61 / 71
那須隼人6
シェアハウス
しおりを挟む
隼人がラジの暮らすシェアハウスを訪れたのは、師走に入り寒さが本格的になってきた日曜日の夕方だった。
コンビニの夜勤明けで、昼のうちに仮眠を取りはしたが、まだ眠気は完全に去っていなかった。
それでもラジの「前から約束していたネパールの料理つくるので、そろそろ来てください」という誘いを断る気にはなれなかった。
シェアハウスは、大通りから三本奥に入った細い路地に建つ、年季の入った二階建ての建物だった。
外壁の白はところどころ薄くくすみ、玄関のドア枠や二階の窓に設置された欄干などには少し錆びも浮いている。
「シェアハウス」という響きに、隼人は少し身構えていた。知らない人間同士が暮らす場所特有の、過剰なテンションや、あけすけな人間関係が、今の疲弊した自分には重荷になりそうな気がしたからだ。
けれど、建物の前には小さなマリーゴールドの鉢植えがいくつも並べられており、その丁寧な生活感を目にして少しだけ肩の力が抜けた。
「ハヤトさん、どうぞ」
ドアを開けて迎えてくれたラジは、いつもの人懐っこい笑顔だった。
裸足にスウェット姿で、エプロンだけが妙によく似合っている。
「おじゃまします」
玄関で靴を脱ぐ。下駄箱がいっぱいなので、靴は向きを変えてそのまま玄関に置いておいた。
パーテーションで区切られているが、玄関からはすぐに小さなリビングとキッチンが続いていた。
ラジからは、ここに八人が暮らしていると聞いていた。それにしては、リビングもキッチンもかなり小さい。しかし、雑然とはしているものの、掃除は行き届いている。
流しとコンロだけが並ぶ細長いキッチンに立ち、ラジは鍋とフライパンを行ったり来たりしている。
「わ、もう作ってるんだ」
「はい。今日はダルと、タルカリと、チャウミンと、ちょっとアチャール。ネパールの、いつものごはんみたいにします。ハヤトさん、辛いの大丈夫ですか」
「ぜんぜん平気」
「よかった」
名前を聞いてもそれがどんな料理なのかは全く分からない。それでも漂ってくるスパイスの香りが隼人の食欲を刺激した。
リビングのテーブルには、すでに二人のハウスメイトが席についてテレビを見ていた。
どちらも二十代半ばから後半ぐらいに見える、男性と女性だ。
「ハヤト、コンビニの人だろ?」
片手を上げて笑ったのは、彫りの深い顔立ちをした大柄な男性だ。濃い眉と整えられたあご髭が精悍だが、笑うと目尻に深い皺ができて愛嬌がある。
「ボク、ソヒル。パキスタン。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
その向かいには、黒髪を長く伸ばした女性が座っていた。インド綿のゆったりとしたチュニックを身にまとい、大きな瞳には知的な光が宿っている。
「私はミーナ。ラジくんのごはん、すごくおいしいですよ」
「楽しみです」
隼人は軽く会釈をして、ラジが出してくれたパイプ椅子に腰を下ろした。
コンビニの夜勤明けで、昼のうちに仮眠を取りはしたが、まだ眠気は完全に去っていなかった。
それでもラジの「前から約束していたネパールの料理つくるので、そろそろ来てください」という誘いを断る気にはなれなかった。
シェアハウスは、大通りから三本奥に入った細い路地に建つ、年季の入った二階建ての建物だった。
外壁の白はところどころ薄くくすみ、玄関のドア枠や二階の窓に設置された欄干などには少し錆びも浮いている。
「シェアハウス」という響きに、隼人は少し身構えていた。知らない人間同士が暮らす場所特有の、過剰なテンションや、あけすけな人間関係が、今の疲弊した自分には重荷になりそうな気がしたからだ。
けれど、建物の前には小さなマリーゴールドの鉢植えがいくつも並べられており、その丁寧な生活感を目にして少しだけ肩の力が抜けた。
「ハヤトさん、どうぞ」
ドアを開けて迎えてくれたラジは、いつもの人懐っこい笑顔だった。
裸足にスウェット姿で、エプロンだけが妙によく似合っている。
「おじゃまします」
玄関で靴を脱ぐ。下駄箱がいっぱいなので、靴は向きを変えてそのまま玄関に置いておいた。
パーテーションで区切られているが、玄関からはすぐに小さなリビングとキッチンが続いていた。
ラジからは、ここに八人が暮らしていると聞いていた。それにしては、リビングもキッチンもかなり小さい。しかし、雑然とはしているものの、掃除は行き届いている。
流しとコンロだけが並ぶ細長いキッチンに立ち、ラジは鍋とフライパンを行ったり来たりしている。
「わ、もう作ってるんだ」
「はい。今日はダルと、タルカリと、チャウミンと、ちょっとアチャール。ネパールの、いつものごはんみたいにします。ハヤトさん、辛いの大丈夫ですか」
「ぜんぜん平気」
「よかった」
名前を聞いてもそれがどんな料理なのかは全く分からない。それでも漂ってくるスパイスの香りが隼人の食欲を刺激した。
リビングのテーブルには、すでに二人のハウスメイトが席についてテレビを見ていた。
どちらも二十代半ばから後半ぐらいに見える、男性と女性だ。
「ハヤト、コンビニの人だろ?」
片手を上げて笑ったのは、彫りの深い顔立ちをした大柄な男性だ。濃い眉と整えられたあご髭が精悍だが、笑うと目尻に深い皺ができて愛嬌がある。
「ボク、ソヒル。パキスタン。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
その向かいには、黒髪を長く伸ばした女性が座っていた。インド綿のゆったりとしたチュニックを身にまとい、大きな瞳には知的な光が宿っている。
「私はミーナ。ラジくんのごはん、すごくおいしいですよ」
「楽しみです」
隼人は軽く会釈をして、ラジが出してくれたパイプ椅子に腰を下ろした。
20
あなたにおすすめの小説
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」
運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。
不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!!
アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。
2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。
2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。
2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。
2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。
2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。
2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
これはあくまでフィクションですが、私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃の夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる