怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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139)『最後に既読がついたのは』

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事故で彼を亡くしたのは、ちょうど一年前の今日だった。

 バイクの単独事故。雨上がりの国道。
 帰宅途中、カーブを曲がりきれず、電柱に激突。

 搬送先で、心停止。即死。

 最後に会ったのは、その日の朝。
 コンビニでアイスコーヒーを飲んでいた私に、
 「またな」って、笑っただけだった。

 私はそのままバイトに行き、スマホに届いていた最後のLINEを見たのは、帰宅後だった。

 > 「今日の夜、話がある」

 それが何だったのか、彼はもう教えてくれない。

 それから一年。

 私は彼のLINEを消せなかった。

 通知も来ないし、既読もつかない。

 でも、たまに開いては、昔のやりとりを読み返す。
 写真も、絵文字も、短い会話も、全部まだそこにある。

 「生きていたことの証拠」として、それだけが残っていた。

 そして今日。

 命日。

 ひとりで彼の実家に線香をあげに行き、墓前に花を供えた帰り道。

 スマホに通知が来た。

 LINE:「メッセージが既読になりました」

 ……既読?

 私は思わず履歴を開いた。

 最後に送ったのは、半年前のメッセージだった。

 > 「いまでも、全部夢だったらって思ってるよ」

 その吹き出しの下に、グレーではなく、“青い”既読マークがついていた。

 スマホの不具合かもしれない。
 でも、それが“あのアカウント”にだけ起きたとなると――話は別だ。

 私は、彼のプロフィールを開いた。

 ・表示名はそのまま
 ・ひとことは「よろしく」
 ・最終ログイン:不明

 ただし、アイコン画像が変わっていた。

 以前は二人で行った水族館で撮ったクラゲの写真だったはず。
 それが今は、**“真っ黒な画面に、白い指が1本”**だけ映った写真に変わっていた。

 その日から、彼のアカウントが“動き始めた”。

 毎日、決まった時間に“既読”がつく。

 メッセージを送れば、1時間後に必ず既読になる。

 返信は来ない。既読だけ。

 でも、その既読マークが、私をじっと見ているように感じる。

 私は、ふと思いついてメッセージを送った。

 > 「……どこにいるの?」

 翌朝。

 彼のアイコン画像が、また変わっていた。

 今度は、私の家の前の風景だった。

 見覚えのあるポスト、傘立て、表札。
 夜のうちに撮られたような、薄暗い画像。

 けれど、私はその時間、ずっと自室にいた。

 カーテンも、雨戸も閉めていたはずだったのに。

 その夜、寝ようとしていた私のスマホに、LINEの通知が届いた。

 > 「今日の夜、話がある」

 それは――ちょうど1年前に、彼が送ってきたあのメッセージとまったく同じ文章だった。

 送信時刻も、日付も同じ。

 違うのは、既読がついているのが“私”であることだった。

 1年前、彼が言えなかった言葉を――今度は私が聞かされる番なのか?

 翌日、朝。

 彼のLINEのひとことが、こう変わっていた。

 > 「ちゃんと届いた」

 私は怖くなり、アカウントをブロックしようとした。
 しかし、“ブロック”のボタンだけがグレーアウトしていた。

 代わりに、ボタンの横に小さく表示された文字。

 > 「やりとりの途中です」

 夜、電気を消し、布団に入る。

 スマホの画面が勝手に点灯した。

 LINEが開き、トークルームがスクロールされる。
 文字がひとりでに入力されていく。

 > 「あのとき、伝えられなかったから」
 > 「これで最後」
 > 「……開けて」

 その瞬間、インターホンが鳴った。

 玄関のドアを開けると、誰もいない。

 だが、足元にスマホが置かれていた。

 それは、彼が使っていた機種と同じ。

 ホーム画面が割れている。LINEが起動していた。

 画面には、最後のメッセージ。

 > 「見てくれてありがとう。
 >  これで、お別れができた。
 >  ――今度は、君の番だよ」

 次の日から、私のLINEが勝手に誰かに“既読”をつけ始めた。

 ・ブロックしているはずのアカウント
 ・削除したはずのトークルーム
 ・通話履歴のない人

 その中には――まだ死んでいない人の名前もあった。

◆エピローグ
 既読、という印は、
 “読んだ”ことではなく、
 “誰かがそこにいた”証拠かもしれません。

 あなたが何気なく送ったメッセージ。
 それを見てくれているのは――
 本当に“生きている誰か”でしょうか?
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