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番外編(恋人編)
あとは二人で
しおりを挟む高校を卒業して早一年が経った。
オレはバイトをしながら気ままな大学生、そして高塚はというと……
「見て見て!高塚くんの新しいポスター!」
「カッコイイー!!」
奴はカフェでのバイト時代にスカウトされ、なんとなんと芸能界デビューというものを果たしてしまった。
今はまだモデルさんのような仕事が多く、雑誌にちょこちょこ出たりしているだけだか、いやまあそれでも十分凄いが、事務所的にはこれからもっともっと大々的に売り出す予定らしい。
「ほうほう、それで全然会えてなくて寂しいと」
「ばっ、だ、誰も寂しいなんて言ってねえだろ!!」
「へーえ、寂しくないんだ?へーえ、あいつが聞いたら泣き出しそうだな」
「……」
石野のセリフに無言を返す。
ちなみに石野は調理師の資格を取るべく専門学校に通っている。
石野も高塚をスカウトした人物に声をかけられていたが、やりたい事があるからとあっさり断ってしまった。
(前までここでずっと高塚の事待ってたんだよなあ)
ここは元は高塚がバイトしていたカフェ。
高塚が芸能界にスカウトされてからここを辞めたが、未だに元のバイト先ということで人気がある。
あわよくば高塚が現れないかという希望もあるのだろう。
やはり若い女の子が多い。
それはさておき、確かに石野の言う通り全く会う時間がない。
高校生の時は毎日、休日にもたまに押しかけてきていたし、付き合う事になってからはそれこそ一年のほとんどを一緒に過ごしていたから違和感しかない。
だから断じて寂しいわけではない。
寂しくなんかない!
そう自分に言い聞かせる。
「でもよ、芸能界っつったらスキャンダルは御法度だろ?大丈夫なのか?」
「わかんねえけど、多分大丈夫じゃない」
そう、芸能界といえばスキャンダルは御法度。
しかも売り出し中の期待の新人ともなればほんの少しの綻びも許さないとばかりに監視の目が厳しい……らしい。
らしい、というのは高塚と話す時間が少なく、全く情報が入ってこないから。
おまけに高塚のマネージャーさんはまだ若い女性。
恋が芽生えてしまわないとは言い難い。
……これは完全にオレの妄想だが。
「遠くの恋人より身近な人間に流されちゃうって話もあるしなあ」
「い、言うなよそういう事をおおおお!」
ただでさえ不安なところを更に煽られる。
そういえば石野には以前も同じような事を言われた。
あれはまだ高塚と付き合う前。
オレがはっきりと想いを自覚する前の事だ。
『遠くの振り向いてもくれない奴より、近くに寄ってきてくれる奴に走っても不思議じゃねえよなあ』
あの時も嫌だと思ったが今回はその比ではない。
嫌で嫌で堪らないけれど、あの時よりも現実味が増している。
「まあでも、もしかしたら本当にそうなっちゃうかもな」
「は?」
「だから、遠くの恋人より身近な……ってやつ」
「は?ありえねえだろ、お前高塚の執念舐めすぎ」
「そりゃ、あいつの執念がすげえのはわかってるけど……」
今までとはお互いの立場が違う。
高校生の時は、狭いあの空間に閉じ込められていて視界が狭かった。
だが、高校を卒業し、広い世界に飛び込むと途端に視界が開かれる。
半ば強制的に。
望んでいてもいなくても、高校生の頃とは格段に色々な事が違ってくるのだ。
しかもあいつのいる世界は華やかで煌びやかで光に満ちていて、オレなんかよりも何倍も何十倍も何百倍も何千倍も素敵で可愛くてカッコよくて愛想も良い気遣いも出来る素直な人達がきっとたくさんいるのだ。
そんな世界にいたら、オレなんて存在はあっという間に霞んでしまうのではないか。
そんな不安に駆られてしまう。
「いやそれ完全に取り越し苦労」
「わかんねえじゃん」
人の心なんてほんの少しの隙間があればそこから綻びが出来て簡単に壊れてしまう。
特に若い時の感情なんて一過性のもので、高校時代の恋愛なんて大人になってから淡い青春の思い出としか残らない場合が多い。
「高校で付き合って結婚したって例もあるけど?」
「それは普通に男女の話で、芸能人でもなんでもない人達の話だろ?」
ああ、思考がネガティブに傾いてる。
嫌な事しか考えられない。
それもこれもあいつが連絡も寄越さずにいるからだ!!
こっちが連絡しても返事はなし。
会いに行こうにも予定がわからない。
そもそもどこにいるかもわからない。
どうしろっつーんだ。
「はあ、もしかしたらこのまま一生会わずに自然消滅すんのかもなあ」
大きく溜め息を吐き出しながらテーブルに突っ伏す。
せめてメールのひとつでも返ってくれば。
電話の一本、例え1分でも、たった一言でも言葉を交わせれば違ったのかもしれない。
まさか自分がこんなに弱いとは。
高塚と会えない日々が続いただけでこんなに絶望的な気分になるとは。
「はあああああ」
「溜め息吐くと幸せ逃げるぞ?」
「もうとっくに逃げてるからこれ以上逃げられても変わんねえし」
「うわあ、マジで凹んでんだな森。超レア映像」
珍しいものを見るような目で見られる。
それもそうだろう、以前まではむしろ高塚を鬱陶しがっていた方なのだから。
いなければいないで清々するとさえ思っていたくらいだ。
それが蓋を開けてみれば、傍にいない事がこんなに寂しい。
(ってだから寂しくない!!寂しくないっつーの!!)
ぶんぶんと自分の考えを取り払おうと思い切り頭を振る。
「……ん?何か騒がしくね?」
「はー?何?外?別にどうでもいいし」
何やら騒がしくなる店の外。
その騒がしさが店内に響き、悲鳴のような甲高い声も聞こえてきた。
「森、ちょっと気にした方が良いかもしれねえぞ?」
「はあ?何でオレが……」
この騒がしさを気にしたところで何があるというのか。
心底どうでも良くて、全ての音をシャットアウトしようとしたのだが。
「森ちゃあああああん!!!やっと会えたあああああ!!!!」
「!!!!!」
「あーあ、だから気にしろっつったのに」
覚えのありすぎる声。
身体を覆うように被さってくる温もり。
そしてふわりと香る懐かしい匂い。
店内の騒がしさが増していく。
慌てて顔をあげるオレの瞳に飛び込んできたのは……
「……高塚?」
「うん、森ちゃんの愛しの高塚くんですよ」
「……っ」
サングラスを外し、鼻先が触れそうな距離でふわりと微笑まれる。
「ちょ、あれ、やっぱり……?!」
「た、高塚くんだ!!!」
「きゃあああああ!!!本物?!!!」
その瞬間、店内に悲鳴が響き渡り騒がしさがピークに達したのは言うまでもない。
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