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◇20 は、恥ずかしすぎる……
しおりを挟む色々とショックを受けた、そして会話に私だけ置いてけぼりにされたお茶会は幕を閉じた。
そして、その帰りの馬車。
私が乗りこみ、そして旦那様が乗りこむと……隣に座ってきた。手を握ると、足を組んでは窓の方に顔を向けて頬杖をついている。
そして、馬車の中は静かになる。
いつもなら、手を握ってくれるのはいつものことだけど、彼から話題を出してくれて、他愛のない話に花を咲かせてくれる。けれど……何も話してくれない。そして……手が熱い。
「……あの」
「っ……」
「聞いても、いいですか?」
あっ……?
旦那様の耳、赤くなってるような……?
上半身を前に傾け、彼の顔を少しだけ覗いた。あっ……
「……」
「……」
目が合い、少しの沈黙の後、彼は自分の目を隠すように手を当て、顔を下に向けては大きなため息をついた。
「はぁぁぁぁぁ~……」
「……旦那様?」
「……叔母上め……バラすことないだろ……やられた……」
叔母上、とは王妃殿下の事だろうか。
じゃあ……お茶会で話していた事かな。私の結婚相手が王太子殿下になるはずだったのに、建前を持ってきてダルナード大公殿下になった事。
それを隠したかったという事は……暁明王国の王女である私が欲しかった? では、何故?
そう考えていると、握っていた手が解かれいきなり抱き上げられ膝に乗せられてしまった。そして、またぎゅっと抱きしめられる。
「……ごめん、こんなカッコ悪い旦那で」
「え、あの……」
こ、こんな旦那……? いや、十分すぎるくらいの旦那様ですけど。
イケメンスパダリの余裕たっぷりの大人な……余裕たっぷりの、大人な……ん?
「そ、そんな事、ありません、よ?」
「はぁ、こんなに優しいから会いに行きたくなっちゃったんだよ……」
「……へ?」
あ、会いに……?
一体いつのことを言ってるんだ。私、シャレニアの方々にご挨拶をした事はあるけれど、旦那様はいなかった気がする。シャレニア王国が初来日された時はごった返しでお出迎えは出来なかった。外交官にしか挨拶出来なかったし……
じゃあ、もしかして……
「……おにぎり?」
「……」
あ、はい、そうですか。正解ですね。
でも、会いに行ってしまった、という事は……その前に会った事があるという事になる。じゃあ、いつだ。
「……一目惚れなんて、恥ずかしいにもほどがある……こんな歳にもなって……」
その言葉に、抱きしめる力が強くなった。そして、ずーん、とした効果音も聞こえそうなほどの深いため息まで。
旦那様は今30歳。そんな方が一目惚れ……いや、ありそうではある。別に恥ずかしくない気がするのだが。
でも……
「あの、いつでしょう……?」
おにぎりの前に、顔を合わせたことあったっけ……?
私の記憶の中では、ないはずなんだけど……
「親睦パーティー」
「……」
さっきお茶会の話に出た、他国を交えたパーティーの事か。
なるほど、話はしなかったけれど、見られていたと。
「すれ違ったの、気づかなかった……?」
「……」
すれ違った、っけ?
じゃあ、私だいぶ失礼なことしたって事だよね。挨拶しなかったって事だよね。
「立食の料理と同じ匂いがして、気になって気になってしょうがなかったんだから……」
ちゃんと湯浴み、したよね。……いや、旦那様の嗅覚を侮っちゃいけない。
でも、さ……旦那様、私が料理をするって知ってたよね。もしかして、その時知った?
そして、以前アドラが言っていた事を思い出した。とても美味しかったなんて言葉を、初めて聞いた、と。
「……目の前全力疾走するお姫様なんて見た事ないし……」
おっとっと、なんですって? 目の前を全力疾走? 見られていた、と?
あ、まぁ、おにぎりの時あそこにいたしな。まさかパーティーの時迷子になった?
でも……だいぶ恥ずかしい。それは、恥ずかしすぎる。
「結婚決まったら嬉しくて我慢出来ずにこっそり暁明行っちゃったし……はぁ、なんでバラすかな……」
さっきまで余裕たっぷりの旦那様が、今は打って変わってしょぼんとしたご様子。そんなギャップに、ついクスクスと笑ってしまった。
そんな笑い声に、またぎゅっと力が入った。といっても、全然苦しくはない。
一目惚れが恥ずかしいみたいだけど、別に私は気にしない、というか嬉しいという気持ちもある。今まで余裕たっぷりの大人な旦那様といたから、私が一緒にいて子供っぽいだろうかと不安に思っていた。子供だって認識をされてしまったらどうしよう、と。
でも……何となく、その距離が縮まったような、そんな気がする。
「ありがとうございます、旦那様」
「……幻滅した?」
とても弱く、小さな声だ。一目惚れして何故幻滅……? と言いたいところではあるけれど、でも、私に幻滅してほしくないって言ってるってことだよね。
「ふふっ、そんなことありませんよ」
「……本当に?」
「もちろんです。そもそも、一目惚れが恥ずかしいって言ってますけど、それよりも全力疾走を見られた方が恥ずかしいです」
「可愛いけど」
「……どこがです?」
「一生懸命なところ」
「……」
要領悪くて焦りまくってたんだけどなぁ……まぁ、そう思っていただけて光栄です。
と、思っていたら抱きしめる腕が解けて身体が離れた。旦那様の顔は、と思ったけれどキスをされてしまう。
「はぁ……スイランが優しすぎて俺どうにかなっちゃいそう……陛下も意地悪だよなぁ、どうせ暴走するからって仕事作らせて招集なんてするんだから。殿下にも怒られるし……」
……披露宴後の事、言ってる? というか、暴走? しかも、怒られた?
邸宅に一緒に帰れなかったのは、陛下と王妃殿下のせい? あ、いや、せいって言っちゃったら不敬か。でも、その事があったからグロンダン夫人達との問題が発生してしまったんだけどなぁ……とは、一言も言えない。
「わがままもちゃんと言ってね。要望にも応えるし……愚痴も文句も遠慮なく、いや、絶対に言って」
「……いや、そんなもの、ありませんし……」
「ダメ」
だいぶ、真剣そうではある。これは……王妃殿下が言っていた事、だいぶ効いてるのでは? 喧嘩しても知らないって、言ってたやつ。
何となく、ギャップがすごいような……というか、わんこでは? わんこよね? 大人な旦那様は一体どこに行った?
「……分かりました」
「うん、ありがとう」
取り敢えずそう答えたけれど……嬉しそうだな。だから、つい頭を撫でてしまった。すぐに後悔して手を離したけれど……寂しそうな顔を向けてくる。その意味がよく分からなかったけれど、とりあえず頭を撫でたら……嬉しそうだ。やっぱりわんこだ、わんこ。
最初は、これから始まる結婚生活大丈夫かなと思ってはいた。まぁ、領地に行く? まさかの離婚? と不安もあったけれど……あれはお世辞のご機嫌取りじゃなかったことが嬉しかった。
旦那様の大人っぽさに不安を感じていた時もあった。けれど、そしたらこれだ。何じゃこのわんこは。
でも、何とかいけそうな予感はした。
「……早く帰って紅茶が飲みたい」
まぁ、餓死する事はないだろうけれど……こうして表に出たら我慢大会を強いられるというところは……考えどころではある。
でも、我慢には限界というものがある。さて、どうしたものか。
「スイラン、嫌わないで……」
「そんな事はないですよ、旦那様」
眼福のみならず、楽しい結婚生活を送れるのは嬉しいけれど。
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