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義弟「俺の方が放し飼いされてる」
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今日はお茶会にお呼ばれしている。パーティー準備も大詰めだから、その前にちょっとだけ休憩よ。
今日伺うお家は、名門バッカス伯爵家。
あの伝説のワイナリー、レジェンダリーフューイヤーズのパトロンだ。
馬車に乗り、バッカス家に着いた。馬車を降りたら、今回のお茶会を主催するサングリア=バッカス様が仁王立ちしていらっしゃる。
真っ赤なドレスが瑞々しい美しさとよく調和して、華やかな雰囲気だ。私より七歳も下なのに、貫禄がある。はじめてお会いしたときは、あんなに小さかったのに……。
それにしても、随分と熱烈な歓迎ね。こんなに気合いが入っていらっしゃるなら、今日は赤のドレスをやめればよかったわ。
丁重にカーテシーをすれば、サングリア嬢は音も高らかに扇子を閉じて口元を引き結ぶ。
「ロゼ様。あなた、随分とやってくれたわね」
「どれのことかしら……」
私は一生懸命、ここ最近の出来事を思い出してみる。サングリア嬢は「決まっているじゃない」と扇子を私に向けた。
「うちのレジェンダリーフューイヤーズの、ここ数年で最も出来のいい傑作を、よくも下品に飲んでくれたわね」
ああ、と私は合点がいった。大人しく頭をさげる。
「ええ、あれは淑女にあるまじき振る舞いでした。反省しておりますわ」
「ふん。口先だけならいくらでも言えるわ。あなた、本当はしっかりしているのに」
「レジェンダリーフューイヤーズ、とてもおいしかったです。格別の味でした。もっとふさわしい飲み方をするべきでしたのに……」
「ま、まあ、そうね」
ふん、と彼女は鼻を鳴らす。その様子は、満更でもなさそうだわ。
レジェンダリーフューイヤーズは、サングリア嬢もお気に入りのワイナリーだ。まだアルコールは解禁されていないのだけど、温めて酒精を飛ばした甘いワインがお好きらしい。お砂糖やスパイスを入れるのだとか。
そして、なによりも彼女はとても素直でかわいらしい方。
この程度、私はきちんと心得ていてよ。
「そこじゃねえんだよなあ」
うちの御者の声はきっと、空耳ね。
こうして私はサングリア嬢の案内で、薔薇に囲まれたお茶会の会場へとたどり着いた。
既にちらほらご令嬢がいらっしゃる。彼女たちは私を見て、つぎつぎに扇子で口を隠した。
「まあ。ローラン家の行き遅れよ」
「毎日お酒に溺れていらっしゃるとか」
「それにあの深紅のドレス、ご覧になって。まるで女優気取りね」
ひそひそと囁かれる陰口は、無視するに限る。私の数々の武勇伝が分からない無垢な方々は、ぜひそのままでいてほしい。
皮肉じゃないの。本心からそう思うわ。
「みなさま、ごきげんよう」
サングリア嬢は優雅な振る舞いで、噂話に興じる彼女たちのもとへ向かう。途端に弾かれたように顔をあげて、彼女たちはサングリア嬢を迎え入れた。
「ごきげんよう、サングリア様」
「様々な方がいらっしゃって、人脈の広さと懐の深さがうかがえますわね」
「きっと素敵な会になるに違いませんわ」
口々に、薄っぺらい言葉でサングリア嬢を褒め称える。
一方その頃私は、隠し持った小瓶を確認していた。紅茶にブランデーを入れたくて、こっそり持ってきたの。
そうこうしている間に、つぎつぎと参加者たちがやってきた。和やかな雰囲気の中、お茶会がはじまる。
和気あいあいと盛り上がる彼女たちを後目《しりめ》に、私はティーカップにブランデーを注いだ。
今更失う世間体もないわ。
「あそこにいらっしゃるのは、先日アルコ・ホリック家のパーティーで、口にするにも恐ろしいワインの飲み方をされた……」
今更失う世間体もないわ。私はブランデーをたっぷり注いで、くいっとお茶を煽る。
「あれ以来、レジェンダリーフューイヤーズが飛ぶように売れているのだとか」
「お下品な名前の広まり方をしましたけれど、まだまだ格は落ちていませんわね。うちのパーティーでも、今度お出ししますのよ」
「バッカス家の伝説的ワイナリーですもの。評判が落ちなくて、本当によかったですわね」
ちらり、と彼女たちはサングリア嬢に視線を向ける。彼女は淑やかに「ええ」と頷き、綺麗な所作でお茶を嗜んでいた。
まったく、くだらない話ね。ついブランデーを紅茶にたくさん注いでしまうわ。
こんな会なら、来るんじゃなかったかしら。
少し物思いに沈む私に、サングリア様がつかつかと歩み寄ってきた。
「失礼。ロゼ様」
サングリア様は扇で口元を隠し、私を見下ろす。その挑むような視線に、私もぴくりと指先が動いた。
「お召しになっているドレス、とても素敵ですわね。深い赤色で、まるでワインのよう」
そう言って、彼女はこれみよがしにドレスの裾を揺らした。はじまったわね。
私は物憂げにため息をついて、「そうなのです」と頬に手を当てた。
「あのようなことをしでかしてしまったでしょう? ならば償いのためにも、私自身が、レジェンダリーフューイヤーズの宣伝をしなくてはと思いまして」
令嬢たちが、途端に怪訝な顔をする。何を言っているんだ、と顔に書いてあるわ。
だけどサングリア様は、「そうなの。だからそのドレスの色なのね」と生真面目に言って扇を畳んだ。
なぜかサングリア様は、昔からよく私に突っかかってくる。だけど私は、彼女のこういうところがかわいらしくて、好きよ。
「殊勝な心がけですこと。感心いたしましたわ」
「今度の私の誕生日パーティーでも、レジェンダリーフューイヤーズをたくさん仕入れてお出ししますの」
「まあ。そんなに気を遣わずともよろしいのに」
彼女の言葉は皮肉じゃない。心からの言葉だ。
もちろん、それを本心だと表明しないあたりは、強かなのだけど。
「ぜひ、ローラン家のパーティーにもお越しください。心よりおもてなしいたしますわ」
「考えておくわ」
彼女がそう言ったとき、周りがわっと盛り上がったのを感じた。
やれやれ。私は肩をすくめて、冷めかけた紅茶を飲む。サングリア様は「それはそれとして」と咳払いをした。
「エドガー様は、最近いかがお過ごしで?」
はた、と私は手を止める。エドガー。
つい、昨晩のことを思い出した。随分と距離が近くて、熱くて。
「どうなさいましたの? 顔をそんなに赤くして」
「い、いえ、なんでもないわ」
「酔ってしまわれたの?」
ぷっ、とどなたかが吹き出した気配がした。私は「そうかもしれませんわね」とやんわり返す。
サングリア様は何かと、エドガーのことを気にかけていた。
もしかしたら、……彼に恋をしていらっしゃるのかしら。つきんと痛む胸を無視して、微笑んだ。
「ええ、変わらず元気ですわ」
「そ、そう……」
ここでサングリア様は扇をはらりと広げ、口元を隠しながら顔を近づけてきた。
「あなた、何か困っていることはない?」
「おっしゃっていることが、よく分かりませんわ」
困惑する私に、サングリア様は「いろいろ噂に聞いております」と神妙な声色で言う。
「エドガー様は、宰相代理になられたとか」
「ええ。本当に自慢の弟ですわ」
サングリア様は、ゆっくり目を瞑ってしまわれた。
「……もう一度聞くわ。無理に迫られたり、行く先々に奴……エドガー様が現れていないかしら」
「たしかに、弟はよく私の外出先に来ますけれど……たまたまですわ」
私が不思議に思って首を傾げていると、サングリア様はいよいよ真剣な顔で言う。
「あなた、あの義弟から逃げた方がいいわよ」
「な、なんの話ですの?」
あまりにも唐突なお話に慌ててティーカップを置くと、かちゃんとはしたない音が立ってしまった。
私たちは、すっかり注目を集めてしまっている。それにも関わらず、サングリア様は真っ直ぐに私を見つめた。
「ロゼ様。あなたの義弟は、あなたを捕えようとするけだものです。どうかお逃げください」
「けだものというより、あの子はこいぬよ」
私が思わず声をあげて笑った、そのときだ。
「ロゼ。俺を呼んだ?」
靴音も高らかに、薔薇の小道からエドガーが現れた。まあ、と驚く私をよそに、サングリア嬢は私を庇うように立つ。
「あなた、どこから入ってきたのかしら」
「正門から堂々と入ったさ。なに? 後ろめたいことがあって欲しかった?」
二人は熱く見つめ合っている。私は邪魔かしら。
そっと身を引こうとすると、サングリア様が私の手を掴む。驚いて振り返ると、「ロゼ様」と真剣な目で私を見つめていた。必死にすら見える。
「その男だけはダメです」
だけどエドガーが、軽々と私を奪う。あっという間に腕の中に閉じ込められてしまった。
「俺以外はダメの間違いだよ、ロゼ」
そう言って、エドガーは私をエスコートする。周りはその見事な姿に、ほうと息を漏らした。
「帰ろう、ロゼ。ロゼがいなくて、俺が寂しくなってしまったから」
「もう。仕方ない子ね」
エドガーは令嬢たちにさえずる隙も与えないくらい完璧に、私の手を引く。私は慌ててサングリア様を振り返って、せめてもと手を振った。
「また招待してくださいまし。本日は楽しかったですわ」
「ロゼ様、その男だけはやめてくださいまし! あなたの足の腱《けん》を切って閉じ込めかねない男です!」
必死のサングリア嬢に、何を言っているのかしらとエドガーを見上げた。
「あなたはどちらかというと、放し飼いが好きなのではなくて?」
「そうだよ。俺はロゼに、楽しく放し飼いにされてる」
「そうなの?」
のほほんとそんな会話を交わしながら、私たちは馬車に乗り込んだ。
まったく、エドガーったら。いつになったら姉離れできるのかしら。
今日伺うお家は、名門バッカス伯爵家。
あの伝説のワイナリー、レジェンダリーフューイヤーズのパトロンだ。
馬車に乗り、バッカス家に着いた。馬車を降りたら、今回のお茶会を主催するサングリア=バッカス様が仁王立ちしていらっしゃる。
真っ赤なドレスが瑞々しい美しさとよく調和して、華やかな雰囲気だ。私より七歳も下なのに、貫禄がある。はじめてお会いしたときは、あんなに小さかったのに……。
それにしても、随分と熱烈な歓迎ね。こんなに気合いが入っていらっしゃるなら、今日は赤のドレスをやめればよかったわ。
丁重にカーテシーをすれば、サングリア嬢は音も高らかに扇子を閉じて口元を引き結ぶ。
「ロゼ様。あなた、随分とやってくれたわね」
「どれのことかしら……」
私は一生懸命、ここ最近の出来事を思い出してみる。サングリア嬢は「決まっているじゃない」と扇子を私に向けた。
「うちのレジェンダリーフューイヤーズの、ここ数年で最も出来のいい傑作を、よくも下品に飲んでくれたわね」
ああ、と私は合点がいった。大人しく頭をさげる。
「ええ、あれは淑女にあるまじき振る舞いでした。反省しておりますわ」
「ふん。口先だけならいくらでも言えるわ。あなた、本当はしっかりしているのに」
「レジェンダリーフューイヤーズ、とてもおいしかったです。格別の味でした。もっとふさわしい飲み方をするべきでしたのに……」
「ま、まあ、そうね」
ふん、と彼女は鼻を鳴らす。その様子は、満更でもなさそうだわ。
レジェンダリーフューイヤーズは、サングリア嬢もお気に入りのワイナリーだ。まだアルコールは解禁されていないのだけど、温めて酒精を飛ばした甘いワインがお好きらしい。お砂糖やスパイスを入れるのだとか。
そして、なによりも彼女はとても素直でかわいらしい方。
この程度、私はきちんと心得ていてよ。
「そこじゃねえんだよなあ」
うちの御者の声はきっと、空耳ね。
こうして私はサングリア嬢の案内で、薔薇に囲まれたお茶会の会場へとたどり着いた。
既にちらほらご令嬢がいらっしゃる。彼女たちは私を見て、つぎつぎに扇子で口を隠した。
「まあ。ローラン家の行き遅れよ」
「毎日お酒に溺れていらっしゃるとか」
「それにあの深紅のドレス、ご覧になって。まるで女優気取りね」
ひそひそと囁かれる陰口は、無視するに限る。私の数々の武勇伝が分からない無垢な方々は、ぜひそのままでいてほしい。
皮肉じゃないの。本心からそう思うわ。
「みなさま、ごきげんよう」
サングリア嬢は優雅な振る舞いで、噂話に興じる彼女たちのもとへ向かう。途端に弾かれたように顔をあげて、彼女たちはサングリア嬢を迎え入れた。
「ごきげんよう、サングリア様」
「様々な方がいらっしゃって、人脈の広さと懐の深さがうかがえますわね」
「きっと素敵な会になるに違いませんわ」
口々に、薄っぺらい言葉でサングリア嬢を褒め称える。
一方その頃私は、隠し持った小瓶を確認していた。紅茶にブランデーを入れたくて、こっそり持ってきたの。
そうこうしている間に、つぎつぎと参加者たちがやってきた。和やかな雰囲気の中、お茶会がはじまる。
和気あいあいと盛り上がる彼女たちを後目《しりめ》に、私はティーカップにブランデーを注いだ。
今更失う世間体もないわ。
「あそこにいらっしゃるのは、先日アルコ・ホリック家のパーティーで、口にするにも恐ろしいワインの飲み方をされた……」
今更失う世間体もないわ。私はブランデーをたっぷり注いで、くいっとお茶を煽る。
「あれ以来、レジェンダリーフューイヤーズが飛ぶように売れているのだとか」
「お下品な名前の広まり方をしましたけれど、まだまだ格は落ちていませんわね。うちのパーティーでも、今度お出ししますのよ」
「バッカス家の伝説的ワイナリーですもの。評判が落ちなくて、本当によかったですわね」
ちらり、と彼女たちはサングリア嬢に視線を向ける。彼女は淑やかに「ええ」と頷き、綺麗な所作でお茶を嗜んでいた。
まったく、くだらない話ね。ついブランデーを紅茶にたくさん注いでしまうわ。
こんな会なら、来るんじゃなかったかしら。
少し物思いに沈む私に、サングリア様がつかつかと歩み寄ってきた。
「失礼。ロゼ様」
サングリア様は扇で口元を隠し、私を見下ろす。その挑むような視線に、私もぴくりと指先が動いた。
「お召しになっているドレス、とても素敵ですわね。深い赤色で、まるでワインのよう」
そう言って、彼女はこれみよがしにドレスの裾を揺らした。はじまったわね。
私は物憂げにため息をついて、「そうなのです」と頬に手を当てた。
「あのようなことをしでかしてしまったでしょう? ならば償いのためにも、私自身が、レジェンダリーフューイヤーズの宣伝をしなくてはと思いまして」
令嬢たちが、途端に怪訝な顔をする。何を言っているんだ、と顔に書いてあるわ。
だけどサングリア様は、「そうなの。だからそのドレスの色なのね」と生真面目に言って扇を畳んだ。
なぜかサングリア様は、昔からよく私に突っかかってくる。だけど私は、彼女のこういうところがかわいらしくて、好きよ。
「殊勝な心がけですこと。感心いたしましたわ」
「今度の私の誕生日パーティーでも、レジェンダリーフューイヤーズをたくさん仕入れてお出ししますの」
「まあ。そんなに気を遣わずともよろしいのに」
彼女の言葉は皮肉じゃない。心からの言葉だ。
もちろん、それを本心だと表明しないあたりは、強かなのだけど。
「ぜひ、ローラン家のパーティーにもお越しください。心よりおもてなしいたしますわ」
「考えておくわ」
彼女がそう言ったとき、周りがわっと盛り上がったのを感じた。
やれやれ。私は肩をすくめて、冷めかけた紅茶を飲む。サングリア様は「それはそれとして」と咳払いをした。
「エドガー様は、最近いかがお過ごしで?」
はた、と私は手を止める。エドガー。
つい、昨晩のことを思い出した。随分と距離が近くて、熱くて。
「どうなさいましたの? 顔をそんなに赤くして」
「い、いえ、なんでもないわ」
「酔ってしまわれたの?」
ぷっ、とどなたかが吹き出した気配がした。私は「そうかもしれませんわね」とやんわり返す。
サングリア様は何かと、エドガーのことを気にかけていた。
もしかしたら、……彼に恋をしていらっしゃるのかしら。つきんと痛む胸を無視して、微笑んだ。
「ええ、変わらず元気ですわ」
「そ、そう……」
ここでサングリア様は扇をはらりと広げ、口元を隠しながら顔を近づけてきた。
「あなた、何か困っていることはない?」
「おっしゃっていることが、よく分かりませんわ」
困惑する私に、サングリア様は「いろいろ噂に聞いております」と神妙な声色で言う。
「エドガー様は、宰相代理になられたとか」
「ええ。本当に自慢の弟ですわ」
サングリア様は、ゆっくり目を瞑ってしまわれた。
「……もう一度聞くわ。無理に迫られたり、行く先々に奴……エドガー様が現れていないかしら」
「たしかに、弟はよく私の外出先に来ますけれど……たまたまですわ」
私が不思議に思って首を傾げていると、サングリア様はいよいよ真剣な顔で言う。
「あなた、あの義弟から逃げた方がいいわよ」
「な、なんの話ですの?」
あまりにも唐突なお話に慌ててティーカップを置くと、かちゃんとはしたない音が立ってしまった。
私たちは、すっかり注目を集めてしまっている。それにも関わらず、サングリア様は真っ直ぐに私を見つめた。
「ロゼ様。あなたの義弟は、あなたを捕えようとするけだものです。どうかお逃げください」
「けだものというより、あの子はこいぬよ」
私が思わず声をあげて笑った、そのときだ。
「ロゼ。俺を呼んだ?」
靴音も高らかに、薔薇の小道からエドガーが現れた。まあ、と驚く私をよそに、サングリア嬢は私を庇うように立つ。
「あなた、どこから入ってきたのかしら」
「正門から堂々と入ったさ。なに? 後ろめたいことがあって欲しかった?」
二人は熱く見つめ合っている。私は邪魔かしら。
そっと身を引こうとすると、サングリア様が私の手を掴む。驚いて振り返ると、「ロゼ様」と真剣な目で私を見つめていた。必死にすら見える。
「その男だけはダメです」
だけどエドガーが、軽々と私を奪う。あっという間に腕の中に閉じ込められてしまった。
「俺以外はダメの間違いだよ、ロゼ」
そう言って、エドガーは私をエスコートする。周りはその見事な姿に、ほうと息を漏らした。
「帰ろう、ロゼ。ロゼがいなくて、俺が寂しくなってしまったから」
「もう。仕方ない子ね」
エドガーは令嬢たちにさえずる隙も与えないくらい完璧に、私の手を引く。私は慌ててサングリア様を振り返って、せめてもと手を振った。
「また招待してくださいまし。本日は楽しかったですわ」
「ロゼ様、その男だけはやめてくださいまし! あなたの足の腱《けん》を切って閉じ込めかねない男です!」
必死のサングリア嬢に、何を言っているのかしらとエドガーを見上げた。
「あなたはどちらかというと、放し飼いが好きなのではなくて?」
「そうだよ。俺はロゼに、楽しく放し飼いにされてる」
「そうなの?」
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