怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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33)呪われた畑(和歌山県)

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和歌山県の山間部には、代々続く農家があった。
 この地は、柿や梅の栽培が盛んで、家族経営の農家が多い。

 しかし、その中に一軒だけ——

 **「決して近づいてはいけない畑」**があるという。

 そこに足を踏み入れた者は、必ず奇妙な死を遂げるのだ。

 私がこの話を聞いたのは、農業を営む知人のSさんからだった。

 「和歌山のある農家の畑、妙に手入れが行き届いてるのに、誰も作物を収穫してへんねん」

 「収穫しない? 何のために?」

 「昔からな、“あの畑の作物を食ったら、死ぬ”って言われてるんや」

 私は興味を引かれ、その農家を訪ねることにした。

***********************************

 訪れたのは、山間にある古い農家だった。

 迎えてくれたのは、70代の老人だった。

 「……あんた、あの畑のことを聞きにきたんか?」

 「ええ、話を聞いて、気になって」

 すると、老人の顔が険しくなった。

 「あの畑には、手ぇ出したらあかん。絶対に近づくな」

 「なぜです?」

 老人は、しばらく黙っていたが、やがて静かに語り始めた。

 「あの畑にはな、昔、“人”が埋められてるんや」

 私は息を呑んだ。

 「……昔、この村では口減らしがあった。飢饉のとき、年寄りや病人を“生きたまま”畑に埋めたんや」

 「……それで?」

 「埋められた人間はな……その畑の作物を食う者を呪うようになったんや」

 老人は、深いため息をついた。

 「今でも、時々おるやろ? どこからともなく“うまそうな果物”を勝手に採って食べる奴。
 そういう奴が、後で必ず“死ぬ”んや」

 「死ぬ?」

 「食った翌日な、決まって“畑の真ん中”で死んどる。まるで、誰かに引きずられたように……」

 それから数日後、私は再びその畑を訪れた。

 手入れが行き届いているのに、不気味なほど静かだった。

 すると、作業をしていた村人が、こう言った。

 「……夜中、誰もいないはずの畑から“ざくざく”って音がするんや」

 「ざくざく?」

 「まるで、誰かが“土を掘ってる”みたいな音や」

 私は、寒気を覚えた。

 その夜、私は畑を見張ることにした。

 深夜——

 本当に、畑の中から“ざくざく”という音が聞こえてきた。

 私は、そっと畑へ近づいた。

 そして、音のする方を照らした瞬間——

 畑の土が、わずかに“盛り上がっていた”

 まるで、中から何かが出ようとしているかのように。

 そして次の瞬間——

 白い手が、土の中から伸びてきた。

 私は、凍りついた。

 それは、人間の手だった。

 しかし、骨ばっていて、皮膚が薄くなっていた。

 「……助けて……」

 かすかな声が聞こえた。

 私は恐怖で一歩後ずさった。

 すると——

 背後に、誰かが立っていた。

 振り向くと、そこには黒い影が立っていた。

 それは、人の形をしているが、顔が見えない。

 「……この畑は、ワシのもんや……」

 低い、かすれた声だった。

 影は、私の方へゆっくりと手を伸ばしてきた。

 私は、全力でその場から逃げた。

 翌日、再び老人を訪ねた。

 「やっぱり……あの畑には“何か”がいる」

 すると、老人は頷いた。

 「……ワシの爺さんの時代にはな、“畑の主”って言われてたんや」

 「畑の主?」

 「昔、あの畑で死んだ人間の魂が、一つに集まって、土地の主になったんや。
 誰かが作物を盗むと、そいつを“仲間”にするために引きずり込む」

 私は、震えた。

 「じゃあ、畑の作物は……」

 「誰も食えん。呪われとるからな」

 「じゃあ、なぜ手入れを?」

 老人は、ゆっくり答えた。

 「手入れをやめたら……村ごと呪われるからや」

 それから……
 私は、すぐに和歌山を離れた。

 しかし、それから数週間後——

 知人のSさんから、こんな連絡が入った。

 「……あの畑に、新しい遺体が見つかった」

 「誰が?」

 「観光客や。山道で迷って、畑の果物を食ったらしい」

 私は、ゾッとした。

 結局、あの畑は今も——

 “新しい仲間”を求めているのかもしれない。

***********************************

 もし、和歌山の山奥で“誰も収穫しない畑”を見つけたら——

 決して、作物に手を出してはいけない。

 なぜなら、それを口にした瞬間——

 あなたも“畑の一部”になってしまうのだから。
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