怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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140)『レビュー数1件、星5つ』

社会人2年目の秋。
 給料日前で、財布も心もすっかりすり減っていた私がやっていたのは――フリマアプリの徘徊だった。

 ブランドものでも、中古家電でもない。

 私が漁っていたのは、「ガラクタにしか見えないもの」。
 古道具、誰かの私物、謎のオブジェ。
 そういうものの中には、ごく稀に「何かありそうな気配」が混じっている。

 それを、部屋に置くと落ち着く気がした。
 賃貸ワンルームの無機質さが、少しだけ柔らかくなる気がしたのだ。

 その日見つけたのは、“変な木箱”だった。

 焦げ茶の四角い箱。手のひらサイズ。
 蓋には金属の留め具がついており、表面には不明な言語のような記号が刻まれていた。

 商品のタイトルは「木箱」。
 説明文は短く、こうだけだった。

 > 「開けても中は空です。壊さないでください。」

 出品者のプロフィールは空欄。
 評価も少なく、レビューはたったの1件。

 そのレビューには、こう書かれていた。

 > ★★★★★
 > 「言われた通り、壊さずにいます。何も起きません。」

 私は、なぜかそれが気になって仕方なかった。

 価格は500円。送料込み。

 “何も起きません”というレビューに、逆にぞっとした。

 もし壊したら? 開けたら?
 中に“何もない”はずがない。

 そんな根拠のない確信があった。

 購入した。

 2日後、ポストに届いた封筒の中には、
 プチプチで丁寧に包まれた小さな木箱があった。

 重さはほとんどない。
 箱の表面はややべたついていて、使い込まれた古道具のようだった。

 部屋の棚の上に置いて、私はとりあえずレビューを書いた。

 > ★★★★★
 > 「外見がいい。インテリアにちょうどいいです。」

 書いたあと、ぞっとした。
 指が勝手に“星5”を選んでいた。

 その夜、違和感に目を覚ました。

 部屋の空気が、やけに重い。
 どこからか、“かすれた紙を擦るような音”がする。

 棚の上を見た。

 木箱の蓋が、ほんのわずかに開いていた。

 私は近づき、そっと蓋を閉じた。
 何も考えたくなかった。

 翌朝、スマホを見ると――
 自分が書いたレビューが、消えていた。

 その晩から、“声”が聞こえるようになった。

 > 「まだ、あけてない」
 > 「なかにいるのに」
 > 「みて。みて。みて」

 私は、音を聞かないように、木箱をタオルで包み、
 引き出しの奥にしまった。

 だが、それでも夜中に音がした。

 カチリ。カチリ。蓋の留め具が動く音。

 ついに、私は箱を壊す決心をした。

 中身が空でも、関係ない。
 この気味の悪さから解放されたい。

 玄関前のコンクリートの上に置き、
 金槌を振り下ろした――瞬間。

 “バチンッ!”と、空気が弾けるような音がして、電気が落ちた。

 スマホの画面も真っ黒。
 マンション全体が停電している気配。

 だが、暗闇の中で――“誰か”が私の後ろに立っていた。

 それは、声だけだった。

 > 「……こわしたの、あなた?」

 翌朝、電気は戻っていた。
 玄関先には、元通りの木箱が置いてあった。

 だが、中を開けると、そこには“何かの目”が描かれていた。

 黒い墨。丸い目玉。
 蓋の裏に、ぎっしりと並ぶ、無数の目。

 その中心に、こう書かれていた。

 > 「見られるのは、あなたの番です」

 レビューを見に行った。

 私の書いたレビューはやはり消えていた。

 代わりに、新たに1件のレビューが増えていた。

 > ★★★★★
 > 「壊さなければよかった。
 >  今でも、毎晩見られています。」

 その投稿者名は、私の名前になっていた。

◆エピローグ
 ネットに転がる、“誰も見ていないレビュー”。

 それが実は、“壊してはいけないもの”を封じた**“呪いの封印”**だったとしたら――

 あなたの何気ないレビューが、
 次の“封じ役”にされているかもしれません。

 星5の評価。それは、満足の印ではなく、“封印が保たれている”という意味なのです。

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