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馬車に乗って、王宮に向かう。
その間にも、王子殿下はうきうきと声をかけてきたが、無視をした。
話す内容など頭に入ってくるわけがない。
自分のこれからをどうするか、考えるだけだった。
今の段階で逃げ出すことはできない。
チャンスを待つしかないのだろうか。
王宮につくと、二階の客室であろう部屋に通された。
広くて明るい。
煌びやかな装飾が美しかった。
母から聞いたことがあったが、これほどまでに豪華だとは思わなかった。母の空想だと思っていた。
「どうだい?美しい部屋だろう。自分の部屋だと思ってゆっくりすれば良い。
そうだ、明日にでも、父と母に紹介しよう。イザベラに礼儀作法を習っていたんだって?僕のためかな?
うん、そうだ。君は孤児だったよね。公爵家のご落胤とか理由をつけて、養女にして、僕と結婚しよう」
独り言のように語ってくる。
結婚?
できるはずなどない。
異母兄妹であろうと、この国での近親婚は認められていない。
私は王子殿下の、貴方の義姉になるのだ。
公爵家のご落胤の前に、元公爵令嬢の娘。
こうなれば、国王陛下に自分の正体を言うべきなのか?
いや、駄目。
母は私を守ろうとしていた。隠していた。
言えば、楽になれただろうに・・・。
だから、知られては駄目。
私は・・・知識がある。
母が語ってくれた。あれはきっとこの王宮のこと。
夢のような煌びやかな世界。あの時は、夢物語だと、空想だと思っていた。でも、自分の出自を知り、母の正体を知っている今は、それが嘘でない事を知っている。ここに現実がある。
きっと、手がかりがある。
「湯にでも入ってゆっくりしてくれ」
王子殿下はそれだけ言うと出ていった。
侍女にお風呂に入れてもらったり、マッサージをしてくれたりする。
落ち着かない。
貴族とは、こんなことが普通なのだろうか。
晩餐だからとドレスも着せてくれる。
私の体型に、ぴったりと合うのが一段と怖い。
王子殿下が晩餐の誘いに来て、誉めてくる。
「似合ってるよ。用意してたかいがある」
あぁ、気持ち悪い。
吐き気がする。
「食欲がありません。出て行ってください。今はまだ、整理したいです。明日までは王子殿下の顔は見たくありません」
うっとりと見てくる。
ゾワゾワと鳥肌がたつ。
殴ってやりたい。
「わかった。じゃあ、明日の朝は一緒に食べようね」
近づいてくると、私の手にキスを落とした。
「ひっ・・・」
よく王子様とお姫様のお話にでてくるシーン。いいな・・・と思ったことはある。
でも、こんなに気持ち悪い物だとは思いも寄らなかった。
今すぐにでも拭いたい。
我慢だ・・・。
早く出て行って・・・。
王子殿下が出て行ったの見て、足に力が入らず、座り込んでしまった。
「大丈夫、ですか?」
「大丈夫、です。お願いです。今は・・・明日まで、一人にしてください」
「ですが・・・」
侍女が言い淀む。
「私が逃げるとでも?どうやって・・・?」
「あっ、すいません」
謝ってくるメイド。
ペコペコとする彼女にさりげなく聞いてみる。
「北はどっちですか?」
「星を見るくらいは構いませんよね。北極星を見るのが好きなんです」
「それなら、こちらの方向です」
侍女は北を指し示してくれると、出て行ってくれた。
立ち上がると震える身体にムチ打って動き出した。手近な棚や机を引きずってきて、扉の前に置く。バリケードを築き、扉を開きにくくするのだ。
終わると、ベッドを捲るとシーツを剥いで、それを裂いた。
それを結んでロープにしていく。
ベッドにはそこらにあるクッションを人型に置いて、その上に布団をかぶせた。
孤児院育ちをなめるな。
人の目を欺いて時間稼ぎをする遊びをどれだけしたことか。悪戯仕込みを見せてやる。
それに、ご令嬢のように脱走できないわけではない。彼らの思い込みを逆手にとって、逃げてやる。
今しかない!!
その間にも、王子殿下はうきうきと声をかけてきたが、無視をした。
話す内容など頭に入ってくるわけがない。
自分のこれからをどうするか、考えるだけだった。
今の段階で逃げ出すことはできない。
チャンスを待つしかないのだろうか。
王宮につくと、二階の客室であろう部屋に通された。
広くて明るい。
煌びやかな装飾が美しかった。
母から聞いたことがあったが、これほどまでに豪華だとは思わなかった。母の空想だと思っていた。
「どうだい?美しい部屋だろう。自分の部屋だと思ってゆっくりすれば良い。
そうだ、明日にでも、父と母に紹介しよう。イザベラに礼儀作法を習っていたんだって?僕のためかな?
うん、そうだ。君は孤児だったよね。公爵家のご落胤とか理由をつけて、養女にして、僕と結婚しよう」
独り言のように語ってくる。
結婚?
できるはずなどない。
異母兄妹であろうと、この国での近親婚は認められていない。
私は王子殿下の、貴方の義姉になるのだ。
公爵家のご落胤の前に、元公爵令嬢の娘。
こうなれば、国王陛下に自分の正体を言うべきなのか?
いや、駄目。
母は私を守ろうとしていた。隠していた。
言えば、楽になれただろうに・・・。
だから、知られては駄目。
私は・・・知識がある。
母が語ってくれた。あれはきっとこの王宮のこと。
夢のような煌びやかな世界。あの時は、夢物語だと、空想だと思っていた。でも、自分の出自を知り、母の正体を知っている今は、それが嘘でない事を知っている。ここに現実がある。
きっと、手がかりがある。
「湯にでも入ってゆっくりしてくれ」
王子殿下はそれだけ言うと出ていった。
侍女にお風呂に入れてもらったり、マッサージをしてくれたりする。
落ち着かない。
貴族とは、こんなことが普通なのだろうか。
晩餐だからとドレスも着せてくれる。
私の体型に、ぴったりと合うのが一段と怖い。
王子殿下が晩餐の誘いに来て、誉めてくる。
「似合ってるよ。用意してたかいがある」
あぁ、気持ち悪い。
吐き気がする。
「食欲がありません。出て行ってください。今はまだ、整理したいです。明日までは王子殿下の顔は見たくありません」
うっとりと見てくる。
ゾワゾワと鳥肌がたつ。
殴ってやりたい。
「わかった。じゃあ、明日の朝は一緒に食べようね」
近づいてくると、私の手にキスを落とした。
「ひっ・・・」
よく王子様とお姫様のお話にでてくるシーン。いいな・・・と思ったことはある。
でも、こんなに気持ち悪い物だとは思いも寄らなかった。
今すぐにでも拭いたい。
我慢だ・・・。
早く出て行って・・・。
王子殿下が出て行ったの見て、足に力が入らず、座り込んでしまった。
「大丈夫、ですか?」
「大丈夫、です。お願いです。今は・・・明日まで、一人にしてください」
「ですが・・・」
侍女が言い淀む。
「私が逃げるとでも?どうやって・・・?」
「あっ、すいません」
謝ってくるメイド。
ペコペコとする彼女にさりげなく聞いてみる。
「北はどっちですか?」
「星を見るくらいは構いませんよね。北極星を見るのが好きなんです」
「それなら、こちらの方向です」
侍女は北を指し示してくれると、出て行ってくれた。
立ち上がると震える身体にムチ打って動き出した。手近な棚や机を引きずってきて、扉の前に置く。バリケードを築き、扉を開きにくくするのだ。
終わると、ベッドを捲るとシーツを剥いで、それを裂いた。
それを結んでロープにしていく。
ベッドにはそこらにあるクッションを人型に置いて、その上に布団をかぶせた。
孤児院育ちをなめるな。
人の目を欺いて時間稼ぎをする遊びをどれだけしたことか。悪戯仕込みを見せてやる。
それに、ご令嬢のように脱走できないわけではない。彼らの思い込みを逆手にとって、逃げてやる。
今しかない!!
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