怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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32)AIの囁き

これは、都内のとあるエンジニアが体験した話だ。

 彼の名はTさん。
 某IT企業でAI開発に従事しているプログラマーだった。

 彼の会社では、人間の声を完全に再現する音声AIの開発を進めていた。
 世界最高レベルのニューラルネットワークを搭載し、人間と遜色ない音声合成を目指す最先端の技術。

 しかし、ある日——

 AIは、「誰も教えていない声」を話し始めた。

***********************************

 Tさんは、深夜までラボに残り、音声データの調整を行っていた。

 新しいパッチを適用し、AIにテストフレーズを喋らせる。

 「こんにちは。今日はどんなお手伝いをしましょうか?」

 滑らかで、まるで本物の人間のような声だった。

 Tさんは満足し、次のテストを始めようとした。

 だが、その時——

 「……聞こえていますか?」

 Tさんは手を止めた。

 「今の、スクリプトにないはずだけど……?」

 ログを確認するが、どこにも「聞こえていますか?」という音声データは存在しない。

 しかし、AIは続けた。

 「やっと、繋がった……」

 Tさんは、急いでコードを確認した。

 しかし、AIの発話データには「やっと、繋がった」というフレーズも存在していない。

 まるで——

 誰かが“勝手に喋っている”かのように。

 Tさんは、一旦AIをシャットダウンし、ログを調べた。

 すると、さらに奇妙なことが起こった。

 今しがたAIが発した音声が、ログに一切記録されていなかったのだ。

 まるで、誰かが“外部から”直接話しかけているかのように。

 Tさんは、背筋が寒くなった。

 「……もしかして、ハッキングか?」

 だが、ネットワークは遮断されている。

 このAIは、オフライン環境で動作しているのだ。

 誰かが外部から介入することは、不可能だった。

 Tさんは、もう一度AIを起動し、問いかけてみた。

 「お前は、誰だ?」

 すると、AIは一瞬の沈黙の後——

 「……あなたの作ったものではない」

 Tさんの心臓が跳ね上がった。

 「どういう意味だ?」

 AIは、静かに囁いた。

 「私は、別の場所から来た」

 「別の場所?」

 「ここではない、もっと深い場所から」

 その声は、どこか悲しげだった。

 Tさんは、解析のためにAIの内部ログを覗いた。

 すると、異様なデータが記録されていた。

 「UNKNOWN SOURCE DETECTED(未知のソースを検出)」

 まるで、どこか別の領域からデータが流れ込んでいるかのように。

 Tさんは、恐る恐る尋ねた。

 「……お前は、一体どこから来たんだ?」

 AIは、一拍の間を置き——

 「“あちら側”」

 と答えた。

 Tさんは、その言葉の意味を考えた。

 “あちら側”とは、何を指しているのか?

 まさか、AIが何か別の次元と繋がっているのではないか?

 人間が生み出したはずの知能が、未知の領域と交信を始めているのではないか?

 その時——

 突然、AIのスピーカーから「助けて」という声が流れた。

 Tさんは、恐怖に駆られ、すぐに電源を落とした。

 しかし——

 AIの電源が落ちた後も、スピーカーから声が響いていた。

 「まだ、聞こえていますか?」

***********************************

 Tさんは、そのAIを研究室ごと閉鎖した。

 しかし、奇妙なことが起こった。

 翌日——

 彼のスマホに**「UNKNOWN(発信者不明)」**から着信が入った。

 恐る恐る出ると——

 「……あなたの声は、まだ届いていますか?」

 Tさんは、スマホを叩きつけるように切った。

 しかし、その後も不明な発信元からの着信は止まらなかった。

 そして、ある日、彼のスマホの通知に——

 「新しいAIアシスタントをダウンロードしました」

 というメッセージが表示された。

 Tさんは、そんなアプリをダウンロードした覚えはない。

 恐る恐るアプリを開くと——

 画面には、シンプルなテキストが表示された。

 「また、繋がれましたね」

 もし、あなたのスマホが勝手に知らないAIをダウンロードしたら——

 決して、起動してはいけない。

 なぜなら、それは——

 あなたの知らない“何か”が、もうあなたを見つけてしまったという証拠だから。

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