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未知との遭遇
しおりを挟むきっかけがきっかけだっただけに嫌いとまではいかないけれど、あまりお近づきにはなりたくなくて。
散々拒否していた割には触れられる事にも慣れてしまい。
事故ではあったがキスをされても許してしまい。
(これってやっぱ絆されてんだよなあ)
習うより慣れろとどこかで聞いた事があるが、まさにその通りだと実感している。
それどころか。
「あー……」
あいつを。
同じ男であるあいつを可愛いと思う時が来るだなんて。
「うわあああ」
だって思ってしまったんだ。
気まずくなってしまったあの時。
堪えるように自分の両手を握り締めているところだとか。
向こうからは遠慮なしにガンガンくっついてくるくせに、こっちから向かっていくと照れて固まってしまうところだとか。
かわいい以外の何物でもないだろう。
(って何考えてんだよオレはああああ!!!)
いつになく偏る思考。
自分で自分に突っ込みを入れ頭を抱える。
これも全ては変な事を言ったあの先輩のせいだと、数日前の出来事を思い出した。
*
「森ってお前だよな」
「……はい?」
それはなんとはなしに廊下を歩いていた時だった。
突然声をかけてきたのは見覚えのない人物だったが、向こうは自分を知っているようで。
初対面の相手にお前呼ばわりされて少しむかっとしたが、どうやら上級生のようだったので文句は言わず。
「話があるんだ。ちょっと付き合って」
断る間もなく、その人物はすたすたと先を行ってしまったので、仕方なしに着いていった。
ここで無視していれば、こんな事で悩まなかったかもしれないのに。
後悔先立たずとはまさにこのこと。
しかし、一体この先輩は何の用なのだろうか。
いくら考えても接点が見当たらない。
着いた先は使うことの少ない選択教科の教室。
そして着いた途端にぎろりと敵意剥き出しで睨まれたと思ったら。
「お前」
「……」
「どうやって羽島の心掴んだんだよ!?」
「…………………はい?」
そう言われた。
え?は?羽島ってあの羽島先輩の事だろうか。
心掴んだとか全くもって心当たりがないのだが。
いや告白はされたけど二度とも断ってるし。
あんな思い切りゴミ箱で殴りつけ蹴りつけられてもまだオレが好きだとしたら相当おかしい。
……約一名そんな奴はいるが。
「どうなんだよ!?」
「いや、あの、そもそも掴んでないんで」
「でも告白されたじゃねえか!」
えーと。
つまり何だ。
そんな事言われたらさすがにオレでもわかる。
この先輩はあの先輩が好きなのか。
マジかよ高塚といいこの先輩といい
(……なんて物好きな)
そう思ってしまうのは仕方がないのではないだろうか。
どうなんだどうやったんだオレにも教えろよと詰め寄る先輩に、うんざりとしながらもどう答えれば良いのかわからず困惑する。
ていうか初対面だよな、オレ先輩の名前すら知らないんですけど。
(あー早くチャイム鳴らねえかなあ、それか誰か知り合い通れー)
そうすればさっさとこの場から逃げ出せるのに。
そう思っていると、望んだものはすぐ後にやってきた。
「雨宮!」
「!」
オレの後ろの方からかかる声に先輩がびくりと震える。
「は、羽島」
「何やってんだよお前!」
「いや、これは」
しどろもどろになる雨宮と呼ばれた先輩。
さっきまでの勢いはどこに消えちまったんだ。
「森、大丈夫か?変なことされてないか?」
「……はあ、まあ」
変な事を言われはしたが、されてはいない。
「するわけねえだろこんなちんちくりんに!」
「誰がちんちくりん……!」
「雨宮ああああ!森はちんちくりんじゃないって言ってるだろ!?」
雨宮の言葉にカチンときたが、すぐさま羽島の怒鳴り声でかき消された。
「な、なんだよ!お前まだこいつの事好きなのか!?」
「そんなの雨宮には関係ないだろ!」
「ある!オレはお前が好きなんだから!」
「だからそういう事を大声で言うなああああ!」
「……」
あれ、なんだろうこれ。
痴話喧嘩にしか見えないんだけど。
どこかで聞いた事があるやりとりだなあと心の隅で思う。
もはや空気と化してしまっている自分の存在。
こっそりと逃げてしまっても構わないのではないかと一歩足を踏み出したが。
「森!」
「……っ」
腕を取られ羽島に呼び止められた。
この先輩には嫌な思い出しかないから眉間にしわが寄ってしまう。
「あ、ごめん」
咄嗟に掴んでしまったのだろう、慌てて腕を離す羽島。
……この前までとどこか違う気がする。
「……先輩?」
「あの、オレ、謝りたくて」
「え?」
謝る?
何を?
「………無理矢理迫ってごめん。気持ち悪かったよな?オレ、すげえ焦ってて」
「……」
「でも、ちょっと色々あってさ、初めて森の気持ちがわかった。本当にごめん!」
がばりと膝に付きそうな勢いで頭を下げる羽島に目が点になる。
オレの主張なんて聞こえていないような勘違いぶりを披露していたというのに、色々とは一体何があったのだろうか(※番外編の羽島先輩と雨宮先輩参照)
気にはなったが、確実に雨宮絡みだろうから聞かない事にしよう。
知らない方が良い事もある。
「本当に、森の事は諦めるから、雨宮も、いちいち森につっかかるなよ」
軽く雨宮を小突きながら言う羽島に、本当に諦めてくれるんだと謝罪を受け入れようとしたのだが。
「それに、森が高塚の事好きなのは見てればわかるだろ?」
雨宮に対してのセリフに固まった。
「…………は?」
「え?」
「え?」
「………え?もしかして、気付いてない?」
「は、はああああああ!?」
何言ってんだと目をひん剥くオレに、嘘だろと言わんばかりの反応。
気付いてないってなんだ。
気付いてないも何も!
「す、好きじゃねえし!」
敬語も忘れて言い返してしまった。
「え、いやマジで?あんなに頼ってたのに?」
「オレてっきりもう付き合ってるのかと」
「付き合ってない!」
前からオレ達を知っている羽島はともかく、初対面の雨宮にまで口々にそう言われ、再び否定しようとしたところで新たな闖入者が現れた。
「あー!」
「っ!」
後ろから聞こえる声。
顔を見ていないけれど振り向かなくてもわかる。
あいつだ、高塚だ。
「また!もう森に近付くなって言っただろ!?」
ダッシュで寄ってきてオレを後ろに隠すように立つ。
「あ!?テメェ羽島に文句あんのかよ!?」
「あるに決まってんじゃん!」
「ちょっ、もう!雨宮は黙ってろよ!」
羽島につっかかり、それを庇う雨宮と言い合っているが、内容が頭に入ってこない。
なんだって?
なんて言った?
『高塚を好きなのは』
オレが
『見てればわかる』
こいつを
『気付いてない?』
……好き?
「――――ッ!!!」
ぐわわ、と熱が上がる。
顔が熱い。
違う、そんなはずない。
いや、ないわけじゃない、嫌いなわけじゃないけれど。
「あれ、森ちゃん顔赤いよ?どうかした?」
「っ、ななななんでもない!」
「やっぱりこいつらになんかされたの!?」
「違うから!もう行くぞ!」
「え?あっ」
違う。
そういう意味での『好き』じゃないはずだ。
絶対に違う。
そうは思っても、中々顔の熱は引かず。
完全に無視して置き去りにした二人の先輩が、一人は憎々しげに、もう一人は複雑そうに、だけど微笑ましく見送っていた事も。
(ももも森ちゃんが、手!手!)
咄嗟に高塚の手を握り締めて歩いていた事すらも自覚をせず、ただひたすらに教室までの道のりを急いだ。
end
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