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3話 はじめての課題
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「市川さん、災難だったわね」
「すみません、ご迷惑おかけしました」
次の週の金曜日、室長に付き添ってもらって無事退院した私は秘書室でみんなに挨拶をして回った。
「怖いわねえ、食中毒?」吉永さんは心配そうに顔をしかめた。
「は、はあ…」
「会長、いつもあなたにお世話になってるからお礼のつもりで行かせてあげたんでしょうに」
「そうね、ご予定が重なってしまったものね」
「せっかくの出張休みの予定が…仇になったわね」
そうなのかな…そんな感じじゃなかったけど…そう言われればそうかもしれない…『ゆっくりしておいで』と送り出してはくれたんだよね。
「そうねえ、まさかあんなことになるなんて…」
ヒーすみませんーー
「今週入って急にバタバタしちゃって…今篠田専務が山口に行ってるわ」
えっ、もしかして、事後処理?
やばい、ばれちゃったかな…池…
「ふふ、気にしなくていいのよ」
「はあ」
一時危篤だったらしい私はえらくホテルライクな部屋に入れられていた。
落ち着いたブラウンの木目調の家具にベッド、ソファまであって、とても病室と思えない二十畳ぐらいありそうな部屋…
眺望もすごい。
窓の向こうーー富士山が見える。
その前にそびえる新宿摩天楼。
いつも眺めてるビル群をうちの会社含めて更に外側から見てるわけだ。
ギリギリ新宿の…東京ドーム辺りか。
治療といっても手術したわけじゃなくひたすら栄養剤投入…カルシウム注射、ミネラル点滴…最後の3日はそれが高濃度ビタミンC点滴に変えられた。
高濃度ビタミンC!
私はときめいた。
これって保険適用だよね?
1本1万円は下らないと聞く…の2割負担?
はあー…点滴のチューブの先に吊るされた液体をうっとり眺める…
ラッキィィ…女子の憧れ高濃度ビタミンC!こんな治療法あるんだー。
みるみるパワーチャージされてく…すごい実感…
メシは当然上げ膳据え膳だし壁付けのテレビでDVD見放題、寝具もふわふわで昼も夜もぐっすり…
という具合に快適な入院生活を過ごした私。入院1日1万円…どころじゃなさそうだけど…気にしない気にしない…本格復帰は来週ね。
「初めてだったらしいわね。AED使ったの」
うわぁ恥ずかしいーー…。AED当てられて結構な緊急事態だったらしい。
「あ、そうだ、社長に使い方おさらいしておくよう言われてたんだわ」室長が言った。
「社長室と副社長室に置いてはどうかともおっしゃってましたね」と春日さん。
「そうよねえ。お二人とも健康を気遣ってらっしゃるから」
「えーてことは私が覚えなきゃいけないの?ムリムリムリ…」
「何言ってるの、吉永さん。当然でしょ、社長のお年を考えたら…私たちがお助けしないと。会長はまだお若いからあれだけど…ねえ?」
「そうね。自分の身は自分で守るわ」
「何の話なの」
「大丈夫っすよ、あんなの簡単っすよ、全部器械まかせでしたよ」
「ああ、講習、春日くんが受けてきたんだっけ」
「ドクターに言って全員習っておいた方がいいわね。市川さん、後で一緒に行きましょう」
「はい」
そして上司様にご挨拶…室長と一緒に会長室へ上がった。久々の広い通路。そういえば最初の日も室長に連れられて来たんだわ。なんか振り出しに戻ったって感じだな。
「失礼します」
無駄に広い部屋。「じゃ、また後でね」
室長が出て行って優しくハグ…
…されるわけもなく会長は深く息を吐いた。
「キミには度肝を抜かれるよ」
「す、すみません」
わーん、いきなりこれかい。
まあそうだよな…しでかしちゃったわけだし…
緊張が走る。
会長は引き出しを開けバサッとデスクに書類を置いた。「君のカルテだ」ーーえ!?
「『落水、半日不穏な状態が続く』とある。ダメじゃないか、きちんと言わないと。社内で死人が出るところだったんだぞ」
「すみません」
キャーちゃんと書いてあるんだーじゃーもうバレバレじゃん。
変な汗が出てきた。
カルテを取って見つめながら会長はブツブツ続ける。
「急性アレルギー反応…キミ、羽田で何か飲んだだろう?おそらくその中の…キトサンじゃないかという話だが、それが要因だ」
ええーーアレ?適当に買ったのに。
名前はわからないけどジュースだったわ。もしかしてただの水だったら…?バカバカ私ーーなんてこった!
「ダメだよ、誤解を招く言い方をして…セカンドハラスメントなんて言うから…てっきり…そう思うじゃないか」
「そ、そうなんですか」
「そうだよ」
キッと返されてうつむく私。濁されてるがアレだよね…婦女暴行?ヤダヤダとんでもないー。「キミは時々おかしな表現を使うからこれから少しずつ直していこうね」と言われてまっかになる。子供か~
「で、でも言えませんよ、恥ずかしくて、そんなの知れたらお嫁にいけなくなっちゃうじゃないですか」
せめてそれだけは言っておきたい…ドキドキしながら小声で告げる私。
だって海老責め?乙女にそんなのありえないって…一生の恥…思い出したくない。
会長は意外そうな顔をしてまたカルテを置いた。
「…事件ではなく事故…警察も呼んでない…結局は君の不注意ということでいいんだな?施設の人間も頭を下げるばかりで何も言わないし」
えっ…
「よ、呼び出されたんですか」
驚いて聞くと彼は腕を組んで答えた。
「自発的に来たんだよ、ここへ。キミが倒れた次の日か」
えーーーおじさんたち?まさか…
「自分が目を離したすきに申し訳ないーーそればかりだ。若い男だったぞ」
高田さん!?
「ひ、ひとりで?」
「5人だ」
おじさんたち!キャー来ちゃったの?
「キミをかばっているのか?誰も見ていない、ほんの数分目を離したすきに…申し訳ない、悪かった、自分のミスだ、その一辺倒だ。埒があかない」
と目を細め、吐き捨てるように。苦々しい表情にその時のやりとりが見てとれる。
デスクの前でひたすら頭を下げるおじさんたちーそのシーンが鮮明に頭に広がって私はおそれおののいた。
そ、そうですよねー普通何もなくて池なんか落ちるわけないですよねーー
あらぬ疑いをかけられた?高田さん…
ひええええーーごめんなさいいいーー
…怖かっただろうな…
驚いただろう…会長こんな若くて…ピリピリしてて…来なくていいのに…
ううー泣ける、私が悪いのだーー
「お陰で今大騒ぎだよ」
「えっ、ま、まだ何か」
「君は気にしなくていい」
ええー気になるし。何。聞きたいけど…こわくて聞けない。コワイコワイコワイ…顔をこわばらせる私。
会長はふうと息をついた。
「とにかく君は身体のことだけを考えて。アレルギー…まあ要するに『エビの食べ過ぎ』だね」
ぐっ…
「食べ過ぎな上に不意の事故で抵抗力が落ちていたところにエビのエキス入りの飲料で急速にアレルギー反応が起こった…当分甲殻類は禁止だ。あと抗酸化物質にも注意した方がいい。食事はヒスタミンフリー推奨とのことだ。ま、それについてはキミの方が詳しいだろうからあとで目を通しておいて」
と差し出された紙を受け取る。とほほ…病院で大した説明されないと思ったらこっちにきてたのか。
まるで会長が主治医みたいな。
神経質なイケメンドクター?…ときめくじゃないですか
なんかやつれてるわ。
仕事忙しいのかな…
て、私が余計なことしでかすからか…反省…
「すみません、その…ありがとうございました」
またまた会長に運んでもらって…苦しくってどうしようもなくて抱きついちゃったんだよね。思い出すとドキドキする。非常時には大胆になれるのだ。…じゃない、じゃない。
「ふ、社長が緊急時のガイドライン作ると言ってたな。ウチはそういうのは早いね。AEDもだがついでに禁煙も進めてはどうかという話になった。各階で集計中だ。とりあえずここと下のフロアは禁煙と決定したよ。まあ、吸うのは私だけだからな。私がやめれば済むことだ」
えっと顔を上げると会長は微笑んだ。「君に煙を吸わせるわけにもいくまい」
えーー、別にいいのにな。こんな空調効いてる部屋で…煙浴びるわけでもないのに。変なところ気遣ってもらってる?
「まあ、無事でよかったよ。元気そうで何よりだ。快気祝いに今晩どう」
「え、いいんですか」
「控えめにね」
「すみません、ご迷惑おかけしました」
次の週の金曜日、室長に付き添ってもらって無事退院した私は秘書室でみんなに挨拶をして回った。
「怖いわねえ、食中毒?」吉永さんは心配そうに顔をしかめた。
「は、はあ…」
「会長、いつもあなたにお世話になってるからお礼のつもりで行かせてあげたんでしょうに」
「そうね、ご予定が重なってしまったものね」
「せっかくの出張休みの予定が…仇になったわね」
そうなのかな…そんな感じじゃなかったけど…そう言われればそうかもしれない…『ゆっくりしておいで』と送り出してはくれたんだよね。
「そうねえ、まさかあんなことになるなんて…」
ヒーすみませんーー
「今週入って急にバタバタしちゃって…今篠田専務が山口に行ってるわ」
えっ、もしかして、事後処理?
やばい、ばれちゃったかな…池…
「ふふ、気にしなくていいのよ」
「はあ」
一時危篤だったらしい私はえらくホテルライクな部屋に入れられていた。
落ち着いたブラウンの木目調の家具にベッド、ソファまであって、とても病室と思えない二十畳ぐらいありそうな部屋…
眺望もすごい。
窓の向こうーー富士山が見える。
その前にそびえる新宿摩天楼。
いつも眺めてるビル群をうちの会社含めて更に外側から見てるわけだ。
ギリギリ新宿の…東京ドーム辺りか。
治療といっても手術したわけじゃなくひたすら栄養剤投入…カルシウム注射、ミネラル点滴…最後の3日はそれが高濃度ビタミンC点滴に変えられた。
高濃度ビタミンC!
私はときめいた。
これって保険適用だよね?
1本1万円は下らないと聞く…の2割負担?
はあー…点滴のチューブの先に吊るされた液体をうっとり眺める…
ラッキィィ…女子の憧れ高濃度ビタミンC!こんな治療法あるんだー。
みるみるパワーチャージされてく…すごい実感…
メシは当然上げ膳据え膳だし壁付けのテレビでDVD見放題、寝具もふわふわで昼も夜もぐっすり…
という具合に快適な入院生活を過ごした私。入院1日1万円…どころじゃなさそうだけど…気にしない気にしない…本格復帰は来週ね。
「初めてだったらしいわね。AED使ったの」
うわぁ恥ずかしいーー…。AED当てられて結構な緊急事態だったらしい。
「あ、そうだ、社長に使い方おさらいしておくよう言われてたんだわ」室長が言った。
「社長室と副社長室に置いてはどうかともおっしゃってましたね」と春日さん。
「そうよねえ。お二人とも健康を気遣ってらっしゃるから」
「えーてことは私が覚えなきゃいけないの?ムリムリムリ…」
「何言ってるの、吉永さん。当然でしょ、社長のお年を考えたら…私たちがお助けしないと。会長はまだお若いからあれだけど…ねえ?」
「そうね。自分の身は自分で守るわ」
「何の話なの」
「大丈夫っすよ、あんなの簡単っすよ、全部器械まかせでしたよ」
「ああ、講習、春日くんが受けてきたんだっけ」
「ドクターに言って全員習っておいた方がいいわね。市川さん、後で一緒に行きましょう」
「はい」
そして上司様にご挨拶…室長と一緒に会長室へ上がった。久々の広い通路。そういえば最初の日も室長に連れられて来たんだわ。なんか振り出しに戻ったって感じだな。
「失礼します」
無駄に広い部屋。「じゃ、また後でね」
室長が出て行って優しくハグ…
…されるわけもなく会長は深く息を吐いた。
「キミには度肝を抜かれるよ」
「す、すみません」
わーん、いきなりこれかい。
まあそうだよな…しでかしちゃったわけだし…
緊張が走る。
会長は引き出しを開けバサッとデスクに書類を置いた。「君のカルテだ」ーーえ!?
「『落水、半日不穏な状態が続く』とある。ダメじゃないか、きちんと言わないと。社内で死人が出るところだったんだぞ」
「すみません」
キャーちゃんと書いてあるんだーじゃーもうバレバレじゃん。
変な汗が出てきた。
カルテを取って見つめながら会長はブツブツ続ける。
「急性アレルギー反応…キミ、羽田で何か飲んだだろう?おそらくその中の…キトサンじゃないかという話だが、それが要因だ」
ええーーアレ?適当に買ったのに。
名前はわからないけどジュースだったわ。もしかしてただの水だったら…?バカバカ私ーーなんてこった!
「ダメだよ、誤解を招く言い方をして…セカンドハラスメントなんて言うから…てっきり…そう思うじゃないか」
「そ、そうなんですか」
「そうだよ」
キッと返されてうつむく私。濁されてるがアレだよね…婦女暴行?ヤダヤダとんでもないー。「キミは時々おかしな表現を使うからこれから少しずつ直していこうね」と言われてまっかになる。子供か~
「で、でも言えませんよ、恥ずかしくて、そんなの知れたらお嫁にいけなくなっちゃうじゃないですか」
せめてそれだけは言っておきたい…ドキドキしながら小声で告げる私。
だって海老責め?乙女にそんなのありえないって…一生の恥…思い出したくない。
会長は意外そうな顔をしてまたカルテを置いた。
「…事件ではなく事故…警察も呼んでない…結局は君の不注意ということでいいんだな?施設の人間も頭を下げるばかりで何も言わないし」
えっ…
「よ、呼び出されたんですか」
驚いて聞くと彼は腕を組んで答えた。
「自発的に来たんだよ、ここへ。キミが倒れた次の日か」
えーーーおじさんたち?まさか…
「自分が目を離したすきに申し訳ないーーそればかりだ。若い男だったぞ」
高田さん!?
「ひ、ひとりで?」
「5人だ」
おじさんたち!キャー来ちゃったの?
「キミをかばっているのか?誰も見ていない、ほんの数分目を離したすきに…申し訳ない、悪かった、自分のミスだ、その一辺倒だ。埒があかない」
と目を細め、吐き捨てるように。苦々しい表情にその時のやりとりが見てとれる。
デスクの前でひたすら頭を下げるおじさんたちーそのシーンが鮮明に頭に広がって私はおそれおののいた。
そ、そうですよねー普通何もなくて池なんか落ちるわけないですよねーー
あらぬ疑いをかけられた?高田さん…
ひええええーーごめんなさいいいーー
…怖かっただろうな…
驚いただろう…会長こんな若くて…ピリピリしてて…来なくていいのに…
ううー泣ける、私が悪いのだーー
「お陰で今大騒ぎだよ」
「えっ、ま、まだ何か」
「君は気にしなくていい」
ええー気になるし。何。聞きたいけど…こわくて聞けない。コワイコワイコワイ…顔をこわばらせる私。
会長はふうと息をついた。
「とにかく君は身体のことだけを考えて。アレルギー…まあ要するに『エビの食べ過ぎ』だね」
ぐっ…
「食べ過ぎな上に不意の事故で抵抗力が落ちていたところにエビのエキス入りの飲料で急速にアレルギー反応が起こった…当分甲殻類は禁止だ。あと抗酸化物質にも注意した方がいい。食事はヒスタミンフリー推奨とのことだ。ま、それについてはキミの方が詳しいだろうからあとで目を通しておいて」
と差し出された紙を受け取る。とほほ…病院で大した説明されないと思ったらこっちにきてたのか。
まるで会長が主治医みたいな。
神経質なイケメンドクター?…ときめくじゃないですか
なんかやつれてるわ。
仕事忙しいのかな…
て、私が余計なことしでかすからか…反省…
「すみません、その…ありがとうございました」
またまた会長に運んでもらって…苦しくってどうしようもなくて抱きついちゃったんだよね。思い出すとドキドキする。非常時には大胆になれるのだ。…じゃない、じゃない。
「ふ、社長が緊急時のガイドライン作ると言ってたな。ウチはそういうのは早いね。AEDもだがついでに禁煙も進めてはどうかという話になった。各階で集計中だ。とりあえずここと下のフロアは禁煙と決定したよ。まあ、吸うのは私だけだからな。私がやめれば済むことだ」
えっと顔を上げると会長は微笑んだ。「君に煙を吸わせるわけにもいくまい」
えーー、別にいいのにな。こんな空調効いてる部屋で…煙浴びるわけでもないのに。変なところ気遣ってもらってる?
「まあ、無事でよかったよ。元気そうで何よりだ。快気祝いに今晩どう」
「え、いいんですか」
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