【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

文字の大きさ
4 / 28

4 恋のレッスン、開始

しおりを挟む
 それからというもの、僕とリョウちゃんの物理的な距離は、かなり近くなった。
 ハッカ飴を渡してくれる時、わざとらしいくらい手が触れ合う。指先で手の甲を優しく撫でられると、なんでか肩まで痺れるみたいに、ぞくぞくした。
 ボディタッチが、こんな感じで増えている。リョウちゃんは元々よくじゃれてきたけど、肩を組む回数が増えた。指先が触れることが増えた。さらにはわざわざ僕を手繰り寄せて膝に乗せたり、たぶん僕らは「いちゃいちゃ」していた。
 お陰で、僕の心臓は、長く保たないかもしれない。

 でもそれ以外は、拍子抜けするくらい変わらなかった。
 水曜日。部活のない日。
 今日も一緒に、リョウちゃんと帰っていた。こっそりリョウちゃんを見上げて、考え込む。
 休み時間にはよく話すし、帰る時も一緒。時間があればお互いの家で勉強会をして、時々はどちらかの家で一緒にご飯を食べる。いつも通りだ。
 つまり僕は、ここに追加された、やたらと近い距離やボディタッチのためだけに、ここまで動揺している。
 今日はこれから、リョウちゃんの家で勉強会だ。僕が俯き加減に歩いていると、リョウちゃんが肩を叩いて、駅の近くのコンビニを指さす。

「ハルくん、お菓子は大丈夫?」
「ん……買う」

 果たして僕は、ずっと平静でいられるんだろうか。クッキーの小袋と、ミルクティーのパックを買う。ストローもつけてもらった。
 その間、リョウちゃんは、じっと僕の背中を見ていた。その視線が、熱くて、身体がひりひりしそうだ。
 リョウちゃんの家は、駅近くのマンションの一室だ。リョウちゃんがカードキーを使って、玄関ドアを開ける。家はしんとしていて、誰もいない。おじさんとおばさんは忙しい人だから、まだ仕事の時間なんだろう。八歳下の弟の樹くんも、学童の時間で帰ってきていない。
 それでも、一言声をかけてあがる。

「お邪魔します」

 リョウちゃんは、「いらっしゃい」と柔らかい声で返事をした。
 リョウちゃんに連れられて、彼の部屋に入る。二人きりだと思うと、余計にどきどきしてしまった。
 そそくさとリュックを開けて、教科書とノートを取り出す。リョウちゃんも問題集とノートを出して、一緒にローテーブルの上に広げた。
 二人して、黙々と机へ向かう。時々分からないところは、リョウちゃんへ質問した。

「ここはこの公式を使えば解けるよ。類題は、こっちの四十六ページ辺りに載ってる」
「ありがとう」

 問題を解きながら、ちらちらとリョウちゃんを見てしまった。何度目かでふと視線が合って、「なに?」とやわらかく尋ねられる。

「う、ううん。なんでも」

 咄嗟に、消しゴムをかけるふりをした。リョウちゃんは頷いて、自分の手元へ視線を戻す。
 気まずい。僕はミルクティーのパックを開けて、ストローをさした。視線をうろうろとさ迷わせながら、意を決して、リョウちゃんを呼ぶ。

「その、……リョウちゃんは、なんで僕に、恋を教えてくれるの?」

 リョウちゃんは顔をあげて、僕をまじまじと見た。伏し目がちになって、考え込むみたいに唇へ指を当てる。それがやたらと美しく、かっこよく見えて、余計にドキドキした。
 そして顔をあげて、にこりと悪戯に微笑む。

「ハルくんが、俺にいろいろ教えてくれたから、かな?」
「いろいろ、教えた……?」

 そんな覚えは、一切ない。むしろ、勉強なんかは、僕が教えてもらってばかりだ。
 首を傾げていると、「いろいろね」とリョウちゃんは呟く。

「俺がハルくんに恋を教えるのは、俺のためなんだ」

 どういうことなのか、よく分からない。首を傾げると、リョウちゃんは「気にしないで」とノートのページをめくった。

「ハルくん、嫌になっちゃった? やめる?」

 上目遣いにそんなことを尋ねられて、ぶんぶん首を横に振る。驚くことはたくさんあるけど、嫌なんかじゃない。やめてほしい、ってわけでもなかった。

「ううん。これからも、教えてほしい」

 もしかして今、僕はちょっと、変なことを言ったんじゃないだろうか。だって僕がリョウちゃんから、恋を教わってそれを理解すると、どうなるか……。
 だけどリョウちゃんはとろけるくらい甘い声で、「よかった」と呟いた。

「これからも、一緒にがんばろうね」
「う、うん」

 誤魔化すために、ミルクティーへ口をつける。クッキーをかじって、口の中をいっぱいにした。
 たしかに僕は、恋について学ぼうとしている。それをリョウちゃんと「恋人」になって、一緒にがんばるということは、つまり……。
 かっと顔が熱くなって、俯いた。リョウちゃんは目を細めて、僕の手の甲に指を伸ばす。そっと指の根元の出っ張りを撫でて、低くて甘い声で囁いた。

「かわいいなぁ」

 何の話なんだろうか。でも僕は、その手を振りほどけもしない。それどころか、もっと触ってほしいとすら思う。リョウちゃんの指先がゆっくり離れて、彼は僕の顔をのぞきこんだ。

「顔、真っ赤だよ」

 思わず、手のひらで頬を挟んだ。リョウちゃんは面白そうに喉を鳴らして笑う。くつくつという低い音のせいで、余計にドキドキした。

「ところでハルくん。俺たち、デートをしようよ」
「デート」

 ものすごい破壊力の言葉が、突然飛び込んできた。思わず固まる僕をよそに、リョウちゃんはいそいそとスマホの画面を開く。表示されているのは、ここから電車で一時間くらいかかる、大きな水族館のホームページ。

「水族館、一緒に行きたいんだ」

 水族館デート。その言葉に、僕はすっかりどぎまぎしてしまった。
 頬がますます熱い。ため息まで熱っぽくなったみたいで、慌てて唇を閉じる。
 リョウちゃんは僕としっかり目を合わせて、小首を傾げた。右目の下に並んだ二連の泣き黒子が、いつにも増して艶っぽい。

「俺たちは付き合ってるんだから、デートに行かなくちゃ。ハルくん、水族館好きだよね?」
「うん。好き……」
「最近暑いし、涼みに行こう。来週から夏休みだし、一緒に行かない?」

 うん、と頷いた。いや、水族館は好きだし、最近の外は暑いし、夏休みなのもそう。だけど、そうじゃない。
 デートだなんて、なんだかくらくらする。僕が生唾を飲み込む音が、やたら耳についた。
 リョウちゃんが立ち上がる。彼はふっと微笑んで、僕の肩を叩いた。

「ちょっと、喉乾いちゃった。お茶とってくるね」
「う、うん」

 リョウちゃんは、部屋を出ていった。僕はぼんやり、その背中を見送る。
 デートをすることになってしまった。これまでリョウちゃんと一緒に出かけることはあったけど、デートなんて初めてだ。
 こうしてはいられない。僕はスマホを取り出して、SNSのDMで鈴木くんへメッセージを送った。
 ぽちぽち文面を打つ。

 どうしよう。リョウちゃんとデートすることになった。
 どうすればいいと思う?

 鈴木くんの既読がつくのをやきもきしながら待っていると、先にリョウちゃんが帰ってくる。
 お盆にコップを二個乗せて、ドアを手で開けて、足で締めた。ちょっとお行儀が悪いのに、長い脚にまたドキドキする。テーブルにコップを置いて、お盆も天板の上に置いた。
 いつも通りの麦茶だ。それこそ小学生の頃から、何度も、こんな時間を過ごしてきた。
 なのに、今の僕ときたら、リョウちゃんへドキドキしっぱなし。これから僕たちは、どうなってしまうんだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

生まれる前から好きでした。

BL
目立たないよう静かに暮らしてきた高校生の相澤和真の前に、突然現れた年下の容姿端麗な男、三峰汐音。彼には生まれる前からの記憶があり、和真の事を前世で自分が護衛をしていた王女の生まれ変わりなのだと打ち明ける。自分が側に居なかった為に王女が処刑されてしまったと、心に深い傷を負ったまま汐音は何度も生まれ変わりながらもずっと亡き王女の魂を探し求め、やっと見つけたのが和真なのだと説明する。王女の面影を重ねながら和真を一途に慕う汐音に、和真の生活は乱されていく。汐音の出現で和真の唯一の友人である福井奏の様子もどこかおかしい。出生に複雑な事情を抱えていた和真の身に、さらに大手企業の後継者争いまで勃発してきて……。年下男から一途に愛される生まれ変わりラブ。

処理中です...