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諸悪の根源
しおりを挟む「よー森!昨日の居残りデートはどうだった?」
「は?」
今朝は運良く通学途中であいつに会わず、さい先良いなあ、なんて思い教室に入った途端掛けられた佐木のセリフに思い切り眉を寄せる。
お忘れの方は思い出して欲しい。
席替えの時、あの変態の前という最悪なポジションから逃れる絶好のチャンスを見るも無惨に砕いた男が、こいつ、佐木である。
忘れてないぞあの恨み。
「は、じゃねえよ高塚と二人っきりだったんだろ?」
なあなあ何か進展あった?
なんてうきうきと問われてキレそうになる。
絶対おもしろがっている絶対オレが嫌がるってわかっていやがる。
「二人っきりならなんかあるんか男と二人っきりだからってなんかあると思うのかお前は」
「だって高塚とお前だろ?あるかもしんないじゃん」
「ねえよ!」
かもしれないって何だ。
かもも何もない。
あってたまるか。
いや、まあ、キスはされそうになったけれど未然に防げたし。
あれは本当に危なかった。
もし一秒でも反応が遅れていて。
万が一、億万が一、例え一瞬でも口が触れていたらオレ今日学校来てない。
そしてあいつもただでは済まさない。
言いながら席へと移動し、どっかりと座る。
佐木は後を付いて来て、まだ来ていない石野の机に腰を預け話を続けた。
「なんだよねえの?全く?」
「ねえよ!」
「つまんねえのー」
「それが普通だろうが」
そもそも向こうが勝手に言い寄ってきているだけで、こちらにソノ気がないのだから進展などするはずもないのに一体何を期待しているのか。
つーか高塚となんて考えられない。
想像しただけで気持ち悪い。
「でもさ、高塚だったら良いんじゃね?」
「は!?」
いきなりそんな事を言いやがった佐木に、そっちの趣味でもあったかと目をひん剥く。
「だって考えてもみろよ。その辺に転がってるむさ苦しくて汗臭くてぶっさいくな奴より、何気に良い匂いして爽やかで十人中十人がカッコイイって認める高塚のが万倍マシじゃね?」
あれだけ人目も憚らずに下ネタを言いまくって最低な妄想垂れ流してところかまわず襲いかかってくるやつの、どこが爽やかなんだ。
どう爽やかなんだ。
爽やかっつーのはもっと、こう、例えば太陽が似合いそうなサッカー少年の事を言うのではないか(偏見あり)
つーかあんな奴ただの変態で十分だ。
「えー、アリだと思うけどなあ」
「じゃあお前は男相手に公衆の面前で告られた挙げ句玄関でナニを押し付けられて迫られて頬染められるっつーのか、あ?」
「いや、うん、まあオレがされたらドン引きだけど。所詮人事だし」
「ああそうだよなそういう奴だよお前は……」
実際やられた事を切に訴えつつ言うと、へらりと笑われさっくりと切られた。
人の不幸は密の味ってか。
冗談じゃない。
「つーか、さ」
「あ?」
意味ありげに言いながらいそいそと真横に立ち。
がっくりとうなだれた肩を抱かれ、内緒話でもするように覆い被さってきた。
「……何だよ」
異様に顔が近い。
以前下駄箱で変態に詰め寄られた時程の嫌悪感がないのは、身の危険を感じないからだろう。
少なくともキスされる心配はない。
「な、どうだった?」
「は?何が?」
「だーかーら、高塚のだよ」
「は?」
こそこそと問われた事に首を傾げる。
高塚のって、
「押し付けられたんだろ?やっぱデカかった?」
「ぶ……ッ!?」
そ、そういう事か……!
思わず吹き出す。
まさかそんな事を聞かれるとは思わなかった。
「おま、そんなん聞いてどうすんだよ!?」
「やっぱ気になんじゃん同じ男としてはさ!」
「アホかあああ!!」
叫びながら手を振り解きガタガタと大きな音を立てて椅子ごと横を向き、窓を背に佐木に人差し指を向ける。
「つか、アホだろお前!?ばっかじゃねえの!?んな事に興味持つなよ!」
「アホだよバカだよだからさっさと教えろよ」
「っっ、覚えてねえ!!」
つーかもう恥ずかしい!
別にカマトトぶるわけではないけど、朝っぱらからする話題じゃないだろコレ!?
かっかっ、と頬どころか耳にまで熱を感じて余計に恥ずかしい。
と、ちょうどそこで入り口付近がざわついた。
嫌な予感。
後ろの席だから、顔を上げると自然にドアのところに視線がいく。
「……っ」
予感的中。
ドアのところには高塚がいて、ばっちりと目が合ってしまった。
目尻を下げるな。
無駄に花を飛ばすな。
次に来る行動が読めてしまうあたりが悲しい。
案の定、大手を振ってドアから席までの短い距離を全力疾走してきやがった。
「わお、瞬間移動」
感心してぽつりと呟く佐木。
ほんとにそんな感じ。
それに苦笑いを浮かべる間もなく高塚の腕の中へ。
「もーりー!」
「抱きつくなっつってんだろうがあああ!!!」
「おっはよー!寂しかった?ねえ寂しかったオレいなくて!ごめんな、今日寝坊しちゃってさ!」
「人の話聞け!つーかもう一生寝てろよ!いつになく清々しい朝だったっつーの!オイ、離れろ!」
なんとか離れようとするのに今日は中々離れてくれない。
にまにまとこちらを見つめる佐木が憎い。
「つーか森ちゃん耳まで超真っ赤。どうしたの?かわいー、舐めて良い?舐めて良い?」
「ダメに決まってんだろうが!!」
「あー」
「っ!?」
大きく開かれた口が耳元に近付く。
実際に舐められはしなかったけれど、生温かい吐息に身体がふるりと震えてしまったのを、高塚が敏感に感じ取る。
というか嫌でもわかるだろうこんだけ密着していたら。
「あれ、森ちゃん感じちゃった?」
からかうように言ってくるのがまたムカつく。
感じてるわけがないだろうがふざけてんのかこの変態クソ野郎。
「ばかかお前、鳥肌だ鳥肌!めっちゃ寒気したっつの見ろよこの腕!」
ばばっと袖を捲って高塚に見せる。
所狭しとぶつぶつが広がる様子は我が腕ながら気持ち悪い。
「うわあ、すげえな」
「誰のせいだ」
「大丈夫!オレ森の腕ってだけでおかずに出来るし!責任は取る!」
「いらねえええ!!!」
てゆうかホントにいい加減離れてくんねえかなコイツ!
ああもうこうなったら誰でも良いから助けてくれよ。
そう思うのに、クラスの連中はもっとやれとはやし立てるか羨ましげな視線を寄越すのみ。
「おー?なんだなんだ朝っぱらからお熱いねえお二人さん」
「助けろよ!」
「やだ。めんどい」
「石野おおおお!!!」
頼みの綱の石野ですらこの調子だ。
ちくしょうみんな大っ嫌いだ!
「え?オレは?」
「黙れ元凶お前が一番嫌いだバカヤロオオオオオ!!!」
結局先生が教室にやってくるまで、どれだけ殴るなり蹴るなりしても奴は離れてくれなかった。
清々しく過ぎるはずだった朝を返せこのやろう。
end
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