【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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238 ナウカの温泉(下)

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――ナウカside――


翌朝、箱庭師のスキルを持つファビーとマリシア、ロニエルにリディア様が揃って、オレの箱庭を見に行く事になった。
正直不安しか無くて、胸を張れる程の勇気もない。
不安定な箱庭だったらどうしようと言う気持ちが大きくて、中々自分の箱庭に入る事ができないオレに、皆は寄り添ってくれた。
昨日、オレが想像したあの箱庭が出来ているんだろうか……思い描いた箱庭でなかったらどうしたらいいのか分からない不安が、少しずつ大きくなったその時、池鏡から眩しい光が現れると、オレの周りをグルグルと回ってから分裂して小さな光が俺の箱庭へと入って入った。
それはマリシアも同じだったようで、マリシアの箱庭にも小さな光が入っていき、皆で驚いた。

箱庭の神様が入りたくなるような箱庭が出来ているんだろか?

不安とは別に、期待が少しだけ出来ると、俺は大きく深呼吸してから箱庭に足を踏み入れた。
光りが消えて見えてきたのは――坂道だった。
坂の下には浅瀬の川があり、坂道を登っていくと昨日思い描いた長屋が見えてくる。
門には中くらいの鐘もあり、鐘の音を鳴らす紐がついた棒は子供の背丈では届かない位置にあった。
門と長屋は繋がっていて、両脇には靴箱も沢山並んでいる。
そして沢山入れるトイレも備え付けられていた。
まずは門の奥へと入ると大きな中庭があって、太く大きな木々と中央にある浅瀬の湧き水で出来た池に、箱庭の神様がフワフワ浮いては中に入ったりして遊んでいるように見える。
砂場に遊具は想像したものが作られていて、ブランコやすべり台、鉄棒と言った遊具も置いてあった。
中庭に出れるように作られた廊下に、部屋一つ一つの前にある小さな畑には花が咲き誇っている。きっと大きめの花壇だろうと言うのは分かった。


「なんだか懐かしいわ……」
「そうですね、なんだか懐かしい気分になる場所です」
「帰ってきたって気持ちになりますわね。知らない場所なのに何故かしら?」


それはオレも不思議に思っていた事だ。
初めて来た場所なのに、何故か懐かしく感じる。
帰ってきたと何故か思えるような……不思議な場所だった。

オレが強く考えた、居場所と言うキーワードが関係しているんだろうか?
懐かしいのに安心する場所……そう言う箱庭なのかもしれない。

教室は沢山あって、薬師室と書かれた部屋にはベッドも用意されていた。
ミレーヌさんの箱庭にあった薬師室と同じ作りでホッとしたが、ポーションを入れる棚や薬を入れる棚もあって、怪我をする子供の為にと思ったことがちゃんとできていて安心した。

部屋は多くあり、0歳から12歳までの子供が充分に生活できるだけの部屋数はあった。
それだけでもホッとするのに、中庭の外廊下からは別の廊下が繋がっていて、その奥へ行くと大きめの教室があった。
中を開くとそこは温泉になっていて、男湯と女湯に分かれていたし、脱衣所も十分の広さがあった。
その温泉がある裏庭方面には山があって、山への短い坂道をのぼると、そこには畑が広がっていた。
その畑をぐるりと回るように、たわわに実った桃やリンゴの木が生えていて、これは託児所にいる子供達のオヤツになりそうだなと苦笑いが零れた。

畑には芋の蔓が伸びていて、きっと成長している状態だろう。


「この木と畑に関しては、リディア様の畑と同じなのか確認しないとですね」
「そうね、腐ってしまう可能性もあるから」
「でも、2時間で新しい実が出来る可能性も」


そんな話をしながら降りると、広々とした廊下に大きな教室、気温は過ごしやすい春の様な陽気に柔らかい風が吹いていた。
オレの素朴で優しい箱庭を見て思ったことは、クウカの箱庭との違い。


「確かにこの箱庭を商売には出来ませんね」
「そうね、商売向きではないわね」
「でも、クウカの箱庭よりはナウカの箱庭の方が私は好きだわ」
「私もです。帰ってきたような何と言うか、落ち着ける気分になります。こう……満足感っていうんでしょうか?」
「何故か分からないけど、安心するわ」
「安心感よね」
「ナウカの優しさが詰まってるみたい」


マリシアの最後の一言にオレはやっと心配事から解放されたような、ホッと安堵の息を吐けた。
もし本当にオレの優しさが詰まっているのなら、どうか誰も寂しい思いをしない箱庭だと良い……。
多くの子供達が外でも遊べるような広場もあって安心したところで、リディア様は手をパンと鳴らしてオレを見た。


「ナウカ! 箱庭おめでとう!」
「おめでとうナウカ!」
「おめでとう!!」
「つきましては、ナウカをダンノージュ侯爵家で雇おうと思います! 月金貨2枚でどう?」
「やらせてもらいます!」
「決まりね! ナウカのお父様にもご連絡して契約を結ぶことを話さないとね」
「はい!」
「ナウカも一度ご実家に帰って報告する?」
「いいえ、兄が煩いでしょうからオレは帰りません」
「そう……。では言伝があったら言ってね」
「はい」


こうしてオレ達は箱庭から出ると、夜はお祝いしようとリディア様が言って下さったお陰で小さなお祝いの席が設けられた。
そして、既に箱庭からいなくなった兄を含め、弟子全員が箱庭を開けることが出来た祝いも兼ねていて、ここに兄が居たらどんなことを言っただろうかと創造したが、余り碌な事を言いそうにないなと少しだけ溜息が零れた。


「どうしたのよ、ナウカ」
「マリシア、なんでもないよ。ただここに兄が居たらなんていったかなって思っただけ」
「クウカの箱庭も確かに立派だったわ。でも私はナウカの箱庭の方が好きよ」
「ありがとう」
「ただ、改めて思ったことはあるわ」
「ん?」
「自己利益の為の箱庭と、人の為の箱庭では随分と空気が違うのね」


そう言ってジュースを飲むマリシアに、確かに兄の箱庭は豪華絢爛だったけれど、ただそれだけだったように思える。
ファビーの様な気持ちが和らぐ空気でもなく、マリシアのような女性の癒しの為と言う空気もなく、オレの帰ってきた様な安心感のある空気でもなかった。


「クウカの箱庭は、威圧感だけはあったわよ?」
「威圧感ですか?」
「傲慢だったのね、アイツ」
「ははは」


兄さん、バレてますよ。


「だからナウカの箱庭が好き。リディア様の箱庭みたいに優しさに溢れていて気持ちが良かったわ」
「そう言って貰えると嬉しいよ」


人に優しくありたいという気持ちが強いオレは、商売人には向かない性格だった。
父もその事を心配していたのを思い出す。
誰かの役に立ちたいと思う事は悪い事ではないけれど――商売として成り立つのは難しい。
だからこそ、ダンノージュ侯爵家で雇われる箱庭師になる事は、有難い事だった。


「ナウカ」
「ん?」
「貴方は尊い人だと思うわ。自信をもってね」
「……ありがとう」


マリシアの言葉に、心が少しだけ楽になった……そんな夜だった。
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