【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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89 『カフェ・サルビア』での騒動と、ウエイトレスお婆ちゃんの武勇伝。

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――カイルside――


『カフェ・サルビア』もそうだが、連日大盛況だ。
その人気は三つある。
一つ、一点物の食器や珈琲カップに紅茶カップが出てくる為、ワクワクで過ごせること。
一つ、お菓子も軽食も美味しい上に、朝タイムの『モーニングセット』が嬉しいと言う客が多い事。
一つ、ウエイトレスのお婆ちゃんたちが可愛い事。

陶芸師のナンザたちが手掛けた一点物の食器は、その日何が出てくるか皆がドキドキする瞬間で、どれも精巧で美しく、休憩の合間の楽しみらしい。
売って欲しいと言う声も多く上がっているが、ナンザたちは「売り物は今は作らねぇ」と職人らしい言葉で断ってきた為、お店で楽しんで貰うようにしている。

更に、お菓子も美味しい上に『モーニングセット』と言う朝限定の朝食が人気の一つだ。
朝の忙しい時間、パパッと出来立てが食べれる上に安く、珈琲が一杯ついてくると言うお得セットは、瞬く間に広がり、今では人気店の一つにまで昇りつめた。

最後にお年寄りのお婆ちゃんたちのウエイトレス。
年を召しても尚、可愛くありたいと思えるほどに愛らしい姿のお婆さん達は、必ず仕事に行く人たちに「気を付けて行っておいで」等声を掛けてくれる。
それが「懐かしい」や「お袋を思い出す」等、男性客には溜まらないらしく、人気の一つだった。

腰が曲がって居ようとキビキビと動く様は『カフェ・サルビア』の癒し系マスコットと言っても過言ではないとリディアは言う。
そして、意外にもマザコン気質の男性が通っている事が判明するわけだが、それは仕方ない事だろうと思う。
そりゃ、好きな奥さんや恋人に「行ってらっしゃい」と言われるのと、母親や祖母から「気を付けて行っておいで」と言われるのとでは、なんというか……違うんだ。
言葉では説明できないが、どちらも良いものだと俺は思う。


そんな人気の『カフェ・サルビア』に男たちが乱入してきたと言う報告があったのは、丁度昼過ぎの事だった。
たまたま城に行く予定があってレイスさんに連絡事項も含めて話しをしようとしていた時だった。
悲鳴と食器の割れる音。怒声が響く『カフェ・サルビア』の異変に直ぐに気付けたのは不幸中の幸いだったかもしれない。
俺とレイスさんが急ぎ店に入ると、男たち5人が店でウエイトレスのお婆さん達と睨み合っていた。


「俺の嫁がここにいるんだろう!? サルビアの野郎たちは俺達から嫁を奪っていったんだ!!」
「出てこい!! しつけ直してやる! ガキも同様にな!!」
「ふざけるんじゃないよ!! ここにいる娘たちに指一本触れさせるもんか!!」
「帰れ帰れ!!」
「女は道具じゃないんだよ!! 自分の尻も拭けないような男が、どの口で女を馬鹿にするってんだい!?」
「このババア共!! ぶっ殺してやる!!」
「殺せるもんなら殺してみな!!」
「例え殺されても、最後までしがみ付いて娘を逃がすだけの時間くらい作ってやるよ!」


うちの婆さん達、強いな……。
だが、良く見るとお婆さん達は震えながらも、厨房に入る事が出来る唯一の通路をバリケードのように、立ちふさがっていた。
乱暴に一人が倒されるが、倒されたお婆さんは男の足にしがみつき、踏まれても歯を食いしばって男を奥へ行かせない様に必死だ。


「お婆さん!!」
「ちょっとおじさん達、此れは見逃せない問題だなぁ」
「なんだって!?」
「お、おい……っ」
「Sランク冒険者の……雪の園のレイス!」


レイスさんも武器は一つも持っていなかったが、俺がお婆さんへ駆け寄ると同時に、お婆さんを踏みつけていた足を軽く蹴り上げるとそのまま足を上に上げて男の脛を踵でへし折った。


「で……君たちは一体この店で何をしていたんだい?」
「ヒッ」
「こ……こいつら奥にいるのが俺の嫁だから連れて帰るっていって!」
「しつけ直してやるっていってたんだ! 子供も一緒に!!」
「「へぇ……」」


その言葉に踏まれていたお婆さんを他の方に任せ、俺もお婆さん達を守るように立った。


「どうも、サルビア全体のオーナーをしていますカイルと申します。お話は伺いましょう」
「「「「!」」」」」
「ああ、嫁を返せと言われても、無駄な事ですよ? 彼女たちは保護されると同時に神殿契約をしているのですが、神殿契約する際、DVを理由に貴方と元奥様は離婚されております。親権は無論元奥様に」
「「「なんだと!!」」」
「ふざけるな!!」
「――ふざけていたのはどっちだ!!」


俺の怒号に男たちはたじろぐと、レイスさんは呆れたように溜息を吐いた。


「この店の状態、そして自分の母親寄りの年上の女性への暴行を見ていれば、自分の妻だった相手にどんな酷い仕打ちをしていたのか嫌でもわかるぞ!」
「そ……それは」
「躾だ! しつけの何が悪い!」
「しつける為に暴力だと? 笑わせるな!! お前たちがしていた事は人の尊厳を踏みにじる人間として最低な行為だ!!! 恥を知れ!!」


久々に使った『炎の咆哮』に男たちは腰を抜かして悲鳴を上げて座り込んだ。
こうなれば、近くから憲兵がやってきて男たち5人を【器物破損】【暴行行為】【迷惑行為】の三つの罪で連れて行って貰う事にした。
その間にレイスは身体を痛めたお婆さんに上級ポーションを飲ませて休ませてくれていたが、本当に助かった。
レイスの存在があるだけで男たちも強くは出れなかったのだから。


「大丈夫ですか? お婆様達」
「アタシたちの事は良いんだよ」
「か弱い娘達を守る為なら、この命、差し出すつもりだったからね」
「本当に」
「しかしあの馬鹿どもやってくれたねぇ……せっかくナンザたちが作ってくれた食器が」
「食器よりも……あなた方お婆様達の命の方が大事です!!」


そう言って厨房から駆け出してきた調理師スキルを持つ女性達は皆涙を流していた。


「夫に暴力を受けるよりも怖い思いをしました……」
「無理をしないでくださいっ」
「あなた方に何かあったらと思ったのに身体が怖くて動けなくて情けなくて……っ」
「弱い私たちを許してください……」


泣きながら頭を下げる若い調理師たちに、お婆さん達は顔を見合わせると大笑いした。


「何を言ってんだい! アタシたちには何一つ失うものは無いんだよ」
「後は頑張って働いて、動けなくなったら墓の中さ」
「だがアンタ達は違う。幼い子供を育てていく義務がまだ残っているんだよ?」
「怖くても良い、怖くて当り前さね」
「そうそう、でも守って貰えるうちは、守って貰いなさい」
「アタシたちはその為なら喜んで盾になってやる」


お婆さん達の気概に触れた調理師たちは涙を流しながらも「はい!」と真っ直ぐ前を向いて答えると、お婆さん達は一人一人の頭や頬を撫でていった。


「ふんばりな。此処からがふんばりどころなんだから」
「アタシたちは負けられない戦いをしているんだよ」
「にこやかに、笑顔に過ごしていけば、悪い事なんて消えていくもんさ」
「「「「はい!」」」」
「食器は幾つか作って貰わないといけないねぇ……」
「あーあーあー……」


まるで何事も無かったかのように振る舞うお婆さん達に、もう震えている様子は無かった。
だがそのうちの一人、ポリーヌお婆さんが俺の許にやってくると―――。


「恥を知れ! 良い事言うじゃないか坊や」
「坊やって」
「アンタがリーダーなら、この先も安心だ!」


そう言って背中を二回叩くと、笑いながら割れた食器を片付けていく。
その後、様子を見ていた客たちは今日の出来事を【ウエイトレス婆さん達の武勇伝】として語り、それがまた広がり――店はますます繁盛していくのだが……。


「カイルのいざと言う時の『炎の咆哮』はやっぱり強いねぇ」
「そうですか?」
「仲間に一人いればどれだけ違うだろうかと思ったよ。まぁ、君は冒険者よりも商売人が似合うがね」
「そう言うレイスさんも商売人が板についてきましたよ」
「そうかい? だったら嬉しいな!」


店を出て軽く会話をしてお互いの肩を叩き合い、俺はその足で書類を持って城へと向かった。
今からナカース王国のダンノージュ侯爵としての仕事へ行く。
城への道のりは、俺を冒険者でも、店長でもなく――貴族の顔へと変えていった。
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