高塚くんと森くん

うりぼう

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番外編(恋人編)

あとは二人で②

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「はああああああ会いたかったよ森ちゃあああああん!!!!」
「いや、ちょ、待て!離れろ!!」
「やだやだ離れない!!」

あの後、店長さんが気を利かせて更衣室へと避難させてくれた。
石野も気遣ってか、ここは任せろとオレ達を逃してくれた。
助かった。
あのままでは人が人を呼び揉みくちゃにされるばかりか店が破壊されるところだった。

高塚はあの場で抱き着いてきてからずっとオレから離れない。
ぐりぐりと頭を擦り付けがっしりと腰に腕を回されている。

「うわあ森ちゃんの匂いだ森ちゃん本人だ写真じゃない夢じゃない妄想じゃない森ちゃんだああああ」
「……っ」

すーはーと思い切り首筋の匂いを吸い込まれる。
お前は犬か。

「お前、何でここに?」

ひとまず、素朴な疑問をぶつける。

「何でって、森ちゃんに会いに」
「何でオレがここにいるってわかったんだよ?」
「石野からメールで教えて貰ったから」
「は?」

何だそれ。
オレのメールにも電話にも返事しなかったくせに石野とはやりとりしてたって事か?

「あ、違う違う!別に石野とやりとりしてたとかじゃないよ!」

疑問と苛立ちがありありと浮かんでいたのだろう。
高塚が即座に否定する。

「じゃあ何なんだよ」
「ええっとー……実は、石野には前から頼んでたんだよね」
「何を?」
「………………森ちゃんが浮気しないように、居場所がわかればそれ全部教えてって」
「……は?」

浮気?
浮気って言ったか、こいつ?

「だ、だってだって心配だったんだもん!!森ちゃんかわいいから他の誰かに目つけられてるんじゃないかとか、オレと連絡取れない間に変な奴に襲われないかとか!!」
「あるわけねえだろそんな事!!」
「わかんないじゃん森ちゃんかわいいんだから!!いい加減自覚してよ自分のかわいさ!!」
「自覚するのはお前だこの野郎おおおおお!!!」
「あいたー?!!」

わたわたと何やら言い訳をする高塚をムリヤリ引っ剥がして頭を平手で叩く。
あ、まずいこいつ今は芸能人だったと一瞬考えたがもう遅い。

「オレなんかよりお前の方が数千倍モテるんだからな?!オレが浮気するだとか、襲われるだとか、何血迷ってやがる!!」
「血迷ってないよ、オレは本気だもん!!」
「もん、とか言ってんじゃねえええ!!大体、そんな心配する暇があるなら何で連絡寄越さねえんだよ!!」
「それは、ごめん、だって携帯没収されてて……」
「は?没収?」
「うん、オレがずーっとずーっと空き時間に森ちゃんの写真眺めてニヤニヤしてるから須崎さんに取り上げられちゃったんだよね」

須崎さんとは高塚のマネージャーである、例の女性だ。

「没収されたって、24時間触れないわけじゃなかったんだろ?」
「うーん、まあ、仕事が終われば一旦返してはくれたけど……」
「ふーん、じゃあ、その返して貰った時に返事出来ないくらい忙しかった訳だ」

ああもう、何言ってんだオレ。
久しぶりに会ったのにすげえかわいくねえ事言ってる。
曲がりなりにも仕事をしていたんだから疲れていたとか色々理由があるに違いない。
それなのに自分の感情優先で高塚を責めるような口調になってしまった。

でも一度口から出てしまったセリフは心の中には戻せない。
しまった、と思いつつ視線を逸らすと……

「……森ちゃん、もしかしてオレからの連絡待っててくれた?」
「……っ」

ぎくりと震える。
図星だこの野郎。
悔しい事に、オレはこいつからの連絡を今か今かとそれこそ24時間を何回かずっと待ち続けていた。

「別に、待ってねえし」
「嘘」
「……っ」
「本当は待っててくれたんだよね?」
「……だったらどうだって言うんだよ」
「……っ、っ、か、かわ……!!」
「は?」
「ダメだやっぱりかわいすぎるううううう!!!すっごい、須崎さんの言った通りになった!!!」
「おわっ?!お前また……!」

再びぎゅぎゅぎゅーっと抱き締められ焦る。
……が。

「……ん?待て、須崎さんの言った通りってどういう事だ?」
「あ……!」

やばい、といった風に手で口を覆う高塚。

「……おい、どういう事だ」
「いや、あの、その……」
「ど、う、い、う、こ、と、だ?!」
「ええーっと……」

強い口調で問い詰め、高塚がしどろもどろになる。
何が何でも説明させてやると詰め寄っていると。

「そこからは私が説明させていただきます」
「!!!」
「あ、須崎さん」

いつの間に現れたのか、マネージャーの大崎さんが背後に立っていた。
慌てて高塚から離れようとするが、腰に腕を回され離れられない。

「ばっ、おま……!!」
「大丈夫だよ、須崎さんはオレ達の関係知ってるんだから」
「はあ?!知ってるからって関係ねえだろ!離れろ!!!」
「やだああああせっかく久しぶりの森ちゃんなのに!!」
「ぐあっ、この馬鹿力……!!」

ますます強く抱き着いてくる高塚。
いつものようにぶん殴りたいが、さすがにマネージャーさんの前でそんな事は出来ない。
そんな事した日には二度と会えなくなってしまいそうだ。

「ご遠慮なさらず、嫌なら殴ってでも抵抗して構いませんよ?」
「へ?は?!」

いいの?!
須崎さんの一言に驚き、思わず動きが止まる。
見ると、須崎さんは冷たい視線でもってオレ達を見ていた。

(う……っ、これは、もしや修羅場ってやつか……?!)

高塚の事が好きで堪らなくて、その隣にいるオレに敵意を剥き出しにしている。
そんな視線に見える。

「あ、あの……」

気まずくて口ごもってしまうオレに、須崎さんが大きく溜め息を吐き出し、鋭い視線が向けられ……

「……はあ、全く。あれだけ言い聞かせたのにこれっぽっちも学習していないんですね。高塚さん、貴方の頭は飾りですか?ああ、飾りでしたね、そのお顔だけで人生渡ってこられたんですものね。ですが本当にいい加減にして下さい。森さんも困っているでしょう?好きな人を困らせるなんて恋人の風上にも置けませんよ?わかってますか?頭大丈夫ですか?」

そう、高塚に向かってつらつらと吐き出した。

(ん?え?待て待て、どういう事だ?)

想像していたセリフと違う。
てっきりオレから高塚を奪うようなセリフが吐き出されると思っていたのに、実際にはオレを気遣い高塚を嗜めるようなことを告げられた。
嗜めるというよりも、半分蔑み呆れこき下ろしているようにも聞こえたのは気のせいだろうか。

「申し訳ありません、森さん」
「へ?!」
「撮影中、高塚さんが何度も何度も何度も携帯を見てはニヤニヤぐふぐふ気持ち悪かったものですから、こちらでムリヤリに没収したんです」
「は、はあ」

それはさっき聞いた。
いやでもマネージャーさんが気持ち悪いってオイ。

「それでも携帯携帯森ちゃん森ちゃんとうるさかったものですから、ひとつ提案をしたんです」
「提案、ですか?」
「ええ」

一体何だ?

「しつこく連絡するのは嫌われる。たまには連絡を断ち、相手の寂しさを煽ってみるのも恋愛のスパイスには良いのでは、と」
「そうそう、だから携帯戻ってきても連絡しなかったんだよ、わかってくれた?オレのせいじゃないって!オレはすっごいすっごい連絡したかったんだよ?毎日でも毎分でもむしろずっとテレビ電話で繋げてても良いくらいだったんだけど、でもたまには寂しがる森ちゃんも見てみたいなあって思って」
「ですが、寂しさだけではなく不安まで煽ってしまっていたとは……申し訳ありません、私の考えが足りませんでしたね、良く考えればわかった事なのに」
「あ、いえ、別に須崎さんのせいでは……」

ない、と思うのだがどうなんだこれは?
良くわからん。
ていうかもしかして、須崎さんが高塚の事狙ってると思ったのは勘違いなのか?

「あ、私は高塚さんにタレント以上の感情を持っていませんので安心して下さい。いくら顔が良くても所詮は顔だけですし。高塚さんは観賞用にはなりえても実用性を感じませんので」
「か、観賞用?」
「ええ、それに高塚さんはあくまで我が社の商品ですから」
「あ、そ、そうですか……」

オレの心が読めるのだろうか。
疑問に思っていた事をさらりと説明され、ホッと息を吐き出す。

「本当は我が社に恥じないよう、引いては恋人である森さんに迷惑がかからないようにしっかりと教育をするつもりだったのですが……」
「……想像出来ます」

こいつの事だから、きっと全く変わらなかったに違いない。
そうでなければカフェの中、公衆の面前で突然抱き着いてくるなんて馬鹿な真似しないはずだ。

「おわかりいただけて嬉しいです」
「いえ、あの、お疲れ様です」

苦労がありありとわかってしまい思わず同情してしまう。
そうだよな、よく考えたらこいつの相手は大変だ。
こんなしっかりした人がこいつに惚れるはずはないな、と今更ながら納得した。

「ちょっと須崎さん、森ちゃんに惚れないでね!」
「はあ?!バカお前何言ってんだ!!」

存在を無視されていた高塚が唇を尖らせながら突然そんな事を言い出す。
惚れる訳ないだろうこんな男に。

「惚れはしませんが、人間として高塚さんの数百倍は尊敬しています。高校生の時からずっと付き合ってこられたなんて……苦労を考えると本当に頭が下がります」
「は、はあ……」
「ところで須崎さん、何しにきたの?オレもうオフなんだよね?」
「高塚さんのマネージャーとして、森さんにきちんと挨拶がしたかったからです」
「えー?挨拶とかいらないよ、これ以上森ちゃん見ないで」
「!!!ばっ、だからお前は人前でやめろっつーのに!!!」
「い……っ?!」

オレを隠すように抱き締める高塚の足を踏んづけて離れる。
足ならばそんなに影響はないだろう、うん。
痛がる高塚を華麗に無視し、須崎さんが近くまでやってきた。

「改めまして、高塚さんのマネージャーの須崎と申します。これからしょっちゅうお会いすることになると思いますので、どうぞよろしくお願い致します」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」

名刺を差し出され、握手を求められる。
ふわりと微笑むその表情には、まだ若いのに何故だが母親に見守られているような、そんな空気を感じて気分が安らぐ。

(変な風に疑って悪かったな)

自分の偏見を反省しつつ、その手を握り返そうとしたのだが。

「ダメー!何触ろうとしてんの須崎さん!!森ちゃんに触っていいのはオレだけ!!」
「はあ?握手くらい誰とだってするし」
「男の嫉妬はみっともないですよ?」
「あ!あ!ああああああ!!!ダメだって言ってるのにいいいい!!!」
「うるさい!!」
「森ちゃんのばかばかばかばかあああ」
「ほんっとうるさい」
「ふふ、本当に高塚さんは森さんの事が大好きなんですね」

須崎さんと握手を交わすオレを背後から抱き締め離れない高塚。
いつか先生に抱っこちゃんと呼ばれていた事を思い出す。

「それに、森さんも……」
「え?」
「いえ、何でもありません」

されるがままのオレを見て、ぼそりと呟いた須崎さんのセリフは小さすぎて聞き取れなかった。

「では、私はこれで失礼します。高塚さん、明日は休みですが、明後日お迎えにきますので。寝坊しないで下さいね」
「はーい、お疲れ様!」
「お疲れ様でした。森さんも、今日は突然申し訳ありませんでした」
「いえ、あの、会えて良かったです」
「私もです」
「え、ちょ、何その会話、森ちゃん!!須崎さんの方がいいの?!オレは?!久しぶりのオレは?!」
「ちょっと黙ってろ」
「森ちゃああああん」

ぐりぐりと首筋に頭を擦り付けられている間に、須崎さんは颯爽とその場から立ち去っていった。
そして……

「……おい、いつまでそうしてるつもりだ?」
「だって、だって久しぶりなのに森ちゃんが全然優しくない……それに須崎さんとあんなに仲良さそうに話して……!!」
「仲良くなんかしてねえだろ、普通だっつの。それに須崎さんはこれからお前がお世話になる人なんだからちゃんとしとかねえと、お前が困るんだからな?」
「!オレのため?」
「はいはい、そうだよ、お前のため」

本当にごくごく普通の挨拶しかしていないのだが、面倒だからそういう事にしておこう。

「ふふ、森ちゃん」
「何だよ」
「ただいま」
「……おかえり」
「うん!ただいま!」
「はいはい、おかえり」
「んんんんただいまただいまただいまー!!」
「何回言うつもりだよ」
「だって嬉しくて!」
「はいはい、そうかよ」

にこにこと顔中を緩めながら腕が腰に移動しそっと引き寄せられる。
さっきまでの勢いはどこへやら、落ち着いてゆっくりと噛み締めるように久しぶりの逢瀬を喜ばれる。
甘い雰囲気には慣れたと思っていたのだが、やはり未だに恥ずかしくてくすぐったい。

「ねえ森ちゃん、オレ今から明日いっぱいお休みなんだ」
「そうらしいな」
「森ちゃんも休みだよね?」
「なんで知ってんだよ」
「森ちゃんの事で知らない事はないんだよ!」
「……こわ」
「え、待って待って本気で引かないで」

僅かに身を引くが本気で離れるつもりはない。

「で?休みの予定は?」
「決まってるでじゃん!森ちゃんとずーっといちゃいちゃすんの!」
「ずっとって……」
「ずーっとだよ。手繋いで一緒に帰って、一緒に料理して一緒に食べて、一緒にテレビ見ながらごろごろして、一緒にお風呂入って、一緒に布団に入って」

うっとりと瞳を細めながらまるで夢を語るように話す高塚。

「それで?」
「それで、あとは二人で……」

最後のセリフは耳元で、ひっそりと。
他に誰もいないのに小さな小さな声で告げられた。

「ね?いいでしょ?」
「……まあ、悪くはねえな」

オレの返事に笑みを深めた高塚の顔がもう一度近付いてきて唇がそっと重なる。
家に帰ったオレ達が最後に何をしたのか、それはオレ達だけの秘密である。





終わり
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