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◇18 恐ろしい飲み物
しおりを挟む私達が結婚式を終え、色んな方々から贈り物が雪崩れるように贈られてきた。その時は、まずは旦那様に聞こうとそのままにしておくよう言っておいた。
けれど、私はそれしか言ってなかった。どれくらい来ているのかすら知らなかったから、部屋に並べられた贈り物に唖然としてしまっていた。
それぞれ湯浴みを終わらせお昼ご飯を食べた後にそれを聞いてみると一緒に開ける事となり、私達が座るソファーの周りに、たくさんの贈り物が並べられた。私がこの国に嫁いできた事への歓迎の証を兼ねた、私達の結婚祝いの品だろう。
「全て、国内の貴族様方からのお品物でございます」
これは一体いくつあるのだろうか。これ、全部開けて確認しないといけないんだよね……?
「スイランは今、この国で権力のある大公家の大公妃殿下だ。しかも元王族、あの『海を支配する国』の王女。そんな人が嫁いできたんだから、誰もが祝いの品を贈りたくなるさ」
うん、確かにその通りだ。結婚披露宴での挨拶でも、だいぶゴマすりをしてきた貴族達がいた。そういう事だよね。
「全部見てみようか」
「……はい」
使用人達にお願いして一つ一つプレゼントを開けてもらった。私は一応貿易大国の王女だったから色々と見てきたけれど、知らないものがいくつか見られた。それを旦那様やアドラに教えてもらうと口がふさがらなかった。
思っていた以上にすごいものばかりだ。しかもそれは、高位貴族の者達。私達に気に入ってもらうもの、と考えてこれが用意されたのか……
「これ、シャレニアで採れる宝石で、パライバトルマリンって言うんだ。希少価値のある宝石だし、ここまで大きなものは中々ないかな」
「……初めて見ました」
聞いたことのあるような、ないような。貿易している他国の宝石はいくつも見た事はあるけれど……これほど綺麗な水色をした宝石なんて、初めて見た。
宝石を入れるジュエリーケースもあり、白に金色ともうこの箱自体が宝石なんじゃないかと思えるほどいくつもの小さな宝石がちりばめられていた。いや、箱だろ。中に入ってなくていいの?
「これ、もしかしてブリジット式か?」
ブリジット式とは?
この贈り物と一緒にあった手紙を開いてみると、確かに旦那様が言ったブリジット式らしい。
「俺も詳しくは知らないんだけど……鍵穴の周りのこの二つのダイヤルを正しく合わせてから鍵を回さないと開かないらしい」
「へぇ……」
前世にあったダイヤル式金庫みたいな?
まずはダイヤルに書いてある数字を決めて、登録するらしい。
「王室にもこれより大きなものがあるんだ。王妃殿下が所持しているものは、彼女以外誰も数字を知らないらしい」
「なるほど……盗られちゃうと大変なものとかありますし……」
「それに頑丈だから壊すのも一苦労だしね」
そ、そうなんだ……
シャレニアは防犯対策もばっちり、という事か。まぁ、こんな大公家に泥棒なんて入ったら、きっとすぐ捕まえてくれるだろうけれど。だって、旦那様って騎士団長総括なんだし。でも、そもそもこんな大公家狙う人っているのかな。返り討ちに合うのは分かり切ってるし、いないか。
「これは後で登録しようか。俺が手伝ってあげるよ」
「ありがとうございます」
こんなに凄いもの貰っちゃっていいのかな。まぁ、希少な宝石をもらったから後で入れようかな。
それから、重いものやかさばりそうなもの、割れ物もいくつかあった。長旅でここに嫁いだから、持ってきていないであろうものを選んでくれたのかもしれない。
「旦那様、奥様、そろそろアフタヌーンティーのお時間です」
「もうそんな時間か。結構かかったな」
……まだいくつか残ってるな。どんだけたくさん贈ってきたのよ、全く。まぁ、始めた時間はお昼ご飯後だったし。
「奥様、お茶はいかがなさいますか?」
そんなリーファの言葉で、ぱっと彼女を見た。この言葉の意味、もしかして……
「確か、贈り物の中に茶葉があったか。スイランはどうする?」
「……」
リーファのその言葉と、その笑顔。なるほど、そういう事か。
けれど……大丈夫かな。旦那様、止めない?
少し不安に思いつつも、ちらりと旦那様を見た。
「……旦那様、これ、飲みませんか?」
「これ?」
これ、とは贈ってくれたものの中にあった、とある紅茶。よくシャレニアで飲まれている種類のものらしい。シャレニアはコーヒーやほうじ茶などではなく紅茶を好んで飲む貴族ばかり。だから、国内で飲み物の需要の多いものは紅茶ばかりだそうだ。
旦那様は、シャレニアの紅茶を気に入ってくれたのかと納得してくれるだろうけれど……そうじゃない。
そして、お茶の準備をとリーファがティーセットなどを台に乗せて用意してくれた。
「では奥様」
「うん、ありがとう」
そして、ソファーから立ち上がりリーファに並ぶように台の前に立った。
……まぁ、奥方である私が使用人のするようなことをするのは、と止めるかもしれないけれど……結婚生活でコソコソと旦那様の顔色を見てするのは、ちょっとな。それに、昨日はお互いの事を知るようにしようと言ってくださったし……何より、私はいつでもキッチンに入りたい。旦那様の健康の為にも。
旦那様の方をちらりと見たあと、用意してくれていたお湯を、私のお気に入りのポットとカップに数量入れて温めた。その様子に旦那様は、驚いているようだ。けれど……あれ? 何も言ってこない……? というか、じっくりと見てません?
混乱しつつも、ポットのお湯を開けてから茶葉を入れてふたをし、3分の砂時計をひっくり返した。
「今日はスイランが淹れてくれるんだ」
「……はい」
「旦那様、奥様は暁明一のお茶淹れの達人なのですよ。私はもちろん、皆奥様に習ってお茶淹れをマスターするのです」
「へぇ、暁明一の達人か……」
まぁ、確かに私が教えたけれど……そもそも、シャレニアほどではなかったけれど暁明もすごかったんだから飲めるわけないでしょ。しかもカフェインたっぷりで全然眠れないし。だから自分の為にお茶を淹れて自分で勝手に飲んでただけだし。それを見てたリーファ達が勝手に聞いてきて教えてあげたってだけでしょ。
小さい頃は姫様はお茶がお嫌いだったけれど、陛下方と一緒に飲みたいがために美味しいお茶を研究なさったのね。と周りは思っているみたいだけど、まぁそれでいいやって思ってそのままにしている。
「だが、ふたをするのは初めて見たな」
「……茶葉を蒸らすんです」
「蒸らす?」
「はい。茶葉の成分を十分に抽出させお湯に溶かすんです。あと、蒸気を逃がさないようにすれば香りもよくなります」
「へぇ、知らなかったな」
最初、このお屋敷に来てからアドラが出してくれた紅茶は……アドラがティーカップに注ぐ手前でリーファがストップをかけた。
その訳を聞くと、呆れを通り越すほど恐ろしいもので。
まさか、茶葉を大量に入れてからふたをせずそのまま30分放置し、その後沸騰するまでそのまま加熱するなんて……聞いたこともない。しかも、ポットの中身を覗けば真っ黒な液体。
リーファもどうしたらいいのか全く分からなかったようで、私が紅茶を淹れて振る舞ってあげた。その時のアドラの微笑んだ顔は一生忘れない。
けれどまさか、旦那様にまで披露させられるとは思わなかった。さすがリーファだ。
そんな事を思っていると、リーファがポットとティーカップをローテーブルに並べてくれていた事に気が付いた。すぐに、先ほど座っていた旦那様の隣に戻る。そして最後まで砂時計の砂が落ち切った事を確認し、二つのティーカップに紅茶を注いだ。そして、一つを旦那様の目の前に。
……じーっと見られてて手が震えそうなんだが。やめて、旦那様。
「へぇ……いつもと色が違うな。でも、香りがいい」
そういえば旦那様、鼻いいんだっけ。気に入ってもらえたかな?
そして、緊張しつつも旦那様を見ていると……
「うん、美味しいな」
「え……本当に?」
「うん、本当に」
今まで飲んでいた紅茶の味を知っているから、薄く感じちゃうかな、と思っていたけれど、大丈夫だった。
「確か、似たようなお茶を暁明に来訪した時に飲んだことがあるな。あれも美味しかったけれど、これも美味しい。いつも飲んでいる紅茶と全然違うな」
「……ありがとうございます」
「うん、こちらこそありがとう」
使節団の方々に出していたお茶は、ほうじ茶とか緑茶とか、そればかり。それも気に入ってくれていたのなら、暁明から送ってもらおうかな。
「俺の奥さんにこんな特技があったなんて知らなかったよ。美味しい料理も作れて、お茶も暁明一なんて、俺はいいお嫁さんをもらったな」
……ん?
美味しい料理も作れて……?
「あぁ、俺ちょっと鼻がいいんだ」
「……そう、なん、ですか……」
鼻がいい……という事は、私、料理の匂いついてた……? 旦那様と一緒に食事した日で、私が作った料理を出した時、ちゃんと湯浴みしてから食堂に行ったよね? それでも分かっちゃってた? いや、それってちょっとどころじゃないでしょ。
「……油臭かったですか?」
「そんな事ないよ? 美味しそうな匂いがしただけだから」
もしかして、香辛料の匂い……? マジか……バレてた? でも、奥方なのに料理をするなんてと怒られるような様子ではないし……
「スイランが楽しくここで生活してくれてるなら、俺は嬉しいよ。だから遠慮せず楽しい事をしてほしい。でも、無理はしちゃダメ。これは約束」
「……分かりました、ありがとうございます」
「うん。だからたまにまた俺にお茶を淹れてくれると嬉しいな」
「……はい」
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