怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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65)件(くだん)

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件(くだん)——。
 昔から日本に伝わる奇妙な妖怪である。

 「人間の体に牛の頭を持ち、未来を予言する」
 「ただし、予言を伝えた後、その場で死ぬ」

 そんな伝説が、令和の時代にも続いているとしたら——?

 これは、実際に起きた出来事である。

***********************************

 大学生のNさん(21歳・男性)は、都市伝説やオカルトに興味があった。

 ある日、ネットの掲示板を見ていると、こんなスレッドを見つけた。

 「件が出た。これ、本物か?」

 スレ主が貼ったリンクをクリックすると、匿名のSNSアカウントの投稿が開いた。

 そこには、一枚の不気味な画像があった。

 「人間の体に、牛の頭を持つ存在が夜の街角に立っている」

 「……これ、合成か?」

 Nさんは興味をそそられ、そのアカウントをフォローした。

 すると——

 「予言を聞きたいですか?」

 ダイレクトメッセージが届いた。

 Nさんは、冗談半分でメッセージを送った。

 「聞かせてください」

 すぐに、返信が来た。

 「あなたは、三日後に“見てはいけないもの”を見ます」
 「その時、あなたは二つの選択肢を迫られます」
 「逃げるか、それとも——」

 Nさんは、ゾッとした。

 「なんだよこれ……」

 だが、それ以上のメッセージは来なかった。

 Nさんは、あのメッセージのことを半分忘れかけていた。

 だが、三日後の深夜、帰宅途中のことだった。

 「あれ……?」

 電柱の陰に、妙な影が見えた。

 細長い人間の体——
 だが、その頭は、牛のように大きく、黒い目がこちらを見つめていた。

 Nさんは、全身が凍りついた。

 「……嘘だろ?」

 影は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。

 「選べ……」

 牛の口が、確かにそう動いた。

 Nさんは、恐怖で動けなかった。

 件は、もう目の前まで来ていた。

 そして——

 「逃げるか、それとも“見る”か」

 Nさんは、背筋が凍るのを感じた。

 「見る……?」

 件は、さらに囁いた。

 「“見た者”は、知ることになる」
 「そして、それはお前の命と引き換えだ」

 Nさんは、息を呑んだ。

 このまま逃げれば助かる。

 だが、もし「見る」を選んだら——?

 Nさんは、好奇心に負けた。

 「……見る」

 そう呟いた瞬間——

 視界が暗転した。

 そして、脳内に直接、ある“映像”が流れ込んできた。

 それは、近未来の光景だった。

 崩れ落ちるビル、真っ赤な空、逃げ惑う人々——。

 そして——

 自分が、その中にいた。

 Nさんは、目の前の光景に凍りついた。

 これは——

 近いうちに起こる災厄の映像だった。

「お前は伝えよ」
 映像が消えると、Nさんは地面に倒れていた。

 件は、彼を見下ろしていた。

 「お前は、伝えよ」

 「……伝える?」

 「見たものを、広めよ」

 そう言うと、件はスッと消えた。

 まるで最初から存在しなかったかのように——。

 Nさんは、その後SNSに投稿した。

 「近いうちに、大きな災害が起こる」
 「これを読んだ者は、気をつけてほしい」

 しかし、誰も信じなかった。

 数日後——

 Nさんは、自室で死亡しているのが発見された。

 遺書もなく、死因も不明だった。

 ただ、彼のパソコンの画面には——

 「件が出た。これ、本物か?」

 という、新たなスレッドが開かれていた。

***********************************

 もし、あなたのSNSに**「予言を聞きたいですか?」**というメッセージが届いたら——

 決して返信してはいけない。

 そして、もし——

 「見る」か「逃げる」かを選ばされたら。

 その瞬間、あなたの運命は——

 件に導かれる未来へと変わってしまうのだから。
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