わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

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◇19 またもや紅茶ですか

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 そして2日後、旦那様と一緒に王城に行く日となった。


「あの、すみません、勝手にキャンセルしてしまって……」

「いいよ、気にしないで」


 以前、ブティック代表のミセラ夫人が直接来てくれた日。あの日旦那様とお揃いの服二着をキャンセルしてしまった。だって、一緒に出掛けるなんて事はないって思っちゃったんだもん。

 けれどまさか、知らず知らずにお揃いの服が用意されていたとは思いもしなかった。

 そして、旦那様がこんなに似合ってしまう事も誤算だった。旦那様の赤い髪が、ダークブルーの紳士服にすっごく良く似合ってる……眩しい。しかも自分もお揃い着ちゃってるし。

 顔がニヤけそうではあったけれど、今日はお茶会なのだから気を許しちゃいけない。気合いを入れていこう。


 シャレニア王国の王城は、これで二回目。一回目は結婚披露宴でこの王城の敷地内にある庭園で行った時。そして今日は王城の奥にある後宮の庭でお茶会をするらしい。

 前にも思ったけれど、私がいた王宮とはまた違った造りの建物だ。というか規模が大きい。暁明シァミン王国の王宮は2階建てではあったけれど横に広かった。ここは何階建てなのか分からないけど上に高い。三角の長い屋根がいっぱいある。

 ……そして、周りの視線が痛い。

 そりゃそうよね。私は遠くからわざわざ来た元王族だもん。気になるに決まってる。

 けど、隣にいる旦那様が、俺がいるから大丈夫と言っているような顔を向けてくれたから少しだけ安心出来た。心強い、心強すぎる。ここは旦那様の職場でもあるというところもあるけれど、旦那様がいるだけで余裕が持てるというか、何というか。本当に旦那様がいて良かった。

 私達が案内されたのは、後宮の庭園。ちゃんと手入れがされた、何とも素敵な庭園だ。結婚披露宴で使った会場とは違うところらしい。


「おぉ、待っていたよ」

「いらっしゃい」

「ご機嫌麗しゅう、国王陛下、王妃殿下」

「この度はご招待いただき誠にありがとうございます」


 さ、どうぞ座って。と用意されていた席に促された。

 ここは静かな庭園の中。色とりどりの花が並んでる。とても心地いい。さすが王城ね。

 この前も見たけど、国王陛下と王妃殿下って年の差婚? 王妃殿下が明らかに年下に見える。と言っても大体30代後半くらい? 陛下は60代くらいかな?


「いきなり招待してしまってごめんなさいね。こっちに来て色々と大変でしょう」

「戸惑ってしまうことも多々ありますが、旦那様がいらっしゃるので何とか慣れていけそうです」

「仲睦まじいようで安心したわ」

「卿は剣一筋なところがあったから少し心配していたのだが、これで安心だな」

「ご心配おかけしました」


 そして、出されてしまった。……紅茶が。

 マジか、ここでも飲めというのか。


「シャレニアでよく飲まれてる紅茶を用意したの」


 カフェインたっぷりなんだろうなぁ……これ。渋みと苦みが顔面殴ってきそう。コーヒーを上回る苦さが来そうだもん。陛下方の前でだいぶ失礼ではあるけれど……これは紅茶様に失礼というか、なんというか。

 お隣の旦那様は……わぁ、笑顔で、飲んだ……? ゆ、勇者すぎる……あ、まぁ慣れているんだろうけどさ。私、リーファのおかげでまだこれひとくちも飲んだことがないから未知の味なんだよね……

 よし、いけ、これも試練だ……!


「どうかな?」

「……とても美味しいです」


 ……しっっっぶっ。そう、心の中で叫んでしまった。期待した分残念感がやばい。

 やっぱり、この国が、というよりこの世界自体が料理などの発展がされてなかったという事か。絶対に《栄養バランス》という言葉は存在しないわけだ。

 けどここは陛下方の前。今までつちかってきた営業スマイルを貼り付け何とか喉に流し込み乗り切った。これは後でお腹が大変な事になりそうだ。


「先日はムセラス市国の者が来訪されて驚いた。夫人に結婚祝いの品を持ってきたと言っておったが……まさか暁明王国と繋がりがあるとは思わなんだ」

「以前から、ムセラス市国の方々がたびたび使節団としていらしていたのです。ムセラス教皇のご子息達と初めてお会いした時は私達が8歳の頃で、暁明陛下方の会議中に遊んだりしたことがたびたびありました」

「ほぉ、8歳というとだいぶ長い間交流していたようだな。となると、だいぶ仲も良さそうだ。確かその国は気難しい国と有名であった。流石貿易大国といったところか。以前6ヶ国を交えた交流の場を設けてくれた事があったが、他国との交流の場をもらえて大変感謝している」

「光栄でございます」


 それは、シャレニア王国使節団が初めて来訪した時の事だったかな。他にも5ヶ国の使節団が集まり大きなパーティーを開いた。あれは本当に忙しかった。誰だ、立食パーティーにすると言ったのは。しかも全員分の食事まで作ったんだからな。

 でも、それが役に立ち、こうしてシャレニア王国とも知り合いになれた。しかも、この交流の場に呼ばれた国々の間でも話が出来て良かったのではないだろうか。お父様はこういうところがあるのよね。さすが、暁明王国を統治している国王だわ。

 パーティーに呼ぶ国を厳選して招待したりと、本当にお父様は凄い人だ。

 まぁでも、一応貿易大国ではあるけれど、あまり知られていないというのもある。暁明と貿易している国が周りとあまり仲が良くない、というのが理由だ。仲が良くない、というのは気難しいから周りと交流をあまりしていないという意味。

 だから、暁明王国は《貿易大国》ではなく《小さな島国》だという印象が強い。あのグロンダン夫人のように小さな国なんだから弱小国で貧乏な国だと思い込みをされてしまうのはこのせいだ。


「とても素敵なお嫁さんをもらえてよかったわね」

「えぇ、私にはもったいない女性ですよ」


 もったいない……私の方こそもったいない気がするのだが。いや、イケメンスパダリにもほどがある。

 けれどその後、耳を疑う言葉が出てきた。


「ふふ、願いが叶ってよかったわね、オリバー」


 王妃殿下が、旦那様に向かってその言葉をかけてきた。さっきまでダルナード卿だったのに、いきなりオリバーと呼んだし、願い、とは?

 どういう事だろうと旦那様の方に視線を向けると……ぴくっと眉を一瞬動かしていた。


「王妃殿下」

「あら、いいの? 夫婦円満の秘訣は隠し事をしない事よ。いいのかしら?」

「……」


 笑顔ではあるけれど……貼り付けたような、笑顔だ。しかも、目は笑っていない。

 一体、どんな願いなんだ。


「エメリックをスイランさんのお相手にしようかと陛下と話していたのに、自分が名乗り出たのよね? しかも、十分すぎるくらいの建前も持ってきちゃって。隠していたようだけど、あなたのそんな焦った様子、久しぶりに見て笑いそうになっちゃったわ」


 エメリック、とは王太子殿下の名前だ。なるほど、本当は王太子殿下と結婚する事になっていたんだ。けれど……建前? しかも、焦った旦那様?


「殿下、お口が過ぎるようですよ」

「あら、もしスイランさんを怒らせても私は助けないわよ?」

「……」


 黙ってしまった。そして陛下は、視線を泳がせつつも紅茶を飲んでいた。その紅茶、美味しいですか? と聞きたいところではあるけれど……それより、一体陛下と王妃殿下の中に何があったのだろうかと聞きたい。

 この話の真実も聞きたいところではあるけれど……私がここで聞いてしまうと面倒な事になる気がする。旦那様に、あとで聞こう。うん、そうしよう。陛下方の目の前で何かしでかしたら取り返しのつかない事になる。


「スイランさん、何かあれば気軽に私に言ってちょうだいね」

「えっ……あ、そう言っていただけて、光栄、です……」

「ふふ、可愛いわね。オリバーが惚れちゃうのも分かるわ」

「殿下」


 冷ややかな一言が、聞こえたような、ないような。というか、圧?


「あら、照れちゃって」

「私で遊ぶのはもうおやめください」

「クラリス、それくらいにしてあげなさい。オリバーが可哀そうだぞ」

「ふふ、久しぶりに面白い事があったからつい。ごめんなさいね、ダルナード卿」


 陛下に、可哀そうだって言われてる……私、ここにいて大丈夫?

 けれど、旦那様は陛下方ととても仲が良いんだと思うと嬉しくなってしまった。そして、何となく皆が知らない一面を知ってしまった事にも嬉しくなってしまった。


「ああ、そういえば近々パーティーを開くことになったの。お二人はいかが?」

「そうですね、妻はまだ社交界に顔を出していないのですが……どうかな?」


 そう言って旦那様は私に振ってくれた。


「ぜひ参加させてください」

「そう言ってくれて嬉しいわ、ありがとう」

「いえ、お気遣い、感謝いたします」

「妻と初めてのパーティーですから、殿下が主催のパーティーを開いてくださるのであればとてもありがたいです」


 私が、旦那様とパーティーに……だなんて、大丈夫だろうか。一応大公妃殿下だからきっと注目度が高すぎるはず。そう考えると今から緊張してしまいそうだ。

 もうすでに不安である。というか、冷や汗だらだらである。顔には出さないけど。とりあえず、旦那様、頼みますよ。

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