怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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26)幽霊レーンのボウリング場

そのボウリング場は、駅から少し離れた国道沿いにあった。
 昭和時代から続く古い施設で、今となってはボロボロの外観が目立つ。

 だが、このボウリング場には、絶対に使ってはいけないレーンがあるという噂があった。

 「12番レーンには、誰もいないのにストライクが出る」

 私はオカルト系のライターをしている。
 都市伝説や怪談を取材し、記事にするのが仕事だ。

 ある日、知人から奇妙な話を聞いた。

 「○○市の古いボウリング場、知ってる?」

 「うん、まあ……あの古いとこでしょ?」

 「そう。でも、あそこには**“幽霊レーン”がある**って知ってる?」

 私は、興味をそそられた。

 「幽霊レーン?」

 「12番レーン。そこでは誰もいないのに、ピンが倒れることがあるんだよ」

 「機械の不具合とかじゃない?」

 「だったらいいけどさ……。でも、あそこでは**“ある事故”があったらしい**んだよね」

***********************************

 その夜、私はそのボウリング場を訪れた。

 店内は古びていたが、まだ営業していた。
 客は少なく、レーンの端で数人がプレイしているだけだった。

 私はカウンターで受付を済ませ、意図的に12番レーンを指定した。

 すると、受付の店員が一瞬、怪訝な顔をした。

 「……12番レーン、ですか?」

 「あ、ダメですか?」

 「いえ……大丈夫です。……気をつけてくださいね」

 気をつけて?

 私は、不審に思いながらもレーンへ向かった。

 12番レーンは、他のレーンと何ら変わらないように見えた。
 レーンの端に位置し、隣の13番レーンとはパーテーションで区切られている。

 私はボールを手に取り、軽く投げてみた。

 ゴロゴロゴロ……

 ボールはレーンを転がり、ピンに当たる——はずだった。

 しかし——

 ボールが途中で消えた。

 正確には、「急に見えなくなった」。

 「……え?」

 次の瞬間——

 ピンが一斉に倒れた。

 ストライクだった。

 しかし、私は確かに見たのだ。

 ボールが、途中で“消えた”ことを。

 私は、もう一度投げてみた。

 しかし——

 やはり、ボールは途中で消えた。

 そして、またしてもストライク。

 これはおかしい。

 何かの機械的な不具合か?

 そう考えたが、私は異様な寒気を感じていた。

 その時——

 隣の13番レーンでプレイしていた男性が、突然顔を青ざめた。

 「……な、何だよ、あれ……」

 私は彼の視線を追った。

 そして、12番レーンの奥を見て——

 息が止まった。

 誰かが、ガターの溝にしゃがんでいる。

 それは、長い黒髪の女だった。

 彼女は、レーンのガターに膝をつき、こちらをじっと見ていた。

 私は、血の気が引いた。

 「……なんで、あんなところに……?」

 次の瞬間、彼女がゆっくりと動いた。

 四つん這いのまま、レーンの奥へ這っていく。

 その動きは、まるで水の中を進むように、滑らかだった。

 そして——

 彼女は、ピンの裏側に消えた。

 私は、いてもたってもいられず、スタッフに話を聞くことにした。

 カウンターの店員は、私の顔を見るなり、察したようだった。

 「……見ましたか?」

 「ええ……あのレーン、何なんですか?」

 店員は、小さく息を吐き、静かに語り始めた。

 「実は……10年以上前、12番レーンで死亡事故があったんです」

 私は、息を呑んだ。

 「事故?」

 「女性の方が、ボールを投げた直後、後ろに倒れたんです。そのまま頭を打って……即死でした」

 「そんなことが……」

 「でも、奇妙だったのは——彼女が倒れる直前、突然、レーンに向かって手を伸ばしたことです」

 「レーンに……?」

 「まるで、そこに誰かがいたかのように。」

 店員は、さらに続けた。

 「その後も、12番レーンでは異常現象が続きました。
 投げたボールが消えたり、勝手にストライクが出たり……」

 私は、あの“女”のことを思い出した。

 ガターにしゃがみ、こちらを見つめていたあの存在——。

 私は、最後にこう尋ねた。

 「……あの女性は、どこを見て倒れたんですか?」

 店員は、一瞬ためらった後、答えた。

 「ピンの向こう側です」

 私は、ゾッとした。

 つまり——

 彼女は死ぬ直前、ピンの裏側に何かを見たのだ。

***********************************

 私は、その日以来、ボウリング場には行かなくなった。

 だが、時々思い出す。

 あのガターにいた女のことを。

 そして、ある夜——

 私は、夢を見た。

 そこは、暗いボウリング場だった。

 12番レーンの前に立つと、背後から声がした。

 「あなたも、投げてみる?」

 振り向くと——

 黒髪の女が、ボールを手に持っていた。

 私は、絶叫して目を覚ました。

 しかし、ベッドの横には——

 ボウリングのボールが転がっていた。

 もし、あなたがボウリング場で12番レーンを見かけたら——

 決して、ボールを投げてはいけない。

 なぜなら、そのレーンでは今も——

 「誰か」が、ピンの裏側で待っているから。

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