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239 欲まみれのクウカ。
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――クウカside――
今日、父から店に出るなと言われた。
大事な客が来るからという話だったが、相手がカイル様であることは直ぐにわかった。
何とかしてもう一度箱庭に行き、疲労回復効果の高い温泉を出させてもらう術を教えて貰わないとこの先、ずっとやっていけない。
そう思っていたのに、俺の心を読んだかのように父は部屋に鍵を掛けて軟禁した。
これではカイル様に連れて行って貰えないと焦ったが、代わりにアカサギ商店を継ぐ兄が話し相手として同じように軟禁された。
「クウカ、お前は既に箱庭を開いている。それ以上何を望むんだ」
「俺は! 俺はファビーの持つ疲労回復効果の高い温泉を出さないといけないんだ! 負けっぱなしでいるなんて耐えられない!」
「何故負けだと思う」
「お城のお抱えになりたいからだ!」
「では、何故お前にその力が備わらなかったのか、理由は分かっているのか」
「それは……」
「理由も分からず喚くだけなら子供でも出来る。お前は理由を知っていて尚、喚こうというのか。恥さらしな」
「――っ」
俺は長兄である兄が苦手だった。
全てを見透かしたように動き、なんでも察しが良くって直ぐに父の右腕として成長した。
俺とナウカは兄の足元にも及ばなかった。
「お前の言うファビーと言う女性は、箱庭では先輩だったな」
「そうだ」
「だが、お前には先輩を敬う心さえ無いように思えるが?」
「だってズルいじゃないか」
「ズルい?」
「ファビーに出来て俺に出来ない事なんかない。ファビーは劣っているんだ。生まれも育ちも俺の方が上なのに、何故そんな薄汚れた元スラムのガキに俺が負けないといけないんだ!」
「それは、心で既に負けているからじゃないのか」
「心で……」
「ファビーと言う女性は元スラム女性ではあるが、心根を真っ直ぐに持ち、誰かを妬ましく思う事もなく、真っ直ぐな心を持った美しい女性なんだろう。故に、奇跡が起きたとも考えられる。対して、お前はどうだ?」
「……」
「先輩であるファビーの生まれを理由に見下し、ファビーが持っているなら俺も持てると何故か思い込んでいる。それこそ、思い違いではないのか?」
「そんな筈はない! 俺の方が、俺の方が!!」
「お前のどこが優れているというんだ?」
徹底的に心を折られる……。
兄は俺を冷めた目でジッと見つめ、その目からは逃げられない。
兄の持つ『鑑定士』のスキルの前では、俺の心など丸見えだと言わんばかりに――。
何とか反論しようとしたその時、鍵が開き、父がはいってきた。
「クウカ、ナウカはついに箱庭を開いたそうだよ」
「―――!」
「そして、それはお前の持つ箱庭とは正反対で、ナウカはこのままダンノージュ侯爵家で雇われ箱庭師になる事が決まった。カイル様はこれ以上ない笑顔で、今後も我が家との強い取引を希望された。ナウカは成功したね」
「その様ですね。ナウカはこちらには来なかったのですか?」
「クウカが煩く言ってくる事を見越していたのだろう。手紙だけ預かったよ」
「そうですか、ナウカは優しい子でしたので、商売人には向きませんでしたからね」
「父さん! ナウカの箱庭は、箱庭には――疲労効果の高い温泉が出たんでしょうか!」
「ああ、その事だが、無事にナウカの方では出たらしいよ」
「え……」
「小さな温泉が二つだけらしいが、それでも十分だとナウカは喜んでいたらしい。欲のないあの子だからこそ、カイル様は可愛がってくださるのだろう」
「素直な子ですからね。誰かとは違って」
「アスカ、それではクウカが欲まみれの愚か者のように聞こえるよ?」
「事実ですよ」
父と兄の言葉に言葉を無くし床に座り込むと、頭の中ではあのナウカが――あの何のとりえもない弟のナウカですら疲労効果の高い温泉を出したことにショックを受けていた。
なんの取り柄のない弟でさえ出せたのに、優れた俺には出すことが出来なかった。
「――リディア様の教えが悪かったんだ」
「「クウカ?」」
「リディア様の教えが悪くて俺には出なかったんだ! 責任を取らせる必要がある!!」
「何を馬鹿な事を言っているんだ。お前と私が頼んだのは、開かない箱庭の開き方を教えて欲しいと言うお願いをリディア様にしたに過ぎない。お前はちゃんと箱庭を開いた。それなのに責任を取らせるなど、罰が当たるぞ」
「罰が当たるのはあっちだ! 俺に恥を掻かせやがって!! この俺に、この俺に!!」
「ダンノージュ侯爵家のお陰で、しかもリディア様のお陰で大商店になったのに、それよりも自分の方が偉いとでも言いたいのか?」
「ああ、そうだとも!! 俺の為に尽くすのが礼儀だろう!? 女は傅いて俺の言う事を、」
「クウカ、それ以上言うのであればお前を廃嫡とする」
「は――?」
父の冷たい言葉に続く言葉を飲み込むと、父は今まで見たことのない怒りの形相で俺を見つめていた。
廃嫡……今父は、俺を廃嫡とすると言ったか?
何を馬鹿な事を。俺ほど優れた息子などいないだろうに!!!
「お前が一人で城へ売り込みに行くだけの度胸があるとは思わないが、お前を廃嫡しても我が家にはなんの痛手は無い」
「温泉と言う儲けを不意にするつもりですか!」
「その温泉があれば、平民相手に商売を一人ですることは可能だろう?」
「何を……言って」
「強欲で傲慢。悪意と横暴。それがお前の持つ悪い所だ。これ以上カイル様やリディア様の事を悪く言うのであれば、そして、これ以上疲労効果の高い温泉を望み続けて喚き散らすというのであれば、お前を即座に廃嫡とする。頭を冷やすことも出来ない、局面を見ることも出来ない者をアカサギ家に置いておくことは出来ない」
「父さん……兄さんからも何か、」
「お前は愚かだな」
「――!?」
「ナウカをダンノージュ侯爵家に取られた方が痛手だ」
「あ……」
「お前の価値は、然程ないのだよ」
「あ……嗚呼……やめろ、やめろ! 俺は、俺は!!」
信じていた。
自分の価値を。
信じていた。
自分の素晴らしさを。
無能な弟より優れた自分こそが、このアカサギ商店を更に発展させることが出来ると。
そう思っていたのに――!!!
「最後にカイル様からお前に伝言だ。自分の箱庭を大切にすることを心がけるようにとの仰せだった。リディア様を裏切ったお前に対する最後の言葉だろう。優しい方で良かったな」
「――……」
「もうお前はカイル様とは二度と会うことは無いだろうが、やっと開いた箱庭を粗末にする事はするんじゃないぞ」
そう言って父も兄も部屋を出ていった。
あんな箱庭になんの価値がある。
あんな箱庭に――……。
欲しかっただけの大金も貰えず、ファビーのつなぎに使われるような温泉になんの価値が……。
そう思うと悔しくて涙が止まらず、俺は蹲って泣く事しか出来なかった……。
今日、父から店に出るなと言われた。
大事な客が来るからという話だったが、相手がカイル様であることは直ぐにわかった。
何とかしてもう一度箱庭に行き、疲労回復効果の高い温泉を出させてもらう術を教えて貰わないとこの先、ずっとやっていけない。
そう思っていたのに、俺の心を読んだかのように父は部屋に鍵を掛けて軟禁した。
これではカイル様に連れて行って貰えないと焦ったが、代わりにアカサギ商店を継ぐ兄が話し相手として同じように軟禁された。
「クウカ、お前は既に箱庭を開いている。それ以上何を望むんだ」
「俺は! 俺はファビーの持つ疲労回復効果の高い温泉を出さないといけないんだ! 負けっぱなしでいるなんて耐えられない!」
「何故負けだと思う」
「お城のお抱えになりたいからだ!」
「では、何故お前にその力が備わらなかったのか、理由は分かっているのか」
「それは……」
「理由も分からず喚くだけなら子供でも出来る。お前は理由を知っていて尚、喚こうというのか。恥さらしな」
「――っ」
俺は長兄である兄が苦手だった。
全てを見透かしたように動き、なんでも察しが良くって直ぐに父の右腕として成長した。
俺とナウカは兄の足元にも及ばなかった。
「お前の言うファビーと言う女性は、箱庭では先輩だったな」
「そうだ」
「だが、お前には先輩を敬う心さえ無いように思えるが?」
「だってズルいじゃないか」
「ズルい?」
「ファビーに出来て俺に出来ない事なんかない。ファビーは劣っているんだ。生まれも育ちも俺の方が上なのに、何故そんな薄汚れた元スラムのガキに俺が負けないといけないんだ!」
「それは、心で既に負けているからじゃないのか」
「心で……」
「ファビーと言う女性は元スラム女性ではあるが、心根を真っ直ぐに持ち、誰かを妬ましく思う事もなく、真っ直ぐな心を持った美しい女性なんだろう。故に、奇跡が起きたとも考えられる。対して、お前はどうだ?」
「……」
「先輩であるファビーの生まれを理由に見下し、ファビーが持っているなら俺も持てると何故か思い込んでいる。それこそ、思い違いではないのか?」
「そんな筈はない! 俺の方が、俺の方が!!」
「お前のどこが優れているというんだ?」
徹底的に心を折られる……。
兄は俺を冷めた目でジッと見つめ、その目からは逃げられない。
兄の持つ『鑑定士』のスキルの前では、俺の心など丸見えだと言わんばかりに――。
何とか反論しようとしたその時、鍵が開き、父がはいってきた。
「クウカ、ナウカはついに箱庭を開いたそうだよ」
「―――!」
「そして、それはお前の持つ箱庭とは正反対で、ナウカはこのままダンノージュ侯爵家で雇われ箱庭師になる事が決まった。カイル様はこれ以上ない笑顔で、今後も我が家との強い取引を希望された。ナウカは成功したね」
「その様ですね。ナウカはこちらには来なかったのですか?」
「クウカが煩く言ってくる事を見越していたのだろう。手紙だけ預かったよ」
「そうですか、ナウカは優しい子でしたので、商売人には向きませんでしたからね」
「父さん! ナウカの箱庭は、箱庭には――疲労効果の高い温泉が出たんでしょうか!」
「ああ、その事だが、無事にナウカの方では出たらしいよ」
「え……」
「小さな温泉が二つだけらしいが、それでも十分だとナウカは喜んでいたらしい。欲のないあの子だからこそ、カイル様は可愛がってくださるのだろう」
「素直な子ですからね。誰かとは違って」
「アスカ、それではクウカが欲まみれの愚か者のように聞こえるよ?」
「事実ですよ」
父と兄の言葉に言葉を無くし床に座り込むと、頭の中ではあのナウカが――あの何のとりえもない弟のナウカですら疲労効果の高い温泉を出したことにショックを受けていた。
なんの取り柄のない弟でさえ出せたのに、優れた俺には出すことが出来なかった。
「――リディア様の教えが悪かったんだ」
「「クウカ?」」
「リディア様の教えが悪くて俺には出なかったんだ! 責任を取らせる必要がある!!」
「何を馬鹿な事を言っているんだ。お前と私が頼んだのは、開かない箱庭の開き方を教えて欲しいと言うお願いをリディア様にしたに過ぎない。お前はちゃんと箱庭を開いた。それなのに責任を取らせるなど、罰が当たるぞ」
「罰が当たるのはあっちだ! 俺に恥を掻かせやがって!! この俺に、この俺に!!」
「ダンノージュ侯爵家のお陰で、しかもリディア様のお陰で大商店になったのに、それよりも自分の方が偉いとでも言いたいのか?」
「ああ、そうだとも!! 俺の為に尽くすのが礼儀だろう!? 女は傅いて俺の言う事を、」
「クウカ、それ以上言うのであればお前を廃嫡とする」
「は――?」
父の冷たい言葉に続く言葉を飲み込むと、父は今まで見たことのない怒りの形相で俺を見つめていた。
廃嫡……今父は、俺を廃嫡とすると言ったか?
何を馬鹿な事を。俺ほど優れた息子などいないだろうに!!!
「お前が一人で城へ売り込みに行くだけの度胸があるとは思わないが、お前を廃嫡しても我が家にはなんの痛手は無い」
「温泉と言う儲けを不意にするつもりですか!」
「その温泉があれば、平民相手に商売を一人ですることは可能だろう?」
「何を……言って」
「強欲で傲慢。悪意と横暴。それがお前の持つ悪い所だ。これ以上カイル様やリディア様の事を悪く言うのであれば、そして、これ以上疲労効果の高い温泉を望み続けて喚き散らすというのであれば、お前を即座に廃嫡とする。頭を冷やすことも出来ない、局面を見ることも出来ない者をアカサギ家に置いておくことは出来ない」
「父さん……兄さんからも何か、」
「お前は愚かだな」
「――!?」
「ナウカをダンノージュ侯爵家に取られた方が痛手だ」
「あ……」
「お前の価値は、然程ないのだよ」
「あ……嗚呼……やめろ、やめろ! 俺は、俺は!!」
信じていた。
自分の価値を。
信じていた。
自分の素晴らしさを。
無能な弟より優れた自分こそが、このアカサギ商店を更に発展させることが出来ると。
そう思っていたのに――!!!
「最後にカイル様からお前に伝言だ。自分の箱庭を大切にすることを心がけるようにとの仰せだった。リディア様を裏切ったお前に対する最後の言葉だろう。優しい方で良かったな」
「――……」
「もうお前はカイル様とは二度と会うことは無いだろうが、やっと開いた箱庭を粗末にする事はするんじゃないぞ」
そう言って父も兄も部屋を出ていった。
あんな箱庭になんの価値がある。
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