怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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27)夏のキャンプ場での出来事

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そのキャンプ場は、山奥の湖のほとりにあった。
 自然に囲まれた静かな場所で、夏休みになると家族連れやグループ客で賑わう人気のスポットだった。

 しかし、そこには昔からこんな噂があった。

 「湖のほとりに、夜中ひとりで座っていると、“誰か”が隣に座る」

***********************************

 私は大学の友人たちと、二泊三日のキャンプに出かけた。
 男四人、女三人の計七人。

 バーベキューをし、花火を楽しみ、夜には酒を飲みながら騒ぐ——そんな普通のキャンプのはずだった。

 初日は何事もなく過ぎ、二日目の夜——

 異変が起こった。

 夜も更け、みんなはそれぞれのテントに戻って寝ようとしていた。

 しかし、私は少し酔いが回っており、ひとりで湖のほとりへ向かった。

 湖は静かで、水面が月明かりを反射していた。

 私は焚き火の余韻に浸りながら、ぼんやりと水を眺めた。

 その時——

 「ねえ、こんな時間に何してるの?」

 突然、背後から女の声がした。

 私は驚き、振り向いた。

 そこには、知らない女性が立っていた。

 暗闇の中でもわかるほど、彼女は異様だった。

 長い黒髪。
 白いワンピースのような服。
 顔はうっすらとしか見えなかったが、どこかぼんやりしていた。

 「……あなた、キャンプの人?」

 私は、少し酔っていたこともあり、気軽に話しかけてしまった。

 「そうだけど……君も?」

 彼女は、にこりと笑った。

 「うん……ずっと、ここにいるの」

 私は、一瞬違和感を覚えた。

 彼女の言い方がおかしい。

 「ずっと……?」

 「そう。みんな、すぐ帰っちゃうけどね」

 私は、だんだん寒気がしてきた。

 その時——

 湖の水面に映る“影”を見て、息を呑んだ。

 彼女の影がなかった。

 私は、背筋が凍りついた。

「ねえ、隣に座ってもいい?」
 彼女は、そう言いながら、すぐ隣に腰を下ろした。

 私は、恐怖で動けなかった。

 何かがおかしい。
 これは、人間じゃない。

 「……もう遅いよ」

 彼女が、ふいにそう囁いた。

 その瞬間、湖の水面が波打ち、何かが浮かび上がってきた。

 私は、信じられない光景を目の当たりにした。

 それは——

 無数の白い手だった。

 私は立ち上がろうとしたが、足が動かない。

 まるで、何かに引きずられているようだった。

 「……ここに来た人は、みんな一緒だよ」

 彼女の声が、耳元で響いた。

 湖から伸びた無数の手が、ゆっくりと私の足に絡みつく。

 私は、全力で振り払おうとした。

 「助けて……!」

 その時——

 誰かが私の肩を強く掴んだ。

 「おい!! 何やってんだ!!」

 振り返ると、友人のKがいた。

 彼は私の腕を強く引っ張り、湖のほとりから引き離した。

 「お前、何してんだよ!?」

 私はハッと我に返った。

 湖の方を振り向くと——

 そこには誰もいなかった。

 私は、Kに支えられながら、テントに戻った。

 「マジで危なかったぞ。お前、湖に引きずり込まれそうになってた」

 「……あの女は?」

 「女?」

 Kは怪訝な顔をした。

 「お前、ひとりで湖の前に座ってただけだろ?」

 私は絶句した。

 確かに、あの女は隣にいた。

 話もした。

 なのに——Kには見えていなかったのか?

 翌日、私はこの湖について調べてみた。

 すると、こんな記事が出てきた。

《過去に湖で水難事故多発。行方不明者も》
《夜の湖では、不審な現象が報告される》
《「湖のほとりに座ると、“誰か”が隣に座る」》

 私は、戦慄した。

 あの女は、この湖で亡くなった誰かなのか?

***********************************

 私は、もう二度とあのキャンプ場には行っていない。

 だが、時々、夢を見る。

 湖のほとりで、誰かと並んで座っている夢だ。

 そして、夢の中で——

 「ねえ、また来てくれる?」

 白いワンピースの女が、微笑んでいる。

 目を覚ますと、部屋の床に濡れた足跡が残っている。

 もし、あなたが湖のほとりで一人になった時——

 決して、隣に座る誰かに話しかけてはいけない。

 なぜなら、それは——

 あなたを湖の底へ連れていこうとしているから。
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