怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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141)『あなたの映像が見つかりました』

スマートホーム化が進んだこのマンションでは、
 共用エントランスやエレベーター、廊下の各所にAI対応の防犯カメラが設置されている。

 住民ごとに顔を登録し、アプリと連携すれば、
 訪問者の通知、帰宅のログ、未登録者の接近情報などを自動で受け取れる。

 私はそれらを**「便利だけど、気持ち悪いな」と思っていた**。

 誰かが“常に見ている”ような感覚。
 でも実際は、“誰も見ていない”。見ているのは“目”だけ。

 ある夜、私は深夜2時過ぎに通知を受け取った。

 【SmartCam】“登録者以外の人物が映像に映りました”

 私は寝起きのままアプリを開いた。
 画面には、共用廊下の暗い映像が映し出されている。

 エレベーター前。
 非常灯の明かりの下に、誰かが立っていた。

 それは――私だった。

 スウェット姿、白いマスク、左手にはコンビニの袋。

 それは、間違いなく“今夜”の私の格好だった。

 ただし、私はその時間、自宅の布団の中で眠っていた。

 アプリのログでも、自室に入室したのは「23:02」と記録されている。

 だが、映像のタイムスタンプは「2:11」。

 私は、“私”が帰宅したあとに、“もう一人の私”がマンション内を歩いていたことを知った。

 翌朝、管理会社に映像の確認を求めた。

 だが、対応した職員はこう答えた。

 「該当時刻の映像は、サーバー上に残っていませんね」

 「じゃあ、私が昨夜スマホで見たあの通知と動画は?」

 「記録がありません。アプリのバグかと思いますが……」

 その対応は、どこかおかしかった。
 まるで、“それ以上触れてほしくない”とでもいうような冷たさだった。

 それから、通知は**“毎晩”届くようになった。**

 いずれも、深夜1時~3時の間。

 【SmartCam】あなたの映像が見つかりました。

 映っているのは、やはり“私”だった。

 ・駐車場を歩く
 ・ゴミ捨て場を覗く
 ・管理人室の前で立ち尽くす
 ・自宅の玄関前でじっと動かない

 どれも、自分では絶対にしていない行動だった。

 その“もうひとりの私”は、ある共通点を持っていた。

 どの映像でも、カメラに向かって目を合わせる。

 暗視カメラの白黒の画面の中、
 彼――“それ”は、ゆっくりとこちらに顔を向ける。

 そして、笑うのだ。

 私が見たことのない、歪んだ笑みで。

 私は恐ろしくなり、顔認証の登録を削除した。

 もうこのシステムと関わりたくなかった。

 だが、通知は止まらなかった。

 【SmartCam】あなたの映像が見つかりました。

 アカウントを削除しても、カメラの記録には残る。
 “登録されていないが映っている人物”として。

 それなのに、映像の中の“彼”は、以前と同じ顔で立っていた。

 ある晩、私は眠れずにベッドでうずくまっていた。

 そのとき、玄関のスマートロックが「カチッ」と音を立てて解錠された。

 アプリの通知は来ていない。ログも残っていない。

 ただ――ドアの向こうで、気配がする。

 何者かが、ドアの内側から“こちら”を見ている気がした。

 ゆっくりと、壁に埋め込まれた玄関のカメラが起動する音がする。

 カメラが、何かを捉えている。

 【SmartCam】あなたの映像が見つかりました。
 「室内カメラ(リビング)」より:映像再生

 私はリビングのカメラを開いた。

 画面の中に映っていたのは、
 ――ソファに座る“私”だった。

 今、この部屋にいるのは一人だけのはずだった。

 だが、カメラは明らかに“2人”を捉えていた。

 ひとりは立ち尽くす私。
 もうひとりは、笑ってこちらを見る、私の顔をした何か。

 その日から、私の影が増えた。

 鏡を見れば、反射の中にもうひとつの動き。
 写真を撮れば、自分の背後に“ぶれて写る”もう一人の顔。

 そして、カメラが捉える“私”は、日に日に“本物”よりもリアルになっていく。

 やがて、ある通知が届いた。

 【SmartCam】“あなたの映像が上書きされました”

◆エピローグ
 あなたの家のスマートカメラ。
 ふとした瞬間、“見覚えのある姿”が映っていませんか?

 それ、自分ではないかもしれません。

 AIは“最も近い顔”を、自動的に“本人”と判断します。

 でも――それ、本当に“あなた”ですか?

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