【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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88 『カフェ・サルビア』への新しい商品開発と、裁縫師はひた走る。

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――カイルside――


今日は『カフェ・サルビア』のオープン初日だ。
朝8時からパンの焼けるいい香りが漂い、行き交う冒険者及び住民を誘惑している。
そして、9時オープンと同時に席は満席に即なった。
店の前には堂々と『モーニングセット、朝11時まで』と書いてあり、絵と同時にパンにジャムと珈琲か、パンにバターに珈琲かの二つが選べる事を記載してあり、買い物帰りの庶民も含め大盛況だった。

パンと珈琲がセットで銅貨2~3枚となれば、安くて早くて焼きたてを美味しく食べれるとあって回転率も速く、途中から見覚えのある商業ギルド職員や、冒険者ギルド職員の姿も見かけるようになった。

店の中にはオシャレなカフェに似合うメイド服っぽい服を着たお婆さん達が走り回り、店を出る時は「気を付けて行ってらっしゃい」と言われると、殆どの客が「行ってきます!」と元気よく叫んで走っていった。

これだけ回転率が良いってことは、洗い物も多いと言う訳だが、そこは歴戦のお婆さん達。
ウエイトレスをしながら食器洗いもシッカリしてくれてるらしく、食器が無くなると言う不測の事態は起きなかった。

更に言えば一点物の食器やカップで飲めることもあり、心も楽しく過ごせると口コミで一日で広がり、モーニングが終わると甘いものを求めてやってくる女性陣が群れを成してやってきては行列が出来ている。
中には男性も交じっており、甘いものが食べたい事に男女は関係無いのだと理解出来た。

ケーキに関しては、昨日の内から調理師たちが挙って作っており、売り切れごめんで売り出している為、早い者勝ちな所はあるが、お店にはパイを焼く窯が入っているため、アップルパイだけは何時でも食べることが出来る。
ザザンダさんが「リンゴの木からリンゴが無くなってしまいます!」と嘆いていたのはこの事だったのか。

そして、今日店に出ていない調理師たちは今頃箱庭でケーキを各種大量に作っている事だろう。
人数分の食事を作りながらケーキを作る激務……。
今度リディアと話し合い、調理師を増やすべきか話し合おうと心に決めた。
特に激しい問題も無く『カフェ・サルビア』は稼働しているようだ。
その隙に一度箱庭に戻ると――今まで特に何をするわけでもなく保護されていた女性達が、人数分の食事を作るべく働いていて驚いた。


「皆さん、箱庭に住む人数分の料理作りですか?」
「カイル様」
「はい、私たちも何かしないと、おいていかれちゃいますから」
「調理師の方々には許可を貰ってます」
「調理師の方々には是非、お店の為にスキルを使って欲しいですから!」


そう言って楽しそうに料理を作る女性達は皆嬉しそうだ。
やるべき事が出来た喜びもあるんだろう。
調理師の方は、忙しくケーキを作ったり焼いたりクッキーを各種用意したりと慌ただしく動いている。
リディアも様子を見に来たのか、皆さんが働いている姿を見てふと――。


「そう言えば、誕生日ケーキなんてものもありましたわね……」
「誕生日ケーキ?」
「そうですわ、誕生日にケーキをホールで買ってお祝いしますの」
「贅沢だな」
「予約制にしたら、売れないかしら……。今日調理師の方々が戻ってきたら話してみましょう」


そんな話題を振ってくる。
しかし――これが後にナカース王国に根付く『バースデーケーキ』となろうとはこの時は思ってもいなかったが……リディアの発想は本当に面白いものが多い。


そしてその夜――。
ゲッソリと疲れ果てた道具店とは違い、ネイルサロンの方は特に変わりはなかったそうで、『服とガーゼの店・サルビア』では、今日から服も飛ぶように売れたそうだ。
特に、妊婦用に作っておいたワンピースは売り切れてしまったのだと言う。


「ジャックさん、マリウスさん、ガストさん、お婆様方! 由々しき事態ですわ!」
「服を作らねば……山のように!!」
「一番売れたのはワンピースなのかい?」
「そろそろ肌寒くなるころ合いだろう?」
「でしたら、七分袖とかどうかしら?」
「七分袖の普通の生地でワンピースを作って売るの。で、それと同時進行で『ほっかり糸』で服も作りましょう」
「『ほっかり布』も欲しいねぇ……。男性用の長袖もつくってあげたいよ」
「男性は色にこだわりがあまりないですものね」
「ではお婆様方は『ほっかり布』で男性用の洋服と肌着をお願いします」
「はいよ」
「頑張って作ろうかねぇ」
「ジャックさん、マリウスさん、ガストさんはワンピースをお願いします」
「「「了解したわ!」」」
「私とノマージュは」
「『ほっかり糸』で服を大量に!」
「忘れていたわ! 『ほっかり布』で掛布団を作らないと!」
「ひざ掛けも欲しいわ!」


と、裁縫師たちは盛り上がり――。


「「「「誕生日ケーキですか?」」」」
「ええ、予約制にして、誕生日ケーキ……バースデーケーキを作るんです! 売れ行きは分かりませんが火がつけば絶対に売れますわ! だってホールケーキを丸ごと買って食べるって夢がありません?」
「「「「「「ある」」」」」」
「つまりはそういう事ですわ! ホールの大きさも小さい物から中くらい、大きい物とかも用意して楽しみますの! ああ、そう言えばウエディングケーキとかもありましたわね」
「「「「詳しく!!!」」」」


と、調理師とリディアはケーキについて話し合っている。
今後も新たな商品開発が進みそうだ。


「リディアは凄いな、次から次に商品が出てくる」
「売れるものは売らないと勿体ないですわ! スキルも店も腕も泣きましてよ!」
「そ、そうか」


守ってあげたくなる女性ではある。
だが、引き籠りなのに何時も激務職のリディアに、思わず苦笑いが出た。


「ここにいる皆、商売人さ」
「そうだね、忙しいけれど冒険者をしていた頃よりスリルがあって楽しいよ」
「売り切れっていうスリルだけどな」
「それだけ、道具店サルビアも含め、このナカース王国に根付いた証拠さ。だろう? カイル」
「そうですね。根深く根付かせたいところです」


そう言う言葉が出る時点で、俺も商売人か。


「色々案は出したいですけれど、そろそろ温泉へ入る時間ですわ!」
「一旦切り上げて、温泉に浸かりながら皆で考えようよ」
「それがいい!」
「ワシ等の作った皿やコップはどうじゃった?」
「イイ感じに噂になって客は皿見たさに入ってきてたりしてたよ」
「アンタ達もいい仕事してくれるねぇ!」


そう言って陶芸師の三人の肩を叩いて褒めたたえる調理師に、まんざらでもなさそうな表情をする陶芸師。
きっと、良いバランスなんだろうな。


「よし、俺達も温泉に入って明日に備えようぜ」
「そうしましょう」
「休みの日は是非、秘蔵の紅茶を頂きたいね」
「ええ、お出ししますわ」


こうして、忙しいながらも全ての店舗がオープンした。
後はゆっくり、深く、根付かせていけばいい。
笑顔溢れる店が増えれば国が元気になるように、俺達が沈んだこの場所を明るくするんだ。
そんな前向きな事を考えた二日後。
――こんな問題が起きようとは、誰が想像できただろうか?


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