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番外編(恋人編)
他の誰も知らない
しおりを挟む固い机の上に座るその細い脚の間に、椅子に腰掛けた自分の身を滑り込ませる。
逃げようと一瞬浮かせた腰に両腕を巻き付けると、襟首を掴んで引き剥がされそうになった。
普段見上げている顔を今は見下ろしているのが居心地悪いのか、眉間にシワを寄せたその表情は、間近な距離と子供が甘えるようなこの体勢が恥ずかしいのだとわかっているから可愛くてたまらない。
シワが深くなる程に頬も段々と色付く。
(かわいい)
いつもいつも可愛いとは思っているけれど、今の下から見上げた顔はそれ以上に可愛く見える。
慣れない角度から見ているからなのか。
「森ちゃん」
「……っ」
ふわりと微笑み、どうにかして顔を隠したがりだんだんと限界近くまで俯くその真っ赤な顔を容易く覗き込めば、息を飲み、頬は更に赤く染まった。
恥ずかしさをごまかすためなのか、歯を食いしばっている。
かわいい。
かわいすぎる。
(ああ、もう)
余裕を持って攻めているはずなのに、焦らしているはずなのに、いつもこちらの我慢が限界に達する方が早い。
そして今日もまた然り。
「……っ」
ゆでだこのような頬に指を滑らせ、もう片方の手で逃げられないように首の後ろを押さえる。
びくりと震えるその身に、最初は軽く、反射的にぎゅっと閉じられた目じりに唇で触れると、じんわりと熱が伝わったような気がした。
「ん」
次いで目と同じく堅く閉じられた唇に、すりよるように寄せる。
ちょんと啄み、それを何度か繰り返すと、涙の滲んだ目が僅かに開かれた。
「は……っ」
至近距離で視線を合わせ、深く深く重ね合わせる。
抵抗するように伸ばされた手はやがてくたりと肩に落ち、鼻から抜けるような吐息をこぼしながら触れ合うそれに必死で舌を絡め酔いしれる姿は下半身直撃もの。
普段の彼から、一体誰がこの姿を想像するだろうか。
誰も想像なんてしなくて良い。
誰もわかってくれなくても良い。
(オレだけ)
そう、オレだけがこの姿を知っていれば、それで良い。
他の誰にもこんな表情は見せてやらない。
「……もっと?」
未だ唇が触れ合った状態で囁く。
再び開かれた目。
小さな小さな雫のついたまつげが伏せられるのと同時に……
「……」
すり、と。
鼻先を彼のそれが掠め、上唇を甘咬みされた。
互いに甘く酔いしれた後には、軽いパンチと照れくさそうに髪を撫でる優しい手が頭におりてきた。
end.
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