高塚くんと森くん

うりぼう

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クリーニングは徹底的に

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どんよりと曇る空。
じめじめとした空気。

重いブレザーを脱いだ制服は、外気とは違う空気にさらされ少し肌寒い。

つーかいくら湿気対策とはいえ冷房効きすぎなんじゃねえのかコレ。
オレの他にも何人か寒そうにしているし、女子に至ってははにわスタイルだから体調を崩したとかではないはずだ。
鼻がむずむずしてきた。

「っくしゅッ」

あー、クソ、くしゃみ出た。
セーターの上から冷えた腕をさすると。 

「うお!?」

頭上からの衝撃に思わず目を瞑ってしまう。
見ると、首元に纏わりつく見覚えのあるクリーム色。
そのまま肩口を通過したのはまぎれもなく学校指定のセーター。

「何すんだよ?」

いきなりセーターを被せてきやがったのは後ろの席の変態。
徐に脱いだ高塚に女子から黄色い声が上がった事など知らない。

「だってそんな可愛いくしゃみなんかするから!」
「可愛いは余計だ!つーか、なんだよコレ?」
「寒いかと思って。暖かい?」

にこーと聞いてくる高塚に無言でべしりと叩き付ける勢いで投げる。
こんなんいらね。

「酷いっ、オレの優しさ受け取れないっつーの!?」
「熨斗付けて返してやる!」
「なんだよー別に森に着せてその後匂い嗅いじゃおうとか永久保存しようとか思ってるわけじゃないのにー」
「下心自分で暴露してどうすんだバカかアホか!?つーかそんなん余計にいらんわ!」 

ぶつぶつと、恐らくは心の中で呟いたであろうセリフに寒気が走る。
着たとしてオレの匂いが移るかどうかは謎だが行為自体が大問題だ気持ち悪い。

しね、あほ、変態、と。
暴言吐きまくるオレに周囲は大ブーイング。

「素直に受け取ってやれよなー森ィ」

またお前か佐木。
黙れまっぴらごめんだ。

「高塚くん可哀想、私なら遠慮なく借りちゃうのに~」

可哀想なのはオレだこのやろう。
皆して高塚の味方しやがって。

「ほらほら、みんなもこう言ってんだから素直に借りちゃいなってー」
「いらね、ジャージ着る」

と、ごそごそとロッカーを漁ったのだが。

「あ」

ロッカーの中を見て固まる。

(……やっべ、ジャージ置きっぱだ)

週末に持って帰ってそのまま。
幸い今日は体育がないので良かったのだが、しまった。

「もーりーちゃん、ジャージどうしたのかなー?」
「……」

背後から覗き込んできて、目当てのものがない事に気付いているのだろう。
にまにまと言われたセリフにひくりと引きつる。

ちくしょう、こうなったら意地でも借りてやるものか。

くるりと振り返り、間近すぎる程の距離にいる奴を押しのけ石野を見る。

「石野、ジャージ忘れた貸してー」
「はあ?」

あからさまに何でオレがという顔をするも、次の高塚の叫びに発した声は全て吸い込まれた。

「!!!ダメ―――ッ!!石野の着るくらいならオレが身体で暖める!!」
「っ、アホかああああ!!!」

女子の奇声と男子の笑い声。
バッとワイシャツのボタンを外して抱き付いて来ようとする高塚から全力で逃げる。
両手をわきわきとさせじりじりと寄ってくるのがまた怖い。

「逃げんなよ森、さあ胸に飛び込んでおいで!」
「ザケんな!肌晒してんじゃねえよ目潰れる!」
「おおい、オレのこの魅惑のボディになんてことを!」
「ぬぁぁにが魅惑だ目腐ってんじゃねえの!?って近寄んじゃねえええ!!」
「ああもうその怯えた涙目超そそる!もっと泣かせてえええ……っ」
「しね!!」

目がヤバイ目がヤバイ。
なんだかかなり据わっていませんか高塚サン。
涎を垂らすなすするな!

「さあさあカモン森!」
「い、」

嫌だ、と拒否しようとしたのだが。

「っくしょいッ!!!っあ゛ーッ」

再度くしゃみが出て皆まで言えなかった。

その隙に。

「隙あり!」
「ぎゃああああ!!!」
「はい、ぎゅっ」
「やめっ、ちょ……っ」

ぎゅうっと半裸の変態に抱き締められ素肌が触れる。

いやいやいやないないない、男の肌なんか触ったところで全然全くこれっぽっちも楽しくないからむしろ鳥肌もんだから離してくれっつーか離れろこの変態!

「離せ!」
「じゃあー、オレとー、オレのセーターとー……あ、セーター嫌なんだっけ?じゃあオレのジャージとー、どっちが良い?」
「石野のジャージが良い!」

というかもうこの際こいつ以外の奴なら誰でも良いと思ったのだが石野はあっさり拒否。

「あ、悪いオレの今洗濯中」
「なっ!?」
「はいっ、つーワケで問答無用でオレな。ほーら暖かい。授業中もずっと暖めてやるからな」
「っ、っ、ジャージで良いジャージで!つーか、ジャージが良いです!」

うきうきと語尾を上げて言う奴に、こいつならやりかねないと身の危険を感じ。
ならばこのまま抱き締められ続けるよりは素直にジャージを借りた方が何倍も何百倍もマシだ。

自分のセリフに責任?
んなもん今のオレには取れません。

「じゃあいっちょ貸してってお願いしてみようか」
「は!?」
「ジャージが良いんだよなー?じゃあちゃんとお願いしないとね」
「……っ」

こ、コイツ……!

「ほら、早くしないと先生来ちゃうよ?」
「っ、っ、」

拘束されたまま間近で目を覗き込まれる。
楽しくてしょうがない、みたいな目しやがってほんとムカつく。

「もーりーちゃん」
「…………………………せ」

ぼそりと呟いた言葉はこの距離なら確実に聞き取れているはずなのに。

「んー?聞こえねえなあ」

すっとぼけやがった。
耳が遠くなってしまったんでしょうかねこの変態さんは!

短気は損気とわかっているのだが、ついうっかりヤケクソになってしまった。

「っ、ちくしょう!貸せっつってんだよ!」
「わー上から目線ー」
「か、し、て、く、だ、さ、い!」
「喜んで」

敬語プラス一字ずつ区切ってやると、ハートを飛び散らさんばかりの甘ったるい声と笑顔でいつの間に出したのかジャージを肩に掛けてくる。

「……自分で着れる」
「うん」

ギロリと睨みつけるも笑顔でさらりとかわされ。
若干ブチ切れながらしぶしぶと手を通す。

身長差が僅かだがあるので想定はしていたが、ムカつくことにデカイ。
オレ自身ワイシャツにセーターを着ているのに、余裕で入る。
まあ大きめのをだぼっとして着ているからデカイのは当然かと無理矢理に納得。

変態のものだというのが大変不本意なのだが暖かいのは確かだからまあいっか。
そんな事を思っていると、

「イイ!イイね凄くイイよそのぶかぶか具合!超可愛い彼氏の服着ちゃいましたって感じが超イイね!グッジョブオレ!」
「…………」

鼻を押さえ逆の手で親指を立てる変態に、即座にセーター同様ジャージを脱ぎ捨てたくなったのは言うまでもない。

その後、授業中にぼそりと放たれた石野の一言。

「つーか、どっちも拒否りゃ良いのに」
「……………あ」




end
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