怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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68)深沼の手(宮城県)

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宮城県には、古くから不気味な噂のある場所がある。
 それは、深沼海岸と呼ばれる海辺だ。

 地元では、昔からこう言われている。

 「夜の深沼には近づくな」
 「海から“手”が出て、引きずり込まれる」

 これは、実際に起きた出来事である。

***********************************

 Sさん(30代・男性)は、宮城県に住む会社員だった。

 彼は友人のTと共に、心霊スポット巡りを趣味にしていた。

 ある夜、二人は宮城県の都市伝説を調べていた。

 「宮城の有名な怖い話ってないかな?」

 Tがスマホを見ながら答えた。

 「深沼海岸って知ってるか?」

 Sさんは、その名前に聞き覚えがあった。

 仙台市の沿岸部にある海岸で、昔から水難事故が多いことで知られている。

 「なんでそんなに事故が多いんだ?」

 Tは、不気味な話を教えてくれた。

 「夜の深沼には“何か”がいるって話があるんだよ」

 「泳いでると、海から“手”が出てきて、足を掴まれるって」

 Sさんは、興味を持った。

 「行ってみようぜ」

 夜11時、二人は深沼海岸に向かった。

 海岸に着くと、潮の香りが強く漂っていた。

 昼間はサーファーや観光客で賑わう場所だが、夜はまるで別世界だった。

 波の音だけが響く、不気味な静寂。

 「本当に出るのか?」

 Tがスマホのライトを照らした。

 その瞬間——

 「ぺた……ぺた……」

 何かが、砂浜を歩く音が聞こえた。

 Sさんは、背筋が寒くなった。

 「……誰かいるのか?」

 スマホのライトを向けると——

 遠くに、人影が立っていた。

 波打ち際に、ぼんやりと立つ白い影。

 「やばい、マジでいるじゃん……」

 Tが、小声で呟いた。

 Sさんは、心臓が早鐘を打つのを感じた。

 しかし、よく見ると——

 その影は、足がなかった。

 Sさんは、恐怖で足がすくんだ。

 その影は、ゆっくりと海の方へ歩き出した。

 「おい、追いかけてみようぜ」

 Tが言った。

 Sさんは止めたかったが、好奇心が勝ってしまった。

 二人は、波打ち際に向かった。

 しかし——

 影が消えた。

 「どこ行った?」

 Tが辺りを見回す。

 その時——

 ザバァッ!!

 海の中から、無数の白い手が伸びてきた。

 「うわああああ!!」

 二人は、必死で逃げた。

 しかし——

 Tが突然、足を掴まれた。

 「助けて!!」

 Tの足元には、砂に埋もれた白い手が絡みついていた。

 Sさんは、Tの腕を掴んだ。

 しかし、その手は——

 冷たく、異様にザラついていた。

 「T!!離れろ!!」

 しかし——

 Tの体は、ズルズルと砂の中へ引きずられていった。

 そして——

 波が一度打ち寄せると、Tの姿は消えていた。

 Sさんは、必死で警察に通報した。

 だが、Tは見つからなかった。

 翌朝、捜索隊が海岸を調べたが、Tの痕跡は何もなかった。

 しかし、砂浜の一部には——

 無数の手形が残っていた。

 まるで、誰かが地面から這い出してきたかのように——。

 そして、Sさんのスマホに、見覚えのない番号から通知が届いた。

 「助けて……」

 Sさんは、その後地元の漁師に話を聞いた。

 すると、漁師は静かに言った。

 「それは、海の底にいる“未帰還者”だ」

 「未帰還者?」

 「昔、この海岸では、多くの人が波にさらわれて帰ってこなかった」

 「彼らは、海の底に取り残され、夜になると“次の者”を求めて手を伸ばすんだ」

 Sさんは、震えた。

 「じゃあ、Tは……?」

 漁師は、深くため息をついた。

 「もう、戻れないだろうな……」

***********************************

 もし、あなたが宮城県の深沼海岸に行くことがあれば——

 夜には、決して近づいてはいけない。

 そして、もし——

 波打ち際で「助けて……」という声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの足元にも——

 白い手が絡みついているかもしれない。
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