69 / 71
番外編(恋人編)
あとは二人で
しおりを挟む高校を卒業して早一年が経った。
オレはバイトをしながら気ままな大学生、そして高塚はというと……
「見て見て!高塚くんの新しいポスター!」
「カッコイイー!!」
奴はカフェでのバイト時代にスカウトされ、なんとなんと芸能界デビューというものを果たしてしまった。
今はまだモデルさんのような仕事が多く、雑誌にちょこちょこ出たりしているだけだか、いやまあそれでも十分凄いが、事務所的にはこれからもっともっと大々的に売り出す予定らしい。
「ほうほう、それで全然会えてなくて寂しいと」
「ばっ、だ、誰も寂しいなんて言ってねえだろ!!」
「へーえ、寂しくないんだ?へーえ、あいつが聞いたら泣き出しそうだな」
「……」
石野のセリフに無言を返す。
ちなみに石野は調理師の資格を取るべく専門学校に通っている。
石野も高塚をスカウトした人物に声をかけられていたが、やりたい事があるからとあっさり断ってしまった。
(前までここでずっと高塚の事待ってたんだよなあ)
ここは元は高塚がバイトしていたカフェ。
高塚が芸能界にスカウトされてからここを辞めたが、未だに元のバイト先ということで人気がある。
あわよくば高塚が現れないかという希望もあるのだろう。
やはり若い女の子が多い。
それはさておき、確かに石野の言う通り全く会う時間がない。
高校生の時は毎日、休日にもたまに押しかけてきていたし、付き合う事になってからはそれこそ一年のほとんどを一緒に過ごしていたから違和感しかない。
だから断じて寂しいわけではない。
寂しくなんかない!
そう自分に言い聞かせる。
「でもよ、芸能界っつったらスキャンダルは御法度だろ?大丈夫なのか?」
「わかんねえけど、多分大丈夫じゃない」
そう、芸能界といえばスキャンダルは御法度。
しかも売り出し中の期待の新人ともなればほんの少しの綻びも許さないとばかりに監視の目が厳しい……らしい。
らしい、というのは高塚と話す時間が少なく、全く情報が入ってこないから。
おまけに高塚のマネージャーさんはまだ若い女性。
恋が芽生えてしまわないとは言い難い。
……これは完全にオレの妄想だが。
「遠くの恋人より身近な人間に流されちゃうって話もあるしなあ」
「い、言うなよそういう事をおおおお!」
ただでさえ不安なところを更に煽られる。
そういえば石野には以前も同じような事を言われた。
あれはまだ高塚と付き合う前。
オレがはっきりと想いを自覚する前の事だ。
『遠くの振り向いてもくれない奴より、近くに寄ってきてくれる奴に走っても不思議じゃねえよなあ』
あの時も嫌だと思ったが今回はその比ではない。
嫌で嫌で堪らないけれど、あの時よりも現実味が増している。
「まあでも、もしかしたら本当にそうなっちゃうかもな」
「は?」
「だから、遠くの恋人より身近な……ってやつ」
「は?ありえねえだろ、お前高塚の執念舐めすぎ」
「そりゃ、あいつの執念がすげえのはわかってるけど……」
今までとはお互いの立場が違う。
高校生の時は、狭いあの空間に閉じ込められていて視界が狭かった。
だが、高校を卒業し、広い世界に飛び込むと途端に視界が開かれる。
半ば強制的に。
望んでいてもいなくても、高校生の頃とは格段に色々な事が違ってくるのだ。
しかもあいつのいる世界は華やかで煌びやかで光に満ちていて、オレなんかよりも何倍も何十倍も何百倍も何千倍も素敵で可愛くてカッコよくて愛想も良い気遣いも出来る素直な人達がきっとたくさんいるのだ。
そんな世界にいたら、オレなんて存在はあっという間に霞んでしまうのではないか。
そんな不安に駆られてしまう。
「いやそれ完全に取り越し苦労」
「わかんねえじゃん」
人の心なんてほんの少しの隙間があればそこから綻びが出来て簡単に壊れてしまう。
特に若い時の感情なんて一過性のもので、高校時代の恋愛なんて大人になってから淡い青春の思い出としか残らない場合が多い。
「高校で付き合って結婚したって例もあるけど?」
「それは普通に男女の話で、芸能人でもなんでもない人達の話だろ?」
ああ、思考がネガティブに傾いてる。
嫌な事しか考えられない。
それもこれもあいつが連絡も寄越さずにいるからだ!!
こっちが連絡しても返事はなし。
会いに行こうにも予定がわからない。
そもそもどこにいるかもわからない。
どうしろっつーんだ。
「はあ、もしかしたらこのまま一生会わずに自然消滅すんのかもなあ」
大きく溜め息を吐き出しながらテーブルに突っ伏す。
せめてメールのひとつでも返ってくれば。
電話の一本、例え1分でも、たった一言でも言葉を交わせれば違ったのかもしれない。
まさか自分がこんなに弱いとは。
高塚と会えない日々が続いただけでこんなに絶望的な気分になるとは。
「はあああああ」
「溜め息吐くと幸せ逃げるぞ?」
「もうとっくに逃げてるからこれ以上逃げられても変わんねえし」
「うわあ、マジで凹んでんだな森。超レア映像」
珍しいものを見るような目で見られる。
それもそうだろう、以前まではむしろ高塚を鬱陶しがっていた方なのだから。
いなければいないで清々するとさえ思っていたくらいだ。
それが蓋を開けてみれば、傍にいない事がこんなに寂しい。
(ってだから寂しくない!!寂しくないっつーの!!)
ぶんぶんと自分の考えを取り払おうと思い切り頭を振る。
「……ん?何か騒がしくね?」
「はー?何?外?別にどうでもいいし」
何やら騒がしくなる店の外。
その騒がしさが店内に響き、悲鳴のような甲高い声も聞こえてきた。
「森、ちょっと気にした方が良いかもしれねえぞ?」
「はあ?何でオレが……」
この騒がしさを気にしたところで何があるというのか。
心底どうでも良くて、全ての音をシャットアウトしようとしたのだが。
「森ちゃあああああん!!!やっと会えたあああああ!!!!」
「!!!!!」
「あーあ、だから気にしろっつったのに」
覚えのありすぎる声。
身体を覆うように被さってくる温もり。
そしてふわりと香る懐かしい匂い。
店内の騒がしさが増していく。
慌てて顔をあげるオレの瞳に飛び込んできたのは……
「……高塚?」
「うん、森ちゃんの愛しの高塚くんですよ」
「……っ」
サングラスを外し、鼻先が触れそうな距離でふわりと微笑まれる。
「ちょ、あれ、やっぱり……?!」
「た、高塚くんだ!!!」
「きゃあああああ!!!本物?!!!」
その瞬間、店内に悲鳴が響き渡り騒がしさがピークに達したのは言うまでもない。
1
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる