怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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22)廃校の体育館

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その小学校は、十年以上前に廃校になっていた。
 少子化の影響で生徒数が減り、やがて統合され、使われなくなったのだ。

 しかし、地元では今でも**「あの体育館だけは近づくな」**と囁かれている。

 なぜなら、そこでは夜になると——

 **「誰もいないのにボールの音が響く」**というのだ。

 私は地方の怪奇現象を取材するライターだった。
 廃墟、心霊スポット、都市伝説——その土地に残る“異変”を記事にするのが仕事だ。

 ある日、知人のカメラマンからこんな話を聞いた。

 「○○町の廃校、知ってるか?」

 「いや、初耳だな」

 「地元じゃ有名だぜ。特に、体育館がヤバいって話だ」

 「体育館?」

 「夜になると、誰もいないのにバスケットボールの音が聞こえるらしい。
 しかも、見に行ったやつは“絶対に中には入るな”って言ってた」

 私は興味を引かれ、廃校の調査をすることにした。

***********************************

 町の外れにあるその小学校は、すっかり荒れ果てていた。
 校舎の窓は割れ、草が生い茂り、校庭の遊具は錆びついている。

 だが、一つだけ異様だったのは——

 体育館だけが、比較的きれいな状態で残っていることだった。

 まるでそこだけ時間が止まっているかのように。

 私は、体育館の扉に手をかけた。

 ギィ……

 扉は、軋む音を立てながら開いた。

 中は薄暗かったが、光が差し込み、体育館の様子がぼんやりと見えた。

 床には埃が積もっているはずだったが、不自然なことに、何者かが歩いたような跡が残っていた。

 「……誰か、最近ここに来たのか?」

 私は慎重に足を踏み入れた。

 体育館の隅には、昔のままのバスケットゴールが残されていた。

 その時——

 コツン……コツン……

 静寂の中に、バスケットボールが床を跳ねる音が響いた。

 「……誰かいるのか?」

 私は恐る恐る声をかけた。

 しかし、返事はない。

 音のする方向を振り向くと——

 体育館の中央に、一つのバスケットボールが転がっていた。

 私は、足がすくんだ。

 なぜなら、そのボールが、誰もいないのにゆっくりと転がっていたからだ。

 私はすぐに体育館を飛び出し、地元の老人に話を聞いた。

 すると、彼は顔を曇らせ、こう言った。

 「やっぱり、まだあの体育館にはいるのか……」

 「何かあったんですか?」

 老人は、小さく息を吐いた。

 「30年前、その学校である事故があったんだよ」

 「事故?」

 「バスケの試合中に、一人の生徒が転倒してな……そのまま意識を失って、帰らぬ人になった」

 私は、ぞっとした。

 「それ以来、夜になると体育館からボールの音が聞こえるって噂になったんだ」

 「つまり、その生徒の霊が……?」

 老人は静かに頷いた。

 「彼は、今もバスケットを続けているのかもしれん。」

 私は、もう一度体育館へ戻ることにした。

 なぜなら、そのボールの正体を確かめたかったからだ。

 夜になると、あたりは完全に暗くなった。

 私は懐中電灯を片手に体育館へ向かう。

 扉を開けた瞬間——

 ボールが、勝手に跳ねているのが見えた。

 コツン……コツン……

 まるで誰かが、シュートの練習をしているように。

 私は恐る恐る体育館の中央へ歩み寄った。

 その時——

 「……何してるの?」

 背後から、低い声がした。

 私は、凍りついた。

 そして、ゆっくり振り向いた。

 そこにいたのは——

 白い体操服を着た少年だった。

 しかし——

 彼の顔には、目がなかった。

 私は悲鳴を上げそうになった。

 少年は、ゆっくりと近づいてくる。

 「……バスケ、好き?」

 私は、後ずさった。

 彼の手には、古びたバスケットボールが握られていた。

 「一緒に、やろうよ」

 私は、恐怖で身がすくんだ。

 その時——

 ボールが、勝手に私の足元へ転がってきた。

 「……受け取って?」

 私は、必死で体育館の出口へと走った。

 扉を開けると、冷たい風が吹き抜けた。

 振り向くと——

 少年の姿は、消えていた。

 しかし、床には新しい足跡がくっきりと残っていた。

 私は、すぐに町を離れた。

 しかし、それで終わったわけではなかった。

 数日後——

 私の部屋の隅に、見覚えのないバスケットボールが置かれていた。

 そのボールには、薄くこう書かれていた。

 「また、一緒にやろうね」

 私は、急いでそれを処分した。

 しかし、それ以来——

 夜になると、部屋の中で“ボールの跳ねる音”が聞こえるようになった。

***********************************

 もし、あなたが廃校の体育館に足を踏み入れることがあったら——

 決して、ボールを拾ってはいけない。

 なぜなら、それを受け取った瞬間——

 あなたも、彼の「チームメイト」にされるかもしれないから。
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