9 / 71
クリーニングは徹底的に
しおりを挟むどんよりと曇る空。
じめじめとした空気。
重いブレザーを脱いだ制服は、外気とは違う空気にさらされ少し肌寒い。
つーかいくら湿気対策とはいえ冷房効きすぎなんじゃねえのかコレ。
オレの他にも何人か寒そうにしているし、女子に至ってははにわスタイルだから体調を崩したとかではないはずだ。
鼻がむずむずしてきた。
「っくしゅッ」
あー、クソ、くしゃみ出た。
セーターの上から冷えた腕をさすると。
「うお!?」
頭上からの衝撃に思わず目を瞑ってしまう。
見ると、首元に纏わりつく見覚えのあるクリーム色。
そのまま肩口を通過したのはまぎれもなく学校指定のセーター。
「何すんだよ?」
いきなりセーターを被せてきやがったのは後ろの席の変態。
徐に脱いだ高塚に女子から黄色い声が上がった事など知らない。
「だってそんな可愛いくしゃみなんかするから!」
「可愛いは余計だ!つーか、なんだよコレ?」
「寒いかと思って。暖かい?」
にこーと聞いてくる高塚に無言でべしりと叩き付ける勢いで投げる。
こんなんいらね。
「酷いっ、オレの優しさ受け取れないっつーの!?」
「熨斗付けて返してやる!」
「なんだよー別に森に着せてその後匂い嗅いじゃおうとか永久保存しようとか思ってるわけじゃないのにー」
「下心自分で暴露してどうすんだバカかアホか!?つーかそんなん余計にいらんわ!」
ぶつぶつと、恐らくは心の中で呟いたであろうセリフに寒気が走る。
着たとしてオレの匂いが移るかどうかは謎だが行為自体が大問題だ気持ち悪い。
しね、あほ、変態、と。
暴言吐きまくるオレに周囲は大ブーイング。
「素直に受け取ってやれよなー森ィ」
またお前か佐木。
黙れまっぴらごめんだ。
「高塚くん可哀想、私なら遠慮なく借りちゃうのに~」
可哀想なのはオレだこのやろう。
皆して高塚の味方しやがって。
「ほらほら、みんなもこう言ってんだから素直に借りちゃいなってー」
「いらね、ジャージ着る」
と、ごそごそとロッカーを漁ったのだが。
「あ」
ロッカーの中を見て固まる。
(……やっべ、ジャージ置きっぱだ)
週末に持って帰ってそのまま。
幸い今日は体育がないので良かったのだが、しまった。
「もーりーちゃん、ジャージどうしたのかなー?」
「……」
背後から覗き込んできて、目当てのものがない事に気付いているのだろう。
にまにまと言われたセリフにひくりと引きつる。
ちくしょう、こうなったら意地でも借りてやるものか。
くるりと振り返り、間近すぎる程の距離にいる奴を押しのけ石野を見る。
「石野、ジャージ忘れた貸してー」
「はあ?」
あからさまに何でオレがという顔をするも、次の高塚の叫びに発した声は全て吸い込まれた。
「!!!ダメ―――ッ!!石野の着るくらいならオレが身体で暖める!!」
「っ、アホかああああ!!!」
女子の奇声と男子の笑い声。
バッとワイシャツのボタンを外して抱き付いて来ようとする高塚から全力で逃げる。
両手をわきわきとさせじりじりと寄ってくるのがまた怖い。
「逃げんなよ森、さあ胸に飛び込んでおいで!」
「ザケんな!肌晒してんじゃねえよ目潰れる!」
「おおい、オレのこの魅惑のボディになんてことを!」
「ぬぁぁにが魅惑だ目腐ってんじゃねえの!?って近寄んじゃねえええ!!」
「ああもうその怯えた涙目超そそる!もっと泣かせてえええ……っ」
「しね!!」
目がヤバイ目がヤバイ。
なんだかかなり据わっていませんか高塚サン。
涎を垂らすなすするな!
「さあさあカモン森!」
「い、」
嫌だ、と拒否しようとしたのだが。
「っくしょいッ!!!っあ゛ーッ」
再度くしゃみが出て皆まで言えなかった。
その隙に。
「隙あり!」
「ぎゃああああ!!!」
「はい、ぎゅっ」
「やめっ、ちょ……っ」
ぎゅうっと半裸の変態に抱き締められ素肌が触れる。
いやいやいやないないない、男の肌なんか触ったところで全然全くこれっぽっちも楽しくないからむしろ鳥肌もんだから離してくれっつーか離れろこの変態!
「離せ!」
「じゃあー、オレとー、オレのセーターとー……あ、セーター嫌なんだっけ?じゃあオレのジャージとー、どっちが良い?」
「石野のジャージが良い!」
というかもうこの際こいつ以外の奴なら誰でも良いと思ったのだが石野はあっさり拒否。
「あ、悪いオレの今洗濯中」
「なっ!?」
「はいっ、つーワケで問答無用でオレな。ほーら暖かい。授業中もずっと暖めてやるからな」
「っ、っ、ジャージで良いジャージで!つーか、ジャージが良いです!」
うきうきと語尾を上げて言う奴に、こいつならやりかねないと身の危険を感じ。
ならばこのまま抱き締められ続けるよりは素直にジャージを借りた方が何倍も何百倍もマシだ。
自分のセリフに責任?
んなもん今のオレには取れません。
「じゃあいっちょ貸してってお願いしてみようか」
「は!?」
「ジャージが良いんだよなー?じゃあちゃんとお願いしないとね」
「……っ」
こ、コイツ……!
「ほら、早くしないと先生来ちゃうよ?」
「っ、っ、」
拘束されたまま間近で目を覗き込まれる。
楽しくてしょうがない、みたいな目しやがってほんとムカつく。
「もーりーちゃん」
「…………………………せ」
ぼそりと呟いた言葉はこの距離なら確実に聞き取れているはずなのに。
「んー?聞こえねえなあ」
すっとぼけやがった。
耳が遠くなってしまったんでしょうかねこの変態さんは!
短気は損気とわかっているのだが、ついうっかりヤケクソになってしまった。
「っ、ちくしょう!貸せっつってんだよ!」
「わー上から目線ー」
「か、し、て、く、だ、さ、い!」
「喜んで」
敬語プラス一字ずつ区切ってやると、ハートを飛び散らさんばかりの甘ったるい声と笑顔でいつの間に出したのかジャージを肩に掛けてくる。
「……自分で着れる」
「うん」
ギロリと睨みつけるも笑顔でさらりとかわされ。
若干ブチ切れながらしぶしぶと手を通す。
身長差が僅かだがあるので想定はしていたが、ムカつくことにデカイ。
オレ自身ワイシャツにセーターを着ているのに、余裕で入る。
まあ大きめのをだぼっとして着ているからデカイのは当然かと無理矢理に納得。
変態のものだというのが大変不本意なのだが暖かいのは確かだからまあいっか。
そんな事を思っていると、
「イイ!イイね凄くイイよそのぶかぶか具合!超可愛い彼氏の服着ちゃいましたって感じが超イイね!グッジョブオレ!」
「…………」
鼻を押さえ逆の手で親指を立てる変態に、即座にセーター同様ジャージを脱ぎ捨てたくなったのは言うまでもない。
その後、授業中にぼそりと放たれた石野の一言。
「つーか、どっちも拒否りゃ良いのに」
「……………あ」
end
15
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる