怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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30)コインロッカーの中のもの

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東京都内には、数え切れないほどのコインロッカーがある。
 駅の構内、繁華街の隅、地下道の一角。
 それらは日々、多くの人々に利用されているが——

 時々、**「開けてはいけないロッカー」**が存在する。

***********************************

 これは、都内に住むSさんが体験した話である。

 その日、彼は仕事帰りに新宿駅のコインロッカーを利用した。
 重たいカバンを一時的に預け、軽い身で飲みに行くためだった。

 ロッカーはほぼ埋まっていたが、端の方に一つだけ空きがあった。

 彼はカバンを入れ、鍵をかけた。

 そして、3時間後——

 酔い覚ましに戻ってくると、ロッカーの扉が少し開いていた。

 「え……?」

 確かに、鍵をかけたはずなのに。

 嫌な予感がしながらも、扉を開けると——

 中には、見知らぬ鍵が置かれていた。

 その鍵は、Sさんが使用したものではなかった。

 手に取ると、タグには「089」と書かれていた。

 「……このロッカーの番号じゃないな」

 気味が悪かったが、放置するわけにもいかず、彼は駅員に届けることにした。

 だが、駅員は不思議そうな顔をした。

 「089番のロッカー……ですか?」

 「ええ、これの鍵が入ってたんです」

 駅員はしばらく端末を操作した後、首を傾げた。

 「お客様、うちの駅には089番のロッカーは存在しませんよ」

 「……え?」

 Sさんは、全身に鳥肌が立った。

 089番のロッカーがない?

 では、この鍵は一体何なのか?

 Sさんは気味悪くなり、駅員に鍵を預けてその場を離れた。

 しかし、翌日——

 彼のポストに、同じ鍵が入っていた。

 鍵のタグには、やはり「089」と書かれている。

 Sさんは混乱した。

 駅に届けたはずの鍵が、なぜ自分のポストに?

 そして、その夜——

 スマホに「非通知」から着信があった。

 恐る恐る出ると、低い女の声でこう囁かれた。

 「……開けて」

 Sさんは、震えながら電話を切った。

 数日後、Sさんは意を決して、都内の別の駅でコインロッカーを調べた。

 そして、ある地下通路の奥で——

 089番のロッカーを見つけた。

 存在しないはずのロッカーが、そこにあったのだ。

 鍵穴は、持っている鍵とぴったり合いそうだった。

 Sさんは、躊躇した。

 だが、何かに導かれるように、鍵を差し込んだ。

 カチリ

 ロッカーの扉が開く——

 中には、古びたスマホが一台、置かれていた。

 それ以外、何もない。

 Sさんは、震える手でスマホを手に取った。

 その瞬間——

 画面が勝手に点灯した。

 そして、通話アプリが開かれた。

 そこには、たった一件の未送信メッセージがあった。

 それは、Sさんの名前宛てだった。

 「089番ロッカーを開けないで」

 Sさんは、血の気が引いた。

 そのメッセージは、送信者不明だった。

 しかし、よく見ると、送信者のアイコンには——

 自分とそっくりな顔が映っていた。

 Sさんは、恐怖でその場を逃げ出した。

 翌日、再びあの地下通路へ行った。

 しかし、そこには089番のロッカーはなかった。

 管理事務所で尋ねても、「最初から存在しない」と言われた。

 だが、それ以来——

 Sさんのスマホには、時々知らない番号から着信が入るようになった。

 その番号は、常に**「089」**で始まっていた。

***********************************

 もし、あなたが都内のコインロッカーを使った時——

 見知らぬ鍵が入っていたら、絶対に拾ってはいけない。

 なぜなら、それは——

 存在しないロッカーへの招待状だから。
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