怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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64)雪娘の囁き(新潟県)

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新潟県の冬は、白い地獄のようだ。
 雪が何メートルも積もり、人々は家に閉じこもるしかない。

 そんな新潟の山間部には、古くからこんな言い伝えがある。

 「大雪の夜、誰かに呼ばれても振り向いてはいけない」
 「振り向いた者は、“雪娘”に連れて行かれる」

 これは、実際に起きた出来事である。

***********************************

 Tさん(30代・男性)は、新潟の山奥に住む祖母の家を訪れていた。

 冬は厳しく、雪は1メートル以上積もる。

 その夜、外は吹雪だった。

 「明日、雪かきしないとな……」

 そう思いながら、Tさんは布団に入った。

 その時——

 「……ねえ」

 かすかな声が聞こえた。

 Tさんは、ドキッとした。

 「……風の音か?」

 だが、もう一度——

 「ねえ……」

 今度は、はっきりと聞こえた。

 Tさんは、ゆっくりと窓を見た。

 すると——

 外に、白い影が立っていた。

 Tさんは、心臓が早鐘を打つのを感じた。

 こんな吹雪の中、人がいるはずがない。

 だが、窓の向こうには、明らかに人の姿があった。

 白い着物のような服を着た、長い髪の女——

 そして、その顔は——

 真っ白で、目だけが異様に黒かった。

 Tさんは、思わず布団をかぶった。

 その瞬間——

 「ねえ……開けて……」

 女が、窓の外で囁いた。

 Tさんは、恐怖に震えながら朝を迎えた。

 朝になり、祖母にこの話をすると——

 祖母は、青ざめた顔で言った。

 「それは“雪娘”だ」

 「雪娘?」

 祖母は、こう話した。

 「昔、この村には“雪娘”という妖怪がいた」
 「冬の夜、人を呼び、振り向いた者を雪の中へ連れて行く」

 Tさんは、寒気を覚えた。

 「じゃあ、もし窓を開けていたら……?」

 祖母は、重々しく頷いた。

 「もう、この世にはいなかっただろうね……」

 Tさんは、恐る恐る昨夜の窓の外を見た。

 すると——

 足跡が、途中で消えていた。

 普通なら、人が歩いた跡は続くはずだ。

 しかし、その足跡は——

 途中から、雪の中へ沈んで消えていた。

 まるで、何かに引きずり込まれたかのように。

 その後、Tさんは村の古老にこの話をした。

 すると、古老は静かに言った。

 「昔、吹雪の夜に行方不明になった娘がいた」

 「彼女は雪の中で凍え死に、それ以来、冬の夜に人を呼ぶようになった」

 「呼ぶ?」

 「『ねえ……』と囁く声を聞いたら、絶対に答えてはいけない」

 「答えた者は、“次の雪娘”になるのだから」

***********************************

 もし、あなたが新潟の雪深い場所に行くなら——

 夜、誰かに呼ばれても、決して振り向いてはいけない。

 そして、もし——

 「ねえ……開けて……」と囁く声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの足元は——

 雪の中へと沈んでいくのだから。
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