怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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34)消えた参拝者(京都府)

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京都には、千年以上の歴史を持つ寺が数多く存在する。
 観光客が行き交い、古の文化が息づく美しい街。

 しかし、その中には——

 決して名を口にしてはいけない寺がある。

 その寺へ足を踏み入れた者は、二度と戻れないという。

 私は、京都の心霊スポットを取材するライターだった。

 ある日、地元の住職から、こんな話を聞いた。

 「京都にはな、“地図に載っていない寺”があるんや」

 「地図に載っていない?」

 「せや。普通の寺は、観光地として有名になるけど、その寺だけは違う。
 行った者が帰ってこないから、いつの間にか誰も行かんようになったんや」

 私は、興味を引かれた。

 「その寺の名前は?」

 住職は、小さく首を振った。

 「名前を口にしたら、“道”が開く。……やめとき」

 私は背筋が寒くなった。

 その話を聞いた翌日、私は京都に詳しい友人・Kに連絡を取った。

 彼は、京都生まれの歴史好きで、数々の寺を巡っていた。

 「そんな寺があるなら、調べてみようか?」

 Kは軽い調子でそう言った。

 私は、不安を覚えたが——

 翌日、Kは行方不明になった。

 Kがいなくなった日、彼のSNSに一枚の写真が投稿されていた。

 見たことのない寺の門。

 苔むした木造の門に、読めない古い文字が刻まれている。

 だが、最も異様だったのは——

 門の前に立つ、黒い影のような存在だった。

 それは、人の形をしているが、顔がなかった。

 私は、震えた。

***********************************

 私は、Kの足取りを追った。

 京都の古い地図を調べ、彼が最後に訪れた場所へ向かう。

 そして、ある山道へ辿り着いた。

 そこには、小さな石碑が立っていた。

 「ここより先、入るべからず」

 私は、一瞬ためらったが、意を決して進んだ。

 すると、突然——

 霧が立ち込め、辺りの風景が変わった。

 霧の向こうに、Kが撮った門と同じ寺の入口があった。

 私は、足がすくんだ。

 なぜなら、その門には——

 Kが立っていたはずの場所に、黒い影が浮かんでいた。

 影は、ゆっくりとこちらを向いた。

 顔がない。

 私は、恐怖で逃げ出そうとした。

 しかし、門の向こうから——

 Kの声が聞こえた。

 「……助けて……」

 私は、意を決して門をくぐった。

 しかし、そこには——

 寺などなかった。

 ただ、広がるのは無数の石塔と、墓のようなものだった。

 私は、言葉を失った。

 すると、耳元で囁きがした。

 「……ここは、戻れぬ者の寺……」

 私は、背後に何かがいるのを感じた。

 振り向いてはいけない。

 だが——

 私は、Kの姿を見た。

 Kは、ぼろぼろの着物をまとい、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 「K! 無事か!?」

 だが、彼は答えない。

 よく見ると、Kの顔は——

 影のようにぼやけていた。

 私は、凍りついた。

 「……お前、本当にKなのか?」

 Kは、首を傾げた。

 そして、口を開いた。

 「……僕は、ここにいるよ」

 その瞬間——

 Kの顔が、ぐにゃりと歪んだ。

 私は、必死で門の外へ逃げた。

 しかし、足が重い。

 まるで、何かに引きずり込まれるようだった。

 「帰れ……帰れ……」

 頭の中に、誰かの声が響いた。

 気がつくと——

 私は、寺の門の外に立っていた。

 辺りを見回すと、寺は消えていた。

 私は、すぐにKの家族に連絡した。

 しかし、彼の家族はこう言った。

 「Kなんて息子は、初めからいませんよ?」

 私は、愕然とした。

 KのSNSは、すべて削除されていた。

 まるで——

 Kという人間が、最初から存在しなかったかのように。

***********************************

 もし、京都で見たことのない寺を見つけたら——

 決して、門をくぐってはいけない。

 なぜなら、その寺は——

 参拝者を消し去る寺だから。
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