関所の門を開き、カルシオス・オルモード連合軍一万が大橋を渡って進撃する。

 これに撤退していたオットーリオは、同じように逃げてきた諸侯軍を三つの砦へ収容させ、自身も三つの砦のうち街道にそびえる中央の砦へ入って連合軍を迎え撃つ構えをとった。

「不用意に討って出るな。攻城三倍の法則を忘れるなよ」

 オットーリオは三つの砦を使って持久戦に洒落こんだ。
 もしも一万の連合軍が持久戦を嫌って一つの砦へ攻撃を集中させたら、残りの二つの砦から撃って出て、包囲殲滅するつもりである。

 持久戦に応じるならばそれでよし。
 攻城三倍の法則から帝国諸侯軍が負ける理由などありはしない。

「自分で自分の才が恐ろしい」

 オットーリオは自分の日記にそう記している。

 実際、普通の――そう、なんら特別な部分の無い戦いならば、非常に堅実で確実な戦略だっただろう。

 しかし、持久戦こそオルモードの望む所であった。
 なぜなら砦へ篭ったという事は『話し合い』をするのにちょうど良いからだ。

 そして、砦へ籠って半月後、オットーリオの元へ両脇の山砦(さんさい)を守っていた筈の諸侯軍の軍勢がやって来て、とある情報を伝えた。
 彼らが伝えた情報とは、両脇の山砦(さんさい)を守る諸侯軍が寝返り、この中央の砦へ攻めかけているというものであった。
 彼らは寝返った軍勢に攻撃されながら、ほうほうの体でオットーリオの元へと逃げて来たのだ。

 オットーリオははなはだ混乱したが、諸侯軍はもはやオットーリオを率いる二万、それと寝返りに応じなかった諸侯の率いる各二千から五千を併せて概ね三万と計算した。
 自分達の軍勢およそ三万では、連合軍と寝返った諸侯軍の相手は出来ないと即座に考え、砦の破棄を決定。
 撤退したのである。

 オットーリオは帝都にまで後退する事を決めた。

 その帝都へ向かう道すがら、オットーリオは寝返らなかった諸侯に何があったかを聞く。
 すると諸侯は、オルモードが『ティタラ陛下は皇族の血を引いていない』と裏工作をしたのだと言った。

 オットーリオは「くだらん噂に惑わされおって」と怒りと呆れの溜息を吐く。

 だが、実を言うとオットーリオは既にその噂を知っていた。

 口では怒って呆れたような言葉を発するが、その心の底では『やはり噂を知られる事となったか』と苦々しい気持ちとなっている。

――しかし、よもやこれ程簡単に諸侯が裏切ろうとは予想外だ。アーランドラ帝国ももうダメだな……――

 諦めの溜息を吐くと、追従している諸侯に向かって「私は帝都へ向かわず自領へ引き返す。そなたらも自領を守る備えに戻る事をお勧めしよう」と彼自身が治める公領へと引き返す事にしたのだ。

 すると、タハミアーネがオットーリオの前に来て、彼を引き止めた。

 このまま自領へ帰っては主である皇帝陛下を見捨てたという汚名を受けるだろうと警告する。
 だから、オットーリオは自領へ戻り、タハミアーネが手勢を率いて帝都へ向かう事を提案したのだ。

 オットーリオは右腕であるタハミアーネを手放すのを惜しんだが、主を見捨てたとも言われたく無かった。
 そこでオットーリオはタハミアーネなら状況を確認して帝都を離脱する事も出来るだろうと考える。

「あいや分かった」

 彼はタハミアーネに五千の兵を預けて帝都へ向かわせたのである。
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