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番外編(恋人編)
エイプリルフール2021
しおりを挟む「ごめん、仕事入っちゃった……」
そう言いながら、眉どころか見えない耳や尻尾まで垂らしていそうなくらいにしゅんと影を落とす高塚。
今日は久しぶりに、本当に久しぶりに高塚がオフの日で、俺もそれに合わせて仕事を休んだ。
二人でどこかへ出掛けようかとあれこれ計画を立てたのだが、普段疲れているのだから家でのんびりするのが良いと昨日の内に買い物を済ませ、今日は一歩も外に出ないぞと意気込んだ直後のこのセリフ。
ついさっき電話がかかってきたと思ったら相手はマネージャーの須崎さんからだったのか。
「ごめんね、本当にごめんね」
「気にすんなって」
「でもずっと前から約束してたのに、準備だって頑張ってくれたのに」
「ばーか、食材なんかは使い回せるし、仕事ならしょうがねえだろ?」
そう、仕事なら仕方がない。
高塚はあれ(※あとは二人で)から仕事が格段に増え、今やテレビでも雑誌でも良く見るようになった。
元々人懐こい性格をしているからか、難しそうな芸能界でも先輩方に可愛がられ、仕事が楽しいと笑っていたのを思い出す。
本音を言えば少し、いやかなり残念だ。
態度には出さないが昨日はそれはもううきうきで買い物しに行ったし、前に一瞬に行こうとしたけど行けなかった映画のDVDを借りたり、少しでも快適に過ごせるようにと部屋の掃除だってしてしまった。
たぶんきっと泊まるだろうから前の休みに布団を干しておいたりもした。
それが全て無駄になってしまったのだから残念に決まっている。
けれどもオレだって働いているのだから仕事の大変さはわかる。
特にこいつは仮にも芸能人なのだ。
オレにはわからない大変さがあるに違いない。
仕事と私とどっちが、なんて言うつもりは毛頭ないのでここは快く送り出したいところだ。
「まあ、仕事のしすぎで倒れねえかだけ心配だけど」
「心配してくれるてるの?」
「当たり前だろうが、そんなに薄情に見えるのか?」
ぺし、と軽く頬を叩いて言うと、何やら感極まったようで。
「……っ、っ、森ちゃあああああんんんん!!!」
「おわ!?何だ急に!?」
「もうもうもうもう可愛いんだから!!!」
「どこにそんな要素あった!?」
相変わらずこいつのツボは良くわからない。
ぎゅうぎゅうと抱き締められぐりぐりと頭を擦り付けられる。
高校時代に一度切って短くなった髪はあれから何十回と変わり、今はふわふわと緩くウェーブのかかった少し長めの髪型で落ち着いている。
そのふわふわとした髪が首筋に触れてくすぐったい。
「ほら仕事なんだろ?早く準備しねえと!」
「あ……」
「須崎さんが迎えに来るんだろ?何時?もうすぐ?」
「……」
「おーい、何時だってば?」
抱きついたままぴたりと無言になる高塚の服を背に回した手で引っ張って聞くが反応がない。
「おーい、高塚?」
「……ごめん」
「?だから気にすんなって」
「いや、ほんとごめん」
「しつこいな、良いっつってんだから良いんだよ」
「じゃなくて、えっと」
「?」
歯切れの悪い高塚に首を傾げる。
「あの……」
ぐっと抱き締められる腕に力がこもる。
ん?
もしかして。
まさかとは思うが、こいつ……
「……高塚」
「……はい」
「もしかして仕事って嘘か?」
「うっ」
「嘘なのか」
「ええっと、嘘っていうか……」
「嘘なんだな?」
「……………………ハイ」
段々と自分の声が低くなっていくのがわかる。
最終的に小さく頷いた高塚に、ぴきりと青筋が浮かんだ。
「何、くだらねえ嘘吐いてやがるんだよ」
「あっ、痛い!森ちゃん痛い痛い痛い!」
「うるせえボケ!」
高塚の耳を思い切り引っ張り身体を引き離す。
本当なくだらない嘘を吐きやがって。
オレのがっかりを返せ。
いや返してもらっても困るんだけど返せ。
「いたっ、ああ、でもなんかこの感じ久しぶりで懐かしい」
「……耳引っ張られながら笑うなよ気持ち悪いな」
「うふふ、その冷たい視線も久しぶりだね」
「だから喜ぶなっつーのに!」
ついにはへらへらと嬉しそうに笑い始めたので即座に手を離した。
「ごめんね、だって今日エイプリルフールじゃん?」
てへ、と小首を傾げる高塚。
「エイプリルフール……ああ、そういえば」
「すぐに嘘だよーって言うつもりだったんだけど森ちゃんが男前で可愛い事言うからついつい」
「いや、割とすぐだと思うけど」
仕事が入ったと言ってからまだ十分も経ってない。
「んじゃあさっきの電話は何だったんだよ?」
「明日のお迎えの時間の確認だったよ。あと森ちゃんと一緒だからってハメ外しすぎないようにって」
「オレ達を何歳だと思ってんだろうな、須崎さんは」
「まあ外さない訳ではないから心配するのもしょうがないと思うけど」
「は?」
「え?だって今日はいちゃいちゃ解禁日でしょ?」
「い……」
改めて言葉に出されると恥ずかしさが半端じゃない。
「違うの?しないの?」
「いや、それは、その……」
「し、しない、訳ではねえけど」
だからわざわざ確認するなって!
余計に恥ずかしいだろ!!
「ふふ、森ちゃん可愛い」
「可愛いって言うな」
「可愛いものは可愛いんだもん」
「あーはいはい」
再び腕の中に閉じ込められる。
さっきまでの力強いものではなくふわりと優しいそれに、オレも高塚の腰に腕を回す。
「今日は予定通りずーっとずーっと家でのんびりしようね」
「はいはい」
「ご飯一緒に作って、一緒に食べて、片付けして、一緒に映画見て、一緒にお風呂入って、一緒に寝ようね」
「……またエイプリルフールじゃねえだろうな」
「まさか!今度は本気だよ」
じとりと、高塚からは見えないけど睨みながら言うとくすくすと笑いながら返される。
「今日はトイレ以外ずーっとくっついてるんだから覚悟してね!」
「ずっとかよ」
「うん、ずーっと」
「ふっ、しょうがねえな」
例えだとわかってはいるけれどそれも悪くないなと笑い、目の前の身体に静かに擦り寄った。
おまけの高塚くんと森くん
「酷い!ずっと一緒だって言ったじゃん!?」
「トイレ以外っつってただろうが!!」
「やだやだやだやだ離れたくないー!オレの前でして良いから!」
「嫌に決まってんだろ!離せこの野郎おおおお!」
「じゃあトイレ入るまで!トイレ入るまで一緒に行く!」
「いや、さすがにうぜえ」
「エイプリルフールだよね!?今のはエイプリルフールの嘘だよね!?」
「おめでたい頭だな」
「嘘って言ってええええ」
「嘘」
「!」
「な訳あるか離せ!」
「ああああああ」
と、トイレに行く前のすったもんだがあったとかなかったとか。
終わり
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また続きがあれば読んでみたいです!!
ありがとうございますー!
最初は最後までずっと拒否させて終わろうかなと思っていたのですがあまりに高塚くんが可哀想すぎたので無事両想いになりました笑
また機会があったら書いてみたいと思います!
ありがとうございました!
ずっと前にサイトで読ませていただいたのですが、もう一度読めたことに感謝でいっぱいです!!
森ちゃんの可愛さと高塚くんの良い意味での変態っぷりに何度も癒されました!
笑ってきゅんとできる作品をありがとうございます!!!
その後の2人をまた読んでみたいです。
わー!!ありがとうございますー!!!
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