【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

文字の大きさ
6 / 28

6 水族館デート

しおりを挟む
 なにはともあれ、水族館デートだ。
 それも一緒に電車で、遠くまで行くという、ちょっとした旅行。

 夏休みに入ったばかりの火曜日。僕は精一杯、ウェブサイトや雑誌で勉強して、めかしこんだ。いつもは黒っぽい服装にするけど、今日は思い切って白っぽいポロシャツをおろしてみる。すとんとしたシルエットの濃紺のデニムを履いて、お出かけ用のリュックを背負って、学校へ行くのと同じローファーで家を出た。じりじりと太陽の光が頭を焼くけど、それ以外の理由で、身体が火照っている。
 インターホンを押すと、おばさんが出る。にこやかな表情に、僕も笑みをかえした。

「おはようございます。リョウちゃん、いますか?」
「春希くん、おはよう! 涼太はすぐ来るからね」

 実際に、おばさんの背後から足音がした。おばさんは「楽しんできてね」と言って、奥へ引っ込む。
 そして、リョウちゃんが姿を現した。

「おはよう、ハルくん。お待たせ」

 そのかっこよさといったら。ぴかぴかの白い半袖シャツに、濃紺のデニムスラックス。シャツは短い丈で、たぶんクロップド丈というやつだ。スラックスもハイウエストで、脚の長さが強調されていて、本当にモデルみたい。
 ふ、とリョウちゃんが笑う。

「おそろいみたいだね」
「え、ええ? いや、うーん」

 たしかに、白いシャツと紺色のパンツで色合いはよく似ている。だけどおそろいと言えるほどじゃないと思う。なんというか、恐れ多い。
 僕がもじもじしている間に、リョウちゃんはスニーカーに足を入れた。

「行こう」

 爽やかに微笑みかけるものだから、僕はただ頷くことしかできない。気温以外の理由で、真っ赤に茹で上がってしまいそうだ。
 マンションの外へ出ると、リョウちゃんが日傘をさす。僕の方へ、傘を傾けてきた。

「一緒に入ろう」

 相合傘。影がゆっくり僕を包んで、少しだけ、火照りが冷える。

「顔、赤いね」

 僕はなんと言えばいいのか分からなくて、ただリョウちゃんへ寄り添うことしかできなかった。嫌じゃないことだけは伝えたくて、ぴったりとくっつく。暑いかな、と見上げると、リョウちゃんの耳が赤い。

「ごめん、暑かった?」
「全然暑くない」

 食い気味に応えて、リョウちゃんが傘を揺らした。僕はすっかり照れてしまって、俯く。こんなところ、誰かに見られたらどうしよう。
 恥ずかしい。でも、みんなに、このかっこいいリョウちゃんを見せびらかしたい。
 僕はくらくらしながら、リョウちゃんにくっついて、駅に向かった。人混みはそれなりにあったけど、同級生には会わなかった。ときどき僕たちを見て、ひそひそと噂するような人たちはいたけれど。
 やっぱり、リョウくんはかっこいいから、目立つんだ。その隣にいるのが僕なんかで、ちょっと申し訳ない。

「ハルくん、大丈夫?」

 駅の構内へ入って、リョウちゃんが傘を畳む。僕は、「え」と声をあげて、リョウちゃんを見上げた。リョウちゃんは首を傾げて、ちょっと苦く笑う。

「見られちゃってたから」
「そうだけど……」

 いまいちピンと来なくて、首を傾げる。リョウちゃんは、「それならいいんだ」と、今度は明るく笑った。
 電車に乗る。二人掛けのソファ席に並んで座った。リョウちゃんはさりげなく僕を窓際へ座らせてくれるし、その席は日陰だった。
 僕がカーテンを開けて外を見ていると、頬へぴっとり冷たいものが当たる。思わず飛び上がると、リョウちゃんがいたずらに笑っていた。

「いる?」

 タオルで包まれた、凍った麦茶のペットボトル。僕はそれを受け取って、「うん」となんとか頷いた。
 電車の中で、水族館のサイトを見ながら、あれこれ話す。気づけばあっという間に、乗り換えの大きな駅へ着いた。ここから地下鉄に乗って、水族館の最寄り駅へ行く。
 押し合いへし合いになりながら乗り込んだ。車内は人でいっぱいで、座れそうにない。ふっと、リョウちゃんがかぶさってきた。

「人、いっぱいだね」

 リョウちゃんは扉に腕をついて、僕を彼の身体と扉のスペースに置いた。顔が近い。
 咄嗟に見上げると、リョウちゃんはにっこり笑って、僕の耳へ唇を近づける。

「水族館、楽しみだね」

 僕はそれどころじゃない。

 惚けている間に、水族館の最寄り駅へ着いた。地下鉄から降りて、地上へ出る。
 事前に、お互い電子チケットを買っていた。入り口で学生証を出して、館内へ入る。
 途端に周りが薄暗くなって、涼しくなった。目の前がぱっと開けて、大きな水槽のあおいろの光が、視界いっぱいに広がる。その中をすごいスピードで、イルカたちが泳いでいた。シャチもいる。奥に廊下が続いて、お客さんたちがどんどん入っていった。
 すごい。家族で何度か来たことがあるけど、やっぱり、非日常って感じだ。
 ほっと息をつくと、リョウちゃんが僕の肘のあたりをそっと掴む。

「はぐれるといけないから、掴んでいていい?」

 どき、とまた心臓が跳ねる。何度も頷くと、リョウちゃんは「よかった」と微笑んだ。
 僕は思い切って、リョウちゃんを引っ張る。

「行こう」

 リョウちゃんは、ちょっと驚いたみたいに目を丸くした。僕は腕を掴まれたまま、ぷいっとそっぽを向く。ちょっと、気恥ずかしい。
 薄暗い廊下を、人混みを掻き分けて、立ち止まりながら歩いた。
 クジラたちのコーナーを抜けると、次は魚たちの水槽だ。上から降ってくる照明のひかりが、魚たちをきらきらと照らして、幻想的。僕がうっとり眺めていると、リョウちゃんの手がするりと下へ滑った。

「手、繋ごう」

 僕は悲鳴を噛み殺した。手が緊張でじっとり湿って、それがバレてしまわないか不安になる。リョウちゃんの大きな手のひらが僕の手を包んで、長い指が絡まった。恋人繋ぎ、というやつだ。
 リョウちゃんは、僕の耳元へ唇を寄せる。

「デートなんだから、手を繋がなくちゃダメだよ」
「そ、そうなの? そうなんだ」

 心臓が、胸の中で暴れている。僕はちらりとリョウちゃんを見上げた。涼しい顔をしている。
 もしかしたら、僕以外にも、こんなことをしたのかもしれない。だから、平気なのかも。
 そう思うと、なぜか胸がずきりと痛んだ。

 リョウちゃんが、僕の手を引く。慌てて着いていくと、リョウちゃんは、楽しそうに笑った。
 だけど、僕はなんでか、気が晴れない。僕以外と手を繋ぐリョウちゃんを想像すると、もやもやしてしまう。
 どうしてだろう。

 悶々としながら歩いていると、周りがさらにぱっと明るくなる。顔を上げると、サンゴの海のコーナーについていた。
 いろいろな形や大きさの魚たちが、鮮やかな色合いのひれを翻して泳いでいる。水中で乱反射した光があふれて、わあ、と声を上げた。
 子どもたちが夢中で水槽へ魅入って、歓声をあげている。僕も彼らに混じって、じっとサンゴの間を泳ぐ魚たちを見つめた。リョウちゃんが肩を寄せて、僕へ微笑みかける。

「綺麗だね」

 その顔があんまりにも幸せそうに見えたから、僕はさっきのもやもやを、すっかり忘れてしまった。
 だって今この瞬間、リョウちゃんのこの表情を独占しているのは、僕だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

生まれる前から好きでした。

BL
目立たないよう静かに暮らしてきた高校生の相澤和真の前に、突然現れた年下の容姿端麗な男、三峰汐音。彼には生まれる前からの記憶があり、和真の事を前世で自分が護衛をしていた王女の生まれ変わりなのだと打ち明ける。自分が側に居なかった為に王女が処刑されてしまったと、心に深い傷を負ったまま汐音は何度も生まれ変わりながらもずっと亡き王女の魂を探し求め、やっと見つけたのが和真なのだと説明する。王女の面影を重ねながら和真を一途に慕う汐音に、和真の生活は乱されていく。汐音の出現で和真の唯一の友人である福井奏の様子もどこかおかしい。出生に複雑な事情を抱えていた和真の身に、さらに大手企業の後継者争いまで勃発してきて……。年下男から一途に愛される生まれ変わりラブ。

処理中です...