怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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23)ヤミナイの道(沖縄県)

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沖縄には、決して歩いてはいけない道があるという。
 それは、地元の年寄りたちが「ヤミナイ」と呼ぶ、夜の道。

 そこを夜に通ると、**「戻れなくなる」**というのだ——。

 私は沖縄の都市伝説を取材するため、本島南部のとある集落を訪れた。

 海風が心地よく、サトウキビ畑が広がるのどかな村だった。

 そこで、地元の老人に話を聞いた。

 「ヤミナイ? ああ、あの道のことか……」

 老人は、一瞬目を伏せた。

 「夜には、絶対に通るなよ」

 「なぜです?」

 「“誰か”がついてくるからさ……」

 私は息を呑んだ。

 「誰か、とは?」

 老人はしばらく黙っていたが、やがて静かにこう言った。

 「ヤミナイを歩くと、後ろから足音が聞こえるんだよ。だが、決して振り向いてはいけない。振り向いたら——」

 「お前は、戻れなくなる」

***********************************

 私は、老人の忠告を無視し、その夜ヤミナイへ向かった。

 舗装されていない細い道が、暗闇へと続いている。

 街灯はなく、木々が覆いかぶさるように生い茂っていた。

 私は懐中電灯を頼りに、静かに歩き始めた。

 しかし、すぐに違和感を覚えた。

 音がしない。

 虫の声も、風の音も、何も聞こえないのだ。

 私は、不安になりながらも、さらに進んだ。

 すると——

 「……コツ、コツ」

 背後から、足音が聞こえた。

 私は、凍りついた。

 足音は、確かに私の後ろから聞こえている。

 しかし、振り向くわけにはいかない。

 老人が言っていた。

 「決して振り向くな」

 私は、心を落ち着けながら、ゆっくりと歩き続けた。

 だが、足音はどんどん近づいてくる。

 「コツ、コツ……コツ、コツ……」

 それは、まるで私のすぐ後ろにいるかのようだった。

 私は、恐怖に耐えきれず、一気に駆け出した。

 必死に走った。

 だが、道が終わらない。

 本来なら、村の入り口へ戻れるはずだった。

 しかし、いつまで走っても、同じ場所をぐるぐる回っているように感じた。

 「……出られない?」

 その時——

 耳元で、囁き声が聞こえた。

 「……なんで、逃げるの?」

 私は、叫びそうになった。

 後ろに何かがいる。

 しかし、振り向くわけにはいかない。

 振り向いたら、終わりだ。

 私は、何とか冷静さを取り戻し、足を止めた。

 そして、ゆっくりと歩き出す。

 背後の足音も、またゆっくりとついてくる。

 しかし、私は悟った。

 このままでは、一生この道から出られない。

 老人の言葉を思い出した。

 「目を閉じて、何も考えずに進め」

 私は、意を決して目を閉じた。

 何も考えず、ただ歩く。

 足音は、まだついてくる。

 しかし、次第に遠ざかっていくのを感じた。

 やがて——

 スッ……

 足音が、消えた。

 気がつくと、私は村の入り口に立っていた。

 空が白み始め、村はいつもの静けさを取り戻している。

 私は、夢でも見ていたのかと思った。

 しかし——

 ポケットの中に、見覚えのない紙切れが入っていた。

 そこには、こう書かれていた。

 「今度は、振り向いてね」

***********************************

 私は、それ以来ヤミナイの道へは近づいていない。

 だが、地元の人々は今でもこう言う。

 「夜中にあの道を歩いたら、絶対に振り向くな」

 もし、あなたが沖縄の夜道を歩いていて、背後から足音が聞こえたら——

 決して、振り向いてはいけない。

 なぜなら、そこには——

 「戻れなくなった者」が立っているかもしれないから。
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