怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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31)事故物件の部屋

東京都内には無数の賃貸物件がある。
 その中には、誰も住みたがらない部屋が存在する。

 「事故物件」——
 過去に事件や自殺があり、次々と入居者が消えていく部屋。

 そして今、この話を聞いたあなたも、もしかすると——

 その部屋を探しているのかもしれない。

***********************************

 これは、都内で一人暮らしを始めたAさんの体験談である。

 Aさんは、会社から近くて安い物件を探していた。

 不動産サイトを眺めていると、異様に安いワンルームマンションを見つけた。

 築15年、駅徒歩5分、家賃3万円。

 都内では考えられない破格の安さだった。

 不審に思いつつも、不動産会社に問い合わせると、担当者はこう言った。

 「少し“過去に問題があった部屋”ですが……気にしない方にはお得ですよ」

 Aさんは、気にしないタイプだった。

 「安いなら、別にいいです」

 彼はすぐに契約を決めた。

 しかし、その夜から——

 奇妙な現象が起こり始めた。

 引っ越し初日の夜。

 Aさんは荷解きを終え、スマホを見ながらベッドに横になった。

 ふと気づくと、壁の向こうから微かな音が聞こえてくる。

 カサ……カサ……

 「……隣の部屋の音かな?」

 気にせず眠ろうとしたが——

 ドンッ!

 突然、壁が強く叩かれた。

 「……え?」

 驚いて壁を見つめる。

 すると——

 壁に“何かの影”が映っていた。

 それは、こちらをじっと覗き込んでいるような“人の形”をしていた。

 翌朝、Aさんは管理人に尋ねた。

 「隣の人、昨夜すごい音を立ててましたけど……」

 すると、管理人は首をかしげた。

 「……隣の部屋? そこは、今“誰も住んでいませんよ”」

 Aさんは、ゾッとした。

 しかし、管理人は何かを言いかけて口を閉じた。

 「……とにかく、お気をつけください」

 彼の顔は、不自然に強張っていた。

 その夜、Aさんは意識して隣の部屋を気にしないようにした。

 だが、深夜2時頃——

 壁の向こうから、微かな声が聞こえた。

 「……見てるよ……」

 Aさんは飛び起きた。

 音のする方を凝視するが、何もない。

 しかし、よく見ると——

 壁のクロスが、ほんのわずかに“膨らんでいる”ように見えた。

 まるで、壁の中に何かがいるかのように——

 翌日、Aさんは再び管理人を訪ねた。

 「……あの部屋、過去に何があったんですか?」

 管理人は、ため息をつきながら語り始めた。

 「ここ、実は“事故物件”なんです」

 Aさんは、心臓が跳ね上がるのを感じた。

 「何が……?」

 「3年前、ある女性が住んでいたんですが、ある日突然“姿を消した”んです。
 部屋の中には、生活の痕跡がそのまま残されていました。でも……遺体も見つからなかった」

 Aさんは、冷や汗をかいた。

 「それで、その後は?」

 「それからも、入居者が住み始めるたびに“おかしくなる”んです」

 「おかしくなる?」

 「みんな、“壁の中から声が聞こえる”って言い出すんですよ。 そして、最後には……消えてしまう」

 Aさんは、背筋が凍った。

 その夜、Aさんは部屋の隅で眠ることにした。

 しかし——

 深夜2時過ぎ、壁から再び音が聞こえた。

 カサ……カサ……

 耳を澄ますと——

 壁の向こうで、誰かが“爪を立てて引っ掻く音”がする。

 「……出して……」

 Aさんは、叫びそうになった。

 そして、目の前の壁が——

 少しずつ“膨らんで”きた。

 Aさんは、恐る恐る近づき、壁を指で押してみた。

 ぐにゃ……

 まるで、中に何か柔らかいものが詰まっているかのような感触。

 その瞬間——

 壁のクロスが裂け、“白い指”が飛び出してきた。

 Aさんは悲鳴を上げ、部屋を飛び出した。

 翌日、Aさんはすぐに部屋を引き払い、別の町へ引っ越した。

 だが、その数週間後——

 Aさんの元に、不動産会社から連絡が入った。

 「申し訳ありませんが、以前お住まいだったお部屋の“補修費”が発生しました」

 「補修費?」

 「ええ、壁のクロスが剥がれていたんです」

 Aさんは、ゾッとした。

 「……中は、どうなってました?」

 不動産会社の担当者は、困惑した声で答えた。

 「それが……壁の中から、“誰かの顔”の跡が出てきたんです」

***********************************

 もし、あなたが都内で異常に安い物件を見つけたら——

 壁を、よく見てから契約することをお勧めする。

 なぜなら、その部屋には——

 まだ“出られない誰か”がいるかもしれないから。

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