怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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21)深夜のドライブイン

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それは、私が仕事で地方を巡っていた時の話だ。
 長距離運転に疲れ、ふと見つけたドライブインで休憩することにした。
 店は古びていたが、赤いネオンがぼんやりと光り、営業しているようだった。

 しかし、そこには決して入ってはいけない理由があったのだ——。

***********************************

 国道沿いにぽつんと佇むその店は、昔ながらのドライブインだった。
 くすんだ看板には「レストラン〇〇」と書かれているが、最後の文字が剥げて読めない。
 駐車場には、ほとんど車が停まっていない。

 「……まあ、いいか」

 私はハンドルを切り、車を停めた。

 店の中には、誰もいなかった。

 それなのに、厨房からは油のはねる音がしていた。

 カウンターの奥から、やせ細った店主らしき男が現れた。

 「いらっしゃいませ……」

 彼は、どこか覇気のない目をしていた。

 私は空いている席に座り、メニューを眺めた。

 妙だったのは——

 どのメニューも、すべて消えかかっていたことだ。

 まるで、何年も使われていないかのように。

 「おすすめは?」

 私は何気なく尋ねた。

 すると、店主はかすれた声でこう言った。

 「……カレーが、いいですよ」

 私は勧められるままにカレーを注文した。

 しばらくして、運ばれてきたカレーを見て、私は違和感を覚えた。

 カレーは濃い茶色で、まるで何かを煮詰めたような匂いがする。

 スプーンを口に運ぶと、ざらりとした舌触りがあった。

 「……何か変だな」

 それでも、ひと口だけ食べた。

 その瞬間——

 何かの“声”が聞こえた。

 「……たすけて」

 私は驚いて周囲を見渡した。

 しかし、店内には誰もいない。

 「空耳か?」

 私は、ふと厨房の奥を見た。

 すると、カウンターの隙間から、何かがこちらを覗いているのが見えた。

 私は、妙な寒気を覚えた。

 店内はがらんとしている。

 しかし、どこかから視線を感じるのだ。

 「すみません、この店って、いつからやってるんですか?」

 私は何気なく聞いた。

 店主はしばらく考えるような素振りを見せた後、こう答えた。

 「……ずっと、やっていますよ」

 「ずっと?」

 「ええ、ここに来たお客さんは、ずっといますから。」

 私は、背筋が凍りついた。

 意味が分からない。

 その時、私はふとテーブルの上のメニュー表を見た。

 よく見ると——

 メニューの端に、薄く名前のようなものが書かれていた。

 「……何だ、これ?」

 私は指で擦ってみた。

 すると、その文字が浮かび上がってきた。

 それは——

 行方不明者の名前だった。

 私は急いでスマホを取り出し、ネットで検索してみた。

 すると、あるニュース記事がヒットした。

《数年前、国道沿いのドライブインで失踪事件が発生》
《最後に立ち寄った場所は不明》

 そして——

《失踪者の名前》

 それは、今私が見ているメニューの文字と同じ名前だった。

 私は息を呑んだ。

 このドライブインは、ただの店ではない。

 ここに来た者は、二度と戻れなくなるのではないか——?

 「すみません、やっぱり帰ります」

 私は立ち上がろうとした。

 しかし、店主は微笑んだ。

 「もう、遅いですよ」

 次の瞬間——

 背後から、冷たい手が肩に触れた。

 私は悲鳴を上げそうになった。

 背後には——

 黒い影のような“何か”がいた。

 それは、人間の形をしているが、顔は見えない。

 私は反射的に店を飛び出した。

 だが、駐車場の景色が変わっていた。

 停めたはずの車がない。

 それどころか、ドライブインの看板すら、いつの間にか消えていた。

 私は愕然とした。

 「……こんな場所、最初からなかったのか?」

 私は必死でスマホを確認した。

 しかし、GPSが狂っていた。

 どこを見ても、現在地が表示されない。

 私は、パニックになりながらも、道路を走った。

 そして、数分後——

 気がつくと、国道沿いの別のドライブインの前に立っていた。

 そこは、普通のドライブインだった。

 店の中には、ちゃんと人がいる。

 「すみません、この辺にもう一軒、ドライブインありませんでした?」

 私は店員に尋ねた。

 しかし、店員は首をかしげた。

 「いいえ、この辺りには、うちしかありませんよ」

 私は血の気が引いた。

 さっきまでいたあのドライブインは、一体……?

***********************************

 私は、念のためにさっきの店を調べようとした。

 しかし、ネットにも地図にも、その店の情報は一切なかった。

 ただ、ふとスマホの履歴を見ると——

 「未送信のメッセージ」が一通、残されていた。

 そこには、こう書かれていた。

 《助けて。今、どこかのドライブインにいる。》

 しかし、そのメッセージの送信者の名前は——

 見覚えのない行方不明者のものだった。

 私は、スマホを手から落としそうになった。

 あのドライブインは、本当に存在していたのか?
 それとも——

 行方不明になった者たちが、今も“そこ”に閉じ込められているのか?

 もし、深夜に人気のないドライブインを見つけたら——

 決して、入ってはいけない。

 なぜなら、その店は——

 あなたを「消すため」に存在しているかもしれないから。
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